就活生には馴染みが薄いかもしれませんが、働いて給料を貰うと、所得税や住民税などの税金を支払うようになります。働いている人の中にはこの税金について高いなと感じている人も多いでしょう。
そのような人が地方に寄付することによってお得なサービスを受けられるのが「ふるさと納税」です。
ふるさと納税を利用する人からすればメリットしかありませんが、一方でふるさと納税を行っている自治体にとってふるさと納税は本当に良い制度なのでしょうか。
ふるさと納税とは何か?
まずはふるさと納税とはどのような仕組みなのかについて説明します。
ふるさと納税とは?
ふるさと納税は「納税」と名前についていますが、正確には地方自治体への寄附のことを指します。
地方自治体に寄附をして確定申告を行うことで、寄附金のうち2000円を除いた金額が所得税や住民税から原則として全額控除を受けられる制度です。
地方自治体に寄附を行う代わりに、地方自治体から返礼品を受け取れる場合もあります。
何のために設立されたのか?
もともとは東京に人口が一極集中しており、地方自治体の財源が不足していることを是正しようという目的で誕生した制度です。
生まれ育った町に貢献したい、自分の意思で応援したい自治体があるという人が、積極的にその自治体に寄附できるようにするという趣旨で制度化されました。
ふるさと納税の流れ
では、ふるさと納税はどのような仕組みになっているのでしょうか。
①応援する自治体を選んで納税する
まず応援する自治体を選んでふるさと納税を行います。ふるさと納税の申し込み方法は地方自治体によって異なります。例えばインターネットを利用して申し込むこともできますし、寄附金申出書を提出して郵便振替や口座振込などで支払う方法があります。
②確定申告をする
寄附をすると返礼品や、確定申告際に必要な寄附証明を受け取ります。(振込用紙の半券が寄附証明となる場合もあります。)
確定申告のときにその証明書をもって、所得税と住民税の控除申告を行います。
③所得税や住民税から控除される
ふるさと納税が所得税から控除されると、所得税が安くなったり、既に多めの金額を支払っている場合は還付が受けられます。住民税の還付はありませんが、翌年から課税される税金がふるさと納税の分だけ安くなります。
ふるさと納税ワンストップ特例を申請したときの流れ
自営業の場合は確定申告が必要ですが、サラリーマンやOLとして働いている場合、原則として確定申告は必要ありません。
しかし、ふるさと納税を行っただけで確定申告を行う必要があるのならば、サラリーマンやOLにとっては手間になります。それを解決するのがふるさと納税ワンストップ特例です。
この制度を使えば確定申告を行う必要がありません。
寄附したい自治体を選んで、ふるさと納税先の自治体にふるさと納税ワンストップ特例を申請すれば、確定申告を行わずに控除が受けられます。
納税ワンストップ特例は、ふるさと納税を行う先が5自治体までのときに使える特例で、所得税から控除は行われず、所得税の分も含めて翌年の住民税から減額を受けることができます。
ふるさと納税と返礼品
地方自治体の元々の趣旨は自分が応援したい自治体を寄附という形で応援できる様にして、頑張っている地方自治体の地方創生を促進することでしたが実態はだいぶ異なっています。
ふるさと納税に寄附先選びに返礼品が大きな影響を与えるからです。通常の場合は、ふるさと納税を行うと、自治体から返礼品を受け取れるようになっています。
ふるさと納税で貰える豪華な返礼品
では、ふるさと納税を行うとどのような返礼品がもらえるでしょうか。
大抵の場合は、記念品であったり、その土地の特産物や農産物が受け取れるようになっています。中には豪華な賞品があります。
例えば、一時期豪華な返礼品としてニュースを賑わせたのがパソコンです。
山形県の米沢市にはNECのパソコンの工場があるのですが、それを利用して16万円のふるさと納税を行えば、10万7000円相当のNECのパソコンが返礼品として贈られることになっていました。
他にも、家電やブランド牛、プリペイドカードなど、寄附金額に対して還元率の良い返礼品はたくさんありました。現在は、総務省から、ふるさと納税に対して過度な返礼品を行わないように自粛要請がでているので、あまりにも還元率の良い商品を返礼品にすることを自粛する傾向があります。
ふるさと納税が地方自治体に与える影響
では、なぜ総務省が返礼品について自粛させようとしたのか、ふるさと納税が地方自治体に与えた影響について説明します。
