地震が来たら刑務所へ行け? – 避難先としての「刑務所」

大規模な災害が発生した際、自治体によっては「刑務所」が避難先として使用できることをご存知でしょうか。

今回は、元・刑務官で所長歴もある「小柴龍太郎氏」に、「震災時の刑務所」についてコラムにして書いてもらいました。


震災時の刑務所って?

関東大震災があった時は、受刑者が刑務所から大量に脱走したというデマが流れて住民がパニック状態になったと聞きます。さもありなんです。

しかし、現在の刑務所ではおよそそのような事態は考えられませんし、むしろ大地震などに被災して自分の家に住めない状態になった時は刑務所に駆け込んだらいいとさえ思います。

刑務所には自家発電装置があり、井戸もあるし、武道訓練に使う広い道場などもあるからです。

震災時のエピソード

実際、ある地域で大地震が起きた時は多くの方が近くの刑務所の道場などで避難生活を送られたそうです。

そしてその後、この事例を基に、刑務所と自治体が大規模災害時に刑務所の施設を使うことについての協定を結ぶ例が広まっているようです。

刑務所の近くに住む方々にとっては心強い情報ではないでしょうか。そして、刑務所にとっても、このように住民の方のためになるということは有り難いことだと思うのです。

刑務所は刑務所だけでその地に存在できません。住民の方々の理解がなくてはならないのですから。

停電した時の自家発電装置の威力は想像以上のものがあります。実際、私がある刑務所で大きな地震を経験した時もこの自家発電装置には本当に助かりました。

夕方に地震が起きて、しばらくして真っ暗になりました。

刑務所が真っ暗になるということは刑務官にとっても相当不安なものです。懐中電灯の明かりだけでは何とも心細い。

街中が停電しているので、刑務所の中も外も真っ暗。ますます不安を募らせていると、突然刑務所の中がパァ-っと明るくなりました。自家発電装置が起動したのです。
「オー!」
とあちこちから声が挙がりました。喜びと安堵の声です。


しばらくすると、受刑者たちがいる部屋に流すための全館放送も動き出しました。そしてNHKのラジオ放送をそのまま流し始めたのです。

そうすると、いくら刑務官が注意してもざわつきが収まらなかった居室棟が一気に静かになり、受刑者たちはじっとそのラジオ放送に聴き入るようになったのです。

この地震はどこが震源でどれくらいの規模だったのか、被害の程度はどうか、自分の出身の町は大丈夫か……。

有事の対応

通常、刑務所はラジオやテレビをそのまま受刑者に聞かせたり見せたりすることはありません。録音・録画して、その内容に問題ないことを確認してから提供するのです。

しかし、その地震の夜にはそのまま全受刑者にラジオを聴かせました。そしてそれがすごい力を発揮したわけです。事前検閲したりしていない情報の力ともいえるでしょう。

このラジオをそのまま全館放送しろと指示した刑務所の幹部の英断も私はすごいと思いました。そして、刑務所の幹部は、周囲の状況に応じて臨機応変に判断すべきだと強く思いました。

たとえそれが内規に反することだったり前例が無かったりしてもやるべきと判断したら決断し、実行する。いい勉強をしました。

まさに自家発電装置が受刑者の動揺を収め、刑務所の平穏を取り戻したのです。そうやってしばらく地震の情報が続いた後、ラジオは落語を流し始めました。

地震に関する情報がほぼ出尽くしたからだと思うのですが、この落語を聞き、受刑者の居室棟からは時々笑い声が聞こえるようになりました。受刑者は完全に落ち着きを取り戻したと実感しました。

まとめ

このように、大規模な災害が発生して地域が停電したときでも、刑務所は最低限必要な電気を自分で生み出すことができます。同時に、水も自力で確保する力を持っています。

というのは、自治体が提供する水道水が地震によって断水した場合でも、刑務所は自分が持っている井戸から水を吸い上げ、受刑者たちに供給することができるのです。

大きな刑務所ならたいてい井戸を持っているはずです。

いざという時、食料と水は欠かせないために、刑務所はそのような設備を持つようになってきたのです。

もちろんこの水は受刑者用のものですが、非常事態で住民の方が刑務所に避難してきたら可能な限り提供するでしょう。

実際、地震に襲われたある地域の地元住民を受け入れた刑務所でもそのようにしたようですし、それにとどまらず、その刑務所では非常食を提供し、テントやシャワー、洗濯機を設置し、寝たきりの住民には介護支援をし、自治体との折衝などもしたとのことです。


そしてこれは管区機動警備隊の力も大きかったようです。管区機動警備隊というのはいざというときに全国の刑務所から職員が派遣されて部隊行動をする組織なのですが、この地震のときにも派遣され、その一部が被災者支援に当たることとされたために、十分な支援が可能になったようなのです。

しかも、全国の刑務所から受刑者だけでなく被災者支援用の物資がその刑務所の近くの刑務所に集められ、被災した刑務所で必要とされたものをその都度搬入するという方式で支援したために(プッシュ型支援)、被災刑務所が支援物資であふれてしまうということも避けられたそうです。

刑務所は危機管理に優れた組織でもあるので、このようなことができたということでしょう。

近くに刑務所がある住民の方にはぜひ安心していざというときには刑務所を頼ってほしいと思います。

(文:小柴龍太郎)

本記事は、2019年10月26日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

刑務所
気に入ったら是非フォローお願いします!
NO IMAGE

第一回 公務員川柳 2019

公務員総研が主催の、日本で働く「公務員」をテーマにした「川柳」を募集し、世に発信する企画です。

CTR IMG