【公務員の志望者3年連続減少】公務員を目指すなら今がねらい目なのか

2019年現在、国家公務員の志望者は3年連続で減少しています。日本国憲法で「国民全体の奉仕者」と規定されている国家公務員。本記事では、その減少についての状況や原因について考察しました。


はじめに

2019年度の国家公務員採用試験の一般職(大卒程度)の受験者は29,893人で、前年度から11%減少して、3年連続マイナス、初めて30,000人を下回りました。

国家公務員の志望者はなぜ減少したのか、これからも減少し続けるのでしょうか。国家公務員志望者の減少という切り口から、公務員の今後について考察します。

(本稿は事実をもとに筆者の考えをまとめたものであり、本メディアの意見と必ずしも一致するものではありません。)

公務員の志望者数は減少している?

近年、就活する学生の民間志向が強くなっているせいか、公務員の志望者が減少していると言われています。冒頭で説明した通り、2019年度の国家公務員試験の受験者は11%も減少しています。

国家公務員試験の受験者の推移

公務員志望者の減少は2019年度だけではなく、近年国家公務員の志望者は一貫して減少傾向にあります。人事院の年次報告書を元に近年の一般職試験(大卒程度試験)の申込者と倍率を示したのが下の表です。

参考URL)https://www.jinji.go.jp/hakusho/

60,000人から70,000人で推移していた試験申込者が2006年度を境に50,000人以下まで減少し、合格率も10倍前後から直近は4~5倍になっています。報道によれば2019年度は試験申込者が30,000人を割っているので、さらに倍率が低くなることが予想されます。

地方公務員の志望者も減少している

国家公務員だけではなく、地方公務員の志望者数も減少傾向にあります。都道府県の大学卒業程度試験の受験者数と倍率は以下のように推移しています。

http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/index.html

年度によってばらつきはありますが、過去13年間で受験者数がピークだった2011年と比較すると30%程度申込者が少なくなっています。倍率も2005年最盛期の10.0倍から5.6倍まで低くなっています。

なぜ公務員の申込者が減少、倍率が低くなっているのか?

国家公務員、地方公務員共に受験申込者、倍率共に低くなっています。つまり、公務員の志望者が減少しており、公務員になれる確率が高まっているということです。

なぜ、受験申込者、倍率ともに低くなっているのでしょうか。

民間の採用が好調だと公務員の採用倍率は低下する

民間の採用倍率が好調だと公務員の採用倍率は低下する傾向にあります。


例えば、国家公務員の採用倍率は2008年度には6.7倍まで低下していましたが、2008年9月にリーマンショックが発生し減少傾向だった倍率が反転、2012年度には13.7倍まで競争倍率が高まりました。そこから自民党に政権交代が発生した2013年度には景気が回復し、競争倍率は一気に6.0倍まで低下しました。

今もなお民間の採用意欲が旺盛なため、公務員の競争倍率は低くなる傾向あります。公務員就職を狙うならばねらい目の時期だと言えます。

公務員の仕事に対するイメージの変化

もう1つの理由は公務員の仕事に対するイメージの変化があります。昔は公務員と言えば、民間企業よりも安定して高給で、仕事が楽だというイメージがあり、安定志向の就活者に人気でした。

しかし、メディアによる公務員批判や地方自治体の人件費の削減などによって、公務員の仕事と言えば、大変な割に給料が少ないというイメージが定着しつつあります。民間企業の中にもまったり働けて厚遇の企業もあるので、そちらに安定志向の就活者は流れている傾向があります。

「安定志向」の人間が公務員試験から離脱しつつある?

以上の理由から推測すると、公務員試験から「安定志向」の人間が離脱しつつあるのではないかと考えられます。

公務員の仕事は安い割にきついというイメージが持たれつつあり、民間の企業だけれどもまったりと高給の企業もたくさん存在するので、安定志向の就活者は民間就活に移行し、「公務員」という仕事自体に魅力を感じて試験に応募している人の割合が相対的に高くなっていると考えられます。

倍率が減少すると公務員試験の難易度はどのように変化するのか

公務員という仕事に魅力を感じ、意識の高い就活者だけが公務員を狙っているとすると、倍率が低くなっている割に試験の難易度自体はそれほど低下していないとも考えられます。

倍率が減少することによって、公務員試験の難易度はどのように変化しているのでしょうか。

ポイントは1次試験(筆記)にあり

公務員試験は大きく分けて、筆記で受験者の能力を試す1次試験、グループワークや面接などによって個人の資質を見る2次試験に分類できます。

大抵の場合は、1次試験の倍率が高く多くの受験者がふるい落とされます。そして、2次試験に進むことができれば倍率は低くなり、合格する可能性が一気に高まります。よって、公務員試験に合格するのならば1次試験を突破することがポイントになります。

申込者が少なくなると、1次試験が有利になる?