住民税の総額は変わらない
まず、ふるさと納税が地方自治体に与えた影響を考える上で重要なことが、日本中の住民税の総額は変わらないということです。
ふるさと納税は地方自治体の住民税を増やすサービスではありません。確かにふるさと納税を受けた自治体は寄附金額分だけ財源が増えますが、一方で寄附した人が本来住民税を支払うはずだった自治体に納税するはずだった住民税が少なくなってしまいます。
つまり、ふるさと納税は有限の住民税を自治体同士で奪い合っているのにすぎないのです。
返礼品がかえって地方の財源を奪う
地方自治体同士が有限の住民税を巡って争う際に問題になることは、返礼品で納税者からふるさと納税を集めようとすることです。
例えば、1億円のふるさと納税があったとしても、5000万円分の返礼金を返していれば自治体に入るお金は5000万円となります。一方で全国の自治体からこの自治体のふるさと納税のために徴収できなくなった住民税は1億円となります。(正確に言えばふるさと納税1件に付き2000円は控除を受けられませんが、話を簡易化するためにここでは計算しません。)
つまりトータルの住民税が5000万円分減少してしまっているのです。更に返礼品競争が過熱すると全国の地方自治体に入るはずだった住民税の合計が更に減ってしまいます。
よって、総務省がふるさと納税の返礼品の過当競争に対して自粛するように促したのです。
本当に地方創生にとって必要なこと
ふるさと納税には地方創生に関する重要なポイントが隠されています。
お金で争うゼロサムゲームで争っても仕方ない
まず、重要なことがゼロサムゲームで地方自治体同士が争っても仕方ないということです。
日本国中の自治体を合わせた住民税の合計は一定なのでどこかの自治体が得をすればどこかの自治体は損をします。このように限られたパイを争うことをゼロサムゲームと呼びます。
ゼロサムゲームをしている限り地方創生を行うことはできません。どこかの自治体が良くなると、どこかの自治体が悪くなってしまうからです。
それが、地方自治体の努力の成果ならある程度仕方ないかもしれませんが、ふるさと納税で発生した競争は返礼品の還元率を巡る価格競争です。価格競争を行っていてはどこの自治体もよくなりません。ふるさと納税の還元率をあげていって、自治体の手元に残るお金がどんどん減るので共倒れになってしまいます。
自治体の地方創生施策は横並び
また、全国の自治体がふるさと納税を行っています。地方自治体の地方創生策は良くもわるくも横並びです。全国で観光産業を振興したり、ふるさと納税を集めたり、同じような施策を行っています。
ビジネスの世界では競合との差別化、優位性を作ることが、競争を勝ち抜くために必要だと言われています。
つまり、全国の自治体がふるさと納税を集めるということは、どこの自治体にもたらされる効果も微々たるものになってしまうのです。
今地方創生に成功している自治体は今メジャーになっている観光施策をいちはやく行っていたり、それまでどこの自治体も行っていなかった地方創生策を行った自治体です。
横並びの地方創生策では地方は創生しないでしょう。
地方を創生させるためには
地方創生のために必要なのはその自治体の人口を増やして、産業を成長させることです。ふるさと納税は一時的な税収はあげますが、返礼品を辞めればあっという間になくなってしまう、短期的なお金です。
短期的なお金は、短期的に地方創生を行うための費用にはなりうるのですが、長期的には地方創生に貢献してくれません。
長期的に地方創生に貢献するのは、その自治体が成長させた産業であったり、住んだり働いている人々です。
自治体がこれから成長する産業を絞って投資するということはできませんが、地方で起業しやすい環境を整えるということは今すぐにでもできます。
地方創生を実現させるためには短期的にお金を集めるのではなく、長期的に地域が成長できる様に環境を整えることの方が重要です。
まとめ
本記事ではふるさと納税の仕組みと地方自治体への影響について説明しました。本記事の後半ではふるさと納税の影響の悪い部分について説明していますが、もちろん良い部分もあります。
産業を成長させるのは自由競争が重要だというのが、今日の資本主義国家の基本的な考え方ですが、地方自治体にも同様のことが言えます。
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