【外国人受刑者の人数と問題点】ピークは2004年、その後減少傾向

残念ながら、日本にやってきた外国人が犯罪を犯してしまうケースがあります。外国人の犯罪者は犯罪の種類によって、すぐに日本から強制退去になる場合もありますが、「外国人受刑者」として日本の刑務所で矯正を受ける場合もあります。

外国人受刑者の動向と、受刑時の問題点などをご紹介します。


平成に激増していた「外国人受刑者」ピークは平成16年、その後減少傾向

法務省が毎年発行している「犯罪白書」の令和元年度版によりますと、「外国人受刑者」は平成初期(西暦1989年)から増加傾向にあり、平成10年(西暦1998年)から16年(西暦2004年)(1690人)にかけて急増しました。その後、平成17年(西暦2005年)からは減少傾向にあったのですが、平成29年(西暦2017年)から2年連続で増加し、平成30年(西暦2018年)は434人で、前年比は5.6%増だったようです。

外国人受刑者 推移 イメージ画像
出典)令和元年度版 犯罪白書 第4編/第9章/第3節/3

▼参考URL:法務省|犯罪白書
http://www.moj.go.jp/housouken/houso_hakusho2.html

「外国人受刑者」のうち、「F級受刑者」と呼ばれる受刑者について

「外国人受刑者」のうち、日本人と異なる処遇を必要とする受刑者のことを、収容分類上の呼び方として、「F級受刑者」と分類することがあります。

犯罪白書の中でも、「F級受刑者」という言葉がよく使われており、刑務所内などで、国籍が外国人であっても、日本人と同じような言語・習慣・文化などで対応しても問題ない受刑者もいれば、日本人とは違う対応が必要という「F級受刑者」がいるようです。

なお、「F級」のFは外国人を意味する「Foreigner」の頭文字「F」が由来のようです。

「F級受刑者」への配慮その1)言語

この「F級受刑者」の中には、日本人と同じように日本語を十分に理解できる人もいますが、言葉がほとんど通じないという人も多いようです。

受刑者とはいえ、1人の人間として、刑務所で集団で刑期を過ごすには、生活に必要な事項や、自分に与えられた権利等を理解して、刑務官などとコミュニケーションが取れるよう、様々な対策がとられています。

「F級受刑者」が収容されている施設は全国に24施設あります

日本で「F級受刑者」を収容している施設は、全国に24施設あります。このうち男子受刑者用の施設が21施設、女子用の施設が3施設あります。

そのうち、福島、府中、横浜、大阪刑務所では、外国人の収容者の処遇、つまり刑罰の内容などに関しての翻訳・通訳や、その処遇に関する調査と、関係機関との連絡調整などについての事務を担当する国際対策室が設置されています。

国際対策室には、日本語を理解できない「F級受刑者」の多くが使用する、中国語、ペルシャ語、スペイン語、またはポルトガル語の、いずれかに堪能な国際専門官は配置されています。

刑務所間での翻訳業務などの連携について

法務省によると、特に、府中と大阪刑務所の国際対策室では、他の矯正施設からの翻訳や通訳の依頼も受け付けています。


例えば、法務局矯正局によると、平成24年度には、府中刑務所と大阪刑務所の国際対策室から通訳業務で73件、信書(手紙など)の翻訳業務で2万5006件、信書以外の翻訳業務で1556件、そして職員の応援派遣で51件の依頼があり、全国の刑務所と連携しているようです。

また、そのほかの「F級受刑者」を収容する刑事施設では、職員に対して外国語の研修が行われたり、外国語の能力を有する職員の配置の確保を行ったりするなどの対策がとられています。

日本語がわからない受刑者へ、映像を使った指導も実施

法務省によると、刑務所をはじめとした各刑事施設では、「F級受刑者」が使用している主な言語に翻訳された「所内生活の心得」というマニュアルのようなものを整備しています。

