2019年4月、改正出入国管理法が施行され、日本でも外国人労働者の受け入れの促進が計画されています。
在日外国人の人口が増える中、本記事では日本で暮らしたり働いたりしている在日外国人の人々が、公務員になれるのか?を、解説します。
※本稿は事実をもとに筆者の考えをまとめたものであり、本メディアの意見と必ずしも一致するものではありません。
はじめに - 改正出入国管理法が2019年4月から施行
外国人の受け入れ拡大を狙った改正出入国管理法が2019年4月から施行されました。これにより、新たに設立された「特定技能」という在留資格によって、5年間で最大34.5万人の外国人労働者の受け入れが計画されています。
既に多くの外国人が日本で働いているなか、今後もさらに外国人労働者の増加が見込まれますが、公務員を目指している方が気になるのは、「外国人って、公務員になれるのか?」ではないでしょうか。
外国人でも公務員になれるのであれば、公務員試験の競争倍率が高くなったり、職場でも外国人の同僚と一緒に働いたりする可能性があります。
この記事では、「外国人は公務員になれるのか?」について説明します。
在日外国人は国家公務員になれるのか?
公務員は大きく分けて国家公務員と地方公務員に分類できます。
まずは、外国人は国家公務員になれるのかについて説明します。
在日外国人は原則として国家公務員になれない
結論ですが、外国人は原則として国家公務員にはなれません。
国家公務員は国家権力の行使や国家運営に関わりやすい立場であり、外国からの無用の圧力を避け、国政に悪影響が発生しないためにも妥当な判断であると考えられます。
ただし、国家公務員法や憲法によって定められているわけではありません。人事院規則8-18の第9条という規則で「日本国籍を有しないものは採用試験を受けられない」と規定されています。
例外として、外務職員の任免について定めた外務公務員法では日本国籍を持っていない人は、外務公務員になれないことがはっきり明記されています。
しかし、他の公務員職では法律ではなく、人事院規則に基づいて日本国籍を持たない方の採用はしていない状況です。
問題となるのは、在日外国人の方が日本国籍を保有する「二重国籍」の状態
ここで一つ問題となるのが、日本国籍を保有していれば外国籍を同時に保有していても公務員になれるのかという問題です。いわゆる二重国籍問題です。
国家公務員における二重国籍問題がクローズアップされたのが2016年の蓮舫議員の二重国籍問題です。(国会議員が国家公務員に含まれるのか?という論点もありますが、ここでは国家公務員に含まれると解して割愛します。)
この問題は蓮舫議員の発言が二転三転したこともあって、世間の注目を集めましたが、同時に公務就任時のチェックの甘さ、曖昧な領域を放置していたことを露呈させました。
日本では二重国籍を認めておらず、規定も日本国籍があるなら二重国籍はありえないので外国籍は無いという前提のもと、手続きや規定が組まれていました。二重国籍は日本において違法なので、二重国籍のまま公務員に就任することは望ましくありませんが、そこの部分を明確にせず、候補者の自主性や現場の判断に任せて曖昧にしていたためにこのような問題が発生したと考えられます。
在日外国人は地方公務員がなれるかは各地方自治体の判断になります
上記の国家公務員の話のように現行法制度では外国人は公務員になれないようになっています。
二重国籍という穴もありましたが、二重国籍問題が露呈したことから今後は厳格化の方向に向かっていくとも解釈できます。
しかし、一方で地方公務員の場合は、少し状況が異なります。
日本では、地方公務員には外国人でも就職できるケースがある
在日外国人が地方公務員になれるかは各地方自治体の判断
国家公務員と異なり地方自治体で働く地方公務員について、外国人が地方公務員になれるかは自治体の判断に委ねられます。
その理由として、そもそも各地方自治体の職員の人事権は政府ではなく各地方自治体に委ねられているためであり、地方毎に置かれている状況が違うので地方毎に判断しています。
よって、地方自治体の判断によっては外国人でも公務員に就任できる余地があります。
ただし、国家公務員のように公権力の行使や地方自治体の運営に関わるのは望ましくはないと考えられています。
在日外国人を採用する地方の実情 労働人口不足など
実際に地方自治体では一律で外国人を排除することはできません。
技能実習制度によってなし崩し的に外国人労働者を受け入れ、すでに外国人が自治体の中に多数存在するケースがあります。自治体の中で外国人の比率が増えると地方自治体においても外国人とのコミュニケーション窓口が当然必要になります。
また、労働人口の流出によって公務員職で会っても国籍を気にして採用していられないという場合も存在するでしょう。
在日外国人採用を許容する地方自治体
以上のような理由から地方自治体においても外国人採用を許容する自治体が多数存在します。
昔は外国人採用と言っても、一部の地方自治体の権力行使や意思形成に関係ない、保健師やカウンセラーのような職業が中心でしたが、現在は一般行政職への外国人採用を解禁する自治体も増えています。
例えば、奈良市では平成31年の市職員採用要綱で、「日本国籍を有していなくても在留資格等によって就職が制限されていなければ、職種に関わらず一般職でも応募することができる」と定めています。
》参考:平成31年度奈良市職員採用試験案内
http://www.city.nara.lg.jp/www/contents/1552436390098/files/H3104annnai.pdf
