そもそも「公営バスって何?」「自治体運営バスと違う?」
公営バスは、公共企業管理者以下の交通局や交通部が経営
公営バスの経営者は東京都や各都道府県、市町村などの各地方公共団体です。
地方公共団体が事業の経営を行う場合は、まず公共企業管理者を置き、その下に事業ごとに管轄する部署を置いて経営します。公営バスもこの経営体制を取っており、東京都交通局が経営する都営バス、横浜市交通局が経営する横浜市営バス…などが公営バスにあたります。
公営バスと違う「自治体運営バス」とは
公営バスとは異なり、公共企業管理者を置かずに自治体そのものが運営する路線バスを自治体運営バスと呼びます。
自治体運営バスの特徴は、主に行政サービスの一環として運営されている路線バスが多いことです。現在の自治体運営バスは、大きく分けて2つあります。
▼廃止代替バス
経営悪化や利用者の減少などの理由で、路線バスの運行が廃止になることがあります。その地域に住む住民の足がなくなってしまうので、自治体運営バスとして、廃止になった路線バスの代わりのバスを運行させる、廃止代替バスを運営します。
▼コミュニティバス
路線バスがない地域などで、主に高齢者や身体障碍者、学生を始めとした地域住民の生活の足の確保を目的として整備されるのがコミュニティバスです。コミュニティバスは、民間のバス事業者に地方自治体が委託して運行されますが、地方自治体がバス運行のための費用を負担するので、自治体運営バスにあたります。
現在はなくなりましたが、かつて存在していた自治体が貸し切りバスを借りて路線バスとして運行させる貸切代替バスも、自治体運営バスに該当します。
公営バスの現状と課題について
公営バスの利用者の減少による経営悪化
公営バスは市民の生活の足として、現在でも多くの人に利用されています。ですが、時代の変遷とともに近年、公営バスの経営悪化が取りざたされるようになりました。
主な理由が、都市部では地下鉄などの新規交通機関の開業による利用者の減少や、交通量が多いため、朝や夕方など交通渋滞が発生しやすい時間帯には定刻通りの運行が難しくなること、地方都市でも住民がマイカーを持つようになり路線バス利用が少なくなることなどです。
公営バスの民間への管理委託開始
公営バスの経営悪化により、2003年3月の京都市交通局が横大路営業所の一部路線のバス事業を民間バス事業者である阪急バスに管理委託しました。これを皮切りにまず関西地方の公営バスの間で公営バス事業の一部路線を民間へ管理委託することが始まり、現在では全国の自治体の公営バスが、民間へ管理委託しているケースが多くなっています。管理委託とは、公営バス事業の運営のみを民間バス事業者が行い、バスの路線や使う車両、「〇〇市営バス」などの名称は自治体が保有したままでバスの運行を行う方法です。ですので、外見上は公営バスのままですが、中身(運営)は民間バス事業者ですので、バスの乗務員は公務員ではなく、民間バス事業者の従業員(会社員)にあたります。そして、厳密にいえば運営は民間バス事業者が行っているので「公営」ではないのです。
現在、東京都も一部路線の管理委託をはとバスに行っているなど、管理委託は多くの公営バスに取り入れられています。
公営バス事業からの撤退
経営の悪化に歯止めがきかず、一部路線の管理委託にとどまらず公営バス事業の一部、もしくは全てを民間バス事業者に移管、自治体が公営バス事業から撤退するケースも多くなっています。
例えば仙台市交通局は宮城交通へ、横浜市交通局は神奈川中央交通、東急バス、京浜急行バスグループへ、神戸市交通局は神姫バス、阪急バスへと、公営バス事業の一部を民間バス事業者に移管しています。
また、札幌市、苫小牧市、函館市、秋田市、岐阜市、尼崎市、明石市、姫路市、三原市、呉市、鳴門市、小松島市、熊本市、荒尾市の各公営バスは、全ての公営バス事業を民間バス事業者に移管し、完全に公営バス事業から撤退しています。
それでも路線バスの需要はまだ高い
公営バスを一部民間バス事業者へ移管、もしくは公営バスから撤退したことによって、今度は民間事業者ならではのバス事業展開も行われるようになりました。
また、公営バスも他の交通機関や民間企業とコラボレーションしてオリジナルグッズを販売する、スタンプラリーなどのイベントを行う、観光に特化した特別な路線を運航する、など色々な路線バス経営好転のための取り組みを行っています。
例えば、仙台市交通局はタカラトミーの人気商品トミカとコラボ、仙台市営バストミカを発売しています。限定販売で、販売当日は長蛇の列ができて、すぐに売り切れになった人気グッズです。
参考:
仙台市広報課 交通局オリジナルグッズを限定販売!
