出会いと別れ 中高一貫校に教育実習に行ってきた【実習編】後編

授業展開にも自信を持てるようになってきました。そして、生徒たちとの距離も縮まり実習も一日一日が充実してきました。いよいよ実習の集大成である研究授業、そして先生方や生徒との別れが近づいてきます。教育実習の体験談も大詰めの後編です。


中高一貫校に教育実習に行ってきた3部作の第3部「出会いと別れ 中高一貫校に教育実習に行ってきた【実習編】後編」です。

みんなとっても可愛い! 生徒たちとの触れ合い

どんどん生徒から話しかけてもらえる様に

日誌作戦に加えて、私もできるだけ私から生徒たちに歩み寄るようにしました。帰りのホームルームが終了すると、掃除当番が班ごとに分かれて校内の掃除を行うのですが、その掃除の指導や点検もやらせてもらえないかとF先生にお願いしました。

生徒たちと一緒に掃除をしたり、困っている事があったら、私でもできる事があれば率先して生徒たちを助けたりするようにしました。一番思い出深いのが、あるトイレの個室が詰まってしまっていたのを直して、生徒たちに賞賛されたことです。当時一人暮らしが長かった私は、トイレの詰まりを直すのもお手の物でしたので、自分ができる事で生徒たちを助けられて、本当に良かったです。

これらの出来事が積み重なって、学級の生徒たちがどんどん話しかけてくれるようになりました。中学生と比較すると、高校生は大人でドライな感じはしますが、その分こちらとの年齢も近いからか、生徒も積極的に話しかけてくれました。

クラスの生徒たちに加えて、授業を担当しているクラスの生徒たちの名前を全て覚えると、今度は授業のクラスの生徒たちも私の方に寄って来てくれるようになりました。学級クラスの生徒たちはもちろん、授業のクラスの生徒たちも校内で出会うと話しかけてくれたり、控室に顔を出してくれたりするようになりました。こうなると、関わる生徒全員がみんなとっても可愛い!と感じました。やっと、生徒たちと心が繋がったような気がしてとても嬉しかったのと同時に、もっと教員になりたい!という気持ちが強くなったのを覚えています。

色々な話を生徒とするだけでなく、授業内容や英語で分からない事があれば質問に来る生徒もいたので、私も常に勉強は欠かさないようにしていました。もしも、聞かれた事が分からない時には素直に分からないから持ち帰ります、と言い、O先生やF先生にお伺いしました。

悩み事を相談してくれる生徒も

大人と子供のちょうど中間であり、多感な時期である高校生だからこそ、悩みを持つ生徒もたくさんいました。悩み事を抱えている生徒が、「どうしたらいいでしょうか?」と、直接話しかけてくれたり、日誌を通じて語りかけてきたりもしました。

高校生の持つ悩みは、自分自身の事から家庭の事、友達の事や進路の事と多岐にわたり、かつデリケートなものもとても多かったです。いい加減な事を答えるのは、せっかく打ち明けてくれた生徒に対しても失礼ですし、真剣に向き合ってあげたいと思いました。私は生徒が悩みを吐露するその都度、F先生に相談しつつも、F先生は「あなた自身でアドバイスをしてあげて」とおっしゃったので、自分なりに生徒たちに、真剣に考えてアドバイスをしました。

進路に悩む生徒との思い出

一番忘れられなかったのが、進路に悩んでいたとある生徒です。その生徒(Aさん)は、希望する進路(美術関係)を親御さんに反対されていた為、学校への進路希望も、親御さんの希望に合わせて出したそうです。けれども、やっぱり美術関係の道へ進みたい、という事で悩んでいる事を、日誌を通じて話してくれました。

ちょうど近日中に三者面談があったので、その時に思い切って自分の希望を伝えてみてはどうかとアドバイスしました。三者面談なら、親御さんだけでなくF先生もいらっしゃるから、親御さんとふたりきりの時よりも話しやすいと思うし、F先生にもAさんが本当に希望する進路をその場で伝える事ができるから、と答えました。

このアドバイスについても、F先生に相談して了承をいただいてから、日誌のコメントとして答えました。三者面談は、私の実習の後だったので、Aさんはその後言い出せたのかは分かりません。どんな結果であっても、彼女が自分で納得した道に進めていたら良いな、と思っています。


最後のシメ!研究授業を乗り切れ!

