今日は、司書業務の大きな課題についてお話ししたいと思います。
司書業務は「感情労働」であるということです。
司書業務は法律上「事務職」とされていますが、非常に対人要素の多い仕事です。それゆえ、トラブルも絶えず、人間関係に疲れ果てて退職する人が後を絶ちません。
みなさんは、「感情労働」という言葉をご存知でしょうか。「感情労働」とは、要支援者や利用者の感情に寄り添って行う仕事のことで、教師や介護職が主な例として挙げられますが、実は司書も「感情労働」なのです。
「感情労働」は文字通り感情を使わなければならないため、過度な仕事をしてしまうと感情が疲弊し、うつ病などになってしまいます。司書のうつ病保有率の高さは業界ではもはやあるあるなのですが、何とか回避する方法はないのでしょうか。ここでは、私が実際に図書館の現場で遭遇したトラブルたちを紹介しながら、回避策を探っていきたいと思います。
サービス業としての図書館業務 クレーマー対応の実体験
ある日、私がカウンターに座っていると、中年の男性がやってきて、『日本十進分類法』の本はないかと尋ねてきました。私が本を用意すると、急に男性は私の顔に10円玉を投げつけてこう言ったのです。
「これを最大の大きさでコピーしろ!」
わけのわからないままコピーをすると、男性はこう言って去っていきました。
「これを目の前に貼っておけ!表示がわからないんじゃ!ボケが!」
きょとんとする私に、隣にいた先輩職員が一言。
「あら、またクレーマーが来たわね。」
どうやらこの男性、常習のクレーマーだったようです。
後に聞いたところ、この男性は、別の日に来てカウンターで散々暴言を吐いた挙句、若い女性職員の顔を平手打ちしたようです。ところが、管理職はこの段階になっても警察に通報しませんでした。役所特有の「ことなかれ主義」が先行したのです。
今回のような場合は、速やかに管理職が警察に被害届を提出し、館長権限でこの男性を館内出入り禁止にすべきでした。実際、どこの図書館でも、こうした場合には館長判断で出入り禁止にできるよう規則を定めています。しかし、管理職はなぜこうした措置をとらなかったのでしょうか。
一つには、仮に出入り禁止にしたとしても、この男性をチェックして図書館から締め出す人員自体が図書館にないことが挙げられます。今では警備員を常駐させる図書館も増えてきましたが、それでも多いところだと1日に5000人近い人間が出入りするのが図書館です。厳密な入退館管理は難しいでしょう。
もう一つは、先ほど言及した役所の「ことなかれ主義」が挙げられます。図書館はなぜか警察に通報することをなかなかしません。資料の切り抜きについては器物損壊ですぐに通報するのに、職員が暴力を振るわれても通報しないのです。管理職は、職員の身を守るよりも、「あの図書館は危ない」と報道を見て思ってしまう利用者が出ないか気になっているのです。資料より職員の命の方が安い…それが、残念ながら図書館の現場です。
唯一できる策としては、クレーマーが来たらなるべく男性職員を多くカウンターに集め、複数で対応することが挙げられます。クレーマーの多くは男性で、自分より弱いと思われる若い女性職員を標的にして攻撃します。そのため、男性職員が多く集まると、あっさり引き返すことも少なくありません。とにかく、女性職員だけで対応するのは危険ですので気を付けましょう。
図書館特有の風通しの悪さとパワハラ
一般的に司書の異動先は限られているため、気が付くといつも同じメンバーで仕事をしている、などということが結構あります。そのせいか、一旦職場でパワハラが発生するとなかなか解決しない傾向があるようです。
次では、図書館では実際にどのようなパワハラが横行しているのでしょうか。私の実体験をもとにまとめましてみました。
上司から部下に対するパワハラ
その上司は、以前から「底意地の悪い人」と職場で評されていました。私の上司になった途端、どうやら私を支配下に置きたくなったようです。上司は、事あるごとに私の個人情報などを聞き出そうとしました。
ある時、私の所属する部署で少人数の会議があったのですが、上司はその席で
「彼氏はいるのか」「彼氏はどこに住んでいるのか」
としつこく尋ねてきました。
「業務外のことなので」
と言っても聞かず、尋問は3時間半にも及びました。
さすがに耐えられなくなった私は、その直後の人事異動面接で館長と副館長に相談しました。その結果、館長から直接上司に厳重注意があったのですが、これをきっかけに上司のパワハラは激しさを増しました。
ちょっとすれ違うたびに「お前はこの仕事に向いてない」と言ったり、何の問題もない書類の決裁の際にわざと加筆修正を加えたりするなど、パワハラはエスカレート。上司が定年で退職する頃には私の体はボロボロになっていました。しかし、話はこれだけでは終わらなかったのです。