受刑者の入所時には、この教本を使って説明したり、必要に応じて映像教材を活用するなどして、所内の生活で必要な情報の告知や指導を行っています。

さらに、日本語が十分理解できない「F級受刑者」に対しては、多くの刑事施設で日本語教育も実施しているようです。

「F級受刑者」への配慮2)文化

「F級受刑者」には、出身国特有の文化や生活習慣を持っていて、日本人とは違った配慮が必要な場合があります。

法務省の発行する犯罪白書によると、受刑者が生活する居室については、生活習慣上の必要に応じて単独室の使用を認めているようです。また、床に直接座ったり寝たりする習慣がない受刑者もおり、そのような場合には部屋での椅子やベッドの使用を認めることがあります。

そのほか、外国語の書籍や外国語新聞等を購入したり、外国語のテレビやラジオ番組を視聴する機会を与えるなど、刑務所内での余暇時間の活用における配慮にも努めているようです。

「F級受刑者」への配慮3)食事

法務省によると、「F級受刑者」には、入所時のオリエンテーションの際にそれぞれの使用言語に翻訳された冊子が貸し出されるほか、国際専門官などによる通訳を介して必要事項等を丁寧に説明しているのですが、食事についても例外ではありません。

食事について、特に「F級受刑者」の場合には、宗教上の理由などにより食べられない食材がある場合があります。そのような受刑者には、代替食を用意します。また、菜食主義者にはベジタリアン食を用意します。

宗教については、イスラム教であれば断食、ユダヤ教のヨム・キプール(贖罪の日)など宗教上の行事には、食事や入浴制限、就業場所の変更等の配慮をする必要があり、対応します。

白米に馴染みがない受刑者の場合はパン食へ変更するなど、受刑者といえども、それぞれの事情に対応した取り組みがなされているようです。

「F級受刑者」への配慮4)日本語教育

全国の「F級受刑者」を収容する刑務所では、受刑者に日常生活に必要な基礎的な日本語を習得させるために、講義を行ったり、テレビやパソコン、プリントによる日本語教育を積極的に実施しています。

久里浜少年院の「国際科」の取り組み

神奈川県にある久里浜少年院では、「生活訓練課程」というに課程に判定された外国人の少年を「国際科」に編入して矯正教育を行っているようです。

少年院入院後には、7日間の考査期間があり、それを終了すると集団生活となる国際科生としての生活が始まります。


刑務所と同様に、少年院内の生活における基本的なルールなどは、「生活の心得」という冊子にまとめられており、この冊子には日本語版のほか、ポルトガル語版や英語版があります。

また、トラブル発生時の不服申立ての制度や、その方法などについても説明書が用意されており、ポルトガル語や英語のほか、タガログ語版、中国語版、韓国語版、スペイン語版がそろっているようです。

久里浜少年院の国際科生には、日本語教育を充実させていて、例えば、日本語による日記指導や、日本語能力の向上を見ながら、ごみの捨て方や保護観察面接の受け方、不良交友の断り方などの、退院後にも役立つ日常生活上の常識から、非行防止のために、あらゆるパターンでのSSTと呼ばれる生活技能訓練も実施されています。

▼参考URL:法務省|犯罪白書 平成25年度版
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/60/nfm/n_60_2_7_4_3_2.html

外国人受刑者削減のためにどのような対策が取られてきたのか?

不法滞在者をへらす「不法滞在者5年半減計画」の実施

外国人の不法滞在を取り締まる「出入国在留管理庁」では、外国人受刑者がピークを迎えた2004年(平成16年)から、2008年(平成20年)までの期間に、外国人受刑者の予備軍である不法滞在者を減らすための「不法滞在者5年半減計画」を実施しました。

その結果、2004年1月には約22万人であった「不法残留者」が、2009年(平成21年)1月には11.3万人まで減り、5年間で48.5パーセント、ほぼ半数の不法残留者を削減することを実現しました。

出入国在留管理庁の対策がどのようなものだったのか、ご紹介します。

【出入国在留管理庁】不法滞在者5年 半減計画の内容

出入国在留管理庁によると、「不法滞在者5年 半減計画」では、不法滞在者を日本に「来させない」「入らせない」「居させない」という三本柱を掲げて、総合的な施策を実施したようです。

