特殊警備隊SSTのポイント 3つ
1)SSTはSpecial Security Teamの略
2)SSTは海上保安庁の中の精鋭による特殊部隊
3)SSTは海の上で起こる、普通の海上保安官では対処できない「特殊警備事例」を担当する
海の警察官である海上保安庁の特殊部隊が「特殊警備隊SST」
海の警察官である海上保安庁の特殊部隊「特殊警備隊SST」についてご紹介します。
【特殊警備隊SSTとは】海上での警察である海上保安庁
国の治安維持のために犯罪や事件事故の取り締まり、及び交通整理や管理を行うのが警察官です。一方で、海上での犯罪や事件事故、交通整理を行っているのが海上保安庁に属する海上保安官です。
海上で事故や不審な船舶などを発見する為の警備や交通整理、そして救難事故の際には救助活動も行います。海上保安官は海上で任務にあたる国家公務員ですが、管轄するのが海上という事もあり、治安維持のために活動するという同じ側面を持ちながら警察官よりもあまりなじみがない職業かもしれません。
けれども、日々海の上で私たちの生活を守る活動を行っている「海のおまわりさん」であり、海上事故での救助活動を行う「海のレスキュー隊」でもあるのです。
【特殊警備隊SSTとは】海上の「管区」に分かれて活動
海上保管官は、海上の区域分けである地方支分部局として決められた「管区」に配備されます。現在、北海道の第1管区から沖縄の第11管区まであり、海上保安官は担当している管区の都道府県区域にて任務を行います。
海上保安庁の組織は、トップである海上保安庁長官以下海上保安庁次長、海上保安監がおり、任務内容によって総務部、装備技術部、警備救難部、海上情報部、交通部に分かれています。また、海上保安庁の本庁には首席監察官、以下管区ごとの海上保安本部に管区首席監察官を配置し、庁内の監察も常に行われています。
【特殊警備隊SSTとは】海上保安官が対処できない事案に立ち向かう
海上保管官が通常の任務において、対処が難しい事案が発生する場合があります。この時海上における重要な警備業務を行うのが、海上保安庁の「特殊警備隊SST」です。
SSTとはSpecial Security Teamの略称です。正式名称の特殊警備隊の略称としては、同じく海上保安庁の別部隊である特別警備隊と区別するために特警隊ではなくSSTと記されます。
本記事でも、以下SSTと記載します。
特殊警備隊SSTの仕事内容や心構えを解説
特殊警備隊SSTの仕事内容や、特殊警備隊SST隊員に必要な心構えについてご紹介します。
【特殊警備隊SSTの仕事】海上保安官が対処できない「特殊警備事案」を扱う
特殊警備隊SSTが任務を行うのは、一般の海上保安庁では対処が難しい「特殊警備事案」に対してです。特殊警備事案には以下の事例があります。
【特殊警備事例1】政治色や思想の強い凶悪な犯罪や、通常の部隊では対処できない銃器類を使用した犯罪など
・シージャック(船舶の乗っ取り)事案
・海上テロ事件
・海上における甚大な犯罪行為(海賊行為への対処を含む)
・爆発物処理
【特殊警備事例2】一般の海上保安官よりも専門的な知識や見解、判断力が必要となる事案
・臨検など、不審船事案
・船舶内での殺人事件
・密航船や密輸船の制圧
・船舶内で発生した暴動などの鎮圧
【特殊警備隊SSTの仕事】警察組織の特殊部隊SATや、特別捜査班SITと同じ側面を持つ
海上保安庁は、海上の治安維持活動を行う組織です。警察と組織体系も似ており、例えばSSTとは別部隊である特別警備隊は、海上でのデモや暴動の規制や対処を行う部隊で、警察では機動隊に相当します。
SSTは、警察組織の中では特殊部隊SATと類似した部隊です。いずれも「一般の警察官・海上保安官では対応できない特殊犯罪・特殊警備事案に対して」「テロなど政治色の強い、もしくは銃器類や爆発物を使用した事案に対して」任務を行います。
また、船舶内の殺人事件やシージャックへの対応など、専門的な見解や判断力、技術や知識が必要な事案への対処を行う事から、同じくスペシャリスト性の高い警察の特別捜査班SITとも似た性質を持っています。
【特殊警備隊SSTの仕事に対する心構え】「常に備えよ」
特殊警備隊SSTは第五管区大阪特殊警備基地を本拠地とし、24時間体制で特殊事案の発生に備えています。SSTへの出動要請が下ると、関西空港海上保安航空基地から固定機体を使用し、近くの航空基地に向かいます。航空基地でヘリコプターに乗り換え、対象となる船舶へヘリコプターからの直接降下や、巡視船に乗り換えて水中から侵入・奇襲を行い事案の制圧をします。
