【アメリカ州制度】農業が盛んな州「アイオワ州」解説

日米安全保障条約をはじめ、日本と政治的にも、経済的にも密接な関係にあるアメリカ合衆国についての現地日本人レポートです。

今回のテーマは「アイオワ州」です。アイオワ州は、最も始めに大統領選が行われる州ですが、特徴や歴史を通してどんなところなのか解説していきます。


州民の70パーセント以上は農業に従事している時代があったとされるほど、アメリカのなかで農業が盛んな州であるアイオワ州ですが、実は最も始めに大統領選が行われる州であったり、移民の故郷とされていたり、国内外で耳にする機会が多い州です。

今回は様々な分野で特徴を持ったアイオワ州についてご紹介します。

アイオワ州の特徴

2018年時点でのアイオワ州の総人口は約314万人です。1960年には275万人の人がすでに生活をしていましたが、ほとんど人口増加がない珍しい州と言えるでしょう。州民の70パーセントはアイオワ州生まれとされており、州民のアイオワ州への地元愛が強いことを表しています。

アイオワ州の最も大きな特徴と言えるのが農業です。とくにトウモロコシ栽培では、イリノイ州と1位を争うほどの生産量があります。輸入に依存するアメリカのなかで、輸出が可能な貴重な産業です。また、過去には大豆の生産でも国内1位になった経歴もあり、農業はアイオワ州の主力産業であると言えます。

農業がここまで発達した背景には、恵まれた土壌の存在があります。氷河時代の終わりに氷河が大陸まで流れ込んだことで、他州よりも肥沃な土地になったと考えられており、アメリカ国内でAグレードの土壌の4分の1がアイオワ州にあるほどです。アイオワ州は、自然に恵まれ、それを活かした産業で発展してきたのです。

アメリカ人であってもアイオワ州と聞くと農業しか思い浮かばない人がほとんどですが、実は製造業、バイオテクノロジー、金融など多様な経済成長の側面も持っています。なかでも加工食品、重機械、農機具などの大手企業が進出しており、2008年のリーマンショックの際にはアメリカ全土で失業率が10パーセントを超えていたにも関わらず、アイオワ州は6.5パーセント以下で、安定した経済力を見せつけた結果になりました。

アイオワ州の農業や工業などに従事する人たちに共通するのが勤勉さだとされています。この背景には、州民の40パーセント近くがドイツ系の人であることが挙げられます。アメリカのなかでも珍しく、州民の90パーセント以上が白人種で、州内での言語は英語、スペイン語についでドイツ語が主流とされています。

アイオワ州は、ドイツ人以外にもオランダ人も多く、ミシシッピ川西岸のデュピュークという街はアメリカ最大のオランダ人生活居住区として知られています。この背景には、1673年にフランス人宣教師ジャック・マルケットがこの地を訪れたことが起点になっています。このようにアイオワ州は、古くからヨーロッパとの繋がりがあり、今日もそれが続いていることも特徴です。

現代では、アイオワ州法によって大統領選挙の初戦に該当する「大統領候補指名党員選挙」がどの州よりも先に実施されることが決められています。そのため、大統領選の際には必然的にアイオワ州の結果が取り沙汰され、注目を集めています。過去の事例では、アイオワ州で負けた候補者が大統領になることは少なく、アメリカでは「アイオワ州を制した者が大統領選を制す」という言葉があるほどです。

アイオワ州ではこれまでに250本以上の映画が撮影され、なかには世界的なヒット作の「マディソン郡の橋」や「フィールド・オブ・ドリームス」などが含まれています。これらの撮影地はいまでも観光地として多くの人が訪れており、州の観光スポットのひとつになっています。

アイオワ州の歴史

アイオワ州は、1846年に29番目の州として認められました。13,000年前の時点でインディアンの先祖となるパレオ・インディアンが生活をしていたと考えられています。いまから3,000年ほど前にはインディアンによる政治、経済などが確立され、定住型農耕民族として高い文明を持っていました。この頃から、現代に繋がる農業が始まったと考えられています。


1673年にフランス人のジャック・マルケットとルイ・ジョリエがアイオワを訪れたことが白人との最初の接触とされており、これを機にヨーロッパとの交易が始まります。フランス政府はこの地域をフランスの植民地であるヌーベルフランスの一部としました。

交易によって成功したインディアンの部族が勢力を強めたため、長く続いていたインディアン部族内の勢力図は大きく変わったとされています。また、交易が進むにつれてヨーロッパからの疫病も流行し、アイオウェイ族などは減少していきました。

1763年までこの地はフランス領ルイジアナと呼ばれていましたが、フレンチ・インディアン戦争の敗者となったフランスは同盟国だったスペインにアイオワの地を譲渡します。1800年にはフランスとスペインで条約が結ばれ、この地は再びフランスのものとなります。

