日本の選挙運営は「選挙管理委員会」が行っています
衆議院議員選挙、参議院議員選挙、都道府県知事選挙、都道府県議会議員選挙、市町村長選挙、市町村議会議員選挙など一部例外は除き18歳以上の日本国民の方であれば選挙権が与えられており、多くの方が1度は投票を行ったことがあるのではないしょうか。
今後の自分の生活にも関わる大切な1票をどの政党や候補者に投票するか一生懸命に思案し投票に臨む人、なんとなく周囲の友人らも投票してそうだから投票する人、めんどくさいなあと思いながら投票する人、会社から投票しろと言われたから投票する人、棄権する人など投票の参加について人それぞれでしょう。
そもそも「選挙権」は権利であり義務ではないので、棄権はしても当然罰則はありませんし、なんらおとがめはないわけです。さらに投票の方法もさまざまで、基本的な投票日に投票する当日投票、当日仕事や旅行などの予定があり、投票に行けない人が投票する期日前投票、入院中の方や施設に入所中の方、あるいは漁師さんや航海士さんなど長期に渡って航行する方が投票する不在者投票、外国に留学などで滞在している人が投票する在外投票などがあります。
これらの選挙および投票はそれぞれの選挙管理委員会が運営しており、投票者に接する業務であれば投票所で投票に立ち会ったり、投票用紙を交付したりといった業務をしている人がいますが、その人たちは選挙管理委員会に所属する人たちなのです。
この選挙管理委員会の運営には公的機関である国、都道府県および市町村の行政職員が密接に関わっています。
本ページでは、最も一般投票者に近い存在の市町村の選挙管理委員会の業務に関する裏側などについて解説していきます。
そもそも「選挙管理委員会」とは何でしょうか?
選挙管理委員会とは、選挙を公正に実施するために、選挙管理委員長以下選挙管理委員および選挙管理事務局により選挙を厳しく管理している団体です。
中央選挙管理会などの国の選挙管理機関、群馬県選挙管理委員会などの都道府県の選挙管理委員会、千葉市選挙管理委員会などの市町村の選挙管理委員会などあり、それぞれが行う選挙の運営はもちろんのこと、国の機関は都道府県の機関に、都道府県の期間は市町村の機関に選挙を運営するにあたり助言や勧告を行うことも重要な役割です。基本的に私たちが投票する際に立ち会ったり、目にかかる投票事務を行っていたりする人たちの多くは市町村の選挙管理委員会の選挙事務従事者であり、市町村の一般行政職員です。
中には選挙期間中にアルバイトや臨時職員を採用して選挙事務にあたっている場合もありますが、基本的に普段は役所でそれぞれの行政事務を行っている職員ということです。
各市町村にもよりますが、通常、役所の総務課などに選挙担当部署を設けて、そこの所属長が選挙管理事務局長です。
ちなみに選挙管理委員会は独立した団体であるため、市町村長はこれの運営に関与せず、この選挙担当部署の長が実質的選挙事務の最高責任者ということになります。
以下、選挙担当部署の職員が主体となりながら、その他の部署の職員などと投票所や開票所での作業を運営していきます。また、衆議院議員選挙や参議院議員選挙などのいわゆる国の選挙の場合「国→都道府県→市町村」、都道府県知事選挙や都道府県議会議員選挙といった地方選挙の場合は「都道府県→市町村」といった具合に備品購入費や人件費、広報費、消耗品費など選挙運営に必要なお金が交付されます。市町村長選挙や市町村議会議員選挙の場合は基本的にその自治体の自前予算により運営されます。
投票率の低下対策「期日前投票所」の運営
近年、投票率の低下が問題視されており、地域やそれぞれの選挙によっては50パーセントに満たないなんてこともしばしば起こります。これの対策の一つとして、期日前投票所が開設されています。
告示の翌日から投票日前日までの期間となっていて各選挙により期間はさまざまですが、最も長い参議院議員選挙および都道府県知事の場合17日程度となり、基本的にその期間の8時30分~20時00分まで行われています。
期日前投票所は投票管理人が1名、投票立会人が数名程度、投票事務従事者が数名程度で運営されていて、投票管理人と投票立会人は選挙管理委員会から委託された地域の方々となることが多いです。
投票事務従事者である役所の職員は、担当する日や時間をいわば当番制のような形で従事し、期日前投票を行う前に記載する宣誓書の記載補助や入場券などで本人確認を行い、投票用紙を交付したり、投票要領の助言などの業務を行ったりします。職員としては十数日もの長丁場で長時間に渡る勤務で、多い人では数千人の投票者を対しひたすら同じ説明をする必要がありますし、投票という厳格な事務にあたるため、非常に大変な業務です。さらに、投票用紙を扱う業務ですので、一般の人が考えるよりもずっと神経を使います。
