【津軽海峡って勝手に通れるの?!】中国とロシアの艦艇が同時に航行を初確認(2021年10月18日)

2021年10月18日、中国とロシアの艦艇合計10隻が、同時に日本の津軽海峡を通過したことが報道されました。中国とロシアの船が同時に津軽海峡を航行するが確認されたのは初めてのことであり、防衛省は両国の狙いを分析しているようです. そこで、そもそも津軽海峡を外国の船が勝手に通ることはできるのか調査しました。


中国とロシアの艦艇計10隻が、津軽海峡を同時に通過

2021年10月19日付けの読売新聞によると、同年10月18日の午前8時頃に、中国艦5隻とロシア艦5隻が同時に津軽海峡を通過したようです。ロシア軍が行なっていた演習に、中国が参加した可能性が高いようです。

防衛省は18日、中国とロシアの駆逐艦など計10隻が津軽海峡を通過したと発表した。領海への侵入はなかった。中露の艦艇が同時に同海峡を航行するのが確認されたのは初めて。

津軽海峡を通過したロシアの駆逐艦(防衛省提供)
津軽海峡を通過した中国の駆逐艦(防衛省提供)
同省統合幕僚監部によると、18日午前8時頃、中国艦5隻とロシア艦5隻が北海道・奥尻島の南西約110キロの海上で発見された。10隻はその後、東に進み、太平洋に抜けた。ロシア極東ウラジオストク沖の日本海では、ロシア軍が演習をしており、中国艦はこれに参加したとみられる。同省が両国の意図を分析している。

出典
読売新聞|津軽海峡に中国とロシアの艦艇、計10隻が通過…同時航行は初確認

そもそも津軽海峡を外国の艦艇が通るのは良いの?⇒違法ではない!

外国の一般の船ならともかく攻撃もできるような艦艇が、日本政府に無断で、日本の国土の中を言わば突っ切るようにして通過するというのは、そもそも国際的に違法ではないの?と思う方もいらっしゃると思いますが、実は違法ではないようです。

「領海」と「国際海峡」

1992年に制定された国際的な「海の憲法」と呼ばれる「国連海洋法条約(UNCLOS)」では、それまで国によってまちまちであった「領海」を12海里(約22キロメートル)の範囲で設定することが認められました。

これにより、それまで自由に航行できていた世界中の海峡の多く、100ヶ所以上がどこかしらの国の「領海」となりました。

この「領海」では、外国船舶の「無害通航」しか認められておらず、軍艦の航行や、航空機での上空飛行は認められません。このため、アメリカや当時のソ連のような海軍大国をはじめとした、海峡を通過してきた国の権益が大きく損なわれてしまうこととなりました。

そこで、国連海洋法で新たに設けられたのが、すべての船舶及び航空機について、公海と公海を結ぶ「国際海峡」については、通過・通航を認める「通過通航権」という考え方でした。

「国際海峡」では、全ての船舶、航空機の通過が認められている

以上のように、「国連海洋法条約」では、公海と公海を結ぶ「国際海峡」では、すべての船舶・航空機に通過通航権(right of transit passage)を認めています。

通過通航権は「無害通航」が条件になっていないので、例えば潜水艦が完全に潜って通過するなどの行為も可能となります。

津軽海峡は日本海と太平洋、つまり公海と公海を結ぶ海峡なので、本来はこの「国際海峡」に当てはまります。

津軽海峡は「国際海峡」ではなく「特定海域」

しかし津軽海峡は、1977年(昭和52年)に制定された「領海法」によって、「特定海域」が設定されています。「特定海域」とは、「基線」という領海の範囲を測る基準となる線から3海里(約5.5キロメートル)を「領海」として、3海里より外側を「公海」と設定しています。

国連海洋法条約より先に設定されていた「特定海域」により、津軽海峡は国際的には「国際海峡」に当てはまり、国土のすぐそばを外国のどんな船でも通れていたところを、3海里については侵入を禁止することが可能になっているようです。


ただし、3海里より外側については「公海」になるので、外国のどんな船でも自由に通過することができます。

出典)海上保安庁|特定水域
出典)海上保安庁|特定水域

津軽海峡の「特定海域」を撤廃すると、もっと自由に通過できる「国際海峡」になる

今回の中国とロシアの艦艇の通過によって、津軽海峡に適用されている「特定海域」を撤廃し、領海の範囲を広げるべきだ、との意見もあったようですが、そのような手続きを踏んでしまうと、今度は「国際海峡」に認められた「通過通航権」が適用され、津軽海峡の「どこでも」自由に、外国の艦艇が通れるようになってしまうということのようです。

津軽海峡は「特定海域」の設定によって、あえて領海を3海里に限定することで、海峡内のうち無害通航する・しないにかかわらず自由に航行できるエリアを限定できるというメリットを採用しています。

一方で、「特定海域」の外は完全に「公海」となってしまうことから、日本の主権は及ばなくなっています。「国際海峡」として「通貨通行権」を認めることになったとしても日本の「領海」として主権を持って、法整備ができる権利を持っておいた方が安全ではないかという考え方もあるようです

▼参考URL:Yahoo!ニュース|中露合同艦隊初の津軽海峡通過。なぜ国際法上認められるのか。(外部サイト)

通過する権利の主張と、外国による通過の非難の整合性

CNNによれば、中国は、アメリカとカナダの軍艦による台湾海峡の航行については厳しく非難をしました。台湾海峡は、国際海峡ではなく、また中国と台湾の領海の間に公海がある海峡です。

そのような地理条件の海峡の航行に関して非難する中国が、今回津軽海峡を通過したということで、国際的には中国側が津軽海峡を通っていいのならアメリカカナダも台湾海峡を通過してもOKなのでは、という国際的な見解も広がっています。

通過する場合と、通過される場合での主張の整合性が取れていないと、国際的には批判の対象になるという例かと思います。

▼参考URL:CNN|中ロ合同艦隊が日本を「一周」、これが大きな出来事である理由(外部サイト)

まとめ

このページでは、津軽海峡を中国とロシアの軍艦が同時に通過した件について、どうして外国艦艇の津軽海峡通航が認められるのかということを解説しました。

「領海」であっても「国際海峡」であれば、外国のどのような船でも自由に通過ができる「通過通航権」が認められていることや、津軽海峡についてはこの「通過通航権」が認められないよう「特定海域」を保持していることのメリットについて、ご紹介しました。

ただ、「特定海域」の保持によって3海里の安全を保つことと、たとえ「国際海峡」に指定されてしまっても津軽海峡の全域を日本の主権が及ぶ「領海」としておくことで、外国船の通航ルートや、通航条件などの法整備ができる可能性を残しておいた方が良いとの考え方があることも確かなようです。

結論として、津軽海峡を外国の軍艦が勝手に通るのは、3海里の外側の「公海」の部分であればOKだということでした。

▼参考URL:海上保安庁|特定水域(外部サイト)

本記事は、2021年12月9日時点調査または公開された情報です。
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