待機児童…関心が高まる「保育業界」の業界課題
近年はブラック保育園という言葉や保育園に入園できなかった人のブログなどで保育園を取り巻く環境が問題視され改善に向けてメスが入ろうとしています。世間の認知度や関心も高い事柄かと思います。
今回は、保育園で働く現役の保育士がどのようなことを感じているか取材したものをご紹介します。
課題その1:仕事内容に見合わない安い給料
端的に言うと仕事の内容や責任から考えて給料が低いです。私の保育園はまだ残業代も出るほうだと思うのでいいほうだとは思うのですが、毎月の諸経費や書類や子どもたちの製作の準備をしたり壁面を作ったり、行事の時(運動会、作品展、お遊戯会など)には毎日2時間ほど残業します。特にひどいのが作品展の時で、その時は2週間くらい22時くらいまで仕事をして準備に追われています。
保育園3大行事以外にもあるたくさんの行事・イベント
私の保育園は特に3大行事と呼ばれる運動会、作品展、お遊戯会の他にも行事がたくさんあります。お花まつり会や納涼会、クリスマス会、祖父母ふれあい会、お泊まり保育、遠足、おひな祭り会、節分会などです。そして毎月担当の職員が決まっていて、その担当になった職員はその月の園からのおたよりを出したり、毎月のお誕生会を担ったりすることになっています。
お誕生会はステージに立ち、司会進行をしてその月のお誕生児を祝うものです。出し物もしなくてはいけなくて、パネルシアターやペープサートや体操をします。ペープサートはペープサート用の用紙にキャラクターを描いて絵の具やサインペンで色を付けていきます。体操もどれにしようかと考えて振り付けを覚えたりするので意外と準備に時間がかかります。
課題その2:過度な行事による残業
私の保育園は行事に非常に力を入れている保育園です。そのため他のクラスの先生たちがすごく立派な派手な凝っている道具や作品を作っていると、シンプルで効率を求めたものだとどうしても見劣りするので、必然的に準備にも時間がかかります。お遊戯会では衣装もほとんど不織布やカラーポリ袋を使って手作りで作ります。
他の保育園では衣装は使い回しという所もあると聞いているのですが、副園長が「それでは愛情がない」という昭和の根性論にも似た理論で、トップダウンでいろいろと物事が決まるため、全ては副園長の鶴の一声で物事が決定します。
例えば、お遊戯会のプログラムについて、主任保育士や中堅保育士の間で業者さんのカタログにあるプログラム商品で「これかわいいからこれいいよね」と話してそこでほとんど決定していても副園長に相談しにいくとやはり「手作りのほうが愛情がある」とつっぱねられ、副園長は「残業しないように早く帰ろうね」と言いながら残業を増やしている状況です。プログラムも簡単には作れないのです。子どもたちが100人いれば100人分作らなくてはいけませんし、画用紙を細かく切ったり貼ったりして作っていきます。もちろん21時近くまで残業しても終わらないので家に持ち帰ってやることになります。
家に持ち帰って仕事をしていると、(なんで土日も使ってこんなことしてるんだろう)とバカバカしく感じることもあります。
1週間働いて土日はリフレッシュしたいのですが、持ち帰りの仕事があると気持ちも体力も休まることがありません。そうしているとまた月曜日になり、1週間が始まります。保育士たちは疲弊しているのです。日中は子どもたちがいるのでこのような仕事はほとんどできません。そして休憩時間もほとんどありません。保育園はどんな時も子どもたちの側で怪我がないかケンカがないか体調に問題はないかを見ていなくてはいけません。また怪我があった時に保育士は見ていませんでしたというのは通用しないので、常に緊張感を持っている必要があります。
課題その3:お昼休憩もまともにとれない
私の保育園ではお昼の休憩がありません。職員は子どもたちをおもちゃで遊ばせている間に10分くらいでパパッと食べなくてはいけないのです。そして早く食べ終わって、トイレに行かせたり、未満児クラスならオムツを交換したりしなくてはいけないのです。お昼休憩なんてまともに取れない職場が多いとは聞きます。それでも休憩なしで朝の8時半から定時だと17時半、そこから残業すると19時半くらいになり、朝からずっと働き通しという状況です。
唯一子どもたちがお昼寝をしている時間が静かになる時間なのですが、その時間に家庭とのやりとりである連絡帳を書かなくてはいけません。15時に子どもたちを起こすまでに連絡帳を書いて、それが終われば行事の準備や製作の準備、書類などの書類に追われます。気持ちが休まる時が少ないというのが不満です。
これで給料がよくて納得いく金額をもらえているのであれば、このような状況でもモチベーション高く働けるのですが、これだけ働いても手取りにすると16万円になり、これだけがんばって働いたのにこれだけしかもらえないと感じてしまいます。
課題その4:怪我などの伝達事項での残業
子どもたちが怪我をしても保護者の人に謝罪するのは保育士です。子どもたちが原因で、自分のせいで怪我をしてもそれは注意してみていなかった保育士に責任があり、保護者の人に謝罪をしなくてはいけなくなります。
