アメリカの西側に位置するネバダ州は太平洋、カナダ、メキシコいずれにも面しておらず、アメリカの内陸部では最大の面積を誇る州です。ネバダ州よりも同州最大の都市であるラスベガスの方が有名かもしれませんが、ネバダ州を知るうえでギャンブルは重要な要素です。
また、日本ではあまり知られていませんが、ネバダ州は「アメリカの核が眠る場所」として有名です。華やかなイメージがある反面、核の恐怖と隣り合わせの場所でもあるのです。今回はそんなネバダ州についてご紹介します。
ネバダ州の特徴
2018年時点でのネバダ州の総人口は約299万人です。1980年以降、80万人だった人口は2007年にかけて爆発的に増加しました。人口では全米35位ですが、ネバダ州では人口の3分の2以上がラスベガスに集中しています。この背景にはギャンブル需要、観光産業、恵まれた気候などが関係していますが、何よりも職を見つけやすい環境ということが大きな要因です。
この風潮は現代でも続いており、アメリカで職に困ったらカリフォルニア州かラスベガスに行くと良いと言われるほどです。ただし、カリフォルニア州は生活費や税金が高いためラスベガスに人が集まっています。
ネバダ州の州名は、カリフォルニア州との州境にある「シエラネバダ山脈」から付けられました。スペイン語で「雪が積もった山」という意味があり、山岳地帯でもあるネバダ州を印象付けています。余談ですが、州民と州外の人たちの間で州名の発音(aの発音)に対する議論が度々起こり、法律で決着をつけようとしています。同じようなことは「アーカンソー州」でも起きており、主張を貫こうとするアメリカらしい風潮です。
ネバダ州はアメリカのなかでも最もリベラル(自由)な州と言われています。その理由に、1930年頃からギャンブル、売春、無過失離婚など様々なことを合法としてきたことがあります。アメリカ全土でギャンブル廃止論が湧いていた1900年代初頭、ネバダ州でもギャンブルは違法になりました。しかし、世界恐慌や農業の衰退などを理由に1931年に再び合法化し、後に世界的なギャンブル都市として有名になるラスベガスが作られました。
また、ネバダ州は住民投票によって売春を合法化しています。アメリカ50州のなかで売春を合法化しているのはネバダ州だけです。ただし、営業しているのはネバダ州のごく限られた田舎街のみで、州法によって従業員の健康管理や罰則規定が細かく規定されているため、社会全体に与える影響は少ないと考えられています。
1970年代、ネバダ州は「離婚天国」と呼ばれるようになりました。当時、アメリカで離婚することは法的な手続きが複雑で時間を要しました。とくに子供がいる場合は半年から1年以上は手続きに時間がかかるほどでした。もっと簡単に離婚を出来るようにしようとネバダ州では新しい離婚法を成立させたのです。
この離婚法の噂はすぐに全米に広まり、アメリカ各地からネバダ州で離婚手続きをする人が殺到したほどです。さらには、海外からも複雑な手続きを避けるためにネバダ州にやってくる外国人も増え、わずか6週間の滞在履歴があればネバダ州で離婚を成立させられました。この手軽さを象徴するように、アメリカの人気歌手が酔った勢いで結婚し、酔いが覚めた55時間後にはネバダ州で離婚手続きをしたほどです。
このようにネバダ州はラスベガスを拠点とした州で、アメリカ国内でもリベラルな風潮が強い州のひとつと言えます。その代表がギャンブルや売春、離婚法です。
ネバダ州の歴史
ネバダ州は、1864年に36番目の州としてネバダ準州から州に昇格しました。1775年、広大な砂漠と険しい山岳地帯だったネバダの地にスペイン人探検家のフランシスコ・トーマスが訪れ、先住民族のインディアンと初めて接したとされています。
スペインはこの土地を「アルタ・カリフォルニア」の一部として領有権を主張しますが、1810年から1821年にかけて行われたメキシコ独立戦争以降、メキシコが独立しカリフォルニアを含めこの周辺はメキシコの領土になりました。
1848年、アメリカとメキシコが争った米墨戦争においてアメリカが勝利し、アメリカはネバダを始め、カリフォルニア、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコ、ワイオミング、コロラドの管理権を手に入れました。その際にアメリカはメキシコに1825万ドルを支払っているため、事実上土地を買収したことになります。これを「メキシコ割譲」と呼びます。
1803年にはルイジアナ買収でアメリカ大陸中央を買収し、1848年にはアメリカ大陸西部を買収し、東海岸から始まった開拓はついに目標だった太平洋側までたどり着いたことになります。
