ブラック選挙を止めろ!ちゃんと知っておきたい「公職選挙法」の基本



「国民」が主となって「みんなのことは、みんなが話し合って決め国家」を運営する「民主主義」は日本の社会システムの根幹をなしており、その根幹の重要な制度が「選挙」です。

今回は、そんな選挙に関わる法律である「公職選挙法」について解説します。

目次

まずはおさらい:日本の「選挙」と「公職選挙法」における「公職」とは?

そもそも日本の選挙には、大きく2つ種類の選挙があります。

  1. 国会議員(衆議院議員と参議院議員)を選ぶ国政選挙
  2. 地方議員(都道府県議会議員と市区町村議会議員)と首長(知事と市区町村長)を選ぶ地方選挙

そして、これらの選挙すべてが「公職選挙法」の規定に則って行われます。

この法律では政治家を「公職」と呼んでいます。

「公職選挙法」とは?

「公職選挙法(こうしょくせんきょほう)」とは、国会議員、地方公共団体の議会の議員、首長などを選ぶための公職選挙に関する法律です。

具体的には、選挙の実施方法、投票の権利と義務、立候補の資格、選挙運動の規制など、「選挙はこう行いなさい」「選挙ではこういう行為は許されません」といった内容が書かれています。簡単に言えば公職選挙法は『選挙におけるルールブック』のようなものなのです。

この法律は、公正かつ民主的な選挙を保証するための法律であり、民主府議の法治国家である日本の根幹を成す法律といえるでしょう。

「公職選挙法」の目的とは?

なぜ「公職選挙法」という法律が存在するのでしょうか?

選挙で当選して勝利すると、多くの場合、『権力』を得ることになります。なので「1万円上げるから自分に投票してください」というようなことがまかり通ってしまうと、社会に大きな損失を与えます。

選挙にまつわる様々な「誘惑」や「悪事」が行われず、公正な選挙が行われるようにするために、「公職選挙法」は存在するのです。


具体的な公職選挙法の目的は、公職選挙法の第1条に記載されており、それが以下の3点です。

1)選挙制度の確立

日本国憲法に基づき、衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の長および議員を公選するための制度を確立します。

2)選挙の公明正確な実施

選挙が選挙人(有権者)の自由な意思によって公明かつ適正に行われることを保証します。

3)民主政治の健全な発達

選挙を通じて民主政治が健全に発達することを期待し、それを促進します。

このように、公職選挙法の第1条には、選挙人の意志が正確に反映されるように、選挙運動や投票、開票のプロセスが適切に規制されています。

「公職選挙法」の構成

公職選挙法は、「総則」「選挙権と被選挙権」「区域」「選挙人名簿」「選挙期日」「投票」「開票」など、17章で構成されています。

以下では、主な構成を簡潔に解説します。

  • 総則:目的、適用範囲、公職の定義、選挙事務の管理など。
  • 選挙権と被選挙権:選挙権と被選挙権の要件。
  • 選挙に関する区域:選挙の単位、選挙区、投票区、開票区など。
  • 選挙人名簿:選挙人名簿の作成・管理、登録、抹消、修正など。
  • 選挙期日:総選挙、通常選挙、特定地域の特例など。
  • 投票:投票方法、投票所、投票用紙、投票の秘密保持など。
  • 開票:開票管理者、開票立会人、開票所、無効投票など。
  • 選挙会及び選挙分会:選挙会の開催、選挙録の作成、選挙会場の取締りなど。
  • 公職の候補者:立候補の手続、立候補制限、公務員の立候補など。
  • 当選人:当選人の数、当選人の選出など。

公職選挙法の全文を知りたい方は、「e-Gov法令検索」にてご確認ください。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC1000000100

「公職選挙法」の主な内容を解説

公職選挙法の主だった内容を解説します。

「公職選挙法」が適用される範囲

「公職選挙法」が適用される範囲は、衆議院議員、参議院議員、地方公共団体(都道府県や市区町村)の議員と首長(知事・市長など)の選挙です。

会社内・学校内・町内会で行われるような選挙は、この法律の対象ではありません。

議員の定数

「公職選挙法」では、その選挙で何人の人が当選できるのか、議員の定数についても決められています。(地方議員の定数は地方自治法で決められます)