在日外国人採用を許容する地方自治体(2022年8月追記)
2019年時点ではH31の奈良市が日本国籍を有していない人の応募を認めていることをご紹介しました。
そのほか、2022年(令和4年)時点で外国籍でも「公務員」として採用される自治体をご紹介します。
外国籍でも「公務員」として採用される都道府県
外国籍でも「公務員」として採用試験を受験できる都道府県をご紹介します。(2022年8月調査)
岩手県
岩手県では日本国籍を持たない人の受験を認めています。ただし、試験方法や試験問題は、日本国籍を持つ人と同一であり、試験問題は日本語で出題、解答も日本語と指定されています。
採用時に「就職に制限のない在留資格を有していない人」は、採用されないようです。
また、外国籍の人は、公権力の行使、または公の意思形成への参画に携わる職以外の職種で採用されます。「公権力の行使に携わる職」としては、その例として、学校法人の設立認可や、県税の賦課決定処分・滞納処分、危険物施設設置の許可、訪問販売業務の停止命令、生活保護の開始・変更、貸金業者の登録・登録の変更、開発行為の許可などが挙げられています。
「公の意思形成への参画に携わる職」の例としては、知事部局の部長、局長、副部長、総括課長、広域振興局の局長、副局長、部長及び所長といった役職が該当するようです。
》参考:岩手県|受験案内
http://www2.pref.iwate.jp/~hp0741/annai/
神奈川県
神奈川県でも「1種試験(行政)、3種試験(行政)をはじめ、ほとんどの技術系や免許資格職の試験区分で、外国籍の方も受験できます。外国籍の方も受験できます」と公式サイトに明記されています。
採用後担当できる職務等に一部制限があるようですので、詳しくは県にお問い合わせください。
》参考:神奈川県|神奈川県職員採用ホームページ:よくある質問
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/s3u/saiyou/qanda.html#sikaku
外国籍でも「公務員」として採用される政令指定都市
外国籍でも「公務員」として採用される政令指定都市をご紹介します。
名古屋市
名古屋市では、外国籍の方でも消防職を除いて公務員採用試験を受験することができます。ただし、他の自治体と同じように採用後に従事できる職務に制限があります。
》参考:名古屋市|受験資格、試験区分などに関する質問一覧
https://www.city.nagoya.jp/jinji/page/0000039601.html#q1
広島市
広島市は消防職以外の職種で、外国籍の方の採用を認めています。ただし、「公権力の行使にあたる業務」には就くことができないと明記しており、どのような業務ができてどのような業務には携われないかといったことが明確に表記されています。
また、行政について企画、立案、決定等に関与する部署の、課長級以上には就くことができないようです。
》参考:広島市|日本国籍を有しない人の受験について
https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/employment/4108.html
上記以外に、外国籍の採用がある都道府県や政令指定都市について
今回ご紹介した地方自治体以外にも、外国籍の人の採用を実施している地方自治体は多く存在します。Twitterなどでまとめて紹介している投稿もありますので、気になる方は検索してみてください。
在日外国人は公務員の要職・管理職になれるのか?
地方公務員であれば外国人であっても公務員になれる余地があります。
ただし、外国人が地方自治体の管理職になると、地方自治体の行政の意思形成や、公権力の行使に関わりうるのでも、リスクもあります。外国人が地方自治体で管理職になれるのかが裁判で争われた、「東京都管理職選考事件」という事件をもとに現在の法制度ではどのように解釈されているのかについて説明します。
この事件は保健師として働いていた在日韓国人二世が1994年、1995年と管理職の登用試験を受けようとしたところ、国籍条項を理由に受験を拒否された事件です。つまり、採用までは行われたけど、管理職になるのは拒否されたということです。
東京地裁では東京都の違法ではないと判断され、東京高裁では東京都の判断には違法性があるとして、東京都に40万円に支払いが命じられました。そして、最高裁に最終判断をゆだねられました。
最高裁の判断は日本国籍を持たないことを理由に管理職への任用を拒否することは違法・違憲ではないという見解をしめし、保健師の請求を棄却しました。
理由について最高裁は、公権力行使を想定される地方公務員への就任は国民主権の原理から日本国籍取得者が就任することを想定していて、日本国籍保有者しか管理職になれないというのは、合理的な措置であると説明しています。
この判決が出たのは2005年と最近のことであり、現在もこの見解がどの自治体にも採用されていると考えられます。
在日外国人であっても、知事や市長、地方議員にはなれません
公職選挙法では、知事や市長、地方議員は日本国籍を有していることが求められています。
よって、外国人は知事や市長、地方議員にはなれません。しかし、国会議員とケースと同様に、二重国籍に関しては明確に禁止していませんでした。
今後は各政党でも公認の際に身元チェックが厳しくなるはずなので、徐々に二重国籍疑惑のある方は議員になりにくくなると考えられます。
在日外国人は、日本人として「帰化」をすれば内閣総理大臣にもなれる