不法滞在者を「来させない」ための施策

出入国在留管理庁では、半減計画の一環として、到着予定の日本の空港での審査を簡素化・迅速化するために、外国の出発地の空港に管理庁の職員を派遣して、現地で事前に日本に上陸できる人物なのかを確認する、「プレクリアランス」と呼ばれる事前確認の実施を強化しました。日本からは、韓国の仁川空港、台湾桃園空港に職員派遣が実施されているようです。

また、「在留資格認定証明書」についても、それまでより厳格な審査の実施が行われるようになりました。

不法滞在の可能性を、外国人が自国にいる段階から精査することで、そもそも日本に「来させない」ようにする施策です。

不法滞在者を「入らせない」ための施策

出入国在留管理庁では、事前旅客情報システムを導入し、航空機が日本の空港に到着するまでの間に、航空会社から乗客等の身分事項等の事前提出を受けることで、迅速かつ厳格な入国審査の実施を実現しました。

2005年(平成17年)からこのシステムを活用することで、不法滞在目的の外国人を飛行機内に足止めし、入国させないことに成功しているようです。

また、個人識別情報を活用した入国審査の実施や、偽変造文書鑑識の強化などの取り組みを通して、より厳しい上陸審査も行われています。

不法滞在者を「居させない」ための施策

それでも、不法滞在目的の外国人が入国してしまい、あるいは入国後のなんらかの事情で不法滞在となってしまった外国人に対しては、日本に「居させない」取り組みで対応します。

出入国在留管理庁では不法滞在者をエリアごとに取り締まる「摘発方面隊」の設置や、大阪局・名古屋局を新設するなど、体制の整備と、強力な摘発の推進を図っています。

また、警察機関との連携による合同摘発を実施しているほか、入管法第65条(不法滞在者などを、検察官を通さずに、直接入国警備官に引き渡し、裁判をせずに強制退去させることが認められている法律)の積極的活用をすることで、スピーディーな不法滞在の送還につなげました。

また、2004年から開始された「出国命令制度」といって、退去強制手続きをせずに出国命令ができる制度を活用し、不法滞在者により早く出国を命令できるようになったことも、不法残留者半減につながったようです、

▼参考URL:出入国在留管理庁|不法滞在者5年半減計画の実施結果について
http://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/121226_huhoutaizai.html


まとめ - 刑務所が抱える課題とは

このページでは、まず「F級受刑者」と呼ばれる、日本人受刑者とは違った扱い方が必要な外国人受刑者数の推移についてご紹介しました。

2004年(平成16年)にピークだったF級受刑者の人数は、その後順調に減っています。その背景には、出入国在留管理庁など、関係省庁で取られた対策の成果があ流ということもご紹介しました。

ただし、外国人受刑者は減少しているものの、「F級受刑者」には、言語をはじめとした、文化や食事などの生活面についてもサポートが必要であり、各刑事施設でとられている対策についても解説しました。

今後、刑務所では、外国人受刑者の問題が引き続きあるほか、日本人の高齢受刑者の増加による受刑者の高齢化も問題となってきています。

高齢入所受刑者 推移 イメージ画像
参考)平成30年版 犯罪白書 高齢入所受刑者

以下は平成10年から平成29年にかけての受刑者数ですが、64歳以下の受刑者数が減っているのに対して、65歳以上の高齢の受刑者数は約3倍に増えています。

不法滞在者数は減っていますが、日本で働き、暮らす外国人は年々増加しています。外国人コミュニティに所属することで、日本語を使わずに日本で暮らすことも可能です。分母が増えれば、その分、日本人と同じように、犯罪に関係してしまう人も割合として増えてくることも予想されます。

このように今後、日本人に加えて、外国人受刑者の高齢化も進むと、ますます刑務所の負担は増えるでしょう。「F級受刑者」や高齢受刑者など、特にサポートが必要な受刑者に対応するためには、今後も早急な対策が必要になりそうです。

本記事は、2021年3月12日時点調査または公開された情報です。
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