ブレグジットに揺れるEU、なぜイギリスはEUを脱退するのか?

ヨーロッパの政治・経済において、イギリスのEUからの離脱問題は最大の関心ごとの一つです。

本記事では、イギリスのEUからの離脱問題について考察していきます。

(本稿は事実をもとに筆者の考えをまとめたものであり、本メディアの意見と必ずしも一致するものではありません。)


はじめに

ヨーロッパの政治・経済において、2019年5月時点で最大級の関心事になっているのが、ブレグジットです。ブレグジット(Brexit)とはBritain(イギリス)とExit(離脱)を組み合わせた造語で、イギリスのEUからの離脱問題のことを指します。

イギリスからEUを離脱するというだけで、なぜこれが世界的な問題になるのかと考える方も多いかと思います。この記事では、イギリスのEU離脱問題について解説します。

ブレグジットの経緯

まずはブレグジットの経緯について簡単に説明します。

2016年国民投票でEUからの離脱が決定するも…

イギリスが国内的にEUからの離脱を決定したのは2016年6月のことです。EUに残留するか離脱するかを国民投票で問うた結果、離脱派52%、残留派48%となり、EUから離脱することが決定しました。

しかし、2019年5月時点でイギリスはまだEUを脱退していません。さらに2回目の国民投票をするべきではないかという意見もあります。EUからの離脱には国家間の条約が絡み、離脱にあたって政治、経済的に影響することが多いので簡単ではないのです。

もともとEUから距離をおいていたイギリス

もともとイギリスはEUに加入しつつも、比較的ヨーロッパ大陸とは距離をおいてきた国でした。

たとえば、EUの域内では各国の通過を廃止して共通通貨であるユーロに通貨を統一しましたが、イギリスではポンドを使い続けました。また、国境審査を撤廃するシェンゲン協定にも参加していません。また、イギリスは島国であり、ヨーロッパの大陸とは精神的な距離があります。

ユーロ危機と移民急増で国民投票へ

上記のようにEUに加盟しつつも距離をとっていたイギリスですが、リーマンショックからの欧州債務や移民の急増などの問題が発生し、EUからの離脱の世論が高まります。これによりEU離脱を掲げる野党政党が騰勢を拡大します。

これに危機を感じた与党側でEU賛成派でもあるキャメロン首相は2015年の総選挙で保守党が勝利した場合にEU離脱の国民投票を行うことを約束します。

予想に反して離脱過半数

国民投票を決定したものの、おそらく離脱派は過半数に届かないだろうと予想されていました。1975年のEC(EUの前身)離脱の国民投票では残留派が圧勝していますし、離脱には大きなリスクが伴うからです。

しかし、この公約をした後、イスラム国の出現やシリアの大量難民問題などEUを巡る状況はますます悪化しました。そして、結果は先ほど説明したとおり僅差で離脱派が過半数となりました。


複雑な離脱手続き

国民投票により離脱が決定したらしたで大変です。EU域内と経済的にも政治的にも複雑に絡み合っていますし、EUを離脱した国の前例がないので、離脱手続きは難航を極めています。さらに国民投票の結果を見直し、もう一度EUからの離脱の是非を考え直した方が良いという世論まで発生して収集が付かない状態になりつつあります。

離脱の方法は「ソフトブレグジット」「ハードブレグジット」「合意なき離脱」と大まかに3パターン考えられます。

ソフトブレグジット

ソフトブレグジットとは移民などの流入は制限するものの、関税同盟には残り続け引き続きEUとの経済的なつながりを持ち続けるパターンです。ただし、具体的にEUとどのように経済的なつながりを持ち続けるかはEUとの厳しい交渉が必要になります。

離脱の仕方としては一番理想的ですが、手続きや合意形成が一番大変なパターンで、現在の交渉状況から考えて実現は困難かもしれません。

ハードブレグジット

離脱を優先するために、経済交渉を犠牲にしつつもEUと何らかの合意に至って離脱するパターンです。EUとの経済的な結びつきが薄くなるので、イギリスの経済は一時的にはダメージを受けると考えられますが、ソフトブレグジットよりは交渉がまとめやすいです。

合意なき離脱

ソフト、ハードの2択に加えて2018年頃から現実を帯び始めてきたのが、合意なき離脱パターンです。ソフトでもハードでもEUとの今後の関係性について何らかの合意形成をした後に離脱となります。一方で合意なき離脱とは文字通りEUと何の合意形成もしないまま離脱することを指します。

3つの中で最も大変なことになるのが合意なき離脱パターンです。合意なき離脱をすると突然、関税の問題が発生して、経済的に混乱しますし、生活用品の品切れ高騰などによる生活の混乱が予想されます。

離脱と世論

離脱にあたって障害となっているのは、イギリス国内の世論です。EUとの交渉はまとまり、3度もイギリス国内におけるEU離脱の法案が提出されていますが、いずれも下院で否決されています。

この結果を受けて、キャメロン首相退陣後、EU離脱交渉をしていたメイ首相は2019年5月に辞任を発表しました。党派対立によりEU離脱の手続きはますます混迷しつつあります。

ちなみにEUとイギリスは離脱で交渉をしていますが、EU司法裁判所の判断によれば、民主的なプロセスで離脱撤回を決定すれば、他の加盟国の同意がなくても一方的に離脱の撤回ができるという判断を示しています。よって、2回目の国民投票を行い、もう一度離脱の賛否を問おうという動きもあります。