研究授業とは?

教育実習のシメといえるのが研究授業です。教育実習の集大成として行う授業で、決められた範囲を授業の中で適確に指導しなければいけません。授業の時間が余っても、足りなくなってもいけません。勿論、「教え忘れた!」という事もないようにしなければいけません。

自分の教育実習の集大成としての授業を展開する事に加えて、忙しい時間を縫って他の先生方も見に来て下さいますので、それも緊張に拍車を掛けます。

研究授業を行うには、指導案を作成し、教科担当の先生に提出します。私は「バッチリだ!」というものを作成したつもりでも、赤字だらけで添削して下さった状態で返却されました。思った以上に添削箇所が多く、少しがっかりしたのですが、添削を元に、もっとより良い指導案を作って見せる!と意気込み、最後は自分でもより納得できる指導案を完成させる事ができました。

次の指導案でOKが出たので、次に研究授業で使用するプリントを作成しました。これは自宅で資料を揃えて作成し、完成後に持参してO先生へ提出、こちらもチェックしていただき、研究授業に備えました。

14人の先生方に見守られながら研究授業を乗り切った

研究授業は実習最終日の2日前の一時間目に行いました。一時間目からだったので、研究授業への準備は自宅で全て済ませて授業に臨みました。

研究授業では、後ろにずらっと総勢14人の先生方がいらっしゃり、とても緊張するかと思いきや、今まで指導して下さったり、見守って下さったりした先生方もたくさんいらっしゃったので、逆にとても心強く感じました。また、とても忙しい時間を割いて下さった事に対する感謝も強く感じたので、御かげで研究授業はいつも通りに、堂々と進める事ができました。

無事に研究授業を終えた後は、大きな安堵感が溢れてきましたが、教室を出て、控室に帰るまでは何事もなかったように、けれども少し急ぎ足で帰りました。控室に戻ってからは、運よく他の実習生たちもいなかったので、小声で「終わった…良かった…!」と安心しました。

研究授業が終わった後は、職員室で研究授業をご覧下さった先生方から、色々な感想やアドバイスをいただきました。これも大変ありがたかったです。

F先生からのご褒美

研究授業が終わった後に、「せっかくだから、中学の授業やってみる?」と提案して下さいました。元々私が中学を希望していた事をご存知だったからか、最後の1日、ご自身が持っていた中学1年生の英語の授業を1時間下さり、「好きなように展開して良い」と任せていただけました。私は首が取れそうなほど頷き、なんと中学校の授業も実習で行う事ができました。

5月だった事もあり、少し前までは小学校に通っていた中学1年生の生徒たちは、実習で触れた高校2年生の生徒たちとは全く違った雰囲気で、とても新鮮でした。私も研究授業が終わった安堵感から思い切り授業を楽しむ事ができ、とても良い経験になりました。

見守って下さった先生方に感謝

色々な先生の力を借りてこその教育実習

教育実習では本当に色々な先生方にお世話になりました。教科担当のO先生は前述の通り、都度適切な指導を厳しくも分かりやすく返して下さったので、私もすぐに結果として出す事ができました。

O先生から贈られた言葉の中で、忘れられないのが、「教育とは、教科の知識や指導スキルも大切だが、最も大切な事は、教師と生徒が心を通わせて、教師はありったけの愛情を生徒にそそぐ事」という事です。教育というのは字のごとく、ただ教える事、だけでなく人を育む事でもある事を改めてO先生は教えて下さいました。

中学生の時から変わらない、F先生の優しさ

学級担任のF先生は、職員室でご相談のあった保護者の方と長い間電話をしている事や、生徒同士がトラブルになってしまった時にはそれを解決するために駆けまわる事も多くあり、本当に学校の先生という仕事は大変なんだ、という事を実感しました。

