刑務官は受刑者が背後に立つのを嫌う
刑務官は、受刑者が背後に近づくことをとても嫌います。そんなことをする受刑者がいると大声で叱られます。刑務所が初めての受刑者はなぜ叱られたのか分からず目を白黒させるのですが、刑務所内では暗黙の了解事項として、受刑者は一定の距離以上に刑務官に近づかない、特に背後には立たない、という不文律があります。それは受刑者が刑務官を襲うサインになるからです。
刑務官が受刑者を叱ったりする場合、映画やドラマなどでは刑務官が仁王立ちして、腕組みしながら怖い顔でやりますが、実際の場面ではこれもアウトです。もしその受刑者がその気になれば刑務官の股間を蹴り上げることができますし、腕組みをしていたら咄嗟の動きを手で制することもできないからです。
ベテラン刑務官なら足を前後にして立ち、上半身をやや後ろに傾け、両手を自然に垂らして叱ります。こうすれば、仮に受刑者が向かってきても、すぐ足で蹴り飛ばすことができますし、殴りかかってきても一撃目を容易にかわすことができるからです。顔は柔和でも、身体はしっかりと防御態勢を取る。私が見習った刑務官のイロハでした。
受刑者による計画的な襲撃の手口
受刑者は計画的に職員を襲うことがあります。例えば工場(作業場)で普段どおり仕事をしていて、巡回に回ってきた刑務官を襲う。金属工場などには鉄筋のようなものがゴロゴロしていますから凶器として使えるものはたくさんあります。金づちやノミだってあるし、鉄片をグラインダーで削ればヤッパ(ナイフ)を密作することだってできるのです。
筆者にもターゲットにされた経験が
私もターゲットにされたことがありました。ある刑務所の幹部になった時のことです。この時の襲撃は未遂に終わったのですが、その後の調べの結果、私を襲って人質にして刑務所から逃げる作戦だったとのことでした。
そして、襲撃用の武器などは、工場で作って部屋に持ち込み、トイレの中に隠していました。工場から部屋に戻る際には刑務官が検査をするのですが、彼はその武器を太ももの内側にテープで貼り付け、パンツ姿で検査を受けても見破られないようにしていたのです。
昔は、このようなことにならないように全裸で検査していたのですが、人権問題だと指摘する外部の方々がおり、パンツ姿での検査に切り替えたことが災いとなりました。
襲撃防止に欠かせない「カンカン踊り」と呼ばれる検査
この検査を受刑者はカンカン踊りなどと言います。その動作が踊りに似ているからです。まず受刑者は手に何も持っていないことを示すために両手の表裏をヒラヒラさせて刑務官に見せます。そして、足の裏に何もないことを示すために足の裏を見せます。ガニ股状にして交互に足の裏を見せるのです。
このようにすることで、同時に太腿などに何も貼り付けていないことを示します。また、もし肛門内に何かを入れ込んでいればこの動作をしているうちにポトリと床に落ちます。昔はちゃんと足を上げさせるために横に渡した棒をまたがせたそうです。
そして、口の中に何もないことを示すために口を大きく開け、舌の裏も見せます。これをほんの1~2秒でやります。ゆっくりしていたら受刑者全員の検査を終えるのに時間がかかり過ぎるからです。受刑者が次から次へとこの動作をしていく姿がまるで踊りみたいに見えることからカンカン踊りというわけです。
刑務官の安全のために続けてほしい「カンカン踊り」
受刑者の中にはこれを人権問題だとして訴えたり、それに呼応した弁護士さんたちが批判したりするものですから、このカンカン踊りは次第に緩やかなものになったり廃止する刑務所も現れたりしていますが、それによって大きな事故が起きてしまわないか不安になります。
職員を襲うこともそうですが、刑務所の中でも反目関係を続ける暴力団同士の喧嘩に使われたりすることも考えられるからです。刑務所を批判するときは、その実情を知ってからにしてほしいものです。(小柴龍太郎)
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