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WTO(世界貿易機関)は機能しているのか?GATT失敗からの「今」

「世界貿易機関」、通称「WTO」は2019年現在、機能停止の問題に直面しています。

本記事では、「WTO」の成り立ちを始め、この機関が果たしてきた役割や、機能停止した後に残される問題点などについて、解説します。

2019年09月07日更新

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目次
はじめに
GATTから「WTO」へ-自由貿易の歴史
第二次世界大戦の原因になったとも言われる「ブロック経済」問題
第二次世界大戦への反省から自由貿易をGATTが誕生する
GATTによる自由貿易の推進が行き詰まる
「WTO」の役割と限界
経済と安全保障が複雑に絡み合った貿易問題をどう解決するのか
まとめ

はじめに

「WTO」は日本語に直すと世界貿易機関と呼ばれていて、自由貿易を促進させる目的で設立された国際機関です。

「WTO」はこれまで国際的な貿易ルールを整備し、各国の貿易紛争の解決手段になっていましたが、2019年12月には機能を停止するのではないかと言われています。なぜ「WTO」が機能停止になるかもしれないのか、これまで「WTO」がどのような役割を国際貿易で果たしてきたのかについて説明します。

GATTから「WTO」へ-自由貿易の歴史

まずは自由貿易の歴史と共に「WTO」はどのような機関なのかについて解説します。

1995年「WTO」設立-GATTから自由貿易の推進を引き継ぐ

「WTO」は1995年に設立された国際自由貿易を推進するために設立されたスイスのジュネーブに本部を置く国際機関です。全世界164か国が加盟しており、国際貿易のルール作りや、加盟国同士の紛争解決を行っています。

設立されたのが1995年ということで貿易に関する国際機関が最近まで無かったのかと思われかもしれませんが、「WTO」の前身としてGATTという組織がありました。GATTができる少し前から世界の貿易体制について説明します。

第二次世界大戦の原因になったとも言われる「ブロック経済」問題

第二次世界大戦以前は世界各地に植民地が普通にありました。たとえば、イギリスならマレーシアやオートスラリア、フランスならベトナムやカンボジアのように先進国各国が植民地を保有していました。もちろん、宗主国と植民地の結びつきは経済的にも政治的にも強くなります。

1929年の世界恐慌の後に問題となったのが、世界貿易のブロック経済化です。すなわち、世界恐慌からいちはやく抜け出すために、世界各国が各宗主国をトップにして関税同盟を結んで、同盟外の地域には需要が漏れないようにグループ内で貿易を行う体制になったのです。

そしてこのブロック経済は第二次世界大戦の原因になったとも言われています。ブロック経済の状態だと、植民地が少ない国ほど経済的には不利になります。そして、自国のブロック経済圏を増やすには戦争で植民地を増やすしかありません。そして第二次世界大戦が勃発しました。

第二次世界大戦への反省から自由貿易をGATTが誕生する

ブロック経済化が第二次世界大戦の原因の1つになったという反省から、植民地は解放され、国際的な自由貿易体制を構築するべきだという認識が世界に広がりました。そのために1948年に作られたのが「WTO」の前身となるGATTという協定です。

GATTは「関税及び貿易に関する一般協定」という風に訳されて厳密には国際機関ではなく、協定の一種です。本当は国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD)と並んで国際貿易機関(ITO)を設立する予定で、GATTはITO設立までの暫定的な協定として設置されましたが、国際政治の駆け引きの中でITOが設立されずに暫定的な協定であるGATTは実質的に国際貿易のルール作りを行うことになりました。

GATTによる自由貿易の推進が行き詰まる

GATTは1948年の誕生以降、国際的な貿易ルール作りに関わってきました。しかし、1995年に「WTO」が発足し、1996年には役目を終えました。

GATTが廃止され、代わりに「WTO」となった理由はいくつかあります。1つはGATTが実際の貿易を規制できなくなったことです。。第二次世界大戦以降、世界は発展し金融や知的所有権、サービスも国際的な貿易の対象となりましたが、GATTは物品の貿易のみしか対象にしていないため、品目を拡大させる必要がありました。

また、GATTの紛争解決手段にも問題があります。GATTは紛争解決のパネル(会議のようなもの)設置や報告の採択にコンセンサス方式を採用していました。コンセンサス方式とは全加盟国が一致しないと合意が形成されたとみなされないということです。よって、何らかの決定をしようと思っても1国でも加盟国が異議を唱えれば採択されなくなります。

また、紛争解決のそれぞれの手続きに期限が定められていないので、手続きが進まないこともあります。しかし、国際貿易が活発になるにつれて、GATTに持ち込まれる紛争は増加します。

よって、GATTは時代と共に形骸化したため、より積極的に自由貿易を推進する機関として「WTO」が誕生したのです。

「WTO」の役割と限界

GATTから自由貿易の旗手の役割を引き継いだ「WTO」ですが、「WTO」も形骸化、機能を停止しつつあるのではないかと言われています。「WTO」の役割とその限界について説明します。

「WTO」になって何が変わったか

まずはGATTの反省を踏まえて「WTO」になりどのように変化したのかについて説明します。

【規制対象となるモノが大幅に拡大】
GATT下では物品のみが対象だったのに対して、「WTO」ではサービスや金融、知的財産権なども貿易の対象として「WTO」でルール作り、紛争解決ができるようになりました。


