今日は、全国でも数少ない地方公務員の司書職として働く、30代中堅のキャリア・仕事内容についてご紹介します。
県立図書館の概要と仕事内容について
私が勤めていた公立図書館は、利用者様に直接サービスを行なうと同時に、県内の市町村立図書館の統括や指導を担う立場にありました。職員は大体40-50人規模で、正規職員は15名程度でした。
内部組織としては、大きく管理職、総務担当(このセクションは一般行政職が配置されていました)、企画担当(館内外のイベント等の企画進行)、振興担当(市町村立図書館の活動振興・支援)、子ども読書推進担当(中学生までの利用者へのサービス)、サービス担当(利用者全般へのサービス)、情報システム担当(情報システム全般の管理)といったものがありました。
私の所属していた情報システム担当は、職員や利用者が使う端末や視聴覚機材全般の管理と保守、関連する物品等の契約事務、館内機器の利用ガイダンスなどを行なっていました。
情報システム担当でも司書は司書。カウンター勤務、特に利用者の質問に答える「レファレンス業務」では中核を担います。そのため、通常の司書の仕事内容に加え、契約などの一般行政に近い業務、システム管理にまつわる技術的な業務を一手に引き受けることになります。システムに関わる司書のことを「システムライブラリアン」と呼びますが、「システムライブラリアン」に要求されるスキルは一般的な司書よりもより深く、広いものと言えるでしょう。
司書業務の流れ
私の所属部門の仕事は、大体このような流れでした。
8:30 出勤、館内機器のチェック、書架整理(棚の本を正しい配置に直す)
9:00 開館、デスクワーク・保守業務等の開始、状況に応じて緊急対応
12:00 昼食休憩
13:00 デスクワーク・保守業務等の開始、状況に応じて緊急対応
17:15 1日の業務を整理
18:00 退勤
ただし、カウンター業務が手薄になる土日祝日と、週1回程度割り振られるカウンター勤務日は下記のようになります。
8:30 出勤、館内機器のチェック、書架整理(棚の本を正しい配置に直す)
9:00 開館、カウンター勤務
13:00 昼食休憩
14:00 カウンター勤務
17:00 カウンター勤務終了、遅番勤務者への引継ぎ
17:15 1日の業務を整理
18:00 退勤
このほか、不定期でシステム保守業者との打ち合わせ、館内ワーキンググループへの出席、県庁関係者との会議等が入ります。
司書の年収やキャリアデザイン・働き方・初任給
私の場合、新卒採用ではありませんでした。1年間就職浪人しましたが受かる気がせず、思い切って別の自治体の非常勤職員を1年勤めたところ、すんなりと内定が出ました。
最近はどこの自治体でもゼロから人材を育てる余裕がないので、どこかで職歴を積んだ上で採用試験に臨んだ方が、突破の可能性も高くなるようです。
2年前の退職時、おおよその年収は300万円でした。ボーナスは夏と冬の2回で月給1.5か月分、約50万円でした。私は大学院の修士課程を修了していましたが、採用時は大卒とみなされ、初任給は17万程度でした。
後から知ったことですが、私の勤務先では博士課程を修了していないと大学院卒の給与が支給されない形になっていたようです。自治体によって、給与や待遇は大幅に違いますので、倍率が低いからといって安心せず、あらかじめこれらの事項も調べることも大事だと思います。
キャリアとしては、エスカレーター式なので、順調にいけば30代後半で主任級、40代中盤で係長級、50代後半で課長級と昇任していきます。途中で休職等がなければ課長級以上での退職となりますが、ポストが少なく、昇進は、他の一般行政職よりも遅くなる傾向があります。
因みに同じ県の一般行政職は、30代前半で主任級、40代前半で係長級、50代前半で課長級と昇任していきました。司書職は昇進の過程で一度図書館の現場を離れ、一般行政職に「出向」する期間が2~3年ほどありますが、そこで一般行政職との司書職特有の「差」があることを実感することになりました。
(当時は)働き方としてはとにかく激務でした。一般企業にお勤めの皆様には意外かもしれませんが、残業も少なくありません。本来退勤は17:15ですが、その時間に帰れることはなく、毎日1~2時間の残業が発生していました。
激務でしたが、出産や子育てを考える女性にとっては、産休・育休制度が民間よりも充実しており、働きやすい職場だと感じました。
産休・育休中については昇進がストップしてしまうため、男性よりも遅れがちにはなりますが、女性が多い職場でもあり、子育ての悩みなどは比較的共有して配慮してもらえるケースが多いです。短時間勤務、早出遅出勤務などの制度も導入されていて、女性にとっては嬉しい制度だと感じます。
