アメリカ西海岸の最北部にあるワシントン州はカナダとの国境に面しており、緑豊かな場所であることから「The Evergreen State」という愛称で呼ばれています。州の50パーセント以上は山地や森林でありながら、MicrosoftやAmazonなどのIT関連の大企業が本拠地を構える州としても有名です。
また、日本人を含むアジア系移民とも深い繋がりがあり、アメリカ本土のなかでアジア系が最も多く生活する州でもあります。今回は近年成長が凄まじいシアトルなどの大都市があるワシントン州についてご紹介します。
ワシントン州の特徴
2018年現在、ワシントン州の総人口は約740万人です。1960年頃から人口は急激に増え続けており、直近の20年では1年に1万人程度のペースで人口が増えています。この人口増加はIT産業の成長と比例しており、MicrosoftやAmazonを始めとする大企業や、その関連企業の多くが同州に拠点を構えていることが関係しています。
ワシントン州では州民のおおよそ70パーセントが白人、次いでヒスパニックが11パーセント、アジア系が7.2パーセントと黒人よりもアジア系の方が多いことが特徴です。この背景には1800年代初頭に多くの中国人移民がこの地にやってきたことがあります。
その大半はカリフォルニアのゴールドラッシュや大陸横断鉄道の建設工事に従事していましたが、鉄道が開通すると一斉に職を失いました。職を失った人たちはワシントン州に移り住み、安い賃金で別の労働を続けたものの、ぞんざいな扱いを受け続け暴徒化した結果、1880年にアメリカ政府は中国人の移住を停止しました。
1889年には人頭税と呼ばれる無条件に税金を徴収する制度が適応され、その大半は国外一斉退去を強いられました。中国人に限らずアジア系移民を排斥するこの流れは10年間の期限付きだったものの、度々更新され1943年まで続きました。1924年には日本人も対象とされ、アジア人はアメリカに入国できない、または追放されることが続きました。
1869年に鉄道が開通してからこの土地は急激に成長を始めます。鉄道開通前は10万人未満だった人口は、第一次世界大戦が始まる1914年には120万人を超え、ボーイング社がピュージェット湾周辺で重爆撃機を生産し、シアトルなどの港では造船業が始まりワシントン州全体で軍事産業が盛んになりました。
爆撃機を始め航空機製造で急成長したボーイングは同州に雇用と税収をもたらしましたが、第二次世界大戦以降はボーイングに頼る一極集中型の経済は減速してしまいました。その代わりに台頭したのがMicrosoftなどのコンピューター産業です。
ワシントン州ではボーイング社に頼ることなく様々な分野の企業を誘致し、成長が見込まれる分野の企業が集まってきました。なかでもシアトルはリベラルな風潮や自由な企業気質が評判を呼び、Amazonやスターバックス、Costcoなど世界的大企業が拠点を置いています。
このようにワシントン州はリベラル気質で成長分野の企業を呼び込む先見性の高さや、アジア系の人にとって歴史的な縁があることが特徴と言えます。
ワシントン州の歴史
ワシントン州は、1889年にアメリカ合衆国42番目の州になりました。州名はアメリカの初代大統領のジョージ・ワシントンに由来しています。50州のなかで歴代大統領の名前を採用したのはワシントン州だけです。
「ワシントン州」とアメリカの首都の「ワシントンD.C.」を混同しがちですが、まったくの別物でありアメリカ国内ではワシントン州は「ワシントン」、ワシントンD.C.は「D.C.」と呼んで区別されています。ワシントンD.C.はワシントン州ではなく遥か東に位置しています。
1755年、スペイン人航海士のドン・ブルーノ・デ・ヘセタがこの地に上陸し、スペイン領土と宣言したことから白人の時代が始まります。これ以前はサケやクジラなどの漁や農業を中心にしたヤキマ族など多くのインディアンがこの地で生活していました。ちなみに、よく知られたトーテムポールは、アメリカ大陸北西部沿岸(ワシントン州やアラスカ州など)のインディアンが起源とされています。
1790年にはイギリスとスペインとの話し合いによってこの地は開放され、イギリスやロシア、アメリカなどが交易を始めました。後の1818年にはイギリスとアメリカがこの地をロッキー山脈より東を協同領土にし、ロッキー山脈より西については保留状態が続きました。
オレゴン・カントリーと呼ばれた西の土地はアメリカ人が勝手に開拓を始めていたためイギリスとアメリカの関係は緊張状態になります。しかし、この頃にはメキシコとの戦争に集中していたアメリカが妥協するかたちで、北緯49度線を境にして領土を区分し決着しました。(1846年オレゴン条約)また、同年にはワシントン州の前身となるオレゴン準州になりました。
