「経済安保推進法」とは?国が重要な資源やインフラを海外との競争から守るための法律
「経済安保推進法」は、国の半導体やレアアースといった、現代に欠かせない資源やインフラといった、国民の生活や経済活動に大きな影響がある物質などを守る法律です。
近年、その開発には海外企業に先手を取られているところがあり、半導体やレアアースなどの資源の確保は、企業努力では難しくなってきました。
また、電気、ガス、石油、水道、鉄道、航空など、基幹となるインフラへの海外からのサイバー攻撃についても懸念されており、そのような攻撃から国を守るなどの狙いがあります。
「経済安全保障」とは?
そもそも「経済安全保障」とは、国の利益を守るため「技術」や「データ」、「製品」など経済分野の資源を確保しようとする動きのことです。
経済活動のグローバル化が進んだことで、国家間の経済競争が激しくなり、軍事的な物資についても経済競争に勝たなければ確保できないなどの問題が生じています。
国の脅威に対して今までの「安全保障」の考え方では足りず、「経済的」な国防も必要になりました。例えば、国内外で開発された先端技術は軍事転用されるおそれも拡大しており、国家防衛にはますます経済の視点が重要になっています。
「経済安保推進法」は、2022年5月に成立
「経済安保法案」は、2022年5月11日に参議院本会議で与野党の賛成多数で可決、成立しました。
法案成立に向けては、2021年から「経済安全保障推進会議」が内閣府に置かれ、議論が進められてきました。
岸田内閣総理大臣が掲げる「新しい資本主義」では、日本の経済構造の自律性を向上すること、また海外に対して、日本の技術の優位性や、不可欠性を確保することで、「国民の安全・安心を守り抜く」ことを目標としつつ、同時に、新たな経済成長も実現しようとしています。
半導体、レアアース、その他のインフラについて、企業努力のみでは海外企業に競り負けてしまう分野があることが問題視されてきたことを受け、国が必要に応じて国内企業への財政支援や、法律によって権利を守ることが可能になるような法整備が進められてきました。
▼参考URL
参議院|経済安保推進法案を議決(外部サイト)
首相官邸|経済安全保障推進会議(外部サイト)
内閣府|経済安全保障推進会議(外部サイト)
経済安保推進法の4つの柱とは?
「経済安保推進法」は、4つの柱で構成されています。それぞれの柱について紹介します。
1)特定重要物資の安定供給支援
「特定重要物資」について、企業がどの国のどの企業から輸入しているかなどを、国内での「安定供給」を理由に国がチェックできるような仕組みが作られます。
「特定重要物資」には、スマートフォンに欠かせないにもかかわらず、2018年時点でその70%を輸入に頼っている「半導体」、新型コロナウイルス感染症拡大時に不足したマスクなども含む「医薬品」、レアアースやニッケルといった重要な鉱物、蓄電池の原材料といった製品が含まれる予定です。
国が企業の調達先などを調査する権限を持ち、特定の国に調達を頼りすぎていないかなどを調べることになるので、国による企業への過剰な干渉が起こるのではないかという懸念の声もあります。
一方で、対象となる企業は安定的な供給に向けた生産体制などの計画を国に提出し、認定を受けることで、必要に応じて国から金融支援を受けられるような支援体制も整う見込みです。
2)基幹インフラ(社会基盤)設備の事前審査制度の導入
この対策では、電力や通信、金融といった国民生活を支えるインフラを担う14業種の大企業を対象に、海外からのサイバー攻撃や、情報を盗まれることを防ぎます。
企業が重要機器を導入する際には国が事前に審査を行い、例えばウイルスなどが入った不審な機器が導入されるようなリスクを回避します。
14業種は具体的に、電気、ガス、石油、水道、などの生活インフラ、鉄道、航空、などの交通・輸送インフラ、さらに放送、金融、クレジットカードなど、情報や金融のインフラの分野について、指定されます。
指定された業者は、国によるチェックでシステムにぜい弱性が見つかるなど、攻撃を受けるおそれが高いとみられた場合には、国から必要な措置をとるよう勧告や命令が出るため、対応する必要が出てきます。
3)先端技術開発の支援
国内では、先端技術の開発者の海外流出も問題になっています。
この「先端技術開発の支援」の取り組みでは。宇宙やAI、量子など国の安全保障に関わる「特定重要技術」の研究開発に対して、資金面などで支援することで、研究者や研究内容の流出を防ぎます。
4)公表されれば国の安全を損なう恐れのある特許の非公開化
「特許の非公開化」は、主に、軍事に関わる技術の中から国民の安全を損なうおそれのあるものについて特許出願を非公開にできる制度です。
現在の日本の制度では、特許出願すると、軍事に関わる技術であっても、1年半後には原則公開されてしまう制度になっており、海外企業が特許技術を転用することができてしまいます。
そのような事態を防ぐために、軍事技術に限って、出願内容を非公開にできるようにします。
一方で、特許を出願すると企業や個人は、本来なら特許収入が得られるのですが、非公開にするとその収入もなくなってしまうため、国が特許収入分の補償を行うことになるようです。
「経済安保推進法」の成立で、どんなことができる?
政府は推進法の成立を受けて、まず「特定重要物資」の指定からスタートさせるようです。
「特定重要物質」には、「半導体」のほか、「医薬品」や「レアアース(希土類)」などが想定されています。このような物質を扱う企業について、所管省庁から認定を受けた企業は、国から財政支援を受けることができるようになります。
「経済安保推進法」の議論で、野党側から「国会審議の必要のない政令による指定」が、政府への白紙委任、つまり悪用される恐れがあるなどの批判もあったため、政府は有識者から意見聴取して進めていくそうです。
まとめ
このページでは、遂に成立した「経済安保推進法」について解説しました。
経済活動の動向が、国の安全に関わるというのは、グローバル化した21世紀特有の現象です。先端技術の研究、開発を個人や企業に任せていたことで、日本の技術は開発の遅れや海外流出といった問題にさらされてきましたが、遂には軍事転用されかねない技術まで国の支援無しに守ることは難しくなってきました。
また、アメリカと中国の間で、「ハイテク技術」をめぐる対立が激化したことも、今回の「経済安保法」には大きく影響しています。
当時のトランプ大統領が、ファーウェイなど中国のハイテク企業の製品をアメリカ国内から締め出す措置を取ったことは記憶に新しいですが、日本もこの国をかけたハイテク技術の覇権争いからは逃れることはできないでしょう。
一方で、経済界からは新たな法律によって国が経済活動・ビジネスの自由を妨げるような行き過ぎた制限をかけるのではないか?といった懸念の声が出ています。
また、国会での審議にあたり野党側から規制の対象を具体的に示すよう求める質問も出たため、今後、制度を整えていくにあたっては、そのような懸念の声も反映させながらバランスの取れた制度にしていく必要がありそうです。
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