【行政薬剤師】国家・地方公務員として活躍する「薬剤師」とは?

医療技術の発展や医療環境の多様化により、各医療職が担う役割も変化してきました。薬の調剤や管理を行う薬剤師もそのひとつ。そして、民間で働く会社員としての薬剤師だけでなく、公務員職としての薬剤師もいます。今日は、国家公務員・地方公務員として働くいわゆる「行政薬剤師」のお仕事と、なる方法や給料について解説します。


国家公務員と働く「薬剤師」について

厚生労働省などの中央省庁で働く国家公務員薬剤師

国家公務員として働く薬剤師は、主に厚生労働省などの中央官庁に所属し、主に薬事行政に関わる業務を行っています。

薬事行政に関わる業務とは、新しい医薬品の承認など、直接医療現場や家庭で使用される医薬品に係る業務だけでなく、劇薬や毒物、化学物質に対する安全管理や検査、食品の残留農薬や添加物などの検査など生活衛生に関する業務などにも携わっています。

一般的な薬剤師のイメージとして持たれる、調剤や薬の管理といった業務ではない国家公務員職の薬剤師の業務内容は多岐にわたっています。

国立病院の薬剤師イコール国家公務員ではない

国立病院に勤務している薬剤師も公務員薬剤師、とイメージされる事が多いですが、実は国立病院の薬剤師は民間の薬剤師という立場です。

これは、国立病院を管理・運営しているのは国ではなく独立行政法人ですので、国立病院で勤務している薬剤師は、国家公務員試験に合格して配属になった国家公務員薬剤師ではなく、「独立行政法人 国立病院機構」の採用に合格し、国立病院で働く民間の薬剤師となっています。

地方公務員としての「薬剤師」について

職場は様々

地方公務員として働く薬剤師は、都道府県や市町村の地方公務員試験に合格し、その自治体に採用されている薬剤師です。地方公務員試験に合格後に配属先が決まりますが、その配属先は公立病院、保健所、役所など多岐にわたっています。

公立病院に勤務する薬剤師の仕事について

▼患者さんへの薬の調剤や服薬指導、薬歴の管理
医療施設で処方される薬の調剤は、病院などの医療施設の前に構えている調剤薬局で行う場合と、医療施設内にある薬局で行う場合があります。

公立病院内に薬局がある時には、公務員薬剤師が医師の処方箋に従って薬を調剤し、患者さんへ処方します。薬を処方すると同時に、薬の飲み方や回数、副作用が起きる可能性のある併用禁忌薬の飲み合わせの説明など、服薬指導も行います。服薬指導の時には、お薬手帳や本人からの確認を行い、患者さんが他の病院で処方された薬やドラッグストアなどで購入した市販薬など、公立病院の医師や薬剤師が把握できない範囲での薬の処方や服薬も確かめ、飲み合わせで問題がないように患者さんの併用禁忌薬を含めた薬歴の管理も行います。

万が一、医師の処方箋の内容が間違っていた時には間違いを見つけ、かつ医師に指摘や確認をしなければいけませんので、より深い薬に対する知識も必要になります。

▼注射薬の調剤
公立病院も含めて、病院で勤務する薬剤師の仕事に、病院で医師が使用する注射薬の調剤があります。注射薬の調剤の際にも医師の処方が必要で、薬剤師は処方に従って病院の中の調剤室やクリーンルーム内で適切な注射薬の調剤を行います。

▼治験管理業務
公立病院の中では、患者さんの同意と協力を得た上で新しい薬を試しに使用し、どのような効果があるのかデータを取る治験を行っている所もありますので、治験管理業務が加わる事もあります。なお、実際に患者さんへの薬の処方は医師が行い、薬剤師は治験のデータ管理が主な仕事となっています。


保健所で勤務する薬剤師の仕事について

▼薬局やドラッグストアの認可
保健所で勤務する公務員薬剤師の主な業務のひとつに、新しく調剤薬局やドラッグストアを開業する時に必要な自治体の認可に関する業務があります。