上記のように外国人が公務員になれるか否かを国家公務員、地方公務員に分けて説明してきましたが、ここで言う外国人とは日本国籍を持っていない方のことです。
よって出生国がどこであっても、日本人に帰化して日本国籍を取得すれば、国家公務員、地方公務員どちらにもなれますし、内閣総理大臣になることも可能です。
生まれた時から日本国籍の場合
日本国籍を取得すれば、制限なく国家公務員、地方公務員になれます。
もちろん、日本の国内で出生した日本国籍の両親から生まれた人は日本国籍になります。ちなみに、どちらか片方の親が日本国籍であれば、その子どもも日本国籍は取得できます。ただし、父親の場合は、法律上の父親が日本国籍であることが必要で、結婚せずに生まれた子の場合認知が必要です。
日本では両親の血筋をベースに国籍を決定するので、在日外国人同士の間の子どもが日本で生まれても日本国籍にはなりませんが、アメリカのように国内で誕生したら国籍を取得できることもあります。この場合は二重国籍となり、22歳までに国籍の選択が必要です。
二重国籍のケースを除けば、あらゆる公務員のポストに就くことができます。
外国籍の方が、日本国籍を取得する場合
外国籍を離脱して日本国籍を取得することを帰化といいます。
もちろん、帰化すれば元の国籍に関わらず日本国籍になるので、あらゆる公務員のポストに就けます。
日本国籍に帰化するためには継続して日本に5年以上住んでいる、素行が良好である、生計がたてられているなどの理由を満たしたうえで、法務局に帰化申請します。
ちなみに、日本国籍でないけれども日本に永住を許可された外国人もいます。このうち永住手続きを申請したものの永住外国人、特別な事情によって手続きなしに永住が認められている外国人を特別永住外国人と呼びます。
地方自治体の中には、外国籍の方の就任は認めないけれども、永住外国人、特別永住外国人の就任は可能という場合もあります。
現役の公務員が日本国籍から離脱する場合
あまり想定しにくいケースですが、公務員になった後、日本国籍を離脱したらその人が公務員で働き続けられるのでしょうか。残念ながら、内うちに処理されたケースはあるかもしれませんが、裁判などになったケースはないのではっきりしたことはわかりません。
ただし、日本国籍が任用の要件となっている場合は国籍離脱を理由に免職になりうると考えられます。一方で、地方自治体で国籍要件を求められないポジションで働いている場合は、国籍離脱を理由に免職される可能性は低いでしょう。
平成24年度の自民党の「憲法改正草案」では外国人は公務員になれないよう明記した案になっている(2022年8月追記)
平成24年度に発表された自民党の憲法改正草案では、第十五条の公務員の選定について「日本国籍を有する」成年者が選挙に参加できるものとしており、明確に外国籍の在日外国人の参政権を否定する案だという指摘がなされています。
現行憲法では外国人参政権について明記されていないことから、国政選挙では外国人参政権は認められていないものの、地方自治体によっては外国人参政権が認められている自治体もあります。
自民党憲法改正草案 第15条 (公務員の選定及び罷免に関する権利等)
(公務員の選定及び罷免に関する権利等)
<憲法改正草案>
第十五条 2)全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。 | <現行憲法>
第十五条 2)すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。 |
》参考:自民党|憲法改正実現本部「日本国憲法改正草案」
https://constitution.jimin.jp/document/draft/
まとめ - 在日外国人という立場でも、地方公務員になれる場合があります
以上、外国人は公務員になれるのか?をテーマにした記事でした。
帰化して日本国籍を取得すればどのような公務員にもなれますが、外国籍のまま公務員になりたい場合は、国家公務員は無理ですが、地方公務員なら各自治体の募集要件によっては公務員になれます。ただし、日本では二重国籍が認められていないので、二重国籍状態から公務員を目指す方は二重国籍を解消してから公務員になった方が無難でしょう。
いずれにしても、外国人だからといって、公務員になれないということはないので、外国人でも日本のため、町のために働く公務員を目指す方は参考にしてください。
なお、在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表が法務省 出入国在留管理庁より発表されています。
》参考:在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表
http://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_touroku.html
お詫びと訂正
誤)特別な事情によって手続きなしに永住が認められている外国人を永住外国人と呼びます。
正)特別な事情によって手続きなしに永住が認められている外国人を特別永住外国人と呼びます。
訂正してお詫びします。(2021年9月7日)
(作成日 2019年6月12日/ 最終更新日 2022年8月25日)
コメント
コメント一覧 (3件)
外国籍でも地方公務員になれる場合があるというのは面白かったです。日本はもっと閉鎖的かと思っていました。ただ実際にどれくらい受け入れてくれる地方自治体があるのか興味があります。
特別な手続きの永住者の箇所、特別が抜けてるのですかね。
記事を訂正いたしました、ご指摘ありがとうございました。