災害派遣医療チーム『DMAT』『DPAT』とは?誕生の経緯と活動内容

地震を始めとして台風や竜巻、大雨や津波など、災害大国である日本で私たちは暮らしています。そして多くの災害を経験した国民だからこそ、災害に対する対応力も高く、多くの機関が存在しています。今回は、その中の一つ、災害現場で活躍する医療チーム「DMAT」「DPAT」の発足の経緯や活動内容について解説します。


目次

災害医療の専門チーム「DMAT」とは?日本が誇る派遣型医療チームです

日本には、災害医療の専門チームとして「DMAT」が結成されています。「DMAT」について詳しく解説します。

「DMAT」は災害大国日本が誇る、災害派遣医療チーム。読み方は「ディーマット」

日本で大規模な災害や事故が起きると、多くの負傷者が発生します。ですので、当該箇所の自治体の医療機関のみでは人員も資材も不足してしまいます。

また、命に別状のない怪我の患者でも、必要な治療を受けずに時間が経過すると、症状が急変する可能性もあります。その為、災害現場では、一刻も早く人命を救出救助するとともに、必要な医療措置を行わなければいけません。

災害の発生現場において、およそ災害発生から48時間以内に活動できる専門的な訓練を受けた医療チームの事を、災害派遣医療チームと呼びます。” Disaster Medical Assistance Team”の略語で「DMAT」(ディーマット)とも呼ばれています。

「DMAT」は国際的に使われている名称ですので、英会話でも「DMAT」は通じるようです。

「DMAT」の隊員は、普段は指定医療機関のスタッフとして働いている

「DMAT」は、医師や看護師、業務調整員(救急救命士や薬剤師などの医療職および事務職)で構成されている医療チームです。

「DMAT」に登録している医療従事者は、常日頃から「DMAT隊員」としてのみの活動をしているのではなく、あくまで大規模な災害時や該当している自治体での災害や事故の際に「DMAT」として招集され、現場での活動をします。

その為、普段は「DMAT指定医療機関」において、医師や看護師として通常の医療機関に勤務する医療従事者と同様に働いています。ただし、「DMAT」の研修を受け、DMATとしての資格を保有していることが一般の医療従事者とは違います。

「DMAT」は出動要請があれば、すみやかに被災地や事故現場まで駆け付け、各行政機関、消防、警察、自衛隊と連携をとりながら、救助活動とともに医療活動を行います。

「DMAT」は、基本的に1チームおよそ5人(内訳は医師1人、看護師2人、事務など2人)で編成されていて、現場には3日から1週間程度の滞在で派遣され、活動を行います。

日本における「DMAT」は大きく分けて2つある

日本に「DMAT」と呼ばれる災害派遣医療チームは、大きく分けると「日本DMAT」と「都道府県DMAT」が存在しています。


厚生労働省発足の「日本DMAT」

「日本DMAT」は、厚生労働省が2005年に発足した、国の組織である「DMAT」です。大規模な災害が発生した時には、国からの要請を受けて全国にチームとして派遣されます。

都道府県ごとに発足している「都道府県DMAT」

「東京DMAT」や「神奈川DMAT」、「大阪DMAT」など各都道府県ごとに組織している「DMAT」もあります。

実は、「DMAT」という組織の中で一番早く設置されたのは、「日本DMAT」ではなく「東京DMAT」です。「東京DMAT」は、2004年に日本で最初の「DMAT」として発足されました。

「都道府県DMAT」は、主に管轄の都道府県内の災害に対して、消防と連携して活動を行うことを目的としている「DMAT」です。

国と県など、両方の「DMAT」に登録している医療従事者も少なくない

ちなみに、国と都道府県の両方の「DMAT」が対立している、という訳ではなく、訓練なども合同に行っており、大規模災害の時にはお互い連携を取って活動にあたっています。

また、「日本DMAT」、「都道府県DMAT」の両方に登録する事もできますので、両方の「DMAT」に登録し、都道府県と国の両方の「DMAT隊員」として活動にあたっている医療従事者も多くいます。

例えば、「東京DMAT」と「日本DMAT」に登録している医師や看護師ならば、病院に勤務しながら「都道府県DMAT」の管轄内である東京都内で事故などが発生すれば日常的に出動しますし、大規模災害が起きて国からの要請があれば、「日本DMAT」として東京都外でも被災地に赴きます。

「DMAT」は現場で迅速かつ正確な活動ができるように、訓練も実施していますが、両方の「DMAT」に登録していれば、もちろん双方の「DMAT」の訓練や研修に参加する事になります。