SSTの標語は「常に備えよ」、24時間体制でいつでも特殊事案に対処できるように、潜水や武道訓練、レンジャー訓練、ヘリコプター降下など、SSTの隊員は一般の海上保安官とは比較にならないほどの厳しい訓練を日ごろから行っています。
訓練の枠は国外にも広がり、アメリカ軍の特殊部隊や韓国海洋警察特別攻撃隊との合同訓練も行われています。近年では、2013年、海に面した重要拠点である原子力発電所のテロリストによる襲撃にも対処できるように、東京電力福島第二原子力発電所において千葉県警察特殊部隊(千葉県警SAT)と福島県警察の銃器対策部隊と共に合同訓練も行っています。
特殊警備隊SST設立の背景や歴史について
特殊警備隊SSTが設立された背景と、SSTの歴史についてご紹介します。
【特殊警備隊SSTの歴史】設立は1996年 警察の特殊部隊SATと同じタイミング
1996年5月、海上保安庁の大阪特殊警備基地と共にSSTは設立されました。同時期に警察の特殊部隊であるSATも正式に公の場で発表が行われています。これは、前年の1995年に警察庁長官銃撃事件やオウム真理教の一連の事件など、テロ事件が相次いだ事が両部隊の設立に繋がっているのです。
【特殊警備隊SSTの歴史】正式発表以前に密かに設置されていた
SSTの設立が発表された1996年以前には、既にSSTの前身が密かに設置されていたとされています。
1985年に創設された「関西国際空港海上警備隊」、及び1992年のプルトニウム輸送船の警備を目的とした「輸送船警乗隊」がSSTの前身であり、既に1996年以前から活動を行っていました。そして、1996年5月に両者が統合され、SSTとなったのです。
正式発表以前には前身部隊が密かに設置され、活動を行っていた点でもSATと共通しています。
【特殊警備隊SSTの歴史】プルトニウム輸送船の警備をなぜ海上自衛隊が行わず海上保安庁が行ったか
1992年、日本がイギリスとフランスに再処理を委託していた核物質のプルトニウムを回収する為に、海上輸送を実施しました。輸送するプルトニウムの量は1.1トンと大量の為、もしも海上輸送船がシージャックや乗っ取りに合ってしまうと、海上に深刻な核の拡散が起きる危険性があります。
もしも、輸送船の乗っ取りを行ったのが武装テロリストだったとしたら、一般の海上保安官では適切な対処ができない可能性が高いです。その為、輸送船の護衛の為に作られたのが「輸送船警乗隊」です。輸送船警乗隊は、自動小銃を扱うことができる、アメリカ海軍の「SEALs」から技術指導や訓練を受けた海上保安庁の特殊部隊です。
1992年当時は、輸送船の護衛の為に世界最大規模の海上保安庁の巡視船「しきしま」が新しく作られ、実際にプルトニウム輸送船「あかつき丸」の護衛を行った事は発表されていましたが、輸送船警乗隊も同時に設立、共に護衛にあたっていた事は伏せられていました。
護衛というと自衛隊が思い浮かぶ方もいるかと思いますが、なぜ、プルトニウム輸送船「あかつき丸」の護衛を海上自衛隊が行わなかったと言うと、海上自衛隊が武装護衛者となると「軍隊」と解釈される可能性があるからです。
みなさんも周知の通り、憲法9条「戦力を保持しない」事から自衛隊は軍隊ではない存在です。一方で海上保安庁法25条には「海上保安庁またはその職員が軍隊として組織され、訓練され、または軍隊の機能を営む事を認めるものとこれを解釈してはならない」とされているので、武装護衛者として、自衛隊ではない組織である、海上保安庁の輸送船警乗隊が設立されたのです。
【特殊警備隊SSTの歴史】実績は国内一ながらも、まだ秘密の多い特殊部隊
SSTは、警察、自衛隊、海上保安庁全てを含む国の特殊部隊の中で、最も実績が多い特殊部隊と言われています。具体的な実績を挙げると、1999年と2001年に相次いで起きた北朝鮮工作船事件や、2009年中国の覚せい剤密漁船による密輸、2014年の中国漁船サンゴ密漁問題などです。しかし、実績は国内随一ながらもSSTの取り扱う任務内容が、国際情勢に発展しかねないデリケートな事案である事がほとんどの為メディア規制がされており、特殊部隊の中でも最も謎が多いと言われています。
警察の特殊部隊SATと同じく、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以降、SSTも訓練風景を一部だけ公開しているなど、少しだけ露出は増えましたが、まだまだ秘密に包まれています。
特殊警備隊SSTに所属する海上保安官とは? なるには?