議員の数は人口の増減によって決まって来ますので、一票の格差が大きくならないよう、度々調整されているのです。

選挙事務の管理者

「公職選挙法」が適用される選挙において、選挙事務は「各選挙管理委員会が管理すること」と決められています。公職選挙法の中では、この選挙管理委員の選び方をなるべく公平にすることや、その業務についても細かく定められています。

衆議院選挙の比例代表、参議院選挙の比例代表や最高裁判所裁判官国民審査は中央選挙管理委員会、衆議院選挙や参議院選挙の小選挙区・選挙区、知事選などは都道府県選挙管理委員会、市区町村長選・議員選は市区町村選挙管理委員会が管理業務を行います。


選挙権、被選挙権

「公職選挙法」では、衆議院選挙、参議院選挙、各地方公共団体の首長・議員の選挙の、選挙権や被選挙権について定めています。

「公職選挙法」は改正されることがあり、2016年6月には、公職選挙法の改正によって、選挙権の18歳以上への引き下げ(18歳選挙権)が実現しました。

選挙の方法

「公職選挙法」では、選挙区の決め方や日程、投票の方法や開票の行い方など、選挙の方法についても決められています。

公正な選挙が行われるように、期日前投票や不在者投票、身体の不自由な人のための郵便による投票の方法なども、公職選挙法の中に記載されています。

2024年4月時点では、インターネットを使った投票は出来ませんが、将来、公職選挙法が改正され、インターネットを使った投票が可能になるかもしれません。

選挙運動

「公職選挙法」では、特定の候補者への投票を促す「選挙運動」について、非常に細かく決められています。

配布できるポスターの枚数や、選挙カーに乗ることが出来る人数・時間帯、選挙運動が出来る時期、ハガキや新聞広告を使った選挙運動、政見放送などなど「出来ること」「やってはいけないこと」が書かれています。

これらは候補者の資金力によって選挙活動に差がつかないように極力配慮する内容となっており、お金持ちであればあるほど、選挙が有利になる、という事態にならないようにするためです。

ネット選挙(インターネットを利用した選挙活動)

以前は、インターネットを使った選挙活動は禁止されていましたが、2013年に「公職選挙法」が改正され、インターネットを使った選挙運動が可能になり、これにより有権者や候補者、政党などがインターネットを利用して選挙運動をすることができるようになりました。

具体的に何が出来るようになったかというと、ウェブサイトや電子メール、ウェブログ(ブログ)、FacebookやTwitterなどのソーシャネルネットワークサービス(SNS)、YouTubeなどの動画配信サイトを使って、選挙運動をしてもいいことになりました。

ただし、これらは無条件に利用できるわけではなく、いろいろな制限事項があります。インターネットを利用した選挙運動に関する禁止事項として、ウェブサイトや電子メールを印刷して配布することや、虚偽情報の公開、サイトの改竄などが挙げられており、処罰の対象となっています。

そのほか記載されている条文

「公職選挙法」では、選挙費用に関する条文や政党について、選挙に関わる訴訟についてや、選挙運動に関する罰則についても記載されています。

「公職選挙法」で決められている、してはいけない行為とは?

公職選挙法は、「してはいけないこと」も、多く規定されています。

ここでは、「選挙にでる側」「投票する側」に分けて解説します。

「選挙にでる側」がしてはいけないこと

買収及び利害誘導

「買収」とは、特定の候補者を当選させる目的で、または、落選させる目的で、お金を渡す行為です。「お金あげるから私に投票してね」「お金あげるから彼/彼女には絶対投票しないでね」といった行為は当然ですが禁止されています。

「利害誘導」とは、特定の候補者を当選させる目的で、または、落選させる目的で、「昇格させる」と約束することなどが利害誘導です。

戸別訪問

「戸別訪問」とは、候補者などが投票依頼の目的で家などを訪問することです。

一軒一軒あいさつに回って「投票してください」という行為には、一見そこまで問題は無いように思えますが、選挙期間中の戸別訪問が違法とされている主な理由には、以下のようなものがあります。