https://www.facebook.com/sendaipr/videos/832064483634284/
そして、路線バスは自動車が運転できない高齢者や身体障碍者、通勤通学に使う会社員や学生などの人々にとっては大切な生活の足にもなります。まだまだ路線バスの需要自体は高いと言えます。
公営バス乗務員の仕事内容について
主な仕事内容は4つ
▼バスの点検
毎回実際にバスに乗る前に、ブレーキや車載装置・ライト類・タイヤ・エンジンなどの点検を行う運行前点検を行います。異常がないかを確認してから運行を行う点検は、実際にバスに乗るお客様の安全のためにも重要な業務です。
▼バスの運転
バス乗務員の主な業務が、バスの運転です。お客様を目的地まで安全に運ぶために運転します。また、安全だけでなく正確な時間にバスを運行させる定刻運行を心がけた運転が求められています。
▼お客様への接遇
バス乗務員は、運転だけでなくお客様への接遇も行います。運転中、お客様が快適に過ごせるような接遇が求められ、マイクの適切な使用も行います。
▼お金の取り扱い
お金の取り扱いもバス乗務員が行います。バスの運賃の取り扱いや乗車券などの販売、ICカードの処理などを行います。
一日の勤務の流れ
路線バスの運転を行っているのは、バス乗務員です。路線バスは土日祝日も運行するので、ローテーションによるシフト勤務制です。シフト制なので、休日は指定されます。
営業所に出勤すると、まず出勤登録を行ってから運行前点検に移ります。路線バスに異常がないことを確認し終わると、アルコール検知器を吹いてアルコールチェック、連絡事項の確認や健康状態のチェックを受ける仕業点呼を行います。仕業点呼が無事に済むと、運行指示書を受け取ります。
業務開始時間になると路線バスの運転席に座り、運行指示書を確認していよいよ営業運行に出発です。バス運行中は安全、定刻通りの運転とお客様への接遇に努めて業務を行います。
営業運行終了後は営業所に戻り、まずバス車内の清掃と車内の点検を行います。次のお客様がきれいな状態で利用できるように清掃しておくことや、お客様の落し物や忘れ物がないかを確認するのも大切な業務です。
車内の清掃とチェックが終わると、乗務日報に必要事項を記入し、アルコール検知器でアルコールチェックを行う終業点呼を行います。また、営業運行で気になったことなどがあったら、終業点呼の時に申し出ます。
次の勤務を確認して、その日の業務を終了します。
公営バス乗務員になるには?
運営母体がどこにあるかで採用元が変わる
前述の通り、公営バスの運営母体は多岐にわたります。ですので、公営バス乗務員になるには、自分が希望する公営バス路線によって、採用応募先も異なりますので注意しましょう。
▼地方公共団体が運営元の場合
地方公共団体が運営元の場合は、公共企業管理者下の公営バスを管轄する部署が採用元です。「仙台市交通局」「横浜市交通局」などが該当します。それぞれのホームページで、採用情報を随時公開しているほか、電車や路線バスなどの公共交通機関内や街角で「乗務員募集」の広告が出ていたり、タウン誌に求人案内を出していたりする場合もあります。
参考:
横浜市交通局 バス乗務員採用情報
http://www.city.yokohama.lg.jp/koutuu/kigyo/saiyou/bus-unten-top.html
▼公営ではない路線バスの場合
すでに公営バス事業から地方公共団体が撤退している場合は、路線バスは公営バスではなく民間のバスです。なので、自分がなりたい地域によっては民間のバス事業者のバス乗務員採用を受けることになります。
例えば、札幌市は2004年3月31日かぎりで札幌市交通局を廃止、公営バス事業からも撤退しています。現在は運営移管先のジェイ・アール北海道バスやじょうてつ、北海道中央バスが札幌市内の路線バス運行を行っているので、札幌市の路線バス乗務員になるには、各企業のバス乗務員採用への応募が必要です。
参考:
ジェイ・アール北海道バス バス乗務員採用情報
http://www.jrhokkaidobus.com/recruit/
公務員か会社員か、運営元によって異なるので注意
地方公共団体の公営企業管理者下での採用の場合、公営バス乗務員になりますので、バス乗務員の立場は公務員です。ですが、各地方公共団体の職員として採用されるのではなく、日本全国の公共交通事業の企業管理者で構成する社団法人公営交通事業協会の会員、という立場です。公営バス乗務員は、全日本自治団体労働組合にも加盟します。
また、地方公共団体の中には民間企業へ管理委託を行っている場合もあります。この場合、路線バスの名称や車体などは地方公共団体の公営企業管理者下の管轄部署の名称のままですが、運営母体が民間企業のため、採用は管理委託をされている民間企業が行います。ですので、公営バス乗務員でも民間企業の会社員の立場の場合もあります。
既に公営バス事業がなく、路線バス事業を民間企業が行っている場合はもちろん会社員の立場です。
バス乗務員に必要なものとは?