1803年、アメリカ政府はフランスからフランス領だった広大な領土を1,500万ドルで買収します。アメリカ政府が手に入れた土地は、現在のアメリカ南部のルイジアナ州からカナダ国境付近のモンタナ州までの15州に及び、アメリカ大陸の中央部を南北にかけて一気に手に入れたことになります。これにより、アイオワの地はアメリカ政府のものとなったのです。これを「ルイジアナ買収」と呼びます。

1812年には、領土主張を続けるイギリスとインディアンが一緒になり、アメリカと戦争になります。武力で劣るインディアンだけは壊滅状態になり、土地は奪われアイオワの土地から追い出されてしまいました。結局、イギリスとアメリカでガン条約と呼ばれる講和条約が結ばれ、戦争は終結します。

1829年、アメリカ政府は現在のイリノイ州で生活していたインディアンに移住を命令しますが、インディアンは抵抗し、インディアンと民兵の間で争いが起こります。インディアンは降伏しましたが、懲罰として現在のアイオワ州の土地を手放すことを要求されました。このことは、当時のインディアンの酋長の名前をとって「ブラック・ホーク戦争」と呼ばれています。

1833年、アイオワ州を舞台にした公式なアメリカ人による開拓が始まります。東部とは異なる環境だったアイオワの地では豊富な木材や草原が広がっていたため、すぐに生活拠点が築かれていきました。1850年頃には開拓者たちが円滑に移動できるように鉄道開発が進められ、シカゴ・セントラル鉄道、後にイリノイ・セントラル鉄道などアメリカ大陸を東西南北に結びました。

鉄道の拠点はイリノイ州のシカゴでしたが、アイオワ州ではトウモロコシなどの農作物をシカゴ港へ送り世界各国へ輸出したり、食品加工業やオートムギの精製工場などは国内全土へ製品を送れるようになりました。鉄道の発達によってアイオワ州は飛躍的に成長したのです。

1860年から1870年にかけて鉄道の普及に合わせてヨーロッパ系の移民が爆発的に増えました。おおよそ70万人だった人口はわずか10年で倍増し、ドイツ、スウェーデン、イタリア、アフリカ系アメリカ人などが農業や炭坑で働きました。このような背景からアイオワ州は「移民の故郷」と呼ばれることもあります。

アイオワ州の政治情勢

アイオワ州では2012年の大統領選では民主党のオバマ、2016年には共和党のトランプを支持しています。もともと共和党を支持する人達が多いことで知られていますが、直近では民主党が勝つこともあります。

大統領選の際には初戦の舞台となるため、アイオワ州の票がどちらに傾くのかは、選挙戦を予想するうえで非常に重要な意味を持つとされています。大統領選の際は、アイオワ州が初戦で、翌週にはニューハンプシャー州という流れですが、このふたつの州の結果はその時の大統領選に大きな影響を与えるため覚えておくといいでしょう。

アイオワ州の経済

2018年時点、アイオワ州の失業率は2.8パーセントで、アメリカの平均値よりも低い数値です。アイオワ州では主力産業の農業以外にも製造業、バイオテクノロジー関連の企業が進出しており、景気に左右されにくい州とされています。

アメリカのテレビ局CNBCの調査では、アイオワ州やイリノイ州など中西部はビジネスを展開するのに最適なエリアとし、なかでもアイオワ州は「事業コスト」が低く抑えられる場所として1位の格付けにしています。

アイオワ州の税金

2018年時点で、アイオワ州の消費税は6.8パーセントです。6パーセントが州税、0.8パーセントは地方税の平均となります。未加工の食品であれば非課税です。所得税は0.36パーセントから8.98パーセントの9段階の累進課税制です。

アイオワ州は決して税率が低いわけではありませんが、ゴミ処理に使う税金の比重が大きく、道路上のゴミがアメリカのなかで最も少ないと評価されているのが特徴です。


アイオワ州の銃や薬物問題

アイオワ州ではマリファナは違法です。医療目的でも禁止されています。また、銃に対する取り組み格付けでは「C」グレードで購入時のバックグラウンドチェックが徹底されています。州民10万人に対して銃犯罪の犠牲者数が7.8人と低いものの、銃を使った軽犯罪が多いのが特徴です。アイオワ州は薬物も銃も規制は厳しいと言えます。

アイオワ州の教育または宗教事情

アイオワ州はアメリカのなかで初めて高校を設置した州とされています。また、4年制の高校の卒業率は87パーセントとアメリカのなかでトップ3に入るほど高いのが特徴です。アイオワ州の州立大学の理事会は州知事が選んだボランティア市民9名で構成されるユニークなシステムが採用されています。

アイオワ州の宗教はキリスト教が70パーセントと多いものの、もともと移民が多い州のためローマ・カトリックやアーミッシュと呼ばれるドイツ系の宗教集団も広く活動しています。

まとめ

アイオワ州は農業地帯であることに違いありませんが、移民の故郷と呼ばれる歴史や、鉄道の発展で成功を収めた州でもあり、どの時代でも低い失業率は特筆されるべきことと言えます。また、大統領選の際には大きな意味を持つ州として見られることを知っておくといいでしょう。

本記事は、2018年7月15日時点調査または公開された情報です。
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アイオワ州
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