▼薬局やドラッグストア、病院への立ち入り検査
薬局やドラッグストア、病院など薬や医療に関する施設の運営・管理には遵守しなければいけない法律が多くあります。保健所の薬剤師は、これらの施設で法律に違反した行為がないか、立ち入り検査を行ってチェックします。

例えば、調剤する薬は所定の場所で正しく管理されているか、薬の調剤や麻薬の管理に必要な書類はすぐに提示できる状態になっているか、などを立ち入り検査にて確認しています。

▼店舗や事業所の衛生管理チェックや立ち入り検査
銭湯やスパ、理髪店、エステなど公衆衛生管理が特に必要な施設や店舗での立ち入り検査も保健所が行っていますので、薬剤師も同行しチェックします。主に、害虫や水質管理、法令遵守の上で営業されているのかを検査します。

また、集団食中毒が発生した時の飲食店や食品製造工場、管理施設などへも立ち入り検査を行います。実際に食中毒が発生した時の原因調査だけでなく、食中毒の発生を防止するための取り組みや、店舗や施設に必要に応じての指導も行います。特に、梅雨や冬場などの食中毒が発生しやすい季節には、食中毒防止の啓もう活動を含めた取り組みも強化し、行っています。

役所で勤務する薬剤師の仕事について

▼保健所の薬剤師と同じく、施設や店舗への立ち入り検査
役所で勤務する薬剤師は、自治体によって名称は異なりますが「薬事衛生課」や「医薬安全課」などの部署に配属になり、保健所の薬剤師と同じく衛生管理や法令遵守がされているかをチェックする為に、施設や店舗への立ち入り検査を行います。

▼新規出店時の相談なども受ける
新しく調剤薬局や病院、ドラッグストアを開業する時には認可が必要ですが、役所に勤務する薬剤師はこれらの認可を行うのと同時に、相談も受けています。開業を考えている業者や企業と場所のすり合わせや地域のニーズなどを相談し合うなど、開業に関する話し合いなども行います。

衛生研究所で勤務する薬剤師の仕事について

▼生活用水の水質検査
衛生研究所を所有している都道府県や市町村の公務員薬剤師として採用されると、衛生研究所に配属になる事もあります。

衛生研究所の薬剤師の業務のひとつに、水道水や井戸水などの生活用水の水質検査があります。水の中に化学物質やウィルスなどの有害物質が含まれていないかチェックし、一般市民が安心して使用できる安全な生活用水を供給する為の業務です。

▼ウィルス調査
インフルエンザや溶連菌などの感染症が蔓延・流行し、学級閉鎖など一般市民の生活の中に弊害として起きている場合には、衛生研究所がウィルスの調査を行います。

国家公務員・地方公務員薬剤師のメリットを見てみよう

行政薬剤師のメリットその1:安定して働ける

民間企業である調剤薬局やドラッグストアで働く薬剤師や私立の病院で働く薬剤師の場合、職場の運営元の経営が悪化すると事業縮小や薬局やドラッグストアの閉店、病院の閉鎖に繋がり、突然職場を失ってしまうリスクもあります。

一方で、国家公務員・地方公務員として働く薬剤師は雇い元が国や地方自治体ですので、職場がなくなってしまうなどのリスクもなく安定して働けます。

行政薬剤師のメリットその2:福利厚生もしっかりしている

民間企業や病院法人の場合、福利厚生や手当、給料、休暇なども職場によって異なりますので、同じ薬剤師でも理想の働き方ができない場合があります。例えば、出産後も働きたいと思っていたのに産休育休取得実績が少なく退職を余儀なくされる、時短制度がない、などです。

一方で国家公務員・地方公務員薬剤師なら福利厚生も充実しています。住居手当などの各種手当はもちろん、育休も充実しており最長で3年まで取得可能ですので、仕事をしながら子育てをしたい女性も安心して働ける職業となっています。