【紛争解決手段の強化】
紛争解決機能も強化されました。コンセンサス方式はネガティブ・コンセンサス方式となり全ての加盟国が反対しない限り、解決案を採択できるようになりました。また、紛争当事国間の協議やパネルの設置から報告まで、勧告の実施までに期限を設けられるようになり、遅滞することなく紛争解決ができるようになりました。


【上訴制度の導入】
加えて、上訴制度も導入されました。GATTは一審制でパネルの判断がそのまま判決となりました。「WTO」ではパネルの判断に不服があるならば上級員会に申し立てることができる二審制になりました。これによりGATTの頃よりもさらに公平で信頼できる採決を下せるようになりました。

「WTO」のルール制定機能の形骸化

GATTから対象品目が増え、紛争解決手段も強化された「WTO」ですが、その実行力は長くは持ちませんでした。まず、形骸化したのが「WTO」の国際貿易に関するルール制定機能です。

GATTの頃から何度か加盟国で集まり、国際貿易の障壁を取り除き、自由貿易を推進するために多角的貿易交渉をしています。GATTは通算8回目のウルグアイ・ラウンドの後に解体され、「WTO」になって初めての貿易交渉であるドーハ・ラウンドが行われました。

しかし、このドーハ・ラウンドでの交渉が荒れます。ケネディ・ラウンド3年、東京・ラウンド6年、ウルグアイ・ラウンド8年と徐々に長くなる傾向はあるものの10年以内に収まっていた貿易交渉が、いつまで経ってもまとまらず2011年の「WTO」閣僚会議では事実上の交渉停止宣言も出されました。

その後2013年のバリ島閣僚会議で「パリ合意」が成立、ようやく採択されるかと思えば今度はインドが合意に反対、その後交渉を重ねてインドが合意し、2014年末に一般理事会により採択となりました。

ドーハ・ラウンドの詳しい経緯についてはこちらもご覧ください。

*ドーハラウンド(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/1_doha/Doha_Round.html

国際的な統一ルールを作るためとはいえ、1回1回の交渉に必要な期間は長くなり、ドーハ・ラウンドでは約15年の月日が必要となりました。この間も世界各国は自由貿易協定を結ぶなどして世界の貿易環境は目まぐるしく変化しています。たとえば日本もTPPに加入して、加盟国と独自の経済圏を作りだそうとしています。

「WTO」は加盟国が多い故にそのルールに関する合意形成には時間も手間もかかります。ルール制定能力に機動性が無く、実質的に各国の貿易交渉により世界の貿易ルールが更新されていることを考えれば、「WTO」の貿易ルール制定能力は形骸化しつつあると考えて良いかもしれません。

紛争解決もできなくなるかもしれない

さらに「WTO」は紛争解決能力も失いつつあることが指摘されています。「WTO」に設置された上級委員は7人の委員(最高裁の判事のようなものです)で構成されています。

本当は7人必要ですが、実は2019年8月現在、上級委員会には3人の委員しかいません。さらに、2019年12月には、3人の判事のうち2人の任期が終わるので、1人だけになってしまいます。

上級委員会の審理は3人の委員で行うことになっているので、もちろん1人になると上級委員会が機能しなくなり、紛争解決能力が機能不全に陥ります。委員が決まらない理由にはアメリカの反対があります。委員の選出については全会一致が必要ですが、アメリカが委員の任用を拒否しているからです。

「WTO」には、知的財産権を侵害している中国のような国が実質的にノーペナルティで貿易に参加できている、自己申告の「発展途上国」への「特別かつ異なる待遇」という優遇など問題が山積みであり、アメリカは長年「WTO」の改革を訴え続けていましたが、改善されない結果の行動であったと言われています。

経済と安全保障が複雑に絡み合った貿易問題をどう解決するのか

近年は貿易が単なる経済問題ではなく、安全保障と密接に関連した問題になりつつあります。安全保障に重要な影響を及ぼす物資は戦略物資として、日本でもいわゆる外為法でその貿易を制限しています。

安全保障に重要な影響を及ぼすと言っても、兵器や原子力関連のものだけではなく、電子機器や化学物質なども安全保障に影響を及ぼす戦略物資になりえます。

また、金融に関しても同様です。テロリストや犯罪組織のビジネスによる資金は世界中を貫流してマネーロンダリングされています。このような資金の循環を断ち切ることがテロや組織犯罪の抑止においても重要です。

「WTO」が機能を停止しつつある中で、このような問題をどのように解決するべきかは、今後も重大な問題として残り続けると考えられます。

まとめ

GATTはルール制定能力と紛争解決能力が無かったことから形骸化、その役割を「WTO」に譲りましたが、「WTO」自身も形骸化してその役割を終えつつあります。

GATTの頃からより深刻になっているのが、貿易が安全保障などと密接に絡むようになったことです。戦略物資をどのように管理するのか、国際的なマネーロンダリングを防ぎ犯罪組織やテロリストの資金源をどのように断つのかなど深刻な問題が山積みます。

国際的な標準ルールは制定するのに時間がかかるので、各国間の貿易協定でルールを整備すれば良いかもしれませんが、貿易協定通りに貿易がなされることを何に担保するのかは難しい問題です。

12月には上級委員会の委員が2人になり、実質的に「WTO」の紛争解決能力は無くなります。その後に国際貿易がどのように変化するのか、あるいは実は何も変化しないのかは、「WTO」が本当に貿易紛争を解決できていたのか」という観点からは注目すべき事件になっています。

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