1859年、現在のネバダ州バージニアシティ近くのコムストック・ロードでアメリカ初の銀鉱山が発見されました。これを聞きつけた人たちは一斉にネバダに集まり、鉱山の街として栄えていきます。鉱山に近いバージニアシティは数百人だった人口が8万人にまで膨れ上がりました。翌年には金鉱も発見され「4億ドル(現在の価値で約440億円)が地中から出てきた」と言われたほどです。
ネバダを起点とした銀や金の採掘は現在のカリフォルニア州でも行われるようになり、鉱山で働く人によってサンフランシスコが築かれました。カリフォルニア州のサンフランシスコは元を辿ればネバダのゴールドラッシュの成功によって生まれたと言えます。
1864年の大統領選を8日後に控えた10月31日、ネバダ準州は州に昇格します。この背景にはエイブラハム・リンカーンを再選させる狙いと、議会を共和党で支配させる狙いがありました。1900年代に入るとネバダ州の主産業だった鉱山は次々と閉山し、8万人が生活していたバージニアシティの人口は500人にまで減少しました。
人口減少が止まらないネバダ州はギャンブルを全面に打ち出す政策で人や企業を誘致します。とくに個人や法人に対して所得税を課さないことが話題を呼び、個人だけでなく企業もネバダ州に拠点を構えるようになりました。
1951年、ネバダ州にネバダ核実験場(Nevada National Security Site)が開設されます。鳥取県と同じほどの面積に該当するこの実験場では、地下核実験など900回以上の実験が行われています。また、この地はインディアン居留地でもあり、そこで生活している西ショショーニ族の子孫は甚大な放射線被害を受けているとされています。
2010年、西ショショーニ族の聖地でもあるネバダ州のユッカマウンテンにおおよそ7万トンに及ぶ高レベル放射性廃棄物の最終処分場が建設されました。この場所の地下300メートルにはアメリカ中の核廃棄物が集められています。州知事の反対を押し切って建設を決定した人物こそジョージ・W・ブッシュです。
このようにネバダ州は鉱山業を足がかりにして、ギャンブルや観光産業で発展してきましたが、現在では核と背中合わせの場所でもあり「国家の犠牲地域」と揶揄されています。
ネバダ州の政治情勢
ネバダ州では2012年、2016年の大統領選でいずれも民主党を支持しています。むかしから結果的に大統領選で勝利する人物に投票するケースが多いのが特徴です。州の北部と南部は政治で対立関係にあり、保守的な北部とリベラルな南部に区分されています。開発が進む南部の勢力が強く、選挙結果でも民主党の方が優勢です。
ネバダ州の経済
2018年時点、ネバダ州の失業率は5.0パーセントです。アメリカの平均よりも高い数値で、リーマンショック後の失業率は13パーセント代だったことから、失業率は平均的に高い傾向があります。
ネバダ州の主な産業は観光、鉱業、農業です。なかでも観光産業はラスベガスに代表されるように通年で雇用や歳入を生み出しています。しかし、職を求めてラスベガスにやってきたものの、職にありつけなかった人も多いため全体的な失業率を押し上げている原因になっています。
ネバダ州の税金
2018年時点、ネバダ州の消費税は8.14パーセントです。連邦税が6.85パーセントで、地方消費税の平均が1.29パーセントです。地域によって地方消費税に開きがあるのが特徴です。また、個人も法人も所得税がかからないため税に関しては生活しやすい場所と言えるでしょう。
ネバダ州の銃や薬物問題
ネバダ州では医療目的でも娯楽目的でもマリファナは合法です。娯楽目的での使用について住民投票をした結果、圧倒的に解禁すべきという結果になりました。また、医療目的でも許可されており、リベラルなネバダ州を印象付けました。
ネバダ州では銃への取り組み格付けは「C-」とされていますが、2017年に起きたアメリカ史上最悪の58人が犠牲になった銃乱射事件が起きた場所でもあります。また、ネバダ州は全米で最も治安が悪い州としても知られており、銃や治安の問題は州の大きな課題とされています。
ネバダ州の教育または宗教事情
ネバダ州の教育水準は最低レベルとされていますが、低所得者層への教育サポート制度や学校の授業料などは他州よりも良いとされています。また、インディアンの文化や言語を学べる学校もあり、文化を継承する教育では高い評価を受けています。
ネバダ州ではカトリックやキリスト教が多いものの、モルモン教やユダヤ教など多くの宗派が存在しています。隣接するユタ州はとくにモルモン教徒が多いため、この影響を受けてネバダ州でも多くのモルモン教徒が生活しています。
まとめ
ネバダ州はゴールドラッシュに沸き、リベラルな政策で特徴を築いてきたことが特徴です。核廃棄物の問題や高い犯罪率など課題は山積ですが、アメリカらしい自由な風潮が強い州と言えるでしょう。
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