はじめに
市長には、どうやってなるのでしょうか?
前回は、「市議会議員」の仕事内容と役割についてご紹介しましたが、今回は「市長」の役割や「なるには?」についてご紹介します。市議会の顔である「市長」の役割や仕事、給料についても解説します。
「市議会議員」については前回の記事をご参照ください。
》【民衆の敵】篠原涼子演じる佐藤智子から学ぶ「市議会議員」の仕事内容
今回は、フジテレビ系ドラマ『民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?(以下、民衆の敵)』で注目を集めている「市議会議員」の仕事を見てみましょう。『民衆の敵』とは、10月より月曜夜9時に放送中のテレビドラマで、主演の篠原涼子さんが市議会議員として活躍する姿が描かれています。
そもそも「市長」とは?とその立場と役割について
「市長」になるにはどうしたらよいのかを説明する前に、まずは「市長」という役職の立場について、ご紹介します。
そもそも「市長」とはどんな仕事をする人?市の行政全般のリーダーを務めます
「市長」とは、地方自治体である「市」の代表として行政を行う人で、公務員にあたります。
「市長」は、簡単に言うと、その地方自治体に住む住民が安心・安全の暮らしを送り、そこで商売する法人・企業が適切に商売をできるように「マチ」のデザインを行う役割があります。
そのために、「市長」は、市が持つ「予算」の使い方を考え、住民たちの要望をどう叶えるかを考え、行政の実行を担う公務員たちへリーダーシップを図り、そして、議会の方々とやりとりをするといった、「市」の今と未来を左右する、責任重大で重要な役割を担っています。
知事と「市長」の関係。どちらも行政を執行する単位「地方自治体」のリーダー
「市長」と似ている職業に「知事」がありますが、両者の立場について説明します。
まず、日本の統治において、中央政府の統治権を、地方自治体に移すことを「地方分権」といいます。
「市長」は、地方分権制度の中で、「行政」を執行する地方自治体のひとつの「市」の代表者として、その統治を担う役目を持っています。町長や村長についても、それぞれ一地方自治体の行政の代表者という点で、「市長」と同じ立場にあります。
そして、そういった「市町村」を統括し、中央、つまり国との橋渡しを行うのが「都道府県」という地方自治体であり、その長として都道府県知事がいます。知事も「市長」と同じように、地方自治体の代表者ですが、市町村よりは国に近い立場であり、市町村を統括するという立場でもあります。
例えば、国からの委託事業を知事が受託し、さらに統括している市長や町村長に委託する、というような流れで事業が進むことがあります。
なお、地方自治体の行政を担う人は地方公務員として、地方公務員採用試験によって就職しますが、「市長」は、市民による直接投票による選挙によって決まる点が、一般の行政職員との大きな違いであり、特徴です。
「市長」の仕事内容を具体的に解説します
「市長」の仕事内容には具体的にどのような活動があるのか、ご紹介します。
「市長」の仕事その1)「行政を行うこと」
「市長」の仕事は、市政への問題や課題の収集と改善することで市民を中心とした行政を行うことです。
市民が住みやすい環境づくりのために、市内外で行われる行事や会議への出席のほか、実際に現場に出向いて調査を行うこともあります。また、最近では、地方創生を掲げ、若者が住みやすい街づくりや商店街の活性化を目指した活動を行っている市町村もあります。
市民が10人いれば、10通りの考えがあります。「市長」はそうした市民の声を聞き、平等・公平に実行に移すことも仕事の1つです。「市民が必要だと言ったから」と直情的に行動するのではなく、本当に必要なものか、どのようにしたら実現できるか、他の市民はどう考えているかなどを総合的に判断して実行するというリーダーとしての資質が、「市長」には求められます。
「市長」の仕事その2)「議会」
「市長」は、市の議会である「市議会」で予算案や条例案を提出し、市議会議員からの質問に答えます。
議会は年4回行われ、例えば「待機児童の解消」「税金の使い道」など、市民に必要な事項を解決できるように予算を調整したり条例を制定します。
議会の様子はTVやインターネットで視聴できるほか、議事録のデータを検索することも可能なので、1度はチェックしておきましょう。
「市長」の仕事その3)「イベントへの参加」
「市長」は議会に出席するだけでなく、市内で行われるイベントへの出席することも、仕事のひとつです。
イベント主催者として挨拶を任されることもあれば、やイベントに参加して市民との交流を深めることもあり、イベントに参加することで、より市民の声を集めやすくなります。
