はじめに
忌まわしい犯罪とされるものの一つ、「強姦罪」。これは再犯率が高く、刑務所から出てきたらまたやるに違いない、と思われているようです。でも、実際の再犯率は約5パーセント。残りの95%は再犯しないのです。
これが事実なので、世間の人たちとの感覚とはずいぶん違うようです。もし誤解している人が多いようでしたら、まずは事実をよく知って誤解を解く必要がありそうです。
強姦罪、再犯率5%という数字
とはいっても、「5パーセントでもまだまだ不十分。一人残らず再犯しないようにしろ!」という声もありそうですし、もっともな意見かもしれません。
外国でも同じような声があるようで、それを受けて、受刑者に手術を施して性欲を無くさせてしまったり、刑務所を出てからも足首などに発信装置を装着させ、警察がその居場所を常に把握できるようにして再犯を防ぐといった施策を講じている国もあります。
確かにそのようにすれば再犯は相当防げるでしょうが、一方で人権の問題がありますので悩ましいものがあります。
その昔、「目には目を歯には歯を」の考え方で窃盗をした人の手を切ってしまった時代もありましたし、日本でも犯罪者には入れ墨をしてひと目でそれと分かるようにしたこともあります。
しかし、そのような犯罪者に対する仕打ちが厳し過ぎるという声があるほか、実はそれほど再犯の抑制にならないという分析もあって行われないようになりました。
実際、右手を切られれば左手で盗むかもしれませんし、入れ墨をされたために更生することが難しくなり、やけになって更にひどい罪を犯す人も出てくるかもしれません。大事なのは人の心の方だということかもしれません。
刑務所は、犯罪をした人を収容することにより、少なくともその間は国民がその受刑者から害を受けることを防ぎます。同時に、その受刑者に再犯防止に向けた働き掛けを行い、再犯をしないようにします。
こうして刑務所は、現在と未来の両方において国民を犯罪から守るのです。そして、このような使命が法律上明記されたのは平成18年に制定された刑事収容施設法ですから、まだそんなに時間が経っていません。
しかし、私が知る限り、この法律が出来てからは刑務所の再犯防止機能は格段に上がってきています。政府自体もそうですが、議員立法で再犯防止推進法が制定されるなど、国会の動きもそれを加速させています。
それが象徴的に表れていると私が思うことを幾つか挙げてみますと、まずは法務省の矯正局内に「更生支援室」が設けられたことです。
これはまさに受刑者などの再犯防止をどうやって進めるかを考え、全国の刑務所などを指揮してそれを推進する組織です。
再犯防止に焦点を当て、それをミッションとする組織ができたということは初めてのことです。
日本の犯罪:再犯防止機能の強化1「更生支援室」
それが象徴的に表れていると私が思うことを幾つか挙げてみますと、まずは法務省の矯正局内に「更生支援室」が設けられたことです。
これはまさに受刑者などの再犯防止をどうやって進めるかを考え、全国の刑務所などを指揮してそれを推進する組織です。
再犯防止に焦点を当て、それをミッションとする組織ができたということは初めてのことです。
日本の犯罪:再犯防止機能の強化2「社会福祉士の常駐」
それから、刑務所に社会福祉士の方が常駐で勤務するようになったことです。法律が新しくなるまではこんなことはありませんでした。
受刑者がスムーズに社会復帰できるよう、福祉士は面接を重ね、国や地方自治体などと協議を重ね、住む所を確保してくれます。
出所後すぐ病院に入院しなければならない受刑者については病院探しもしてくれます。刑務官は塀の中は得意ですが塀の外のこととなると苦手です。
その苦手の分野を福祉士さんたちがよくカバーしてくれるようになりました。
最初は非常勤職員としての勤務でしたが、常勤職員として刑務所に勤務する福祉士さんが増えてきました。これは再犯防止の観点からとても効果的なことだと思います。
日本の犯罪:再犯防止機能の強化3「就労支援強化施設」
再犯防止機能の三つ目は、最近(平成29年度)刑務所の一部を「就労支援強化施設」として指定し、受刑者の就労支援の強化策を試行し始めたことです。
例えば札幌刑務所では近くのハローワークから「就労支援ナビゲーター」が派遣されるようになったそうです。
そして就職先が決まっていない受刑者と面接を重ね、受刑中に就職先の内定をもらえるようにしているのだそうです。
ハローワークとは厚生労働省所管の役所ですから、このように省庁の垣根を越えて受刑者の再犯防止に力を合わせていこうという試みが進められていることはとても力強いことです。
日本の犯罪:再犯防止機能の強化4「地方検察庁に再犯防止の担当者配置」
最後にもう一つだけ加えれば、全国の地方検察庁に再犯防止の担当者が置かれたことです。
検察庁は罪を犯した人を訴追する機関ですから再犯防止を所管業務とするのは変な感じを受けるかもしれませんが、検察庁も広い視点から見れば社会から犯罪を無くすための仕事をしているわけですから、近年そのような視点から再犯防止にも取り組み始めたということです。
そしてこれは、刑務所などの矯正分野と保護観察所などの保護分野を含め(刑事3者と呼ばれることがあります)、法務省の関係部署が相互に連携して再犯防止に当たれることになったことを意味するので、とても大きい変化ですし、まさに象徴的な変化だと思います。
まとめ
以上、刑務所からみた日本の犯罪の再犯防止について四つだけを挙げてみましたが、受刑者の再犯防止に向けた取り組みの充実には目を見張るものがあります。
刑務所の使命の一つである未来の犯罪被害を防ぐことが確実に進展していくだろうと思われるので、とても嬉しく思っています。
(文:小柴龍太郎)
コメント