ワシントンの大半がアメリカの領土になってからはアメリカ人開拓者とインディアンの対立が始まります。なかでも後にオレゴン・トレイルと呼ばれる開拓者たちが使う道を築いた医師のマーカス・ホイットマンとの間で生じた、ひとつの誤解から戦争が始まります。
医師だったマーカス・ホイットマンは流行していた天然痘や麻疹の治療をインディアンにも白人にも区別することなく施していました。免疫がないインディアンは命を落とし、免疫があった白人は回復しましたが、このことがインディアンを意図的に殺害していると誤解され1847年にマーカス・ホイットマンはインディアンに殺害されてしまいます。この一件でカイユース戦争が起こり、敗れたインディアンは強制的に居留地に追いやられてしまいました。
イギリスから土地を譲り受け、インディアンも追い出したアメリカ人は南北に入り組むピュージェット湾周辺の開拓を始めます。その際の中心人物が黒人開拓者のジョージ・ワシントン・ブッシュです。ミズーリ州で人種差別を受けたため、逃げるようにしてワシントンにやってきた彼は後にタムウォーターという街を築きます。黒人でありながらワシントン州を築いた人物として知られています。1889年、オレゴン準州は州へ昇格し、早くから女性参政権を推進する州として注目されます。
1897年には現在のアラスカ州などで金脈が見つかりシアトルはゴールドラッシュに湧きます。シアトルは金を掘り当てようとする人たちで溢れ、採掘が続いた2年間だけで10万人がシアトルにやってきました。そして、そのなかにはカリフォルニアのゴールドラッシュを経験したアジア人も多く含まれていて、後に一部の成功者を除いて移民排斥法によって追い出されてしまいます。
1900年代には軍事産業で急成長し、アメリカ軍の軍艦や爆撃機の大半は同州のタコマで生産されました。これにより航空機製造のボーイング社が州のアイコンになったものの、現在ではMicrosoftやAmazonなどのIT産業の中心地として知られています。
ワシントン州の政治情勢
ワシントン州では2012年、2016年の大統領選の際には民主党を支持しています。州の東部は保守派、西部はリベラルという違いあることが特徴です。州の西部に人口が集中しているため必然的にリベラル派が優勢です。Amazonやスターバックスなどにも象徴されるようにリベラルな風潮は政治にも影響しています。
ワシントン州の経済
2018年時点、ワシントン州の失業率は4.8パーセントです。アメリカの平均よりもやや高いことが特徴で、その背景にはアメリカ西海岸への人口移動やIT産業などの急速な成長が関係しています。とくにIT産業の成長は今後も継続するとされており、2040年には同州の人口は900万人に到達すると見込まれています。経済の成長と比例するように増加する失業者への対策は州の課題と言われています。
ワシントン州の税金
2018年時点、ワシントン州の消費税は9.18パーセントです。連邦税が6.5パーセントで、地方消費税の平均が2.68パーセントです。消費税は決して安いとは言えないものの、原則として食品は非課税で、さらには個人の所得税はかかりません。ちなみに、ワシントン州の南部に隣接するオレゴン州は消費税がかからないため州を超えて買い物に出向く人もいます。
ワシントン州の銃や薬物問題
ワシントン州ではマリファナは全面的に解禁されています。カリフォルニア州が手本にしたようにワシントン州でのマリファナビジネスの成長は著しく、毎年4億ドル以上の税収があるとされています。
ワシントン州の銃に対する取り組み格付けは「B」グレードです。州民10万人に対して銃による犠牲者数は10名と、他の大都市圏と比較して低いことが特徴です。マリファナが合法でなおかつ銃犯罪が少ない例として同州は度々取り上げられています。
ワシントン州の教育または宗教事情
ワシントン州の教育水準は全米で6番目に高いとされています。なかでも高等教育の水準はトップ3に入るほどで、1861年設立のワシントン大学はアメリカ西海岸最大規模の大学です。
ワシントン州の宗教はキリスト教が60パーセントを占めているものの、コロラド州に次いで全米で2番目に無宗教の人が多い州であることが特徴です。宗教においてもリベラルな風潮があると言えます。
まとめ
ワシントン州はゴールドラッシュや軍事産業、IT産業で目覚ましい成長を遂げてきました。リベラルな風潮と成長分野の企業が多いことから、カリフォルニア州に変わる西海岸の代表になると言われています。
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