第二次世界大戦が終結して、2021年の今年、日本は戦後76年目を迎えました。
しかし、国連(国際連合)が定めた国際連合憲章の条文には、未だに「第二次世界大戦中に連合国の敵国であった国」、つまり「敗戦国」に対する措置を規定した文言が残されていますのをご存じでしょうか?
これを「敵国条項」といいます。
本記事では、「敵国条項」をテーマに解説します。
国連の「敵国条項」とは?
国連の「敵国条項(てきこくじょうこう)」とは、国際連合憲章の条文の一部文言のことであり、「第二次世界大戦中に連合国の敵国であった国」に対する措置を規定した第53条・第107条と、敵国について言及している第77条を指します。
1.安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。
2.本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。
信託統治制度は、次の種類の地域で信託統治協定によってこの制度の下におかれるものに適用する。
B 第二次世界大戦の結果として敵国から分離される地域
この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。
国連の「敵国条項」の簡単な要約
国連の「敵国条項」を簡単に要約すると、「第二次大戦中に連合国の敵国だった国が、第二次大戦で確定した事項に反したり、侵略政策を再現する行動等を起こした場合、国際連合加盟国や地域安全保障機構は、安保理の許可がなくても当該国に対して軍事制裁を科すことができる」というものです。
つまり、敵国条項に該当する国が起こした紛争に対して、国際連合加盟国や地域安全保障機構は、自由に軍事制裁を下す事が認められているのです。
さらに、この条文は、敵国がどうすれば「敵国でなくなるのか」については明記していません。
これはつまり、「第二次大戦中に連合国の敵国だった国」は永久に敵国であり、旧敵国の起こした軍事行動に対しては、平和的解決も話し合いも必要なく、軍事的制裁を下すことが「国連」によって認められているということです。
「敵国条項」の指す「敵国」とは、どの国なのか?
「敵国条項」の指す「敵国」とは、「第二次大戦中で連合国に敵対していた国」です。
日本政府の見解では、日本、ドイツ、イタリア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、フィンランドがこの「敵国」に該当すると例示しています。
国連の「敵国条項」によって、中国は「尖閣」を巡る軍事的制裁が下せる
尖閣諸島は、日本が沖縄県石垣市登野城尖閣として実効支配していますが、中国は尖閣諸島の領有権は自分たちにあると主張しています。
もし、日本の「実効支配」が「旧敵国による侵略政策の再現」と見なされたら、中国は国連の「敵国条項」のもと、平和的解決も話し合いもせずに軍事的制裁を下すことができます。
つまり「敵国条項」がある限り、尖閣諸島がどちらの領土なのかという議論も話し合いもせずに、日本に対して問答無用で武力攻撃できてしまう危険性をはらんでいるのです。
尖閣諸島問題(せんかくしょとうもんだい)とは、日本が沖縄県石垣市登野城尖閣として実効支配する尖閣諸島に対し、1970年代から台湾(中華民国)と中国(中華人民共和国)が領有権を主張している問題のことです。
日本が国連憲章にある「敵国条項」を解除してもらう事は可能か?
国連では、既に削除すること自体は決議されています。
1995年の第50回国連総会でにて、憲章特別委員会による「敵国条項」の改正削除が、賛成155、反対0、棄権3で採択され、同条項の削除が正式に約束されました。
しかし、約束されただけで、未だに敵国条項は削除はされていません。
これには様々な理由があるようですが、一番の理由は、「敵国」ではない各国にとって、「敵国条項の削除」は、非常に優先度が低いことが挙げられるようです。
「敵国条項」実際に国連憲章から削除するには、「敵国」であるとされている7カ国(日本・ドイツ・イタリア・ブルガリア・ハンガリー・ルーマニア・フィンランド)以外の各国が、国内で煩雑な手続きを進め、議会の承認を得て、国連の3分の2の加盟国数を得る必要があります。
しかしながら、該当7カ国以外の各国からすると、「すでに事実上死文化している条文を変更・削除したからといって何も変わらないだろう」という認識に過ぎず、削除しなくても国連活動には支障はないから、後回しになっている、というのが実情のようです。
まとめ
以上、「国連憲章の「敵国条項」とは? 」を主テーマに「常任理事国」や「敵国条項」についてまとめました。
戦後70年経っても、日本が国連の条文下ではいまだに「敵国」「敗戦国」扱いを受けているとも取れるこの条項について、国連及び日本政府がどのように活動していくか注目したいと思います。
おさえておきたいキーワード1:「国際連合」とは?
「国連(こくれん)」とは「国際連合」の略称であり、アメリカ合衆国、イギリス、ソビエト連邦、中華民国などの連合国が中心となって設立された国際機関です。
2020年の時点で、加盟国は196か国です。
国連の目的は、
- 国際平和・安全の維持
- 諸国間の友好関係の発展
- 経済的・社会的・文化的・人道的な国際問題の解決のため、および人権・基本的自由の助長のための国際協力
この3つであり、これらの目的のため、総会、安全保障理事会、経済社会理事会、信託統治理事会、国際司法裁判所、事務局という6つの主要機関と、多くの付属機関・補助機関が置かれています。
》参考:国際連合広報センター
https://www.unic.or.jp/
補足:「国際連盟」とは?