「市長」は市議会議員のトップではない?「二元代表制」について
「市議会」などと地方議会は、行政を行う「市長」とそれを監視する「市議会」とが別々の権力を持つ「二元代表制」を採用しています。
「二元代表制」とは、「市長」と市議会議員を別々に選ぶ制度のことで、どちらもその市に住む住民が直接選挙で選抜しているため、それぞれが異なる権力を持っています。
そのため、「市長」と言うと「市議会のトップとして市議会議員を率いている関係」だと考えてしまいがちですが、これは間違いです。「市長」と市議会議員は別々の権力を持っており、「市長と市議会議員は対立した関係」というのが正解です。
「市長」は予算や条例などの議案の提出、人事を決める権限を持ち、市議会議員は議会で「市長」の行政運営を監視する役割を持ちます。
また、「市長」は、市議会議員が議決しなければ、提案した仕事を実行に移すことができません。市議会議員は、「市長」が決められた予算を正しく使用しているか、市民にとって適切な行政を行っているかを監視しつつ、時には仕事内容について指摘を行います。
このように、「市長」と市議会議員が時に対立し、時に尊重し合うことで、市民のよりよい生活環境づくりを行っているのです。
「市長」と市議の議論の場ー市議会について
そもそも、市議会とは、「市長」と市議会議員が討論を行う場所のことです。
市議会には、条例で定められている年4回開催される「定例会」と、必要がある場合、首長がその案件を告示し、市議会議員を招集して開く「臨時会」の2種類があります。定例会は、通常、3月、6月、9月、12月頃に開催されます。
議会は、通常9時頃から始まりおおよそ17時には終了しますが、審議する議案によっては時間を延長することもあります。
市議会では、「市長」が予算案や行政案を提案、それに対して市議会議員が改善点や疑問点について討論します。その後、市議会の承認を得ることで「市長」は予算案や行政案を実行に移すことができます。
「市長」になるには?選挙に立候補する条件について
「市長」になるには、「市長選挙」に立候補し、選挙で当選を勝ち取らなければなりません。そして、その「市長選挙」に立候補するためにも条件があります。
「市長」になるには、まずクリアしなくてはならない市長選への立候補の条件について、解説します。
「市長選挙」に立候補するための出馬条件と供託金について
「市長」になるには、まずは市長選挙へ出馬しなければなりません。
「市長選挙」に出馬するには、日本国民で年齢が満25歳以上であれば、学歴や職歴は不問です。つまり、市議会議員の経験がなくとも出馬することは可能です。
しかし、実際の当選状況を見ると、市議会議員としてのキャリアを積んでいる、市や県の職員としてのキャリアのある方が多いようです。市長は「市民のよりよい生活を実現する」という立場から、市民から信頼されなければいけません。
仮に市議会議員の経験なく当選を目指すのであれば、市制経験者を頼る、選挙ボランティアに参加するなど、市政経験者の声に耳を傾けることも大切です。
そして、市長選挙に出馬するためには、供託金として政令都市は240万円、それ以外では100万円を選挙委員会に預ける必要があります。供託金は、無責任な出馬を避けるために預けるお金のことで、選挙で一定の得票数を獲得すれば選挙後に返金され、得票数が満たなければ没収されます。
「市長選挙」に立候補できないケースは、禁錮以上の刑が執行中の場合など
「市長選挙」に立候補しても、出馬資格が認められない場合があります。それは、立候補者が「欠格事由」に当てはまっている場合です。
欠格事項とは、「禁錮以上の刑を受けて執行中の者」や、「選挙関係の犯罪で禁錮以上の刑を受けて執行猶予中の者及び選挙関係の犯罪で選挙権・被選挙権を停止されている者」を指します。
選挙運動は、公職選挙法などの法律に違反しないように正しく行わなければなりません。例えば、選挙ポスターを貼る枚数や、貼り方、ポスターに表示できる内容にも決まりがあり、選挙管理委員会の検印を受けるか、決められた証紙が貼られたポスターしか貼ることができません。
そういったルールは法律で定められており、一度、違反して刑が確定すると、再び選挙に出馬するまでに時間がかかってしまいますし、市長候補者として最も重要な信頼も失います。
市長選挙に立候補しようとしている場合は、公職選挙法についてよく勉強しておく必要があります。
また、「市長選挙」には年齢制限があるので、25歳未満の人については、禁固刑以上の執行中でなくても、年齢制限によって出馬できませんのでご注意ください。
「市長」の採用の仕方は、アメリカ大統領選挙に似ている!