EUにおける問題点

以上がブレグジットの経緯ですが、EUにはブレグジット以外にも欧州債務危機、ドイツ銀行の問題、移民問題など何かと経済的には芳しくない問題が近年はつきまといます。EUが抱えている問題について説明します。

移民と雇用・治安の問題

まず、EUが抱えている問題として挙げられるのが移民問題です。よく言われるのが移民を受け入れることによって治安が悪化することですが、さらに深刻なのが雇用の問題です。移民は安価な労働力になりえます。よって、移民を流入させると単純な仕事は賃金の安い移民が有利になります。その結果、移民に仕事を奪われたと感じる労働者も少なくありません。

これは、EUだけではなく世界中で発生している問題で、アメリカのトランプ大統領が当選したのも移民に仕事を奪われたと感じる保守的なブルーカラー層の支持があったからだと言われています。

経済危機を発生させやすい体制

ヨーロッパではギリシャ、ドイツ、フランス、イタリアと相次いで経済危機が起こっています。これは単なる偶然ではなく、構造上EUは経済危機が起きやすくなっています。


問題は共通通貨であるユーロです。自国通貨を発行している場合、経済的に不安定になるとその国の通貨は安くなります。そして通貨が安くなると、その国の製品やサービスは他の国から相対的に安くなるので、海外からの投資や輸出などによって経済が回復します。

このように通貨には競争力を調整する機能がありますが、EUという共通の通貨を導入すると、今まであった通貨による競争力の調整機能が働かなくなります。EU国内で貧しい国と豊かな国が二極化するのです。これによって近年一人勝ちしていたのがドイツです。(ちなみにドイツの経済危機は別の理由です。)

共通の通貨を使うことによって競争力の調整機能が無くなり、経済政策も制限されることからヨーロッパの国々では経済危機が起きやすくなります。

イギリスの場合は、ユーロを採用せずにポンドを使い続けているので影響は少ないですが、それでもEU諸国と経済的結びつきが強いので悪影響を受けやすくなります。

EU離脱により発生が想定される問題

上記のような問題をEUは抱えていますが、EUを離脱することによっても問題は発生します。イギリスがEUを抜けたときに発生しうる問題について説明します。

金融業界のロンドン離れ

まず、問題として挙げられるのが金融の混乱です。先ほど3パターンの離脱方法について説明しましたが、合意なき離脱、ハードブレグジットはもちろんのこと、ソフトブレグジットであってもこの問題は発生しうるのです。

ロンドンは長らく金融の中心地でEU設立以降もEUの金融の中心地として存在し続けました。しかし、EUから離脱するとロンドンは今のように金融の中心地ではなくなってしまいます。

EU加盟国のどこかで営業許可を取れば、他のEU諸国でも金融業ができるシングルパスポート制度があったため、長らく金融の中心地であったロンドンで免許を取得している金融会社がたくさんありましたが、イギリスがEUから離脱すればその効力も当然なくなるので、他のEU加盟国に拠点を移す企業が増えているのです。

ロンドンを本拠地とする世界四大会計事務所の1つであるアーンスト・アンド・ヤングはイギリスのEU離脱の雲行きの怪しさから、銀行や保険会社などの金融機関が約110兆円の資産をロンドンから他のヨーロッパ諸国に移そうとしているという調査結果を発表しています。

国境問題の再活性化

もう1つ深刻なのが国境問題の再活性化です。イギリスの西側にアイルランドがあり、アイルランドの北部にある北アイルランドはイギリス領になっています。しかし、この北アイルランドは長年の間、アイルランドに帰属するかイギリスに帰属するかで揉めていた地域でもあります。

イギリスはキリスト教でもプロテストタント、アイルランドはカトリックの多い国であり、北アイルランドにはちょうど半分ずつ程度、プロテスタントとカトリックの信者がいます。

1960年代の黒人公民権運動に触発されて、北アイルランドでも、アイルランドへの帰属は、イギリスに引き続き帰属派の両者が衝突を繰り広げ多数の死傷者を出しました。有名なのはIRAというテロ組織でイギリスでは非常に大きな問題となっていましたが、1998年のベルファウスト合意締結の後は一部の過激派を除けば活動しなくなりました。

ただし、この前提にはイギリスとアイルランド両者がEUに加盟していることもあり、統合が進み、イギリス-アイルランド間の国境による隔たりが無くなったことにあります。しかし、イギリスがEUから離脱するとアイルランドとの間で国境問題が発生する可能性があります。その結果かつてのIRAのような組織が再び活性化し、北アイルランドでまた内線のような状態になる可能性があります。

まとめ

以上のようにブレグジットについて説明してきました。EUに加盟しつつも比較的距離を取って来たイギリスですが、世論がまとまらないこともあり、EUからの離脱派混迷を極めつつあります。ただし、EU自体が移民や経済政策などにおいて問題を抱えており、今後も加盟国の脱退が発生する可能性は考えられます。EUの成否はともかく、国同士はお互いに複雑な利害関係があり、経済、政治は国同士の関係性にも影響されることがこの事例からわかります。

多くの公務員になる方にとって、外交は関係ありませんが、大局的には国際的な情勢は行政に少なからず影響を与えます。公務員を目指す方は国際情勢についてある程度知っておいた方が良いかもしれません。

本記事は、2019年6月14日時点調査または公開された情報です。
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