発達障害とは
発達障害の種類
発達障害には症状や特徴によっていくつか区分されています。
▼自閉症
対人関係を築けない、こだわりがある、反復的な行動が好き、言葉の発達の遅れ、奇妙な話し方をするなどの特徴があります。
▼アスペルガー症候群
人の気持ちを想像できない、言葉の遅れや知的遅れはない、感覚過敏で不器用であるなどの特徴があります。
▼AD/HD
不注意、多動性、衝動性などの特徴があります。
▼学習障害(LD)
聴覚機能は正常だが聞いて理解することが苦手、視覚障害はないのに見て理解することが苦手、空間認知が困難などの特徴があります。
発達障害児の見え方、感じ方
発達障害は脳が原因ですので、それぞれ物事の見え方や感じ方が違います。そして感覚に敏感なことがあります。例えば「まずい、いたい、ぬれるのがいや」であったり「好きな場所、苦手な場所」があったり、よく「見えすぎる、聞こえすぎる」ことがあったりと、人によって様々な特徴があります。
そこで保育士はその子を理解し、その子の特性に応じた関わり方をする必要があります。まずは「それぞれ、見え方や感じ方がちがうことを知っておくことが大事です。」そして「感じ方のせいでいやな思いをする場合は、なるべくいやなものをとりのぞいてあげます。洋服のタグやぬい目は、体にふれないよう、糸をほどいてとったり、裏返しにして着たりするとよいと言われています。
また、カーテンにくるまることや、教室の下にもぐりこむことで安心するなら、おちつくまで待ちます。出てきてほしいときや、高いところにのぼってあぶないときは、おだやかにこれしようと言いながら、ふだん好きなおもちゃ、本などを見せてあげます。(参考文献:2014 内山『新しい発達と障害を考える本⑤』)
発達障害は、性格やしつけが原因ではない
小野寺『手にとるように発達心理学がわかる本』(2009)では、次のように述べています。
一般的に発達障害は性格やしつけが原因と考える人も多いようです。「スーパーの店内を走りまわったり、じっと静かに人の話を聞けくことができなくていつも先生に叱られている子どもたち。そうした子どもたちは昔もいましたが、近年ではさらに増えてきています。じつは、かつては「親がしつけをしっかりしないから」と、親が責められることがほとんどでした。
しかし、最近になって、こうした子どもたちの行動はしつけの不十分さからくるものではなく、脳の機能に問題があることがわかってきました。障害といっても、目に見える身体的機能の障害ではないため、その行動の特徴からどのような発達障害があるのかを見極めることが難しいのが現状です。そのため、教育現場ではいろいろな方法をとりながら、試行錯誤を重ねてこうした子どもたちに対応しようとしています。
- 出典
- 2009小野寺『手にとるように発達心理学がわかる本』p13
保育園での発達障害児支援の取り組み
入所までの流れ
保育園には入所する際に発達障害の診断を受けた子どもも入園します。発達障害の診断は医師が行い、規定に満たしたものは都道府県に障害手帳の交付を申請ができます。入所にあたっては、事前に保護者と子どもと担任で面談を行い、どのように保育園生活を送っていくか、気をつける点はあるか、保護者の要望はどのようなものがあるかなどを確認していきます。
また、地域の発達支援センターに通っていたり、保健師の支援を受けている場合も事前に、その担当者や保健師と面談し、どのように関わっていくか、その施設での様子などを聞いて、保育の参考にしていきます。そして市の規定により、発達障害児の支援計画を作成します。
保育園としての対応
クラスは一般的には幼児クラスですので、担任は1人なのですが、「気になる子」や発達障害児がいると担任を2人にすることもあります。4月からクラスがスタートすると、1人の担任は主にクラス全体や多くの児童をみます。そしてもう1人の担任が発達障害児や「気になる子」を常に一緒に行動する形で保育をします。
保育士の保護者支援
そしてその担当の保育士は迎えに来た保護者にその日の保育の様子を具体的に伝えたり、家での様子を聞いたりして、また翌日からの保育に活かしていきます。「保育園で今日このようなことがあったのですが家ではどのような様子ですか?」など保育士は教えてもらうことも大切です。
そして毎日の送迎時に保護者と話すことで信頼関係を築いていき、保護者から些細なことでも要望を言いやすくしていきます。そして3ヶ月に1回程度、また保護者と担任で面談を行いこれまでの成長を確認したり、これからに向けて次はどのようなことに力を入れていくか、どのように発達を支援して関わっていくかを話し合います。その時に保育士は固くなりすぎずに和やかな雰囲気に話し合いが進められるように配慮することが求められます。また、子どもへの関わりに関してはぶれずに一定の対応が求められます。
親や保育士、発達支援センターの担当など、周囲の支援者が同じ対応をすることで、その子は混乱をすることなく「してもいいこと」と「してはいけないこと」を理解することができます。
保護者との相互理解
保護者との相互理解について、汐見『保育所保育指針ハンドブック』(2017)では、次のように指摘しています。
相互理解の基本として、預かった子どもをどう育てるのか、何を願って育てていくのか、ということを保護者に説明する必要があります。そのためには、園での子どもの様子を伝えるときなども、単に出来事を報告するのではなく、子どもが体験したことや思い、その姿が将来のどんな人間像につながるのか、などきちんと説明していきます。その積み重ねによって、保護者は園の方針を理解し、信頼関係をもてるのです。
- 出典
- 2017汐見『保育所保育指針ハンドブック』p162
保護者の状況に個別に配慮
保育園ではきめ細やかな配慮が求められます。
汐見『保育所保育指針ハンドブック』は次のように述べています。