  • 買収や利益誘導の温床
    個人の居宅での訪問は、買収や利益誘導などの不正行為を招きやすいとされているから。
  • 有権者の私生活への侵害
    有権者の私生活に迷惑を及ぼす可能性があるから。
  • 経済力の差による不公平
    選挙運動にかかる費用や労力が増大し、候補者間で経済力による不公平が生じる恐れがあるから。
  • 義理や人情による投票の影響
    投票が政策よりも義理や人情に流されやすくなるという懸念があるから。

これらの理由から、公職選挙法第138条では、選挙運動のための戸別訪問を禁止しており、違反した場合は刑事罰の対象となる可能性があります。


飲食物などの提供

「飲食物などの提供」とは、候補者が有権者に飲食物を提供することです。

禁止の理由として、

  • 飲食物の提供が「買収行為」と見なされる可能性がある。
  • 飲食物が豪華な方が当選に有利になった場合、候補者間の経済的な平等を保つことができなくなる。
  • 投票側に「奢ってもらったから投票しよう」という考えが生まれる可能性が出てくる。

などがあります。

あいさつ行為

候補者などがその選挙区内の有権者に対して、年賀状などのあいさつ状を出すことは、常時禁止されています。

●禁止されているあいさつ状の一例

年賀状・暑中見舞い状・残暑見舞い状・寒中見舞い状・余寒見舞い状・クリスマスカード・「喪中につき年賀のあいさつを失礼します」という欠礼状年賀・電報

●禁止されていないあいさつ状の一例

答礼のための自筆によるもの・弔電各種の大会などに送る祝電・ホームページへのあいさつ状の掲載・電子メールで送信するあいさつ状

あいさつ状が禁止されている理由は、以下のようなものが挙げられます。

  • 事後買収に当たる可能性がある
    選挙後にあいさつ状を出すことは、事後買収と見なされる可能性があり、選挙の公正性を損なう恐れがあるから。
  • 不適切な利害関係を生じさせる
    選挙後のあいさつ行為は、当選者と支持者間の不適切な利害関係を生じさせる可能性があるから。
  • 選挙の公正性が維持できない
    選挙結果に影響を与える可能性のあり、選挙の公正性を保持することが出来なくなる場合があるから。

有料広告

「有料広告」は、候補者などがあいさつの目的で有料広告を出すことであり、選挙において有料広告を出すことは違法とされています。

具体的な理由は以下の通りです。

  • 「カネのかかる選挙」につながる
    インターネット選挙運動の解禁により、有料広告を認めると、インターネット上の有料広告の利用が加熱し、「カネのかかる選挙」につながる可能性があるから。
  • 資金力の差による不公平がおこる
    資金力のある候補者が大量の予算を投下して広告キャンペーンを行うことによって、不公平が生じる可能性があるから。(選挙ポスターや選挙ビラの枚数に制限があるのも同様の理由)

寄付

「寄付」とは、候補者などが選挙区内の人などに、自らの意思で金銭や品物などを無償で提供することであり、公職選挙法においては寄付は禁じられています。

寄付が禁じられている理由は、政治家と有権者のクリーンな関係を保ち、選挙や政治の腐敗を防止するためです。

「投票する側」がしてはいけないこと

公職選挙法において、投票する側(有権者)がしてはいけないこともまた、いくつかあります。

投票干渉

投票所内で他人の投票に干渉したり、特定候補への投票を呼びかけたりする行為は、公職選挙法の定める「投票干渉罪」に当たる可能性があります。

日本国憲法は選挙における「投票の秘密」を保障しており、投票所内で他人に投票内容を見せるよう強要することもできません。

虚偽の宣言

投票所での本人確認の際に虚偽の宣言をすることは違法です。正確な情報を提供することが求められています。

投票を偽造または増減すること

投票用紙を偽造したり、投票数を増減させたりする行為は厳しく処罰されます。

正当な理由なく投票に干渉すること

投票所や開票所などで正当な理由なく、有権者が投票するのに指示したり勧誘したりすることは違法です。これらの行為は、健全な民主政治を維持するために厳格に規制されています。