行政薬剤師のメリットその3:給料は年齢とともに上がっていく

国家公務員・地方公務員の薬剤師の初任給は、実は民間の病院薬剤師や調剤薬局、ドラッグストアで働く薬剤師よりも実は低くなっています。けれども、他の公務員の給料体系と同じく、年齢を重ねるごとに昇給していきますので、50代になるころには民間の薬剤師よりも多いお給料となっている事が多いです。


行政薬剤師のメリットその4:やりがいがある

国家公務員・地方公務員の薬剤師の仕事は調剤などの一般的な薬剤師の仕事以外にも多様な業務があり、いずれも市民の安全な生活に密接していますので、一般市民と近い所で働いている実感があり、やりがいのある仕事といえます。

知っておきたい、国家公務員・地方公務員薬剤師のデメリット

行政薬剤師のデメリットその1:希望の業務ができるとは限らない

他の公務員職にも言える事ですが、公務員は数年で配属先が変わり、同じ業務ばかりに携わらないようになっています。ですので、薬の調剤や服薬指導といった一般的な薬剤師の業務だけをずっと行いたい、という人には不向きです。逆に、色々な業務を経験して薬剤師としてのスキルを上げたい人には最適な環境です。

行政薬剤師のデメリットその2:夜勤や転勤など肉体的にも辛い事も 場合によっては精神面でも辛い

国家公務員の薬剤師は、配属先が日本全国になりますので転勤の可能性も高いです。逆に、地方公務員の薬剤師は各自治体に所属している公務員という立場ですので、該当する都道府県や市町村の中でのみの転勤になります。

また、公立病院で働く地方公務員薬剤師は、病院の規模によっては夜勤がある、終末期医療に携わり患者さんの死を目の当たりにする機会も多いなど、肉体的にも精神的にも辛い思いをする事もあります。保健所や役所の薬剤師は立ち入り検査の時にぞんざいな扱いを受ける事もあります、衛生研究所の薬剤師は研究に時間がかかり帰宅が連日深夜に及ぶ可能性もあります。

国家公務員・地方公務員の薬剤師になるには?

薬剤師国家試験に合格する

公務員薬剤師を目指すには、まず薬剤師にならなければいけません。

薬剤師になる為に必要な薬剤師国家試験は、「正規課程で薬学を置く大学のうち修業年限を6年とする課程を卒業した者」が受験資格となっていますので、まず薬学系学科を併設している6年生大学、もしくは4年制大学+2年間の大学院で必要な単位を取得する為に入学・卒業します。卒業、もしくは卒業見込みで薬剤師国家試験の受験資格が得られます。

薬剤師国家資格は毎年3月、2日間の日程で行われています。なお、近年の合格率は70%から84%ほどとなっており、平成28年度は全体で71.58%、新卒者で85.06%の合格率でした。

薬剤師国家資格に合格した後で厚生労働省の薬剤師名簿へ記載の申請をすると名簿に登録され、厚生労働大臣から薬剤師免許が与えられ、公に薬剤師として活躍できるようになります。

参考ページ:
厚生労働省 第102回薬剤師国家試験の合格発表を行いました
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000157911.html

国家公務員試験・地方公務員試験に合格する

薬剤師国家試験に合格し、薬剤師免許を手にした後は公務員薬剤師として採用されるために総務省などで採用される国家公務員試験、もしくは各地自体ごとに採用を行っている地方公務員試験を受験し、合格しなければいけません。

国家公務員試験の場合は、厚生労働省の総合職、「薬系技術職員」の採用試験を受験します。採用のスケジュールとしては例年3月下旬から厚生労働省の国家公務員総合職採用試験の受付が始まり、4月下旬に1次試験、5月中旬に1次試験合格発表があり5月下旬から6月中旬にかけて、筆記・人物・政策課題討議の3回にわたる2次試験が行われます。6月下旬に最終合格者が発表され7月に官庁訪問、10月1日以降に内定となります。