図書館業界の先行きや新しい試みなど
(これから司書になりたいと考える方への厳しい見方をした見解です。)
業界としては緊縮財政の影響もあり、採用が拡大することはほぼないと考えた方が良いでしょう。司書への採用はますます狭き門となることを覚悟した方がよいと考えています。
最近では自動貸出機の導入、ICタグ採用などで窓口業務のスリム化が図られていますが、一方で古い資料をデジタル化する「デジタルアーカイブ」、学校や諸団体との連携活動などといった新しい仕事も増えているため、今後も業務量について減少するといったことは、ないと予想しています。
ちなみに、図書館及び司書職に関する最先端の技術やサービスについては、毎年11月に開催される「図書館総合展」で紹介されますので、司書を目指す方は一度行ってみると良いでしょう。図書館関連企業が多く出展しますので、図書館の現場だけでなく、関連企業への就職も広く視野に入れている方にとっては、効率的な就職活動の場になるかもしれません。
競合となる会社や商品について
図書館の現場で広がっているのが、「指定管理者制度」の導入です。
「指定管理者制度」とは、自治体の「指定」を受けた民間会社、すなわち「指定管理者」が、自治体の予算内で運営を請け負う制度のことです。「指定管理者制度」には予算の圧縮が期待されていますが、一方でいわゆる「官製ワーキングプア」を生み出し、同時に直営時代に蓄積されたノウハウやデータなどがいつの間にか消えてしまうという弊害が指摘されています。いわゆる「ツタヤ図書館」騒動で、「指定管理者」が貴重な郷土資料を廃棄してしまうなどといった現象を初めて知った方もいらっしゃるでしょう。
とにかく図書館の現場に立ちたいだけなら、「指定管理者」となっている企業に就職すればその夢は叶います。しかし、司書として着実にキャリアを積みたいのであれば、難関ではありますが公務員試験を突破し、正規職員、しかも司書専門職として就職することをお勧めします。自治体によっては一般行政職のうち司書資格を持つ者を図書館に配置するところもありますが、異動先のほとんどが一般行政職の職場になりますので、司書のキャリアを積むには適当とは言えません。
さらに、司書職の公務員になることには、隠れたメリットがあります。一旦公務員として就職し、一定の勤務年数を経た後、「指定管理者」となっている企業に再就職する人が少なくないのです。最初から「指定管理者」企業に就職するよりは、俄然有利な待遇が得られます。特に課長級以上のポストから再就職すれば、管理職、場合によっては館長相当のポストで採用されるケースもあります。苦労して採用試験を突破した経験値は、例え民間に移ったとしても無駄にはならないのです。
退職後の自分
現在は自営業で、年収は公務員時代よりも減っていますが、現役時代に身に着けたスキルで在宅の仕事を選んで請ける形にし、充実した毎日を送っています。また、現役時代に取得した資格や、受講した官庁関係の研修も、退職後の仕事の役に立っています。
※退職した理由についても記述がありましたが、事実の裏付けが難しい内容であり公務委員総研編集規定より、一部編集および削除しました。大きくは、公務員といえども必ずしも安定しているわけではないと感じたことが発端になっていったという内容です。
まとめ ―生存競争を勝ち抜くために―
今後、「指定管理者制度」が一層拡大していくとすると、行政司書職の採用枠はさらに少なくなるでしょう。ポストが少なくなり、過酷な生存競争を勝ち抜くために、就職後も自主的なスキルアップが必要な業種だと言えます。
スキルアップ手段としては、日本図書館協会の「認定司書」制度、情報科学技術協会の「検索技術者検定」などがあります。また、官庁関係(総務省や文化庁など)の研修を受講したり、特にシステム関係であれば「基本情報技術者」や「マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)」といった関連資格を取ったりしておくとより効率的な仕事を進める上でのITの知識・技術の習得が可能だと思います。
司書職は、つまるところ「専門職」です。
就職がゴールではなく、就職後も常にスキルアップを続け、状況次第ではより待遇のいい自治体や企業への転職を考えるくらいの覚悟が必要でしょう。
司書の志をもつ皆様、自分の技術を「一生もの」にするつもりで試験に臨んでください。
【編集部よりお知らせ】
※2018年5月9日公務員総研編集規定により、一部の記事について削除・編集しております。
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