福島第一原発の事故から10年以上が経ち、「処理水」の海洋放出が新たな社会的関心を集めています。中でも、「ALPS処理水に含まれる放射性物質・トリチウム(三重水素)」の存在は、国内外で賛否を呼んでいます。
しかし、「放射性物質を海に流すなんて、日本だけじゃないの?」という声も少なくありません。本記事では、処理水とは何か、トリチウムの性質、世界各国での放出実態をまとめました。
ALPS処理水とは? ―福島第一原発における現状
東日本大震災による原発事故で発生した放射性物質を含む汚染水は、現在も原子炉の冷却に使用された後、ALPS(多核種除去設備)などを使って浄化処理されています。ALPSは、ストロンチウムやヨウ素など多くの放射性物質を基準値以下まで取り除くことができます。
しかし「トリチウム」だけは、水と似た性質を持つため、分離することが極めて困難とされています。そこで、トリチウム以外の物質を除去した水を「ALPS処理水」と呼び、政府はこの水を大量の海水で薄めたうえで、段階的に海洋放出する方針を採っています。
トリチウムとは? どんな放射性物質?
トリチウムは、水素の仲間でありながら放射性を持つ物質です。ただし、以下のような特徴があります。
- 自然界にも存在し、宇宙線の影響などで年間数千兆ベクレル単位で自然発生している。
- ベータ線という弱い放射線を出すが、紙1枚でも遮蔽可能。
- 体内に取り込まれても、数週間で自然に排出される。
- 原子力施設では、トリチウムを含む水を通常運転の中でも海や川に放出している国が多数ある。
つまり、トリチウム自体の危険性は非常に限定的であり、国際的な規制やガイドラインの中でも「比較的安全な放射性物質」と位置づけられています。
図解で見る:世界の原発におけるトリチウムの年間放出量
以下は、各国の主な原子力関連施設における**トリチウムの液体放出量(年間)をまとめたものです(出典:経済産業省・2023年6月制作)。

画像出展:https://news.yahoo.co.jp/articles/7f8aa6a7fe5f8eae72523694f46a3a70bee2265e
国・施設名 | 年間放出量(トリチウム) |
---|---|
フランス:ラ・アーグ再処理施設 | 1京ベクレル(=1,000兆)(2021年) |
カナダ:ブルースA・B原発 | 1,190兆ベクレル(2021年) |
英国:セラフィールド再処理施設 | 186兆ベクレル(2020年) |
中国:寧徳原発 | 102兆ベクレル(2021年) |
韓国:古里原発 | 49兆ベクレル(2021年) |
米国:ディアブロ・キャニオン原発 | 40兆ベクレル(2021年) |
日本:福島第一原発(想定最大) | 22兆ベクレル |
福島第一原発の放出量は、国際的に見ても比較的小さい水準であり、極端に高いものではありません。むしろ、他国の通常運転施設の方がはるかに多くのトリチウムを放出していることがわかります。
日本だけじゃない:「海への放出」は国際的にも一般的
このように、トリチウムを含む処理水を法令に基づいて海洋に放出するのは、日本だけの措置ではありません。各国の原子力施設でも長年にわたり、安全性を確保しながら放出が行われてきました。
さらに、国際原子力機関(IAEA)も福島第一原発の処理水放出計画について、「国際的な安全基準に合致しており、放出は科学的・技術的に妥当」との見解を示しています。
まとめ:感情より事実で考える「処理水問題」
放射性物質という言葉には強い恐怖感が伴います。しかし、必要なのは「誰が何をどれだけ出しているのか」という比較と事実の確認です。
福島のALPS処理水放出は、日本が世界に先駆けて行う前例のない行為ではなく、すでに他国で一般的に行われている手法です。そのうえで、国際的な安全基準やモニタリング体制が整備されている点も見逃せません。
私たちができるのは、科学的な視点と冷静な情報収集を持ち、未来に向けて責任ある判断を下していくことではないでしょうか。
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