数千、数万という投票用紙を1枚たりとも狂わせてはいけません。もしそんなことが発生したら大変です。そのため、毎日毎日の集計はもちろん、一時間に一度程度は枚数と投票者数を照合してチェックを行います。また、投票者が投票用紙を受け取ってから投票せずに持ち帰ってしまうなんていうことが発生してしまうと、投票箱の中身と選挙管理委員会で保管している投票用紙の数が本来あるべき数と合致しないという事態になってしまうので、投票用紙を投票者に交付してからその投票用紙が投票箱に入れられるまで、投票事務従事者は投票用紙の行方を見届けます。
朝6時集合!「当日投票所」の運営
当日投票所は、市町村にもよりますが、数十カ所で投票所が設置されていて、早朝から一斉に投票が開始されます。
こちらも期日前投票所と同様に各投票所で投票管理人、投票立会人、そして市町村職員が担当する投票事務従事者により運営されます。
当日は早朝からの出勤になるため、あらかじめ前日に職員が数名で会場の確認および投票所として運用できるように設営作業を行っておきます。投票事務従事者は選挙期間という見方で仕事にあたっているので、この投票日当日の朝には「やれやれ、やっとこさ長い選挙期間が今日で終わって、明日からは晴れて普通の日常だ。」といった感覚で従事しているものです。
朝6時頃に職員らが集合してきます。真冬の選挙でしたら凍えるような寒さですし、明け方でまだ暗闇のなか出勤してきます。ここで一つ緊張することがあります。それは投票用紙の運搬です。実は投票用紙は期日前投票所の場合、役所の金庫などで厳重に管理されているのですが、当日は各投票所の責任者の職員があらかじめ前日中に自宅に持ち帰って、それを持参するといった方法が採用されています。恐らく投票日当日朝の煩わしい業務を簡素化するためといったところだと思いますが、この投票用紙を持ち帰った職員が寝坊したりすると、7時00分の投票開始時刻に投票用紙が会場にないという、あってはならない事態が発生します。実際に職員が寝坊し投票用紙が届かず、投票開始時刻に投票開始できずに新聞で報道されるなどといった大問題に発展した市町村選挙管理委員会もあります。
投票が開始されるわけですが、ちょっとしたマニアの人は朝一番にやってきて一人目の投票者となりたがります。知っている人は知っていると思いますが、各投票所とも一人目の投票の際に投票箱の中身が空であることを目視確認してもらうという作業があります。
これに価値を感じる投票者が会場前から順番を確保するため、投票事務従事者が会場に到着する前から順番待ちをしているなんてこともあります。ちなみに余談ではありますが、この投票日当日のみ昼食および夕食、一人500円分の茶菓子が支給されます。この時代で公的予算を飲食に支出できる数少ない事例の一つです。しかし、業務内容を考えるとこれくらいは許容範囲であるとは思います。
【責任重大!】投票箱の移送 – 不正を疑われない配慮も大事
投票日当日、投票時間が終えると急いで会場の片づけをします。そして次に行うのが投票用紙でいっぱいになった投票箱を開票所へ公用車で移送する作業です。
これが経験者あるあるなのですが、恐怖というか緊張を感じます。特に、市町村長選挙および市町村議会議員選挙など、地域住民にとって身近で注目度の高い選挙の際にありがちなのですが、投票箱を投票所から持ち出して、選挙事務従事者2名以上で開票所へ移送します。
なぜ2名以上で行うかというと、1名で移送すると投票箱や中身の投票用紙に細工するなど不正ができてしまうからです。というより、不正を疑われないように2名以上で移送するといった意図の方が強いと思われます。
基本的にありえないことですが、それくらい投票箱および投票用紙の扱いは神経をつかいながら行います。そして神経を使いながら公用車で移送を始めると、投票所を出発してから1、2台の車両が背後からついてきます。投票所から開票所へ到着するまでの間ずっとついてきます。何の車両か想像つきますでしょうか。正解は候補者の支援者の車両です。特に劣勢が伝えられている候補者の支援者が多いと聞いたことがあります。彼らはなぜこのようないわば尾行のようなことをするかというと、それこそ先ほど述べたように、移送車両に疑わしい動きがないかを見張りに来ているといったところでしょうか。何か疑わしい動きがあって、自ら応援する候補者が僅差で落選した際には指摘してやろうといった意図が感じとれます。候補者はもちろん、支援者もそれくらい熱心ということですから、その事務に従事している職員からすると少し怖さも感じるほどです。
いよいよ!開票作業!そこには、野鳥の会?
