はじめに – 日本の借金とは?
日本の借金は1000兆円を突破していて、このまま借金が増え続けると日本が財政破綻すると言われることがあります。
このような「日本の借金問題」は昔から言われていることであり、少なくとも1980年代以降、政府債務は右肩上がりで増え続けています。
しかし、厚生労働省の大学等卒業予定者の就職内定状況調査によると2018年卒の大学生の就職内定率は91.2%で1997年の調査開始以来最高の内定率を記録していると言われており、日本の財政は破綻するどころか景気が良いとさえ言えます。
いつか破綻するかもしれないと言われている日本政府の財政状態について本当はどのようになっているのでしょうか。本記事では日本の借金問題について考察を行います。
借金の金額ではなく、資産とのバランスが重要だ
まずは日本の借金は本当に1000兆円なのかということについて検証します。
お金が回っている限り政府の家計も破綻しない
例えば、持ち家を購入して数年しか経っていない家庭はおそらく家のローンとして数千万円の借金を抱えているでしょう。
しかし、給料が貰えてローンが返せている限り、借金によって家を取り上げられることもなければ、借金で首が回らなくなることもないでしょう。手元にお金があって、きちんとお金を払っている限り借金があっても問題ないのです。
つまり、保有している資産の方が借金より多ければ問題ありませんし、支払うべきお金がきちんと支払えるのなら資産よりも借金が多くても破綻する可能性は限りなく、なくなります。
政府についても同様のことが言えます。資産と借金のバランスで財政状態を考えるべきでしょう。ちなみに、会社は年に1回この資産と借金の一覧表を税務署に提出することが義務付けられており、この表のことを「バランスシート」と呼びます。日本政府のバランスシートは毎年財務省が公表しています。
日本のバランスシートの中身
2018年3月に発表された独立行政法人なども合わせた日本政府の連結バランスシートによると、資産約986兆円に対して、借金に相当する負債が約1470兆円、差引約484兆円が債務超過となっています。
よく言われる、借金1000兆円というのは政府短期証券や公債など負債の一部を足した値で、日本全体で見れば借金は差引約484兆円ということになります。
詳しくは以下のURLから閲覧してください
▼平成28年度連結財務書類(181ページ)
https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2016/national/fy2016renketsu.pdf
日銀が保有している国債は相殺可能か?
日本の借金は実は1000兆円ではなくて、実質的には500兆円だとしても借金自体があること自体が問題だと考えられます。借金の中身について内容をみていきましょう。
借金の半分以上は国債
まず、負債約1470兆円のうち半分以上にあたる約825兆円は公債となっています。ここでいう公債とは国債のことを指しています。国債とは国が発行する借金の証書のようなもので国債を購入した人は、国債毎に決められた期間政府にお金を貸して利子を受け取ることができます。
誰から政府はお金を借りているのか
政府の借金の半分以上が国債ならば、その国債を誰が持っているかということは非常に重要です。一般論として国債は銀行・生保・証券などの金融機関が入札で購入してそれを機関投資家や個人投資家に販売しています。ただし、日本の場合は国債の半分程度を日本銀行が引き受けています。
2018年5月末現在、日本銀行は約459兆円の国債を引き受けています。先ほど政府の連結バランスシートについて説明しましたが、この表には日銀の情報が含まれていないのです。
親会社子会社間での連結決算の必要性について
少し話は変わりますが、バランスシートを評価する上で重要なのが、子会社との連結でバランスシートを作ることです。企業会計の場合、親会社・子会社を含めて関係している会社すべてを合わせて財務諸表をつくる連結決算という手法が使われます。
連結された財務諸表で評価しないと、その企業の能力は測ることができません。例えば親会社から子会社に1億円の借金をしていたとしても親会社と子会社の中で取引をしているだけなので、外部の企業には影響がありません。親会社と子会社の間で借金を返さなくても良いという約束がなされていれば、いつまでも借り続けることができるのです。
このように、親会社子会社間の外部に関係ないお金のやり取りの影響をバランスシートから減らすために連結決算が行われるのです。
日銀が政府のバランスシートに連結するとどうなるか
政府の連結バランスシートには独立行政法人を含めて政府関係機関の財務データが含まれていますが、先ほど説明した通り日銀の財務データは含まれていません。
仮に、日銀まで政府のバランスシートに含めると、約825兆円の国債のうち約459兆円は日銀が持っているのでこれを相殺して、政府日銀連結での国債は約361兆円になり、資産から負債を差し引いた実質的な政府の借金はほとんどなくなります。
ノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツが2017年に来日して経済財政諮問会議に出席したときに、これと同様の趣旨の発言を行っています。スティグリッツによれば、政府・日銀が保有する国債を相殺すれば日本政府の債務は一瞬で減少して不安が和らぐと指摘しています。