「がれきの下の医療」の誕生 「DMAT」はなぜできたか

「DMAT」による専門医療行為は、「がれきの下の医療」とも呼ばれています。なぜ、そのように呼ばれているのか、「DMAT」の発足のきっかけとともに解説します。

「DMAT」の発足のきっかけは阪神大震災

1995年1月、阪神淡路大震災が発生し多くの犠牲者を出してしまいました。当時、日本の災害に対する対応力は今よりもまだまだ低かった為、警察や消防、自衛隊などの活動も初動が遅れたり、上手く機能しなかったりしました。

この阪神大震災での教訓をきっかけに、災害活動での正確さや機動力をより高くできるように、警察では広域緊急援助隊、消防では緊急消防援助隊などの新しい組織の発足など、各機関の災害対応能力の強化のために、様々な取り組みが行われるようになりました。

これと同じく、阪神淡路大震災では被災者に対する「初期医療の提供」も遅れてしまい、本来ならば救えるはずであった多くの人命(当時の医療技術なら、500名は救えていたはずと言われています)が犠牲になってしまいました。

この教訓から、警察や消防と同じように、医療においても、災害現場における専門医療の重要性が再度見直される事になり、専門知識をアップデートできるような適切な研修による資格更新制度なども整った「DMAT」の発足に繋がったのです。

「瓦礫(がれき)の下の医療」の誕生と、「DMAT」による実践

阪神淡路大震災では、死者6400人以上、負傷者4万3000人以上の犠牲者が出ました。死亡した犠牲者の内、約8割が倒壊した建物の中に閉じ込められる・挟まれる圧死が原因となっています。

阪神淡路大震災では、建物の中に怪我人がいても、まずその人を外部に救出してから医療措置を施しました。ところが、救助を待っている間に症状が悪化してしまったり、助けた後にクラッシュ症候群(※)を発症して死亡してしまったりするケースが多くありました。


当時は、クラッシュ症候群に対する知識も、日本の医療従事者の間でもそれほど認知されていなかった為です。

キーワードチェック:クラッシュ症候群

人体の一部が長時間圧迫される事によって筋肉の細胞が損傷し、圧迫が解放されるとともに損傷した筋肉細胞から血液中にカリウムなどが流出し、チアノーゼや意識の混濁、心停止や急性腎不全などが起きる症状の事。挫滅(ざめつ)症候群とも呼ばれる。

これを受けて、警察や消防の救助隊が瓦礫の下にいる負傷者の救出救助活動を行うのと並行して、医師も一緒に瓦礫の中に入り、医療活動を行う「瓦礫の下の医療」の重要性が見直され、その実践も「DMAT発足の目的のひとつ」となっています。

また、2005年に発生したJR福知山線脱線事故では、DMATが派遣されたことで、圧迫された電車内に取り残された乗客の救出救助と共に医療措置が行われ、瓦礫の下の医療が多く実践されました。

災害現場における「DMAT」の活動

事故現場や災害現場で、具体的に「DMAT」はどのような活動をするのか、ご紹介します。

「DMAT」は、要請があれば現場へ駆けつける

災害や事故が起きると、当該地区の消防の判断によって「DMAT指定医療機関」へ出動要請が出されます。

その後、指定医療機関では「DMAT」を編成し、出動します。出動する時には、「DMATカー」や「DMAT救急車(※)」と呼ばれる専用の車両を使用します。また、「DMAT隊員」は、背中に所属する「DMAT」の名称と職業名の入った(「東京DMAT」・「医師DOCTOR」など)ベストやジャンバーを着用します。反射板がついていて、暗い所でも光る仕様になっています。

※「東京DMAT」の救急車は、白の車体に赤と緑のライン、「東京DMAT」のロゴが入っているデザイン。

「DMAT」は、現場で災害医療活動を行う

出動した「DMAT隊員」は、災害現場もしくは負傷者の受け入れを行っている医療機関で災害医療活動を行います。

「DMAT」の主な活動内容は被災地域内での医療情報収集と伝達、負傷者のトリアージ・応急治療・搬送、災害現場でのメディカルコントロール、被災地域内の医療機関への医療支援と強化です。

「DMAT」の主な活動時間は48時間以内から72時間まで

災害や事故発生時から48時間以内の時間を急性期と呼んでいますが、「DMAT」はこの急性期の間に現場に駆け付け、災害医療が提供できるのが大きな特徴です。急性期は一番負傷者が発生し、かつ発生から72時間以内に必要な医療措置を行う事が、負傷者の生存率を決めるポイントとなるためです。

