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アメリカの社会状況2025

アメリカから全ての不法移民がいなくなってしまったら?アメリカ経済における不法移民の役割(2025年6月情報)

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トランプ政権下、米国内の不法移民が摘発され、どんどん国外に締め出されています。しかしアメリカから不法移民が一人もいなくなったら、それはそれで大変なことが起こると思われます。アメリカ在住日本人からの現地レポートです。

目次

労働力としての不法移民

2022年の米国土安全保障省による推計によると、米国内には1100万人近くの不法滞在者がいて、そのうちの約800万人が正規の労働許可証を持たずに働いているそうです。この800万人と言う数字は米国内の全労働者人口から見ると、全体のたった5%にしか過ぎませんが、移民が多く働く業界ではこの比率が大幅に変わります。

例えば全ての不法移民の約31%がサービス業で働いて、農業、畜産業、林業に従事する労働者の約24%は不法移民が占めています。また建設業では全体の約15%にあたる135万人の不法移民労働者が作業に従事しているそうです。トランプ政権下では、こういった不法就労者がアメリカ国民の仕事を奪うという理由で、不法移民を一掃しようとしているわけです。しかし実際のところは解雇した不法移民に代わる働き手を正規のアメリカ人労働で満たすのはほぼ不可能だと言われていて、低賃金で肉体労働を必要とする業界からは、将来に対する不安の声が挙げられています。

なぜアメリカ白人労働者で季節労働者の穴埋めができないのか

将来性と地位が大きな役割を果たすアメリカ労働市場

不法移民の追放賛成派の意見の一つに、非正規労働者を減らせば正規の労働者の賃金が上がり、慢性的な米国人失業者の就職意欲が高まるというものがありますが、個人的にこの法則はあまり現実的ではないように思います。アメリカ人はもともと肉体労働や単純作業が長続きしない傾向があると言われていて、根気が必要で地味な作業を好む人はそれほど多くありません。

また社会的にも終身雇用という概念がなく、給与は能力ベースで決まるので同じポジションに留まっているだけでは、どれだけ長く働いていても昇給はしません。アメリカで給料アップを目指すのであれば、社内で結果を出すか、他の会社で働いてキャリアアップを狙う必要があります。転職行為がネガティブに捉えられないと言うよりも、むしろ仕事のできる人は積極的に転職をします。逆に待遇の良い職場を見つけても積極的に転職しない人は「他に行き場のない無能な人」と捉えられてしまいます。

転職の決め手は福利厚生の手厚さ

日本のような公的保険制度がないアメリカでは、個人で民間の医療保険会と契約をするか、雇用を通じて企業のグループ保険に加入します。個人で医療保険に加入する場合の保険料は、契約者の年齢や家族構成、保険がカバーしてくれる医療範囲によっても変わりますが、働き盛りの30〜40代夫婦と子供2人の平均的な家庭の月額保険料はたぶん、最低でも$1000(15万円くらい)位と結構高額な保険料を払うことになります。

しかしもし企業が用意する健康保険に加入できれば、従業員個人の保険料支払いを会社が一部または全額負担するなどの方法がとられ、万が一病気になっても医療費のサポートをしてくれる場合もあります。また個人契約の場合は、毎年自分で保険内容や金額の見直しをしなければなりませんが、企業のグループ保険なら面倒な更新手続きも全て会社が行ってくれます。

就職先を決める上で会社の福利厚生は、家庭を持っている人には特に、給与以上に重要なポイントになってきます。会社が大きければ大きいほど、福利厚生が充実している場合が多く、従業員の労働条件や経営状態によって異なるとはいえ、個人経営の農家が提供する福利厚生は、大企業のものと比べると少ない傾向にあります。そのため農家がいくら時給を高くして、正規のアメリカ人労働者を雇用しようとしても、労働者側からすれば、いくら時給が高くても福利厚生がほとんど見込めない所で働き続けるより、最初は低賃金できつい仕事でも、頑張れば将来のキャリアアップや昇給が見込めるAmazonの配送センターや工場の生産ライン業務などで働くのを選ぶのだと思います。

全ての不法移民を追い出した後に起こる現実

アメリカ国内の農家一人当たりの耕作面積は日本のおよそ100倍にもなり、個人経営の農家でも、ドローンでの農薬散布やセンサー技術で害虫や病気の自動検出を行うなど、働き手不足を補う機械化がかなり進んでいます。しかしいくら機械化が進んでも、収穫された農作物を傷つけないよう丁寧にトラックに積み込んだり、乳牛に優しく搾乳ポンプを取り付けるなど、農業や畜産業には機械化では補えない作業も多く存在し、そのほとんどの裏方作業は不法就労者が担っています。

もしこのまま全ての不法移民を追い出してしまったら、収穫時期が来た作物も畑に置き去りにされ、消費者の手に届かなくなってしまうかもしれません。ホテルやレストランでの清掃やメンテナンス、調理補助など、サービス業界の裏方業務を担う労働力も大幅に不足し、サービスの質が低下した上で料金がさらに上がると予想されています。またもし労働力確保のために不法就労者全てに労働許可証を発給するとなると、今度はその申請費用の上乗せで価格が上昇し、景気が大幅に後退するとも言われています。

まとめ

アメリカ人の肉体労働に対する考え方や職業選択方法などを考えても、農家や畜産家で長期間働いてくれていた移民が抜けた穴をアメリカ人労働者で埋めるのはほとんど不可能だと考えられます。今回の不法移民排除政策でさらなる物価高騰が起こらないかが心配です。国境管理の徹底と経済の繁栄。その両方のバランスをどう取るのか、トランプ政権下の移民対策は今、大きな選択に迫られているのではないでしょうか。


本記事は、2025年6月13日時点調査または公開された情報です。
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この記事を書いた人

公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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