観光スポットとして地域を盛り上げる!博物館類似施設のスタッフの仕事内容

地方公務員である学芸員と類似して地方公務員が委託したり、働いたりする可能性もある「博物館類似施設」で働くことについて解説します。ちなみに「博物館類似施設」というのは、博物館法の適用外ですが、博物館と類似すると考えられる施設のことです。


博物館とは違う!博物館類似施設とは?

博物館は公共機関として分類すると社会教育施設に当てはまります。
さまざまなモノを収集して調査・研究し、展示して人に見せることによって教育に寄与する施設です。

しかし、一般的に博物館と考えられている施設のすべてが社会教育を目的としているわけではありません。博物館法の規定に該当しない「博物館類似施設」の目的はそれぞれで、なかには観光資源として地域の活性化に役立つ博物館も数多くあります。

今回はそんな「博物館類似施設」のスタッフの仕事内容をご紹介しながら、博物館という施設のあり方と勤めるスタッフについてご紹介します。

公務員志望者が博物館類似施設について知っておく意義

博物館は「博物館法」を基準に分類すると、大きく3つの種類があります。

「登録博物館」と「博物館相当施設」、そして「博物館類似施設」です。簡単に説明すると以下のようになります。

1)「登録博物館」:博物館法に決められた要件を満たし、教育委員会に登録している施設。
2)「博物館相当施設」:博物館法の要件を満たしてはいないが、博物館に相当すると認められて指定された施設。
3)「博物館類似施設」:博物館法の適用外だが、博物館と類似すると考えられる施設。

一般的に公務員として配属される博物館は「登録博物館」もしくは「博物館相当施設」です。

では、そもそも、公務員を志す方にとって「博物館類似施設」について情報を押さえておく必要性はあるのでしょうか。

たしかに「博物館類似施設」のすべてが民間業者によって運営されているのであれば、公務員として働く場面はほぼないでしょう。

しかし、実際には『博物館類似施設」の約24.7%におよぶ1,096件は、指定管理者制度を利用し行政から民間組織に委託されて運営されています。つまりまったく無関係ではないのです。さらに、国もしくは独立行政法人が管理主体になる施設も約3.7%(168件)存在します。

(出典:e-Stat政府統計の総合窓口「博物館調査(博物館類似施設)」

出典
e-Stat政府統計の総合窓口「博物館調査(博物館類似施設)」

そのため、公務員として「博物館類似施設」に勤めたり、出張したり、深く関わったりする可能性も大いにあるのです。


また、現在の博物館は入館者数の減少が問題視されていることも多く、民間と同じ経営手腕が必要とされる場合もあります。

ですから、「登録博物館および博物館相当施設」とは違う価値観や経営方針で運営されている「博物館類似施設」について知っておくことは、公務員志望者にとって決して無駄にはなりません。

それでは、博物館の社会的な役割から順にご案内していきます。

博物館の社会的な役割

昭和26年に制定された「博物館法」には、博物館について以下のように定めています。

第二条 この法律において「博物館」とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関(社会教育法による公民館及び図書館法 (昭和二十五年法律第百十八号)による図書館を除く。)のうち、地方公共団体、一般社団法人若しくは一般財団法人、宗教法人又は政令で定めるその他の法人(独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。第二十九条において同じ。)を除く。)が設置するもので次章の規定による登録を受けたものをいう。

出典
博物館法第二条「定義」

この条文の前半部分で解説されている博物館に求められる機能を分かりやすくまとめてみると以下のようになるでしょう。

・さまざまな資料を収集、保管、展示して、一般市民が利用できるようにすること。
・一般市民が学習したり、調査研究したり、レクリエーションをするために役立つ事業を行うこと。
・収集した資料を調査研究すること。

つまり博物館の目的は、あくまでも資料の展示を通して一般市民の知的活動を促しサポートすることです。
研究機関としての機能もありますが、調査研究は資料を正しく分析し、展示という形で一般市民に向けて情報を公開するために行うもので、科学や学問の発展のためにある一般の研究施設とはやや性質が異なります。

博物館は一般市民の教育と知的活動を補佐する社会教育施設なのです。

登録博物館と博物館類似施設の違い

前述した博物館法第二条には、次のように結ばれています。

・この法律において「博物館」とは(中略)次章の規定による登録を受けたものをいう。

つまり、博物館法に規定される博物館とは、登録されていなくてはならないのです。
その登録を行うには、以下の条件をクリアする必要があります。

・必要な博物館資料があること。
・学芸員その他の職員を有すること。
・必要な建物及び土地があること。
・一年を通じて百五十日以上開館すること。

出典
博物館法第十二条「登録要件の審査」

この条件を満たした施設が、所在地の都道府県もしくは政令指定都市の教育委員会に申請して、審査を通るとはれて博物館として登録されます。

この手続きを経た施設を「登録博物館」といいます。

また、要件を満たしてはいなくても、文部科学大臣もしくは都道府県の教育委員会が指定した施設は「博物館相当施設」として、博物館法の規定する博物館扱いとなります。

では実際にすべての博物館が「登録博物館」もしくは「博物館相当施設」になっているかというと、そうではありません。


博物館法の適用外ですが、博物館と同じような機能を持っている施設は「博物館類似施設」と称されます。実は、この「博物館類似施設」のほうが「登録博物館および博物館相当施設」よりも多いのです。

