【中央省庁】障害者雇用水増し問題で「統一採用試験」実施へ

2018年度に発覚した、「中央省庁」をはじめとした公的機関による「障害者雇用水増し問題」に伴い、「国家公務員 障害者選考試験」が実施されました。

今回は、「水増し問題」の内容と、「障害者選考試験」によって何が変わるのか、解説します。


2018年10月の「障害者雇用水増し問題」とは?

2018年10月に問題になった「障害者雇用水増し問題」とは、「中央省庁」の約8割の機関で、合計3,460人分の「障害者雇用」を水増ししていたと、「厚生労働省」が調査、発表したものです。

国が定める「障害者雇用促進法」では、障害者の「法定雇用率」として、行政機関では全職員の2.5%、一般企業では全社員の2.2%を雇用することを義務付けています。

そして、一般企業がこの「法定雇用率」を達成できなかった場合、「障害者雇用納付金」といって、採用できなかった社員分1名につき5万円(4万円に減額される場合もある)を、国の外郭団体である「独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構」に納めなければなりません。自分の会社では足りなかった分の採用を、他の会社に積極的にしてもらい、全体としてより多くの障害者を雇ってもらうための資金提供をする、という考え方です。

参考:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構ホームページ「障害者雇用納付金制度」
https://www.jeed.or.jp/disability/koyounoufu/about_noufu.html

公的機関は適用されない「障害者雇用納付金制度」にも疑問の声

しかし、この「障害者雇用納付金制度」は行政機関には適用されず、国やその他の公的機関は、「法定雇用率」を守れなくても「障害者雇用納付金」を納める必要はない仕組みになっています。

そのように公的機関の「障害者雇用制度」そのものに問題が見られる中、「中央省庁」の中には、「障害者手帳」を確認せずに自己申告で「障害者」と認定したり、「弱視」や健康診断で「異常あり」と診断された職員を「障害者」とみなし計上、水増ししていたと言われています。

「障害者」が「中央省庁」に入庁する方法

そもそも「障害者」が「中央省庁」に入庁するには、これまで障害のない人と同じ試験を受けるしかありませんでした。一般の企業のように「障害者採用枠」やそのための予算が組まれているわけではなく、あくまで「障害者」と「健常者」を「平等」に扱ってきたとされていますが、この姿勢についても批判が集中しているようです。

「障害者」が能力を発揮するための環境を整えるには、「平等」という名のもとに障害のない人と同じように何もしないというままでは不十分な場合があります。そのような現実的でない制度を続けてきたことそのものが、「障害者差別」ではないかと批判もあるようです。

厚生労働省による点検後の「障害者」の雇用実態

「中央省庁」の「障害者雇用水増し問題」が発覚してから、厚生労働省は実際に障害者がどのくらい採用されているのか、雇用率を点検しました。

その結果ですが、国の全行政機関の「障害者」の実雇用率は点検前が「2.49%」だったのに対し、点検後は「1.19%」にまで落ち込みました。これは行政機関に課されている法定雇用率「2.5%」を大きく下回る数値です。

「障害者雇用者数」で見ると、点検前は「6867.5人」だったのに対し、点検後に実際に雇用が確認された「障害者」の人数は「3407.5人」でした。


最も水増しした人数が多かったのは「国税庁」であり、点検前の「障害者雇用率」が「2.47%」のところ、点検後はわずか「0.67%」だったということが明らかになったようです。

参考:厚生労働省ホームページ「国の行政機関における平成29年6月1日現在の障害者の任免状況の再点検の結果について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000347573.pdf

「統一試験」実施で何が変わるのか?

「障害者雇用水増し問題」を重く受け止めた政府は、2018年度中に「障害者選考試験」として、「障害者統一採用試験」を実施することを決定しました。

これまで「障害者」が「中央省庁」に就職を希望する場合には、いわゆる「健常者」と同じ試験を受けて合格する必要がありました。しかし、このように実際には「障害者」の雇用が「法定雇用率」と比較して圧倒的に不足しているため、「障害者」を対象に統一試験として公務員採用試験を実施することが決まりました。

そして2018年12月に「国家公務員 障害者選考試験」の受験者の募集があり、2019年2月から1次試験が開始されました。

この対応はあくまで臨時的なものであり、今後「中央省庁」の採用試験に「障害者枠」を設けるかはまだ検討段階のようです。また、2018年度中に「法定雇用数」を満たすまでに「障害者」の職員を採用できなかった場合には、2019年度以降の採用計画について、各省庁が見直しを行わなければならないようです。

まとめ

このページでは、2018年に発覚した「障害者雇用水増し問題」についての解説と、それに伴い実施された「国家公務員 障害者選考試験」についてご紹介しました。

2019年の3月現在では「国家公務員 障害者選考試験」の受付は終了しており、来年度以降、一般企業のように、行政機関にも「障害者採用枠」が設けられるかどうかは未定のようです。

「中央省庁」による「障害者雇用水増し」の問題発覚後、直ちに試験が実施されたため、この機会を活かせた方、残念ながら活かせなかった方もいらっしゃると思います。今年度だけ国の「行政機関」で多くの「障害者」の方を採用するというのは、職員の世代の偏りが懸念されますし、適切な方法だったのか疑問も残ります。

日本ではほとんどの行政機関で達成できていない「法定雇用率」について、例えばドイツでは「5%」、フランスでは「6%」であり、日本の「2.5%」というのは諸外国と比較しても日本は低い水準です。それにもかかわらず未達成というのは、国際社会から見ても恥ずべき事態とも言えそうです。

また「障害者雇用納付金制度」については、「納付金」の納付義務を行政機関であっても負うべきとの声もあり、制度そのものの見直しが求められています。

今回の問題発覚によって、「厚生労働省」を主導とし、国の行政機関の「障害者雇用制度」がどのように見直されていくのか、注目が集まります。

本記事は、2019年3月20日時点調査または公開された情報です。
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