公職選挙法に違反したらどうなるか

ここまで、「選挙にでる側」「投票する側」がしてはいけない行為について詳しく述べてきました。


それでは、公職選挙法に違反してしまった場合、どのような罰則が待っているのでしょうか。

公職選挙法に違反した場合その1)刑罰が課せられる

選挙違反(選挙犯罪)には、罰金、禁固、懲役などの刑罰が課せられます。選挙犯罪により刑罰を受けた者は、一定の期間、選挙権・被選挙権が停止され、投票や立候補ができなくなります。

公職選挙法に違反した場合その2)連座制が適用される

候補者や立候補予定者と一定の関係にある者(秘書、親族など)が選挙違反を犯し、刑に処せられた場合、候補者や立候補予定者本人について、その選挙の当選を無効とするとともに立候補制限という制裁を科す連座制が適用されます。

公職選挙法に違反した場合その3)少年の場合は少年法が適用される

満20歳未満の者が犯罪を犯した場合、少年法により、懲役などの刑事処分ではなく、少年院への送致などの保護処分が適用されます。

満18歳以上満20歳未満の者が公職選挙法違反等の罪を犯し、連座制の対象となる場合、刑事処分の対象になり、連座制も適用されることがあります。

選挙において、「公務員」が気を付けるべきことは?

公職選挙法において、選挙時に公務員が注意すべきことは、以下のような点があります。

政治的中立の保持

国家公務員は、国民全体の奉仕者として、政治的に中立な立場を維持する必要があります。公務員という地位は、政治の動向にかかわらず、常に安定したものでなければなりません。なので、職員に対して一定の政治的行為の制限が課されています。

選挙運動の禁止

公務員は、選挙運動を行うことができません。これには、投票の周旋勧誘や演説会の開催、選挙運動の企画や実施の指示などが含まれます。

勤務時間外の活動も制限

公務員としての身分を有する限り、勤務時間外や休日であっても選挙運動を行うことは禁止されています。

特定の公務員の選挙運動禁止

選挙事務関係者や特定の公務員(裁判官、検察官、警察官など)は、選挙運動を行うことが禁止されています。

教育者の選挙運動禁止

教育者は、教育上の地位を利用して選挙運動を行うことができません。

「公職選挙法」簡単まとめ

「公職」とはなに?

公職選挙法でいう、公職とは政治家のことです。

「公職選挙法」とは?

公職選挙法は選挙におけるルールブックのようなものです。

「公職選挙法」の内容は?

選挙の決まりや、選挙を実施するときにしてはいけないこと、違反した場合の罰則などが書かれています。

「公職選挙法」に違反するとどうなる?

刑罰が課せられます。


まとめ

選挙で選ばれた政治家たちは、国や地方の予算や政策、法律などを討議し、国民や市民のためになる政策を掲げ、実行するために活動します。そして、政治家たちが扱うお金は巨大な額ですが、そのお金の出所は国民から集めた税金です。

つまり私たちが選挙で選んでいるのは、「私たちのお金をどうやって使う人なのか」なのです。家計を握る人を適当に選んだりしませんよね。規模は大きいけれど、国のお金も同じことです。

それなのに、選挙で立候補した人や当選した人が、私利私欲を満たすために私たちのお金を使う人たちでは、日本という国そのものすら成り立たなくなってしまう可能性があります。

私たちの税金はもちろん、生活・決まり・ルール・外交、これらを取り扱う政治家を選ぶための仕組みを守るのが、「公職選挙法」なのです。

関連リンク

》e-Gov法令検索「公職選挙法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC1000000100

》やさしい公職選挙法
https://www.pref.gunma.jp/uploaded/attachment/610908.pdf

》選挙LABO|公職選挙法をわかりやすく解説!選挙のルールを知ろう
https://senkyo-labo.com/archives/369

公務員総研は、選挙のルールなどについてのコンテンツを制作協力中(2024年4月)

ブラック選挙によろしく ⇒ https://tokyo-senkyo2024.or-z.biz/blacksenkyo/

本記事は、2024年4月24日時点調査または公開された情報です。
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