けれどもF先生は、忙しい中にあってもそれを感じさせず、常に優しくも色々なフォローをして下さいました。日誌の件を任せていただけた事も嬉しかったですし、都度色々な気遣いをして下さったのがとても嬉しく、私自身も大変助けられました。

板書が苦手と相談した時には、放課後高2-6の教室を板書の練習に使って良いと言って下さり、私も思い切り練習ができました。それだけでなく、F先生は様子を見に来て板書が曲がっていないか、字の大きさは適切かなどのアドバイスも下さいました。


F先生との最初の出会いから10数年が経っていましたが、中学1年生の時に私の担任の先生だった時に触れた優しさと、全く変わっていませんでした。きっと、私以外にもF先生に影響を受けた生徒はたくさんいると思います。

他にも多くの先生方が見守ってくれた

教科担当のO先生や、学級担当のF先生の他にも、高校の時にお世話になった担任の先生など、私が在学中からいらした先生方も、校内で会えば話しかけて下さったり、アドバイスを下さったりと、陰ながら支えていただき、とてもありがたいと感じました。

最後のプレゼント

思いがけないプレゼント

教育実習最終週にも日誌を任せていただけたので、その週は自分から生徒たちひとりひとりに書いたメッセージをプリントして別に貼り付けました。

実習最終日には、担当した授業のクラスと、高2-6の生徒たちからの色紙、そしてAさんが描いてくれた私の絵をプレゼントしてくれました。実は、私が実習をしている姿をF先生が写真に撮っておいてくれたのですが、その写真をプリントして、それをモデルにAさんが描いたという事を聞きました。

それだけで感極まって泣きそうになってしまったのですが、最後の挨拶が終わるまで絶対に泣かないぞ!と決めて、最後高2-6の生徒たちの前で、挨拶をしました。

最後の挨拶

私自身は事情があり大学進学を断念したので、教員の道は閉ざされたと思っていたのですが、いつかチャンスが来るかもしれないから、せめて教員免許だけは取っておきたい、と思って社会人になってから大学に通い出しました。高卒からすぐに大学に入り、その後教員採用試験に合格して教員になる、という正規のルートからは異端で、他の教育実習生よりも年上です。

私も、教育実習生と言えば大学生のお兄さんお姉さん、というイメージでしたので、私の様に社会人の立場で教育実習生という事を異質に感じる生徒もいるのではないか、と当初は不安に思っていました。けれども、先生方も、生徒たちもこんな自分でも一学生として、一教育実習生として接してくれました。また、逆に私自身も社会を経験しているからこその余裕や工夫などもできました。

正規のルートではありませんが、やっと教育実習生として教壇に立つ事を叶えられたので、これを踏まえて、最後の挨拶では、生徒たちに「今は何かの事情があって、やりたい事ができない、という場面に合うかもしれない。けれども、いつになってでもいいから、自分の夢や希望を叶えて欲しい。人間やってやれない事はないから、諦めなければ時間はかかっても、夢の実現は可能だから」のような内容を話しました。

日常生活に戻っても、時々思い出す教育実習の時間

教育実習を終えた後は、すぐに会社に戻って働きながら大学に通うという、またいつもの忙しい日常に戻りました。その後私は無事大学も卒業し、教員免許も取得しました。あの時から月日もたち、今でも教育実習とは、限られた中で与えられたとても素敵な時間だったと思っています。私と関わった生徒たちもすっかり大人になっている頃と思います。希望の道を歩んでいる人も、まだ夢の途中で努力している人もいるかもしれません。いずれの場合でも、生徒たちも、先生方も、幸せに過ごしていると良いな、と今でも考えます。

後日、F先生が撮ってくれた写真と一緒に手紙が送られてきました。今でも時々写真や手紙、色紙やAさんが描いてくれた絵を見返して、あの日々を思い出しています。

私も今は全く違った仕事をしていますが、いつか教員免許を生かして、子供たちと関わりのある仕事をしたいという希望があります。あの日教育実習生だった私が言った通り、諦めなければ夢の実現は可能なのだから。
(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年1月4日時点調査または公開された情報です。
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