72時間が経過すると災害現場での負傷者の数も落ち着いてくるので、多くの場合「DMAT」は撤退しますが、場合によっては第二部隊、第三部隊が編成されて入れ替わりで被災地に出動する事もあります。

また、被害が甚大で医療機関そのものがダメージを受けており、被災地の医療システムの即急な回復が見込めない場合には、日本医師会が統括する「日本医師会災害医療チーム(JMAT)」が「DMAT」と入れ替わり、地域の医療システムの回復まで医療支援を行う様になっています。

「DMAT」の今後の課題。災害ごとに異なるニーズに対応していくことが必要

東日本大震災にも「DMAT」は派遣され活動しましたが、同じ震災でも阪神大震災と異なったのが、建物倒壊による負傷者が少なかった事、津波による被害が甚大だったことです。

そのため、急性期は医療措置の必要な負傷者が少ない、いわゆる”all or nothing”(※)の状態であり、逆に孤立状態から救出救助された後(72時間以降)の被害者への医療提供へのニーズが高まった、などの特徴がありました。

※ All or nothing…災害急性期における被災者の状態が、「無傷」あるいは「死亡」のどちらかに二分している事。

このように、発生した災害によって異なった状況や内容に応じて、それぞれのニーズに対応できる適応力を身に付ける事が、今後「DMAT」に課せられた課題であると言えます。さまざまなニーズへの対応策や専門技術が、訓練や研修によって積み重ねられていくことでしょう。

「DMAT隊員」になるには?まず医療従事者を目指し、専門資格を取得しましょう

「DMAT」になりたいと思った場合、どのような方法で目指すことができるのかを解説します。

「DMAT隊員」になるためには、医療従事者になり、「隊員養成研修」を受ける

「DMAT」として活躍するには、まず医療従事者になる必要があります。医療従事者とは、具体的にいうと、医師や看護師、薬剤師、救命救急士、理学療法士、医療事務職などです。


医療従事者になった後は、「DMAT」の指定医療機関に勤める必要があります。その上でその医療機関の「DMAT隊員候補」として選抜される必要があります。

選抜を受け候補になると、所属するDMATごとに研修があります。「日本DMAT隊員」の場合は厚生労働省等が実施する「日本DMAT隊員養成研修」、「都道府県DMAT隊員」の場合は都道府県が実施する「DMAT養成研修」を受けます。(「日本DMAT」の場合は4日程度、「都道府県DMAT」の場合は2日程度の研修日程です)

研修を受け、試験等に合格すると「DMAT隊員」としての資格が認定されます。「DMAT隊員」には、「DMAT隊員証」が交付され、「DMAT」として登録されます。また、資格更新が5年ごとに行われます。

「DMAT指定医療機関」の例

「DMAT指定医療機関」は全国にありますが、「日本DMAT」の隊員が務める医療機関のひとつに、「独立行政法人 国立病院機構 災害医療センター(通称DMC)」などがあります。

例えばこのような医療機関に勤め、資格を得ることで、「DMAT隊員候補」になることができます。

EMIS(広域災害救急医療情報システム)と「DMAT」の関係

厚生労働省が運用する「広域災害救急医療情報システム」の「EMIS」では、災害時に被災した都道府県を越えて、医療機関の稼動状況など災害医療に関わる情報を国レベルで共有し、被災していない地域などからも医療チームを派遣できるよう、被災地域での医療・救護に関わる各種情報を集約し、各地に提供することを目的としたシステムです。

EMISを通じて、被災していない都道府県から、被災地への「DMAT派遣」が行われたり、各地域での「DMAT」の各チームでの活動状況を集約し、医療が足りていない場所はないかが確認されるなど、活用されています。

▼参考URL:厚生労働省|EMIS
https://www.wds.emis.go.jp

「DMAT」が題材の漫画やドラマ

「DMAT」の仕事内容を知るためには、漫画やドラマも参考になるようです。特に、「DMAT」について調べるのが初心者の方には分かりやすいのではないでしょうか。

「DMAT」が題材となっている漫画には、グランドジャンプで連載されていた、『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜(ドクター・ディーマットがれきのしたのヒポクラテス)』があります。この漫画はTBSによってドラマ化もされています。

また、直接DMATを扱ったストーリーではありませんが、フジテレビ系列のドラマシリーズ『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命〜』シリーズでも、救急医療が取り上げられているので、災害現場や事故現場などで、主人公の医師たちとともに活動するDMATが映り込む演出が見られるようです。