参考ページ:
厚生労働省 採用の手続きについて
(http://www.mhlw.go.jp/general/saiyo/kokka1/kokka1-yakugaku/16.pdf)

地方公務員の場合は、各自治体、もしくは受験する年度によって採用の募集が開始される時期や応募期限、新卒のみか既卒も可か、試験で出題される範囲や内容が異なります。また、各自治体の職員として募集されている場合もありますし、自治体の公立病院そのものが薬剤師を採用を担当している場合もあります。いずれの場合も、地方公務員薬剤師と言う立場は変わりませんが、採用媒体や応募先が異なりますので必ず自治体の職員採用や募集ページをチェックしておきましょう。

参考ページ:
仙台市立病院 仙台市職員(診療情報管理士・薬剤師・診療放射線技師)採用選考を実施します
http://hospital.city.sendai.jp/recruit/saiyou_senkou_yakuzaishi.html

国家公務員試験及び地方公務員試験に合格すると配属先が決まり、いよいよ公務員薬剤師としての業務がスタートします。

公務員薬剤師のお給料はどのくらい?

初任給は、国家公務員の薬剤師である厚生労働省の総合職、約警技術職員の場合平成29年度の採用実績では4年生の学部卒業の大卒程度試験で230,040 円、院卒者試験の内修士課程修了、6 年制の学部卒業で251,280 円、博士課程修了で275,160 円となっています。

地方公務員の場合は、各自治体によって異なりますが初任給は大学6年卒で平均23万円前後です。

参考ページ:
勤務条件・福利厚生 – 地方独立行政法人 広島市立病院機構
http://www.hcho.jp/wp-content/uploads/careers/2015/08/3fb6c19d2d50ec0773a49c364d6c699e.pdf

公務員薬剤師全体の年収平均は約500万円から600万円ほどとなっています。また、民間の薬剤師の初任給は平均24万円前後ですので、公務員薬剤師の方が初任給は低くなっていますが、年に1回昇給があり、年齢とともに年収はアップしていきます。


逆に公務員薬剤師の年収は30代までは他の公務員職よりも高めの傾向にありますが、40代から逆転し、50代からは他の公務員職の平均月収が57万円に比べて公務員薬剤師は平均月収46万円となっています。

行政薬剤師の福利厚生

他の公務員と同じく、行政薬剤師の福利厚生も手厚いものになっています。

基本給の他に、扶養手当、通勤手当、住居手当などがつきますので、結婚したり子供が生まれたりした後も家族の為の手当てもつきます。また、国家公務員薬剤師の場合には配属先対象が全国の為、転勤や単身赴任となる可能性もありますが、超過通勤手当や単身赴任手当もつきます。公務員宿舎も用意されていますので、転勤になっても住む所に困る事もありません。

また、一般企業のボーナスにあたる期末手当と勤勉手当が毎年6月と12月の2回支給されます。

6週間以内に出産予定がある場合、そして出産の翌日から8週間を経過する日までの期間で取得可能な産前産後休暇や子供が3歳に達するまで取得できる休暇の育児休業、及び1日2時間以内まで勤務しなくても良い育児時間、子供が小学校就学年齢に達するまで取得できる1日4時間・週5日勤務、1日8時間・週3日勤務などの時短勤務が可能な育児短時間勤務、介護の必要が出た時に6か月以内で取得できる介護休暇や早出遅出出勤も用意されていますので、育児や介護などのライフスタイルに合わせても働きやすい環境が整えられています。

休暇も夏季休暇、結婚休暇、忌引休暇などの特別休暇に加えて、年20日の年次有給休暇が付帯されます。

まとめ

少子高齢化に伴い、在宅医療業務にも薬剤師が携わるなど、薬剤師の業務も多様化してきました。民間の薬剤師と同じく医療に携わる職種として、そして市民が安心して暮らせる衛生環境づくりの為にも公務員薬剤師は日々活躍しています。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2017年12月13日時点調査または公開された情報です。
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