非常勤職員から正規職員に対するパワハラ
上司の退職後、半年の療養を経て復帰した私ですが、その間に新しい非常勤職員が総務担当へと異動してきていました。
この非常勤職員は、数々の関連部署を渡り歩いてきたのでスキルはあるのですが、それを盾に新任職員や私に対してパワハラを仕掛けてきました。
具体的には、給付金に必要な書類を忘れたふりをして作らない、申し合わせ事項が必要な内容の書類の受け取りを拒否する、労務管理など、非常勤職員の範疇を超えた内容についてまで口うるさく文句を言ってくるということがありました。
総務担当の上司に相談したのですが、
「仕事ができる人だから大目に見てやって」
の一言のみ。具体的対処はされず、新任職員は採用半年で退職。私もこんな酷い職場では体を再び壊してしまいますし、折しも起業を考えていたので、退職を決めたのです。
人事委員会という罠
公務員司書の場合、その人事権は人事委員会が握っています。ですが、人事委員会も公務員組織で、その独立性はないに等しい状況です。因みに、件の総務担当の上司はパワハラを放置したにも関わらず、在職中に問題を起こさなかったとみなされ、人事委員会の事務局長に栄転しました。
パワハラに遭遇した時の自衛する手段として録音、メモ記録はもちろん、何か書かれたらその写真なども撮っておくといいでしょう。
どうしようもなくなった場合は、弁護士や法務局に相談する形になります。人事委員会が機能しない以上、外部の力を借りるしかないのです。あえて、マスコミにリークするといった方法もあるかもしれません。
司書が抱える3つの「痛み」
司書は、慢性的に腰痛・腱鞘炎・頭痛に悩まされることが多いです。司書の仕事は重い本を運んだり、一日中パソコンに向かってデータを打ち込んだり、困ったクレーマーの相手をしたり…といった重労働の繰り返しなので、どうしてもこうした痛みを抱えやすいのです。
腰痛に関しては、高機能のクッションを使う、コルセットを使うといった自衛手段を皆が取っていました。腱鞘炎については防ぎようがなく、サポーターを使っている人が多かったようですが、場合によっては私のようにひじから先の筋肉が異様に発達してしまい、いつの間にか治ってしまうということもあるようです。頭痛については頭痛薬の持ち歩きは当たり前で、人によっては鍼灸や頭痛外来のお世話になることもあったようです。
司書になる人の多くは文化系で、あまり体を鍛えていません。そのため、いざ司書として勤務することになると、あまりの肉体労働の多さに言葉を失うことになります。これから司書として仕事をしようと思うなら、なるべく体を鍛えておくことをおすすめします。定年が65歳に引き上げられようとしている今、職業生活は果てしなく長く続くことになるのですから。
まとめ -必要なのは自分を鍛えておくこと-
司書になろうと考えている人は、とにかく受験勉強に集中してしまい、その他のことにたいしてはおろそかになりがちです。ですが、それでは採用まもない段階で消耗してしまい、物言わぬ奴隷のような状況になってしまいます。
採用が決まってからしばらくの間が空くはずですので、この期間を使って、まずは体を鍛えておくことをお勧めします。また、時間のあるうちに、対人スキル向上や、メンタルヘルスに関する本をなるべく多く読んでおくとよいでしょう。体だけではなく、心も鍛えておくことが職業人として重要です。
私が尊敬するある医師は、山登りで体を鍛えると同時に、お寺に通って座禅の指導を受けているといいます。医師も非常にハードな仕事なので、体も心も両方鍛えないと続けていけないと身をもって知っているのでしょう。
事実、その医師の元には仕事で燃え尽きたたくさんの患者がやって来るのですが、アドバイス通りに体と心を整える療養生活をして、1年後にはほとんどの人が回復して元の職場や新しい仕事へと復帰していきます。
繰り返しになりますが、受験勉強をしている期間より、司書として勤める時間の方が人生の中ではより長くなります。試験合格がゴールではありません。その先を見据えた対策まできちんとできる人こそが、司書として選ばれるのだと思います。
せっかく司書になっても、体や心を壊して勤めることができなくなってしまっては意味がありません。司書になると決めたら、知識だけではなく、体や心の力も向上させるよう努力しましょう。それだけの覚悟ができれば、試験自体は大した関門ではないと気づいて、プレッシャーからも楽になれるはずです。
勉強に行き詰まったら、スポーツをしたり本を読んだり、自分を育てるための時間を取ってください。一見回り道のように見えるかもしれませんが、それが皆さんにとっては合格の最短ルートなのですから。
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