特殊警備隊SSTになるには、まず海上保安官になり、SSTとして選ばれなければなりません。海上保安官になるには、どのような関門があるのか、ご紹介します。
【特殊警備隊SSTになるには】若手の海上保安官から選ばれた精鋭部隊
SSTは、同じく海上保安庁の特別警備隊や救難強化巡視船の潜水チーム隊の中で、選抜された若手の海上保安官で編成されています。
迅速かつ正確な任務の実施のために、体力や判断力、忍耐や精神力の高さに加え、救命救急士などの有資格者、外国人との接触の為に特定の語学にたけている、7部隊の内化学兵器防護、爆発物処理の専門チームもある為、化学兵器や爆発物処理ができる、など特定の知識や技術を持つスペシャリスト性も必要になります。
【特殊警備隊SSTになるには】まず海上保安官を目指しましょう
特殊警備隊SSTになるには、まず国家公務員である海上保安官にならなければいけません。高校や短大、大学などを卒業後に海上保安大学校もしくは海上保安学校に進学し、海上保安官になる為の教育を受け、海上保安官になります。
ちなみに、海上保安庁のキャリア官僚としての道を進みたい人は幹部候補生の育成を目的としている海上保安大学校、一般の海上保安官として現場での道に進みたい場合には海上保安学校を選択します。いずれの場合にも、応募条件や時期が定まっていますので、確認した上で受験しましょう。
海上保安官になって特別警備隊や潜水チームの中で、SSTとして選抜されればSSTとして配備されます。
【番外編】特殊警備隊SSTが登場するテレビドラマ
特殊警備隊SSTをテーマにしたテレビドラマをご紹介します。SSTについて知りたい方は参考にしてみてください。
TVドラマ版「海猿」 – 映画版もあり
海上で主に救難事故の救助を行うチームに属する海上保安官が主人公で佐藤秀峰先生によるマンガが原作をドラマ化しました。貨物船の乗っ取り事案が発生し、SSTに鎮圧のための出動要請が下るといったストーリーがあります。
S -最後の警官- – 映画版もあり
警察のNPS及びSATに所属する2人の警察官が主人公。プルトニウム輸送船の乗っ取り事案が発生し、SSTが出動します。こちらもマンガが原作です。
救命病棟24時
横浜のレストラン船「ロイヤルウィング」がライフルを持った男性にシージャックされるシージャック鎮圧の為にSSTが出動する。また、この事案で発生した負傷者が、主人公の勤める救命救急センターに搬送される。
まとめ - 島国だからこそ大きい、特殊警備隊SSTの存在感
陸上と違い、海上では目視できるボーダーがない・現在地の特定が困難であるからこそ特殊な事案が起こりやすくなっています。世界とひとつで繋がっている海からは、恵だけでなく国の脅威となる存在も時には現れます。
日本は四方を海に囲まれた島国だからこそ、海上の秩序を守るためには海上保安庁、そしてSSTの存在が大きいと言えるでしょう。
(文:千谷 麻理子)
(作成日 2017年11月14日/ 最終更新日 2021年6月14日)
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