アメリカ最高裁の中絶制限文書の漏洩問題とは?

2022年5月3日、アメリカ全土が衝撃を受ける情報漏洩問題が起こりました。

その内容は、アメリカ最高裁が「女性が中絶する権利を認めた判断を覆す可能性が高い」という趣旨の文章が流出したことです。

アメリカで中絶制限を巡る問題は国を二分するほど関心が高く、大統領選挙の時には有権者の判断材料になるほどと言われています。

今回アメリカで起きた問題の詳細や影響、そして今後の行方についてまとめました。


【詳細】何が起きた?

事の発端は、2022年5月3日(現地時間2日)に、アメリカの政治専門サイト「Politico」において、最高裁で使用されたと思われる内部文書が紹介されたことに始まります。

その文章の内容は「中絶制限を認める」ものだったことや、アメリカ政府の最高機関である最高裁から情報が流出した可能性があることから、あっという間にアメリカ全土で注目されることになりました。

アメリカ国内で関心が高い中絶制限に関する文章が最高裁から流出したこと、そしてその文章には過去の判決を覆す内容が書かれていたことが明らかになったのです。

【背景】何が問題なの?

最高裁が中絶制限を認める方向で動いていること、そして最高裁から重要文書が漏洩した2つが問題です。

さらに、この一件がアメリカ内部で分断を深めるきっかけになることも潜在的な問題として懸念されています。

アメリカでは、1973年以降、女性の中絶は女性の権利として認められてきました。しかし、今回の内部文書漏洩で、その権利が覆される可能性が高まったことから大きな問題になっているのです。

もともとアメリカでは、中絶を巡って意見が分かれていました。中絶は女性の権利と主張する人もいれば、対照的に中絶はキリスト教の教えに反するため反対と考える人もいます。

賛成派は若い世代を中心に構成されており、望まない妊娠が生じた場合への対処や、法によって左右されるべきではないと主張する一方、反対派はキリスト教福音派(アメリカ国民の4分の1とされている)で構成されており、聖書に書かれていることを厳格に守るべきと主張しています。

このような異なる考え方から、自然にアメリカ世論は「中絶支持=リベラル派」そして「中絶反対=保守派」に分断される状態になりました。

さらに、リベラル派は中絶支持を表明する政党をサポートするようになり、保守派は中絶制限を訴える政党をサポートするようになったのです。

このような動向を受け、現在ではおおまかに「中絶支持派=民主党」、「中絶反対=共和党」というような対立関係が出来上がりました。


アメリカでは、中絶制限を巡る問題は政治にも直結することから、国民の関心度は高く、その動向に注目が集まります。

とくに近年では、大統領選の結果を左右するほどにデリケートな議題とされており、今回の情報漏洩問題は「蜂の巣を突いた」と言えるかもしれません。

【現状】どんな影響がある?

今回の一件は、アメリカ国内で政治論争が過熱する影響そして政権交代への布石になる可能性があります。

事実、この一件が発覚した翌日、ワシントンD.C.には抗議のために多くの人が集まり、賛成派と反対派の間で衝突が起きています。リベラル派の主張のなかには、判決が覆ることで性的少数者の権利に影響することを懸念するものありました。

バイデン大統領およびハリス副大統領はLGBTQの権利を擁護する姿勢を見せることで、先の大統領選に勝利していることから、中絶制限に反対することは必須です。易々と中絶制限を認めるようなことになれば、政権に対する信頼は揺らぎます。

そもそも、アメリカでは中絶に関する論争は絶えず続いてきました。しかし、中絶制限を巡る議論に一定の決着をつけたのが、1973年の「ロー対ウェード裁判」です。

この裁判は、原告のジェーン・ローが「中絶は女性の権利」であることを主張し、「中絶を制限し母体と胎児の命を保護するのは州の責任」と主張して対立した、裁判官のヘンリー・ウェード両者の名前が付けられています。

この裁判は、連邦地裁が「中絶を著しく制限するのは違憲」と判断し、最高裁もこの判決を支持したことで決着しました。長く中絶を制限してきたアメリカにとって、実質的に中絶を容認するようになった大きな転機とされています。現代でもこの判決が尊重され続けてきたことから50年近く「膠着状態」だった訳です。

しかし、今回の一件で、ロー対ウェード裁判の判決が覆るかもしれないとなったことから、中絶支持の人たちは死守しようとし、中絶反対派は一気に覆したい思惑がぶつかっています。この過熱状態が国内で政治論争を巻き起こし、11月の中間選挙そして2024年の大統領選に影響すると見られています。

【影響】アメリカ政府の見解は?

今回の一件に対して、さっそくバイデン大統領をはじめ主要人物らが反応しています。

バイデン大統領はすぐさま記者会見で「賛成票が少ないほうが理想だ」と述べました。また、「女性が中絶の権利を持てなくなることをとても懸念している」とも述べています。つまり、バイデン大統領としては中絶制限に反対しており、リベラル派を意識した対応になりました。

最高裁長官のジョン・ロバーツ氏は3日に発表した声明の中で「(流出した文章は)本物だ」と認めています。一方で、あくまでも文章は草稿であり、最高裁の最終決定を示すものではないと強調しました。

また、国の最高機関から機密文書が漏洩したことを受け「重大な背信行為」と述べ、調査を実施することを公表しています。今後、ロバーツ氏は今回の一件について責任を追及される可能性があり、仮に辞任するような事態になった場合、最高裁の信頼が大きく失墜する事態になるかもしれません。

【今後】これからどうなる?

バイデン政権は中間選挙を見据えて、中絶制限に関する判決が覆らないように働きかける必要があります。また、これ以上政治論争が過熱しないように抑制しつつ、漏洩問題の原因追及と責任を明確にしなければいけません。言い換えるならば、この件は漏洩問題として処理し、政治論争にまで拡大させないことがポイントになるでしょう。

しかし、複雑な様相を見せているのも事実です。全9名で構成されているアメリカ最高裁判事の内訳を見てみると、保守派の判事6名、リベラル派の判事3名です。つまり、中絶に反対する保守派の判事の方が圧倒的に多いことから、漏洩した文書の内容は当然とする意見もあります。


さらに、CNNの調査によると、アメリカ国民の69%は中絶制限に反対(ロー対ウェード裁判の判決が覆ることに反対)、30%が中絶に賛成(ロー対ウェード裁判の判決を覆すべき)と考えており、中絶を容認する世論の方が多い状況にあります。

このことから、最高裁判事9名の勢力図と、国民感情が相反していることが分かります。賛成派および反対派いずれもどうなるか分からない状態であることから、国民の関心は必然的に高くなっています。

最高裁の判決は中間選挙目前の2022年夏頃になるとされており、この判決次第ではバイデン政権が盤石を築くのか、失墜するのか大きな起点になるでしょう。

まとめ

今回の最高裁文書流出はアメリカ国内で長く議論された中絶に関連することだったため、非常に大きな注目を集めました。バイデン大統領やロバーツ最高裁長官がすぐに対応したことからも、事の重大さがよく分かります。

直近では、漏洩の原因と責任問題、そしてその後は2022年夏頃に予定されている最高裁判決の結果、判決後の政権への影響に注目しましょう。

本記事は、2022年6月1日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

気に入ったら是非フォローお願いします!
NO IMAGE

第一回 公務員川柳 2019

公務員総研が主催の、日本で働く「公務員」をテーマにした「川柳」を募集し、世に発信する企画です。

CTR IMG