大型二種免許はバス乗務員になってから取得できるところも
バスやタクシーなどの旅客を運ぶ目的で運行する自動車を運転する場合には、二種免許が必要であると法令で定められています。また、路線バスは大型車両に該当するので、バスを運転するためには大型二種免許が必要です。
大型二種免許を取得していないからバス乗務員になれない、というわけではありません。多くの採用先でバスの営業所などでの業務を行いながら大型二種免許の取得ができる「バス乗務員養成枠」(採用先によって名称は異なる)などのシステムを取り入れています。大型二種免許がない人で、これからバス乗務員を目指したい時には養成枠での採用の有無をチェックしてみましょう。
参考:
横浜市交通局 採用情報 バス乗務員【養成枠】募集案内
http://www.city.yokohama.lg.jp/koutuu/kigyo/saiyou/bus-unten-yousei-annai.html
ひとりの勤務でもコミュニケーション能力は必要
バス乗務員は、営業運行中ひとりで業務に携わります。ですが、利用するお客様が快適にバスに乗れるように、適切な接遇対応をしなければいけません。また、他のバス乗務員との連携を取って通常通りに路線バスが運行されるように努めますので、コミュニケーション能力も必要とされます。
シフト勤務に耐えられる体力
路線バスは土日祝日も運行しますので、休日は不定期です。また、始発のバスは5時台から運行しているところもあり、終電のバスは24時台まで運行しているところもあります。ローテーションによる早朝勤務や深夜勤務、泊まり勤務もあるシフト勤務です。
不規則になりがちな生活の中でも、体調管理に気をつけられる自己管理力の高さや、体力が求められます。
正確、安全な運転技術
バス乗務員最大の任務が、お客様を安全、確実に目的地まで運ぶことです。安全運転はもちろん、定刻通りにバス運行ができないと、利用するお客様にも迷惑をかけてしまいます。
公営バス乗務員の給料について
地方公共団体の規定によって支払われる
公営バス乗務員の場合、公務員ですので地方公共団体の規定によって給料が支払われます。
例として横浜市営バスのバス乗務員の給料をみてみましょう。
▼嘱託員採用の場合
嘱託員として採用された場合は、「横浜市交通局嘱託員就業要綱」などに基づき、月額161,300円が支給されます。
▼正規採用の場合
正規採用後の給与は、「横浜市交通局企業職員の給与に関する規程」などに基づき支給されます。年齢21歳の場合(高校卒業、前歴なし)の初任給は、170,636円(給料及び地域手当)、大学、短期大学、専門学校卒での採用の場合、前歴があるとしてこの額に60月(5年分)を上限に前歴による加算された給与が支払われます。
また、基本給のほか住居手当、通勤手当、扶養手当などの各種手当も支給されます。参考として、21歳高卒、前職なしで採用されたバス乗務員の入局後10年目の給与(試算)は233,972円です。
参考:
横浜市交通局 バス乗務員採用案内 給与
http://www.city.yokohama.lg.jp/koutuu/kigyo/saiyou/bus-unten-yousei-annai.html
これは、地方公共団体管轄の交通局に採用された、公務員としての公営バス乗務員の給与例です。民間会社の場合は、手当や給与も異なりますので、採用時にチェックしておきましょう。
まとめ
身近な存在である路線バスは、実は利用客の減少などによって経営のピンチに立たされている所も多いことが分かりました。既に路線バス事業から撤退してしまった地方公共団体も少なくありませんが、コミュニティバスや代替バス運行など、違った形で市民の足としてのサポートを続ける地方公共団体もあります。そして、バス乗務員は子供の憧れの職業のひとつとしても挙げられます。今後も市民の足として、路線バスとバス乗務員の活躍に期待したいです。
(文:千谷 麻理子)
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