市町村役所で活躍する「行政保健師」公務員になるには?

地方公務員として働く「保健師」になる方法について解説します。今回は、全保健師の半数以上を占める「行政保健師」の中で主に市町村役所で従事する保健師になる方法や仕事内容、人事、日頃の職場での生活などについてご紹介します。


はじめに

「保健師」は、大学または保健師の養成学校等で保健師として必要な知識や技能に関する教育を受け、保健師国家資格に合格することによって、得られる資格です。保健師として勤務する人は都道府県、市町村、保健所及び保健センター等それらの外郭団体に勤める「行政保健師」、公立私立それぞれの小中学校や高等学校に養護教諭として勤める「学校保健師」、民間企業で社員の健康管理等を業務として勤める「産業保健師」、主にこの3つがあげられます。この中で最も割合の多いのが「行政保健師」であり、全保健師の半数以上を占めています。一般の人々の中でも保健師といえば公務員といったイメージが強いのではないでしょうか。そんな「行政保健師」で主に市町村役所で従事する保健師になる方法や仕事内容、人事、日頃の職場での生活などについて解説していきます。

地方公務員である「保健師」になる方法

保健師の試験の流れ イメージ画像
公務員総研作成

地方公務員として主に市町村役所で従事する「行政保健師」として就業するためには、各行政機関が実施する職員採用試験に合格する必要があります。

いうまでもありませんが、ここで国家資格である保健師としての資格取得は必須です。

試験によっては採用年月日までに取得見込みであれば受験可能としている場合もあるので、実施の各募集要項等を確認する必要があります。保健師の募集及び採用は、他の一般行政事務職員の募集及び採用に比べて不安定です。というのも従事する職員数及びそれに比例して募集人員自体が他の一般行政事務に比べて遥かに少ないからです。比較的大きな自治体等であれば安定的な募集、採用があると思いますが、そうでない自治体等なら毎年若干名或いは募集自体を行わない自治体もあります。

しかし、近年各自治体で保健師が慢性的に不足しているということも事実ですので、希望する自治体に就業できるかどうかは不安定ではあるものの、基本的には保健師は売り手市場であると思います。

いずれにしても、まずは保健師の資格を取得し、自治体で行われる採用試験を受験し、合格する必要があります。

行政保健師の役割

行政保健師は主に都道府県や市町村及びそれの外郭団体で職務にあたっています。

どれにも基本的に共通していえる役割として「健康、福祉、医療の立場から地域住民の健康維持、増進に多角的に支援していくこと」があげられると思います。端的に言えば住民の健康的な生活づくりの手助けをするといったところでしょうか。各所属の機関や部署にもよりますが、他の一般行政職員と比べても地域住民との距離が近い職種であり、業務の中でも地域の健康福祉に関するイベント等に積極的に参画していくことも求められます。

例えば地域の老人クラブ等の敬老サークルの会合に参加し、インフルエンザ等の感染症予防のために予防接種を受けるように啓発活動を行うというのが、これにあたります。他にも役所の窓口や福祉施設、或いは電話等で相談を受けたりする中で、地域からあがってくる様々な悩みや声を聞きながらそれに応じたアドバイスを的確に行っていくことも求められます。高齢化が進む日本では、高齢者に対するサービス提供の機会が多いですがあらゆる年齢や障害を持った人、精神的な疾患を患っている人等あらゆる立場へのサービスを提供していく必要があり、柔軟な対応が求められる業務でもあります。

行政保健師の2つの仕事内容

主なものとして以下のような業務があげられます。

(1)医療・健康に関する業務
介護保険の予防事業、医療と介護の連携、各種検診の運営、健康教育、感染症予防、歯科保健他です。


(2)福祉に関する業務
認知症の相談、認知症施策の推進、高齢者福祉、精神保健、母子保健、児童虐待対策他です。

これらの業務を担当していきますが、役所の職員として勤務するため、専門職といえどもこれらの業務のみ行っていればよいというわけでもないです。例えば、自治体が主催するお祭事やその他の行政イベント、自治体によっては宿日直業務等へ出役しなければならないこともありますし、組合員活動での動員を依頼されたりなんてこともあります。

それと、これは実際によくあることなのですが、サービス残業や土日出勤がかなり多いです。これは世間のイメージとは間逆だと思いますが本当に多いです。

公務員というと平日は8時30分に出勤して17時15分に仕事を切り上げて帰り、土日祝はお休みといったイメージが先行しがちですが、これが完全に補完されているのはほんの一部の部署の一部の職員です。さらになぜここで記載したかというと、この行政保健師という職業の場合、他の一般行政職員に比べて特にこれが顕著であると考えるからです。

もちろん、所属する自治体や所属する部署等その職場環境によりけりという前提ではありますが、先ほども述べたように、地域のイベント等に出向いたり、地域の意見を聞きにいったりというのも保健師の業務です。

平日の勤務時間中にこれら地域へ出向いた活動をしていると、その他の事務仕事が手につけられず、どんどん仕事が溜まっていきますし、外に行かない日でもその他の保健師や各医療機関関係者やケアーマネージャー等との会議や打ち合わせがガンガン入ってきます。そうかと思えば窓口対応や電話対応等日中は本当に忙しいです。そのため、業務時間終了後に事務仕事をせざるを得ないような状況になりますし、場合によっては土日に出勤しないと事務が終わらないということにもなります。

また、各種医療、保健関係の団体が開催する健康イベント等もやはり土日に開催されることが大半ですのでそれにも出勤する必要があるといったように、意外にもハードな職種であると思います。これは一つにはゴールの無い仕事であるということがいえると思います。