申込者が減少する事によって、受験者が恩恵を受けやすいのが1次試験を突破しやすくなることです。1次試験は「●●点以上だと合格」という絶対評価ではなく、採用枠を勘案して、「上位●●人を合格させる」という相対評価なので、申込者が少なくなるとそれだけ1次試験が有利になります。
面接に割けるリソースが限られているので、倍率が高いと1次試験で一気に落とし、2次試験以降の受験者数は年度に関わらずあまり変化がないと考えて良いでしょう。

受験者の質はどのように変化するのか

理論的には1次試験の合格率が高くなるとして、受験者の質はどのように変化するのでしょうか。おそらく記念受験でなんとなく受けるライトな受験者と、能力は高いけれども公務員という仕事自体に興味があるわけではなく自分の能力を高く売りたい受験者が少なくなると考えられます。

1次試験の出題範囲は広く、なんとなく記念受験をしている人は突破が困難なので、倍率が高い低いに関わらず、しっかりと公務員試験対策をしている人にとってはライバルとなりえないでしょう。よって、この層は倍率がいくら増えたり、減ったりしても、しっかり勉強している人の合否には影響しないと考えられます。

ポイントになるのは「能力は高いけれども仕事自体に興味があるわけではなく自分の能力を高く売りたい受験者」がどの位減少しているかです。この層は公務員用の受験対策をしなくても地力だけでも筆記試験で高得点を獲得する可能性があります。

この層は公務員という仕事が人気のときは厄介です。この層が試験で高い点数を獲得すれば公務員になりたくて試験対策をしてきた人の合格者枠を奪ってしまうからです。


昨今の公務員志望者の減少によりこの層の受験者が減少していることは、公務員志望者にとって有利だと言えます。

2次試験以降の難易度はおそらく変わらない

2次試験以降の難易度は、倍率に関わらずそれほど変化しないと考えられます。記念受験者層は1次試験でほとんど落とされているので、公務員試験志望者と公務員自体に興味はないけれども能力の高い受験者がおそらく2次試験を争うことになるでしょう。

そして、能力がただ単に高い人よりも、公務員になりたいという意欲が強い人の方が二次試験では有利です。面接では志望動機や受験している自治体などへの思いを聞かれる機会が多いと考えられので、ただ単に能力が高いだけでは本当に公務員になりたい人にはかなわないからです。

「志望者数」や「倍率」という数字に振り回されない

志望者数や倍率が減少しているということで、「公務員になりやすくなって良かった」「公務員は人気が無くて良い仕事じゃなくなった」と色々な感想を持たれるかもしれませんが、志望者数や倍率が変化しても、採用されてから行う仕事自体は変化しないはずです。

「志望者数」や「倍率」は公務員になるための入り口かつ数か月のことであって、公務員になってから定年退職まで30年~40年は働き続けなければなりません。

むしろ、重要なのは「公務員になりやすいか」「待遇が良いのか」ということではなく、自分が公務員という仕事に興味を持てるかということのはずです。

親世代の公務員バイアス

「公務員になれば安泰だ」という価値観を持っている親世代は多いです。公務員人気が一番高かったのはバブル崩壊以降の就活氷河期です。

就活氷河期とは1990年代半ばから2000年代に前半の景気が悪く新卒でも就活に苦労した時代のことを指し、1995年に新卒として就活をしていた方は40代半ば、つまり新卒で就職している人の親か少し下の世代のことを指します。

不思議と就活していたときの業界間、職業観はビジネスマンとして経験を積んで、時代が変わっても変化しないことが多いです。ちなみに就職氷河期の少し上の世代は銀行神話があり、銀行に就職すれば将来安泰であると考える人もたくさんいました。銀行(特に地銀、信用金庫)が現在どのような状況になっているかは言うまでもありません。

危険なのは親世代に進められたのを鵜呑みにして公務員になることです。新卒者の親世代は就職氷河期の経験から公務員という仕事が民間よりも安定しているというバイアスを抱きがちです。

30年~40年後のことは誰も分からない

30年~40年後のことは誰にもわかりませんし、おそらく現在就活をしている20代の方が肌感覚として、どうなるかを予想しやすいはずです。

また不景気になれば公務員の仕事が相対的に民間よりも待遇が良くなって倍率が高くなるかもしれませんし、逆に自治体を維持するために人件費の抑制に取り組む自治体が増えてさらに倍率が低くなるかもしれません。

40年も働き続ければ、どの業界・職種でも良い時、悪い時の波を経験するはずなので、仕事に愛着を持てるかというのは非常に重要です。

真剣に公務員になりたい人にとって倍率、応募者数はあまり関係ない

国家公務員総合職のように公務員試験の中でも最高難易度の試験を除けば、真剣に公務員になりたいと思って勉強すれば倍率も応募者もあまり問題にはなりません。

1次試験は出題範囲が広いと言ってもそれほど難しいわけではないので、きちんと熱意さえ持って勉強すれば誰でも合格できますし、2次試験以降は人物重視になるので公務員という仕事に熱意を持っている人の方が採用されやすいからです。

応募者の増減のほとんどは、あわよくば公務員になりたい記念受験者層と待遇が良い職業に就きたいという層なので、これらの層がどれだけ増減しても、真剣に公務員を目指している人に対する影響は軽微だからです。

むしろ、公務員になりたいというモチベーションを保つこと、採用されてからも仕事に対するモチベーションを保ち続けることの方が公務員志望者にとっては重要です。

まとめ

以上のように、公務員の志望者が減少している事実と、公務員試験にはどのような影響があるのかについて考察しました。

公務員志望者は国家、地方ともに減少しており、それに伴い倍率も低くなっています。記念で公務員受験をしたライトな層はいくら減少しても試験に影響はありませんが、自分の能力を高く売って良い職場で働きたいという層が減少したことは、公務員志望者にとって良いことです。


ただし、国家公務員総合職のような一部の高難易度試験を除いて、公務員の筆記試験はきちんと対策によって合格への道は開かれやすいといわれています。倍率の変化は実は真剣に公務員を目指す人にとってあまり影響がないという見方もできます。

重要なのは、公務員になりたいというモチベーションをどのように保ち試験に臨み、採用された後もモチベーション高く働き続けられるかではないでしょうか。

本記事は、2019年9月3日時点調査または公開された情報です。
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