その謝罪をする時もその保護者に直接会って伝えなくてはいけないので迎えが来るまで職場に残っていなくてはいけないのです。迎えが遅い保護者だと19時15分とかになります。今日は残業もないし早く帰りたいと思っていても伝えなくてはいけないことがあると、19時過ぎまで残っていなくていけないのです。
課題その5:負担改善への「壁」
毎年2月になると来年度の1年間の予定や計画を立てる「年間決め」があります。そこではよく職員の負担を減らしましょうという意見が上からも出ます。
ただ納涼会をなくしたらどうか、祖父母ふれあい会をなくしたらどうか、お店屋さんごっこと祖父母ふれあい会を一緒にしてやったらどうかという意見もあるのですが、よくよく話し合ってみると主役は子どもたちで、子どもたちは楽しみにしているからなくすのは可哀想ではないか、納涼会もゲームコーナーの作り物を負担にならないように簡単にしようという意見もあったりして簡単には行事はなくなりません。職員の負担を減らしましょうとは言いながらも話し合ってみると現状維持だったりするのが現状です。
保育園には壁面製作もあります。保育室などにその季節に応じた飾り付けをして子どもたちの作品を飾ります。日本は四季があるので春、梅雨、夏、秋、冬、クリスマス、お正月、春というように季節に応じた壁面飾りも作らなくてはいけないのです。これがまた職員の負担になっています。保育雑誌から壁面飾りのデザインを選んで型紙を拡大コピーして画用紙に貼ってハサミで切っていきます。簡単に作っているように見えるのですがあれもすごく時間がかかるのです。
課題その6:膨大な書類の処理作業
保育士は未満児クラスでは子ども一人ひとりに保育の経過記録を書かなくてはいけません(幼児クラスは毎月の目標や計画ねらいをA3用紙に書きます)。その月の子どもの姿、月の目標やそれに対する保育士の配慮事項、環境設定や評価などを書きます。
書くのはいいのですが私の保育園はそれが手書きなのです。この時代に手書きで書類を書くということに唖然としています。
課題その7:発達障害を持っている子どもへの対応
近年は発達障害という言葉が一般的になってきました。発達障害は様々な要因が考えられています。あれこの子ちょっとおかしいなと感じてもまだ2歳だったりすると、それが個性や性格によるものなのか発達障害と名前がつくのかまだ判別がつきません。3歳半検診などで言われたりするようですが、言い方は不適切かと思いますが所謂「普通の子」に比べて特別に配慮を必要とすることもあります。
保育士は言葉かけをわかりやすくしたり、次の行動の見通しを立てやすいように絵で次の行動がわかるような表を作るなどしてその子が保育園で生活する上で生活しやすい環境を整えたりする必要があります。
また近年は保健師が保育園と連携して発達障害と思われる子ども、グレーゾーンの子どもを含めて一緒にその子の能力を引き出すように、普段の生活で困らないように指導、支援していくことになっています。
診断がついている子どもについては保護者と面談を定期的にして、現在の家での様子を聞いたり、保育園でこうしてほしいという要望を聞いたり、保育士の所見を話して、現在はここまでできているので、今度はこういうところを課題にして、こういう風に声かけをしたり取り組んでいきたいと思いますと、家庭と保育士が連携をしてその子が生きやすいように基本的な習慣が身についたり、自分の要望を言葉で伝えたりできるように支援していきます。その子にとっては家ではこうだけど、保育園では違うな、など家庭と保育園で対応が違うと子どもが戸惑ってしまうので、家庭と保育園が同じ意識を共有して同じように対応していく必要があります。
そういう意味からも面談をして共通認識のもとでその子を暖かく支援していくことについて話し合います。専門家集団(保育士、保健師、医師、児童相談所など)が連携することによって、その子とその家庭を支えるシステムになっています。
1人で特に発達障害を持つ子どもを育てるのは大変だと思います。入園の時にひどく思いつめていた様子のお母さんも保育園生活が始まり、その子ができることが増え、お母さんお父さんの育児の負担が減り迎えの時に話していても笑顔で話してくれるようになりました。保育士はやはり保育のプロであると見られています。発達についてより専門なのは保健師かと思いますが、保育士も発達に関する知識や専門性を身につけ、保育の質の向上を目指していくのがよいと思います。
まとめ
保育の質が問われる時代になっています。それを確保するためには保育士の負担を軽減し給料を増やすことが必要だと思います。あと月額2万円でも給料が増えるといいのにというのが現場で働く保育士からの望みです(2万円給料が上がっても平均よりは低い年収です)。保育士が幸せであれば関わり方も優しくなったりするので、子どもたちも元気いっぱいに楽しい保育園生活を送ってくれると信じています。
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