例えば職員の給与を担当する総務部署の職員だと、職員の給与を計算して所定の日に支払う。これでいったん仕事のゴールということになりますが、保健師の場合住民の健康の維持増進が仕事なので、やろうと思えばどれだけでも仕事が出てくる職務なのです。まさに「これをしたら終わり」というのが基本的にありません。極論は地域住民全員が完全に健康になるまでやる仕事があるということになります。

行政保健師の人事について

一般の行政事務職員の場合ですと、毎月給与をもらって、何年か同じ業務に従事すると人事異動があって、年功序列で毎年昇給して、年功序列で一定期間勤務したら係長や主査等役職がついてということを想像されると思いますが、基本的に保健師も同じです。給与も棒給表に基づいて支給されますし、昇給もしていきます。役職についても基本的には同じで、ある程度の勤務成績と年功序列により昇格していきます。ただし、人事異動については、少し狭いものになります。

保健師という専門職であるため、一般行政事務職員のようにたくさんの部署に椅子が用意されているわけではなく、異動する部署も数箇所程度に限定的となることが一般的です。主な配属先としてはやはり福祉、医療、健康関係の部署に限定されることが大半です。

看護師から保健師へ

そもそも看護士と保健師の資格には取得する過程において関連する分野が大半ですので、同時に取得する人や看護士として就業しながら保健師の資格を取得する人もいます。

そんなことから、看護師として病院等医療機関で従事していた人が保健師に転職する。これも実際によくあることです。中には大きな病院等に勤めていて、夜勤があり日勤もある二交代や三交代による勤務がつらくなり、自分の資格を活かして日勤事務職の保健師に転職しようと思う方もいます。当然看護師も大変かと思いますが、先ほど述べたように保健師も大変です。それから、実際に看護師から転職した人の話によると、いろいろとカルチャーショック的なことがあるそうです。

例えば金銭感覚というか、公私ともどもお金の使い方が違うとのことです。

看護師の時だと、必要を感じた備品や消耗品はすべて病院側がお得意業者を使って準備してくれていたのが、公的なお金を扱う役所だと例えば検診に使う測定機材を購入するにしても、業者から見積もりをとって、備品購入伺いをあげて、指名競争入札に参加させる業者の選定委員会を開催し、指名競争入札会を開催し、それから契約し・・・と予算を使うことに対してやることがたくさんあり大変であるということ。

プライベートでは、例えば看護師時代に忘年会や送迎会を開催するとなれば、病院が費用を出してくれたり、医師が出し合ってくれたりといわばわりと羽振りよくできたものの、役所の場合当然公費が充てられることはありませんし、同僚の一般行政事務職員らも限られた収入しかありませんから、質素な会場で割り勘になったりして驚いたとのことです。


ちなみに行政保健師の給与は棒給表の扱いにもよりますが、基本的に一般行政職員とほぼ同じかやや高めに設定されています。更にいうと、経験年数や所属する職場にもよりますが、大きな病院に勤めている看護士の方が基本的に給与は高いので、転職して給与が減ってしまうなんてことも大いにあります。

行政保健師の苦悩

保健師といえども行政機関に勤める行政職員、いわゆる公務員です。公私ともども周囲からの目を気にしながら生活していかなくてはなりません。例えば、一般住民からは当然ながら「保健師」という目で見られます。保健師は一般的には看護師よりも高度な教育を受けているわけですから、看護師以上の知識を期待されることもありますし、それに応えられないと期待はずれのような反応をされることもあります。現実的には看護師の方が最新の医療現場には近いわけですから、難しいことですよね。でも住民からはそういった期待もされます。職業柄住民と接する機会が多くある職種なので、行政批判や不満等を直に受けることも多々ありますのでコミュニケーション能力や強い精神力が求められることも多々あります。

職場では年功序列や役職主義が今なお色濃いですから、上司のいうことにひたすら従うというのが基本とされていますし、必要書類の作成にしても他の事務職員と同じように細かい事務作業も要求されます。これが結構気の毒に感じます。保健師自身は保健師といういわゆる専門職員であるという意識でいますが、他の職員からは保健師という専門知識を有してその職務にあたる事務職員という目で見られています。両方とも正解なのですが、保健師というプロフェッショナルでありながら、事務のプロフェッショナルとしての仕事も求められるという一面もあります。

あとは、看護師にも共通して言える苦悩かもしれませんが、いわゆる女性が活躍している職務であるということです。なので、そういった女性が多い環境で職務にあたることが苦手な人にとっては苦悩に感じてしまうかもしれません。また、専門職であるがため、その専門分野に関する職務の相談ができる上司等も限られています。例えば所属長に相談しようとしても、その所属長が一般行政事務職員であれば専門的な知識を有しませんので、必然的に同じ専門職の保健師の上司等に相談するしかないのです。

まとめ

「公務員」という世間のイメージに反して、大変な業務であります。ここまでの解説を見ていただければご理解いただけると思います。

しかし、やりがいもある仕事だと思います。

特に地域住民と対することが多いですので、コミュニケーション能力が養われますし、そういったいわば接客的なことが好きな人からすると天職であると思います。実際のところ、保健師の住民に対する応対や電話対応とても上手です。医療、健康、福祉関連で人とふれあいながら安定した職業に就きたいとお考えの方でしたら、目指してみてはいかがでしょうか。

本記事は、2017年4月19日時点調査または公開された情報です。
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