保育園に入所してから月齢に対して発達が追いついていないと障害があるかもしれないと判断される場合もあります。子どもに障害や発達上の課題がある場合は、なるべく早い段階で専門機関につなぎ、客観的な判断を仰ぐことが大事です。障害が疑われる場合は、いきなり保護者にアプローチするのではなく、まず園内でケース会議などを開き、専門家に意見を聞くなどする中で、保護者に伝える方法やその必要性などを判断していきます。
- 出典
- 2017 汐見『保育所保育指針ハンドブック』p163
保育士の発達障害児への支援方法
その子に合った支援方法を考える
先に述べたように、発達障害にも様々な種類や特徴があります。そして人によってもその症状の出方や特徴が異なっています。保育士はその発達障害児の特徴や個性を理解した上での支援が求められます。例えば、保育園の1日の流れがわかりづらい、次の行動がわからずに困っている子には、絵や写真、シールを使ってわかりやすくやるべきことを伝えるという支援方法があります。
短い言葉で具体的に伝える
発達障害児は脳の回路が原因であいまいな言葉を理解することが難しいと言われています。例えば、「もうちょっとしたら外に遊びに行くよ」という声かけでは伝わらないことがあります。具体的に「時計の長い針が2になったら外に行くよ。」と伝えることで、その子は理解がしやすくなります。発達障害児には「もうちょっと」という概念が理解しづらいのです。そして「靴を履くといいかも」と曖昧な表現もNGです。この場面にでは「靴を履くよ」と明確に伝えます。
また、伝える時は短い言葉で伝えることも大事です。その子に何かをしてほしい時は、「トイレが終わったら手を洗って教室に戻るよ。そしたら粘土をするから道具箱から出してね。」と言うのは不適切です。このような時は1つずつわかりやすく伝えるのがよいとされています。「トイレでおしっこするよ。」、「手を洗うよ。」、「教室に行くよ」と、その行動の時に1つずつわかりやすく次の行動を伝えます。
よい行動をした時におおげさに褒める
例えばAD/HDで多動性がある子は椅子にずっと座っていることも難しいことがあります。子どもが座っていられなくて走り出すと、保育士は「立たないんだよ。」としつこく言うことがあります。しかし、よくない行動を咎めるよりも、「座れてえらいね。」といい行動を褒めたほうが、望ましい行動をしてくれるようになります。
事例
ある男の子(以下Bくんとする)は1歳児クラスから入所しました。3月生まれということもあり、周りの子どもと比べると幼いということがありました。Bくんは突発的に走り出したり部屋中をずっと走り回ったりすることがありました。
また、扇風機などの回るものが好きでずっと見ていたり、虫が好きで、虫の様子をずっと観察したりしていました。1歳児クラスの時は、Bくんの兄が発達障害と診断されているので、保育士たちは「お兄ちゃんの真似をしているのかな」と話しながら、「グレーゾーン」だと感じていました。
グレーゾーンとは行動などが発達障害と疑われるが、月齢によってはそれが個性と捉えられるため判断が難しい常態を言います。進級しても突発的に走ったり、くるくると回ることは変わらず見られました。そこで保育士たちは担任や主任保育士、園長、副園長を中心にケース会議を開き、その子のお母さんに「気になる点があるので、保健師さんに1度相談してみますか?」と声をかけてみましょうか、と話が出ました。後日そのお母さんに話した所、お母さんも了承し、保健師に繋げ、専門家にBくんの様子を見てもらうことにしました。
そして病院も受診し、自閉症と診断されました。保健師は定期的に保育園に来て、担当保育士にアドバイスをしました。例えば突発的に教室を出て走り出した時は、今までは「今はお部屋にいる時間だよ。外には出ないよ。」と伝えていました。しかし、保健師にアドバイスをもらってからは、走り出しても教室の中に抑制するのではなく、その子に「落ち着いてたら戻って来てね。」と声をかけるようにしました。そうすることでその子は癇癪を起こすことなく、次の行動に移れました。
保育は毎日の積み重ねです。1度伝えても十分に伝わっていないことがあります。保育士はその子が望ましい姿になれるように、その都度丁寧に伝えていきます。その際に、その子の気持ちに寄り添うことが大切です。
保育士の質の向上
保育園の保育士は保育のプロであっても発達障害児などの療育のプロではありません。発達障害児や「気になる子」に対する関わり方によって、その子の発達が大きく左右されます。よい関わりができれば、その子も生活しやすく保育園生活も楽しいと感じられると思います。逆に保育士がその子のことを全く見当違いに理解していたり、よくない関わりをしていると、その子にとって生きづらく保育園生活もつらいものになってしまいます。
そこで保育士の質の向上に関して、地域の保健師が実際に保育園に来てアドバイスを受けることがあります。発達障害児を担当する保育士の関わり方を見て、「こういうふうに関わるといいですよ。」や、その子が突発的に走り出してしまったときには「戻ってくるまで待ちましょう」と、その場面に応じて適切にアドバイスをもらえます。それによって保育士もその子への関わりが楽になりますし、その子も不適切な関わりによって生じていたストレスから解放され、楽になります。
まとめ
発達障害とは家庭での育て方や先生の指導力不足の問題ではありません。そして、周りだけではなく、本当は当人が一番困っています。
保育士は発達障害を正しく理解し、その子に合った支援方法を考え、実践していきます。支援方法を考える時には保護者の意向を十分に考慮し、保健師などの関係機関との連携を図ることが大切です。保育士はその子の能力を伸ばし、困っていることを排除して、心身ともに調和のとれた発達を促していきます。
なにより、その子のことを思う気持ちが大切です。
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