民間企業と国の人事交流「官民人事交流制度」とは?
「官民人事交流制度」とは、一定期間、国家公務員が民間企業に従業員として出向するか、民間企業の従業員が国家公務員として中央省庁など国の期間で働くことができる制度です。
人事院によると、「めまぐるしく変化する社会に対応し、国を発展させるためには、民間企業と国の機関がそれぞれの役割を果たした上で、ともに連携していくことが欠かせない」という観点から、人事交流制度は生まれたようです。
この「官民人事交流制度」は「民間と国との相互理解を深めるため」と「双方の組織の活性化と人材育成を図るため」に実施されています。
そもそも「官民人事交流制度」は平成12年(2000年)からスタートされ、現在、平成30年(2018年)12月までに約680社が利用していると発表されています。
「官民人事交流制度」のしくみ
「官民人事交流制度」には国が民間企業に職員を一定期間派遣する「交流派遣」と、民間企業の職員を国家公務員として一定期間採用する「交流採用」の2種類があります。
民間企業は「交流派遣」と「交流採用」の双方向の利用もできますが、どちらか一方を利用することもできます。
交流する本人は、交流中は派遣先・採用先の業務に専念しますが、交流期間終了後は基本的に、派遣元の業務に復帰します。
「交流派遣」の概要について
「官民人事交流制度」のうち、国の職員が民間企業に派遣される「交流派遣」についてご説明します。
「交流派遣」では、交流する本人の身分は、元の「国家公務員」としての身分を保有したまま「民間企業の従業員」となります。「交流派遣」の実施期間は3年以内、最長5年まで延長することもできるようです。
また、賃金については民間企業が支給します。そのほか手当などの処遇については、年金と雇用保険を除いた、民間企業の従業員に適用される諸制度が適用されます。
「交流採用」の概要について
「官民人事交流制度」のうち、民間企業の従業員が国の機関に「常勤の国家公務員」として採用される「交流採用」についてご説明します。
「交流採用」では、交流する本人の身分は民間企業の従業員から「国の正規職員」となります。民間企業については「在籍出向」といって、雇用を継続することもできますが、一度退職するケースもあります。
任期は通常3年以内、最長で5年まで延長ができるようです。給与については国が負担し、期間中、民間企業から支給・補填することはできません。そのほか手当などの処遇については、国家公務員に適用される諸制度の利用が可能です。
「官民人事交流制度」の手続きの流れ
「官民人事交流制度」では「人事院」が交流を希望する府省庁、その他機関ごとに公募情報を発信しています。
「官民人事交流制度」では、国の公募に対して企業が応募し、計画を認定されることで成立します。「交流派遣」と「交流採用」それぞれの手続きの流れについてご紹介します。
「交流派遣」の手続き
「交流派遣」では、まず人事院の公募に対し、民間企業の人事担当者などが応募します。応募があった企業について人事院は名簿にまとめ、応募先の府省等に提出します。そして各府省が民間企業と具体的に協議し、人事交流の計画を「作成」します。
人事交流の計画は人事院に提出され、人事院が内容を確認し、認定します。認定後、労働条件など具体的に取り決めを締結し、交流派遣職員が民間企業と労働契約を結んだ上で、実際の業務に従事することができます。
「交流採用」の手続き
「交流採用」でも、交流派遣と同じように、民間企業が人事院が発表している公募に応募します。そして、人事院は応募があった民間企業の名簿を各府省に提出し、各府省は民間企業とともに人事交流の「計画」を作成します。
人事院が計画を認定した後は、従業員が民間企業を1度退職する「退職型」と、民間企業での雇用を継続したまま国に採用される「雇用継続型」のそれぞれで手続きが異なります。
「退職型」では、各府省が人事交流による任期満了後の従業員の再雇用について、民間企業との間で取決めを締結します。その後従業員が民間企業を退職してから、国の業務に従事します。そして任期満了後は民間企業に再雇用されます。
「雇用継続型」では、各府省が人事交流の任期中の雇用や、任期満了後の雇用について民間企業と協議し、取決めを締結します。その後、従業員は国の業務に定められた機関従事し、任期満了後は民間企業に復帰します。
これまでの「官民人事交流制度」の事例
人事院によると、平成30年までに「官民人事交流制度」の「交流派遣」で派遣されたのは626人、「交流採用」されたのは2031人で、国から民間企業に派遣された人よりも、民間企業から国に採用された人の方が3倍以上多くなっているようです。
平成30年度に最も「交流派遣」を行った府省庁は、7名を派遣した「厚生労働省」でした。そして、平成30年度に最も「交流採用」で民間からの職員を受け入れた府省庁は、77名を採用した「国土交通省」でした。
民間企業について業種別の実績を見てみると,平成30年度で最も「交流派遣」を受け入れた業種は10名の「製造業」、「交流採用」に最も多くの従業員を送り出したのが、「金融業・保険業」で合計77名でした。
「交流派遣」の事例
「官民人事交流制度」の平成30年度の報告書をもとに、「交流派遣」の事例をご紹介します。「内閣官房→株式会社ニコン」に派遣された職員は、ニコンで特殊光学機器の開発・設計に関する業務にあたっているようです。
そのほか「金融庁→株式会社日本人材機構」、「内閣府→東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)」、「警察庁→エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社」、「経済産業省→株式会社群馬銀行」「総務省→ヤフー株式会社」「厚生労働省→日本航空株式会社」などの事例があります。
元々、国営企業に由来を持つような企業の事例が目立ちます。また、各業界を牽引するような大手企業も多いようです。
「交流採用」の事例
「官民人事交流制度」の平成30年度の報告書によると、「交流採用」を利用した企業の職員には、「三菱商事株式会社→外務省」「日本マイクロソフト社→厚生労働省」「株式会社日立製作所→文部科学省」「株式会社アシックス→スポーツ庁」「旭化成株式会社→特許庁」などの事例がありました。
上記はほんの一例であり、多種多様な企業から各府省庁へ採用されており、人事交流が行われています。
まとめ
このページでは「官民人事交流制度」についてご紹介しました。この制度は日本のトップ行政機関に所属する国家公務員と、日本のトップ企業の優秀な人材をそれぞれの組織に迎え入れて人事交流させる試みですが、その交流実績にはそうそうたる企業が名を連ねています。
民間企業の社員にとって、国家公務員として働くという経験は普通はできませんし、反対に国家公務員が民間企業のことを身をもって体験し知る機会は、今後の政策立案などの業務にとってもとても貴重な経験だと言えます。
公務員に憧れていたけれど、民間企業に就職したという方も、もしかしたら今の会社から2~3年、国家公務員として出向できるチャンスがあるかもしれません。
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