例えば、内閣の首長である内閣総理大臣になるには、憲法により国会議員が指名されることが必要だと定められています。
しかし、地方議会の首長である「市長」は、その市に住む住民による直接選挙の「公選制」で指名されます。市長になるには、議員による間接選挙ではなく、住民による直接選挙に勝つことが求められます。
この公選制は、実はアメリカの大統領選挙と同じ方法です。アメリカ大統領選挙も議員ではなく、住民による直接選挙にて大統領を決定します。
日本では、都道府県知事になる人を選ぶ選挙も、「市長選挙」と同じように直接選挙で行われるので、知事選挙についてもアメリカ大統領選に似ているところがあります。
選挙で当選した「市長」の任期は市議会議員と同じ4年間
「市長選挙」で選ばれた立候補者は、一定期間「市長」の役職に就いて働くことが認められます。この一定の期間のことを「任期」といい、「市長」の場合の任期は、市議会議員と同じく4年と定められています。
しかし、市議会議員は退職金が支払われませんが、「市長」は4年の任期を終えると退職金が支払われるという違いがあります。「市長」の退職金は、おおよそ1000~2000万円程です。
2期連続で当選した「市長」も、退職金は4年の任期ごとに発生します
「市長」の任期は4年と定められていますが、再当選すれば再び市長になることは可能です。仮に2期連続で市長となった場合、4年の任期ごとに退職金が支払われます。
このように「市長」が2度以上退職金を受け取ってしまう事例もあるため、「市長に退職金は必要か否か」で論争が起こることもあります。
例えば、2013年、愛媛県伊予市議会の武智邦典市長は、退職金をカットすることを公約に掲げ当選し、本来であれば1900万円程支払われるはずだった退職金を22円に減額しています。
また、大阪市の橋下徹元市長は、退職手当を廃止の願い出た上で、毎月の給与に上乗せする退職後の給与の大幅な減額による激変緩和措置を行い、退職金は受け取りませんでした。
リコールとは?任期満了を前に「市長」を辞めなければいけない場合もあります。
「市長」の任期は4年と定められていますが「リコール」された場合は、任期を前に「市長」から解任されます。
「リコール」とは、有権者が地方自治体の職員を解任できる制度のことで、有権者の3分の1以上の票の署名を集め選挙管理委員会に申し出ることができます。その後、申し出が有効だと選挙委員会に判断されれば60日以内に住民投票が行われ、有権者の過半数が賛成すると市長は失職します。
ただし、市長が当選してから1年間の期間は「リコール」を行うことはできません。
ちなみに「市長」の年収は?「千葉市の市長」を例に計算
ここまで「市長」になるには、どのような条件があるのかを解説しましたが、実際に「市長」になった場合、どれほどの給与が受け取れるのかをご紹介します。
ドラマ『民衆の敵』では、千葉市がモデルになっており、千葉市議会がロケ地として使用されています。そのため、今回は「千葉市の市長」を参考に「市長」の実際の給料を見てみましょう。
現在の千葉市の「市長」である熊谷俊人さんは、平成21年6月14日から現在に渡って3期連続で「市長」に就任しています。熊谷市長は、31歳5ヶ月で「市長」に就任しており、2017年現在も政令指定都市の「市長」では最年少を記録しています。
そんな「千葉市市長」の毎月の給料は、2019年度のデータでは、約131万円です。いわゆるボーナスである期末手当は、年に1回、毎月の給与に4.30月分を掛けた分が支払われます。おおよその年収としては131万円の16.4か月分として2150万円、なお減額していますので実際はの支給額はさがります。
そして、退職金は、給料月額×在職月数×53/100でおよそ3,350万円が4年の任期ごとに支払われています。
ちなみに千葉市市長の熊谷市長は、2020年現在で、千葉県知事選挙への立候補の表明をしており、千葉県知事になる可能性も出てきているようです。
▼参考URL:千葉市|千葉市の給与・定員管理等について
まとめ -「市長」になるには?と「市長」を選ぶには?は、どちらも大切です
今回は、「市長」になるには?をテーマに、「市長」の役割、「市長」の仕事、「市長」の年収や「市長」の退職金などの「市長」の収入面についてもご紹介しました。
「市長」になるには、制度としては、まず法律に違反しない正しい選挙運動を行い、正々堂々と選挙に勝利することが必要です。「市長」になるには、まず選挙のことをよく知り、何が違法なのかをしっかり理解した上で、選挙戦に臨むと安心だと思います。
一方で、「市長」になるには、もちろん選挙制度を攻略するだけではなく、「市長」が普段どのような仕事をしているのかを理解し、市民にこの人こそふさわしいと思って選んでもらえる信頼関係を築くことも大切です。
そして、「市長」は、市民のリーダーとなり行政を実行する立場の人間です。広く市民の声を聞き、実行するための「行動力」と「思いやり」を持つことも大切です。もちろん、市民の声を行政に反映させるための知識や判断力などの、個人としての高い能力も必須です。
「市長」を選ぶ側である私たちにとっても、自分たちの「市長になるには」、どのような人がふさわしいのか、考えておくことも大切だと思います。
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