▼参考URL:TBS「ドラマ・ドクターディーマット」
https://www.tbs.co.jp/DrDMAT/

▼参考URL:フジテレビ「コード・ブルー」
https://www.fujitv.co.jp/codeblue/

「DMAT」がモデル 災害派遣精神医療チーム「DPAT」とは

「DMAT」に名前が似ている組織に「DPAT」があります。「DPAT」とはどのようなチームなのか、解説します。

「DPAT」は被災者の心のケアを目的とした医療チーム。読み方は「ディーパット」

「DMAT」をモデルとして作られた、災害派遣精神医療チーム、通称「DPAT」(Disaster Psychiatric Assistance Team、読み方:ディーパット)も災害医療現場で活躍する医療チームのひとつです。

「DPAT」は、自治体が組織し、国立精神・神経医療研究センター内「災害時こころのケア情報センター事業」が行っている専門の研修を受けた精神科医や看護師など2名から5名で構成されているチームです。

「DPAT」が発足するまでの背景

「DPAT」がどのようにして発足されることになったのか、ご紹介します。

災害における被災者への医療支援だけでなく、心理的な支援の重要性も阪神大震災をきっかけに広く知れ渡るようになりました。その後、大規模災害時には「DMAT」と同じく精神科医のチームが被災地に派遣される事はあったのですが、特に組織化・資格化はされていませんでした。

その後、東日本大震災で津波被害によってPTSDを抱える人、避難生活で大きなストレスを感じる人がより多くなり、現場での課題を残すこととなりました。

これを受けて、2013年に厚生労働省が「DPAT」の名称や定義を定めて、日本全国の都道府県に「DPAT」の設置を呼びかけ、発足に繋がりました。


「DPAT活動」の3原則とは、「サポート・シェア・自己完結」

「DPAT」は災害活動において、以下の3原則を提唱しています。

「DPAT活動」の3原則「サポート・シェア・自己完結」

・Support
名脇役であれ。 支援活動の主体は被災者の支援者。地位の支援者を支え、その支援活動を円滑に行う為の活動をすること。

・Share
積極的な情報共有。災害対策本部や担当者、被災地位の支援者、及び他の医療チームとの情報共有・連携を積極的に行うこと。

・Self-sufficiency
自己完結型の活動。被災地域に負担を掛けず、自立した活動を行い、自らの健康管理(精神面も含む)や安全管理は自らで行うこと。

「DPAT」は病人だけでなく、一般の被災者のケアも行う

「DPAT」も、「DMAT」と同じく災害や事故発生から72時間以内に駆け付けて、現場の災害医療提供を行います。この72時間以内に出動する先遣隊の他にも、後続部隊が続きます。

急性期の医療を提供する「DMAT」と異なり、精神的なケアを行う「DPAT」は、活動が数か月間など長期にわたる事が多い為です。

また、災害時に鬱やパニック障害といった精神疾患を抱えている被災者への診療やケアを提供するだけでなく、一般の被災者への心のケアを提供するのも「DPAT」の特徴です。

避難所で「夜眠れない」「他の人となじめない」などの生活におけるストレスを感じている被災者や、震災によって大切な人や物を失った被災者の喪失感や悲しみのケアのためのカウンセリングを行ったり、被災者の支援にあたったりします。

人の精神状態の悪化は、重大な精神疾患に繋がるだけでなく、被災地の環境や治安の悪化による犯罪の原因にもなってしまいます。精神的な健康の悪化防止のためにも、今後の「DPAT」の活動が根付く事が重要であるとされています。

まとめ

以上、「災害派遣医療チーム『DMAT』『DPAT』とは?誕生の経緯と活動内容」でした。

災害大国だからこそ、迅速かつ正確な医療行為を提供する為に「DMAT」、そしてDPATは誕生しました。多様化する災害の状況に応じて、今後も「DMAT」及び「DPAT」は柔軟に対応できる力を身に付ける事が大切である事、また私たちも予測される災害の為に、常日頃からの対策を行う事が重要であると言えます。

2020年は、災害に加え、新型コロナウイルス感染症の拡大など、災害医療の現場のニーズはますます多様化しています。EMISは現在「警戒運用中」とされており、「DMAT」や「DPAT」の隊員の方々は、常に警戒を緩めることなく活動されていることがわかります。

(文:千谷 麻理子/編集:公務員総研)
(更新日:2020年10月12日)

本記事は、2017年10月19日時点調査または公開された情報です。
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