社会教育調査によると平成27年10月1日現在で「博物館類似施設」は4,434館ですが、「登録博物館」は895館、「博物館相当施設」は361館、合計1,256館となっています。

(データについて出典:e-Stat政府統計の総合窓口「博物館調査(博物館類似施設)」

博物館類似施設の数は、博物館法に定められた博物館の約3.5倍におよびます。しかも博物館法の適用外ですから、社会教育を第一目的にする必要はありません。

それぞれの管理主体の目的に応じた運営方針が採用されるのです。

博物館類似施設の目的とは

博物館類似施設は特に規定がないため、乱暴な言い方をすれば「なんとなく博物館っぽい」施設でも該当してしまいます。

当然ですがその目的も幅広いものです。

「民間企業の広告塔として」や「企業や組織の資料館として」からはじまり、「個人の収集物の公開」だったり、地域活性化や企業の営業・集客のためと様々です。

博物館類似施設も資料を展示していますから社会教育施設としての機能もありますが、第一目的は主に利潤の追求といえます。つまり民間企業と同じです。

故に社会教育という公共の福祉を目的とする博物館法の「登録博物館および博物館相当施設」とは、明確に業務内容に差があります。

それでは、その一例として、観光施設型の博物館類似施設の業務内容を見てみましょう。

博物館類似施設の実例:観光施設型博物館のスタッフの仕事内容

観光施設型の博物館はアミューズメントパークのようなものですから、そのスタッフの業務内容は接客販売が中心になります。

私が勤めていた博物館は個人収集物の展示を行っていた民間美術館で、事業規模は小さく運営スタッフは最小限でした。よってスタッフは全員、ほとんどの業務ができるように教育されていました。

・入館受付、チケット販売業務。
・館内展示作品の案内および監視業務。
・ミュージアムショップの接客販売業務
・小イベントの企画運営。
・電話受付や予約管理、経理、文書管理など一般事務。
・近くの公共交通機関までの送迎業務。
・館内外の清掃業務。
・展示品の管理、保管業務。
・内外の営業および広告宣伝業務。

もちろん、スタッフそれぞれ得手不得手がありますのでお互いに助け合いますが、基本的にはすべての業務に関わります。

たとえば専属の学芸員はおりませんが、その代わりにスタッフ全員が展示作品について学習し、来館者の案内や質問に応じることができました。

展示内容に関連した小さなイベントも、スタッフの手作りです。来館者はほぼ観光客ですから、社会教育的なイベントではなく、いかにして「行ってみたい」と興味を持ってもらえるかが一番の悩みどころでした。

スタッフにとってもっとも重要な業務はミュージアムショップでの接客販売です。入館料が基本的な収益源ですが、売店の売上が高くなれば利益率は格段に変わります。

ノルマこそ無いものの1日の売上実績の確認や売上向上を目指した情報共有は積極的に行われていました。ときには熱心にセールストークをしすぎて、来館者から「声掛けが露骨過ぎる」といった意見が寄せられたこともあります。


来館した観光業者への内勤営業、周辺の旅館・ホテルや同業の観光施設への外勤営業もスタッフの重要な仕事です。

特に来館する観光業者と懇意になればツアーに加えてもらえる機会も増えますから、内勤営業には力を入れていました。

インターネット上の情報宣伝も大切です。

予算が少ないために外部業者にサイト作成の依頼はできませんでしたので、スタッフが独学でHTMLを覚え、タグ打ちしてホームページを作成していました。

ホームページに掲載した割引券の利用者は全入館者数の1割程度に達していたので、馬鹿にできません。SEOについても手探りでしたから、上位表示できたときは皆で喜んだものです。

博物館や展示作品の管理・保管も全員で行いました。特に展示作品は毎日念入りにチェックし、報告を行います。
このようなことを述べると失礼かもしれませんが、一般の博物館と比べてはるかに観光客が多い観光施設型博物館では、館内展示物への配慮に欠ける客も多く、展示作品にいたずらされた事件もありました。さりげない監視もスタッフの業務です。

このように小規模の観光施設型博物館のスタッフは、施設を運営するために必要な業務のほとんどに関わります。

また、目的意識も社会教育ではなく、いかに来館者や観光業者をもてなしてリピーターを増やすか、いかにミュージアムショップでの売上を伸ばすか、といった利益率の向上がすべてです。

観光施設型博物館の1日

それでは、観光施設型博物館で働く1日のイメージをご紹介します。

8:00 出勤。玄関および駐車場の清掃。展示品のチェック。受付準備。朝礼。
8:30 開館。受付、展示案内、売店での接客販売。空き時間に一般事務やWeb管理。交代で外勤営業もあり。
11:30 交代で昼食。
13:00 午前と同じく接客および事務。
16:00 館内清掃および展示品チェック。
16:30 1日の売上算出。売上管理表記入。
17:00 閉館。戸締まり確認。売上データのPC入力。翌日の朝礼用報告文の作成。自社サイトやSNS更新。
18:00 退社。