各投票所から開票所へ次々と投票箱は移送されてきます。この時点でもうすっかり日は暮れている時間です。そんな時間から開票作業が始まります。
まずは投票用紙を卓球台ほどの大きな台に全て投票箱から出して、投票用紙を各候補者別に仕分けていきます。そして流れ作業のように、候補者別に20枚の束にしていきます。それの枚数チェックなども行っていくのですが、だれがどの作業を行ったかがわかるように作業ごとに作業者は確認欄に各々で認印を押していきます。またここでも、会場に設けられたマスコミ席からは新聞社関係者らが、一般開放席からは熱心な支援者らが目を光らせて開票作業にあたる職員の動きを見ています。
学生のアルバイトと思われる人たち10名程度が一般開放席から野鳥の会のごとく双眼鏡を片手にひたすらメモをしていたりします。恐らく仕分けている投票用紙を目視で何票くらいあるのかをチェックして、それを選挙事務所に連絡するのでしょう。ちなみにこの開票作業にあたる職員は鉛筆や消しゴム、ボールペンその他一切の筆記用具の持ち込みは禁止です。開票作業中に投票用紙に加筆削除を防いだり、その行為を疑われたりされないようにするためです。
悪ふざけ投票の対応… そして、一大行事が終わります。
あと難しいのは疑問無効票の判断です。ある程度のベテランが従事するのですが、何を書いているのかわからない投票用紙や半ば悪ふざけのような票があったりします。本当に読み取り不能の文字や、悪ふざけパターンなら「ドラえもん」とか「バカ」など記載された投票用紙があります。そういったものを一つ一つ片づけていき、選挙管理委員の方々に最終チェックをしてもらって開票作業が終わります。その後マスコミ発表や都道府県の選挙管理員会に結果報告し、片づけ終わると日付が変わっています。
十数日の期日前投票期間から当日朝6時から真夜中まで、過酷な選挙事務がこれで終わりますが、忘れてはならないのが数時間後には月曜日の出勤時間が迫っています。そう、投票日当日は日曜日が基本です。翌日からの通常勤務が体力的にとても大変です。
まとめ – 選挙の裏側で働く公務員、その大変さゆえの報酬
ここまでひたすら選挙事務従事の大変さをお伝えしてきました。
でも、従事する職員は自ら進んで従事して、場合によってはこの従事する枠を奪い合うなんてこともあります。
なぜかというと、期日前投票であれば平日17時30分~20時30分の3時間、土日8時30分~20時30分の休憩挟んで11時間、投票日当日であれば6時00分~翌1時00分頃の休憩挟んでおおむね17時間が時間外勤務の対象です。自治体によりますが、どこも財政が厳しい時代ですので、日ごろの時間外勤務はサービス残業となることがおおかたですが、選挙の場合は初めにお伝えしたように国や都道府県の選挙管理委員会から必用経費を交付されているので、この選挙事務による時間外手当は満額支給されます。
例)(平日5日×3時間+土日3日×11時間+投票日当日17時間)×時間外単価2,000円=130,000円
の時間外手当が支給されます。時間外単価が年配職員だと4,000円くらいの人もいますのでその場合だと単純に例示の2倍です。
勤務時間外に仕事をしているわけですから、法的に見ればこれが当たり前です。
しかし、そうはいかない自治体が多いうえ、さらに副業が禁じられた地方公務員からすると実は人気の業務でもあります。
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