「国際連盟」とは、初の国際平和機構であり、1920年に発足した国際機関です。第二次世界大戦中に活動停止状態となり、1946年に正式に解散、国際連盟の役割は「国際連合」へと引き継がれました。
詳しくは以下の記事をご参考ください。
おさえておきたいキーワード2:「国際連合安全保障理事会」とは?
「国際連合安全保障理事会」とは、国連憲章のもとに、国際の平和と安全に主要な責任を持つ機関です。「安保理」と略されることが多いです。
国際連合安全保障理事会、通称安保理の具体的な活動は以下の4つです。
- 国連平和維持活動(PKO)の設立
- 多国籍軍の承認
- テロ対策、不拡散に関する措置の促進
- 制裁措置の決定
そして、国際連合安全保障理事会は、5か国の常任理事国と、選挙により選出される10か国の非常任理事国、計15か国から構成されます。
この、「国際連合安全保障理事会」を構成する国のうち、5か国の常任理事国は、正式名称を「国際連合安全保障理事会常任理事国」といいます。よくニュースなどで耳にする「常任理事国」とは、「国際連合安全保障理事会常任理事国」のことを指すのです。
》参考:国際連合広報センター|安全保障理事会
https://www.unic.or.jp/info/un/un_organization/sc/
おさえておきたいキーワード3:「国際連合安全保障理事会常任理事国(常任理事国)」がもつ「拒否権」とは?
常任理事国は、国際連合安全保障理事会を構成する国の中でも、恒久的な地位を持っています。
具体的には、第二次世界大戦の戦勝国に基づいて、アメリカ合衆国・イギリス・フランス・ロシア連邦(かつてのソビエト連邦)・中華人民共和国(かつて中華民国)の5カ国が、「常任理事国」です。
「常任理事国」が持つ「拒否権」とは?
国際連合安全保障理事会を構成する15か国は、それぞれに1っ票の投票権を持っています。そして、「実質事項」に関する決定には、常任理事国である全5カ国の同意投票を含む、9カ国の賛成投票が必要です。
逆にいえば、「実質事項」に関する決定において、常任理事国のうち1カ国でもその決議案に反対すれば、他の全理事国が賛成していても、その決議は成立しません。
これが「常任理事国」が持つ「拒否権」です。
このような拒否権を持つことから、「国際連合安全保障理事会」の常任理事国は、非常に強い権限を与えられていることがわかるかと思います。
実質事項(じっしつじこう)とは、国際連合安全保障理事会で討議される事項のことです。
2020年の安全保障理事会理事国リスト
2020年時点での理事国リストは以下の通りです。
1)常任理事国(5常任理事国)
中国、フランス、ロシア、英国、米国
2)非常任理事国(10か国) ※( )内は任期期限年
ベルギー (2020)、ドミニカ共和国 (2020)、エストニア (2021)、ドイツ (2020)、インドネシア (2020)、ニジェール (2021)、セントビンセントおよびグレナディーン諸島(2021)、南アフリカ (2020)、チュニジア (2021)、ベトナム (2021)
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コメント
コメント一覧 (5件)
現在、ドイツは、国連の敵国条項から削除されているのですか?
日本政府の見解ではドイツも該当すると考えられているようです。
ただ、別の考え方ですが、フランスは敵国条項とは逆の主要な国家で構成されるNATOの加盟国であり、敵国条項として日本がもつ立場とは異なると解釈する見方もあるようです。
「敵国条項」そのものを知らなかったので、大変興味深く読みました。国連総会で、「敵国条項」の削除が決議されているにも関わらず、いまだに削除されていないその理由が、「すでに死文化しているのだから削除したからといって、何も変わらない」とか「削除しなくても、国連活動に支障はない」ということらしいですが、なにか、釈然としません。
この「敵国条項」がある限り、中国が尖閣列島の領有権を一方的に主張し、問答無用で武力攻撃してくる可能性は否定できないということですから、不安な気持ちを抱きました。
これまで、自分の国の防衛や安全保障についてあまり深刻に考えたことはありませんでしたが、ロシアのウクライナ侵攻以降、自国の安全保障や防衛について、日常的に関心を持つ必要があると感じています。。
この「敵国条項」についても、国民に周知してほしいと思います。その問題点を認識して、削除に向けて国連に働きかけていくことも必要ではないでしょうか。
「敵国条項」という単語は知っていたが、詳しく調べてもいまいち理解できないところもあったので、一部の条文とともに解説してくれていて敵国条項のさわりを知ることが出来ました。事実上死文化している、とありましたが、今後の憲法改正議論にどう影響してくるか気になるところです。
敵国条項 前に少し聞いたことがあります、国連の常任理事国にはロシア、中国が含まれています。今の時代ではロシア、中国が世界の常識を覆そうととしています。その2国が常任理事国として活動しているのは矛盾していると思います、いったいいつになったら日本とドイツは第2次大戦の敗戦国の負を腐食出来るのでしょうか。戦後何年たっているのでしょうか?時代は時とともに移り変わっていきます。国連も時とともに変わっていくのが健全と言えるのでしょう。確かに日本が朝鮮に対ししたことに万全な保証はしていないと思いますが、国連もこのことに対し具体策を出していません。世界が見ぬふりをして自国の立場を優先しています。そうではなく世界で平和というものを考えていく必要があるのではないでしょうか。