「統合政府」に関わる論争
ちなみに、政府と日銀を連結して一体的な機関と見なす考え方を「統合政府」と呼びます。統合政府の考え方によれば政府-日銀間の国債は相殺可能です、そうなれば日本政府の借金はほとんど存在しないということになります。
この統合政府という考え方が妥当か否かは現在論争になっています。統合政府を支持する側としては日銀の資本金の55%は政府が出資しており、日銀総裁の人事は議会の承認を得て内閣が任命することになっているので実質的に政府のコントロール下にあると言えるという主張がなされます。
一方で、日銀には金融政策を安定させるために政府からの独立性が認められており、日銀は政府のコントロール下には無いし、するべきではないという反論がなされることがあります。また日銀の負債の大半は銀行から預かっている預金ですが、政府・日銀間の国債を相殺すると、預金に対応する資産を用意するために紙幣を大量に発行しなければならないけれども、そんなことをすればインフレになるという批判があります。
日本の借金は大丈夫なのか – 国債とインフレについて
日本の借金について考える際には国債が重要で特に日銀の保有している国債がポイントなのは上で説明したとおりですが、結局日本の借金は大丈夫なのでしょうか。
自国通貨建ての国債で財政破綻する可能性は低い
まず、ポイントとなるのが自国通貨建ての国債では財政破綻する可能性は低いという点です。
その理由ですが、日本の国債のほとんどは円建てで発行されていて国内の金融機関や投資家が引き受けています。この状態で借金が返せなくなるということはありません。
仮に財源がなくても政府が日銀に国債を引き受けてもらい、その分の紙幣を日銀が印刷して国内の金融機関や投資家に返済することが可能だからです。
つまり、円建てで返済しなければならないのなら、足りなくなれば円を印刷すれば良いだけなので、その前提であれば、いくら国債を発行しても財政破綻する可能性は低いという考えにいたります。
近年ではギリシャが財政破綻しましたが、日本では同じような状況で破綻が起こるという可能性は低いと考えられます。ギリシャの通貨はユーロで、ギリシャ自身が通貨の量をコントロールすることができませんでした。よって国債の返済が厳しくなっても紙幣を印刷することができなかったので財政破綻してしまったのです。
日銀の国債の相殺・紙幣の発行によりインフレは発生するのか?
いざとなったら紙幣をすれば良いのですが、もちろん紙幣の供給量を増やすことにはリスクもあります。
足りなくなればすぐ紙幣を印刷するならば、紙幣や国債に対する信用は低下してしまいます。すなわち、インフレになったり、国債の引き受け手がいなくなってしまうのです。
しかし、日本の場合は長い間デフレに悩んでいます。デフレとはインフレの逆でお金の価値がだんだん高くなっている状態です。デフレになると人々は商品を購入せずにお金が貯め込まれるので経済成長しません。国家として良いのは無理なく経済成長できる緩やかなインフレ状態で日本もデフレを脱却してゆるやかなインフレ状態を目指しています。
日本では政権交代以降、目標として消費者物価指数2.0%上昇を目標として異次元の金融緩和と呼ばれるインフレ政策を行ってきました。例えば、マイナス金利政策として民間の金融機関の日銀への預金の金利をマイナスにして、日銀に預けずに民間銀行から色々な会社や個人にお金が回るようにしました。
しかし、未だに目標の2.0%は達成できていません。仮に消費税が増税となるとますます買い控えが発生するのでデフレ傾向になることが予想されます。むしろ、コントロールできる範囲で積極的にインフレになる政策を打つべきだと言えます。
まとめ
以上のように、日本の借金について説明してきました。日本の借金は1000兆円を超えていつか財政破綻してしまうと言われていますが、1000兆円は政府の負債の一部のことを指し、実質的な日本の借金は約500兆円で、しかも日銀が保有している国債を相殺することができれば日本の借金はほとんどないということになります。しかも、円建てで借りているので、返済原資が無くなれば円を印刷すれば良いだけです。
日銀の保有している国債を相殺したり、円を印刷すればインフレの発生が懸念されますが、むしろ日本では適度なインフレ状態になることが望まれています。
以上のようなことを加味すると、日本の財政状態は決して悪いとは言えません。業務の効率化などにより人員削減は発生するかもしれませんが、国家公務員の志望者は日本の財政が破綻するかもしれないと心配することはありません。
ただし、地方公務員は話が別です。地方自治体は円建てで地方債を発行していますし、経済破綻しそうになったり、地方債が返せなくなっても、自分でお札を刷って危機を回避することはできません。つまり、地方自治体は破綻する可能性があるのです。
本記事中で紹介した政府の連結バランスシートのように各自治体もバランスシートを制作しているはずなので志望している自治体はどのような財務状態なのか分析してみてください。
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