出勤したらまず全員で駐車場と玄関の清掃を行います。季節や天候によっては落ち葉のような自然ゴミが多いので、できるだけ手早くきれいにします。

館内および展示品のチェックと、受付準備が終わったら朝礼です。予約団体の到着時間と人数を把握し、誘導や案内の手順を話し合います。また、新入荷した売店商品について、セールスポイントや値段など情報を共有しておきます。

開館後は来館者の動きにあわせて、受付と展示案内、売店の接客販売を交代で行います。
飛び入りの団体が来ることも多いので、常にスタッフ同士でコミュニケーションを取りながら臨機応変に立ち回らなくてはなりません。

電話での問い合わせや予約もありますから、随時対応します。

お客様が少ないときは、バックヤードで一般事務やWebサイトの管理などを行います。事前に予定を立てて、外勤営業に出るスタッフもいます。

昼食は来館者の動きを見ながら交代で入りましたが、突然団体客がきて中断することも少なくありませんでした。

午後も午前と同様に接客業務です。

来館者が少なくなってきた時間を見計らって、館内清掃を開始します。展示品の異常や破損はないか確認することも大切な仕事です。同時に売店と受付の売上を計算し、管理表に記入します。

最後にお客様の退館を確認した後、戸締まりをして閉館します。

その後は日中出来なかった事務仕事の時間です。パソコンに1日のデータを入力し、WebサイトやSNSの更新を行います。


このようにだいたい18時には通常業務が終わり退社します。

観光施設型博物館の課題と展望

前述した仕事内容と1日の流れを追っていくと分かりますが、観光施設型博物館でさらに事業規模が小さい組織の場合は、博物館法に定められているような資料の収集や調査研究はほとんど行われません。

小さな博物館類似施設では、あらたな資料の収集ができる予算がありませんし、研究職である学芸員がいない施設も珍しくないのです。実際、社会教育調査の統計データによれば、博物館類似施設4,434件の内3,876件(約87.4%)が学芸員を雇っていません。

(データについて出典:e-Stat政府統計の総合窓口「博物館調査(博物館類似施設)」

社会教育機関としての博物館は、資料の収集・保管し、研究調査して正しい情報とともに展示することで教育に寄与します。

しかし、例としてあげた観光施設型の博物館類似施設では日々の接客で精一杯で、そのような教育機関としての機能は望めないのです。

その代わりに地域の観光資源としての役割を果たしているといえます。

このような小さな観光施設型博物館は、基本的に運営資金のすべてを売上によって賄っているため、公的機関である登録博物館に比べて稼ぐことに貪欲です。所蔵している資料がもつ宣伝価値を熟知し、スタッフ一丸となって集客に努めます。

それはあくまでも施設の存続のためではあるのですが、結果的に所属している地域の観光集客力を高めて
いるのです。

同時にこれら観光施設型博物館は、地域の観光協会と密接な関わりがある場合がほとんどですから、イベントを企画して持ち込むことで地域全体の観光資源として宣伝されます。

博物館の経営努力と地域の活性化は、相互扶助の関係にあるのです。

このような集客のための企業努力は、公営の登録博物館にとって弱点でもある部分です。

社会教育機関として事業を広めるには、来館者が増えなくてはなりません。しかし、公共機関としてある程度安定している登録博物館は、ときに学術的な面が強すぎる企画展を重視し、結果として来館者数が少なく、数字的に失敗してしまうことがあります。

もちろん、登録博物館の本分は社会教育です。収益や集客にばかりこだわっては本末転倒でしょう。
しかし博物館の機能を世間に周知させ、多くの一般市民に利用してもらうには、博物館類似施設のような集客へ努力が必要でもあるのです。

博物館類似施設の貪欲さを学んで登録博物館の発展に利用する

いかがでしたか。


公務員として社会教育の一端を担う博物館の運営や学芸員志望の方には、博物館類似施設の仕事内容はイメージが随分違うものだったのではないでしょうか。

今回ご紹介した観光施設型博物館は極端な例の1つですが、公共の組織が運営している組織でない限り、博物館類似施設は多かれ少なかれ民間組織として営利を重視する面があります。

ですが、世間一般に博物館だと思われている施設の約78%は博物館類似施設です。その博物館類施設のほとんどは存続するために懸命に企業努力をしています。

公共施設として安定しているがゆえに人離れが問題となっている登録博物館にとっては、学ぶに値するノウハウといえるでしょう。

また、前述したように博物館類似施設を経営している主体には、国や独立行政法人、地方公共団体もありますし、それら公共団体から委託されている指定管理者も多いので、公務員として関係する可能性は大いにあります。

もし将来、博物館類似施設に関与する機会があれば、集客のためのノウハウを学び、社会教育機関である登録博物館で応用してみるのはいかがでしょうか。

博物館に人を集めることは、結果として社会教育を広め公共の福祉に貢献することになるのです。

本記事は、2017年7月30日時点調査または公開された情報です。
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