はじめに
2017年の訪日外国人の数は2869万人でした。近年急速に外国からの観光客が増加しており、政府は2020年に4000万人、2030年に6000万人の訪日外国人を誘致することを目標にしています。
近年のこのような観光客の増加は単にアジア圏の外国人の所得が増加して日本に観光に来る金銭的余裕ができたからだけではなく、これまで行われてきた観光推進施策も観光客の増加に貢献したと考えられます。
本記事では今日本に大量の外国人がなぜ訪れているのか、どのような政策がこれまで行われてきたのか、地方自治体の観光産業に対する向き合い方について説明します。
訪日外国人が増加した6つの理由
訪日外国人が増加したのはごく最近のことです。2007年から2012年まで訪日外国人数は800万人前後で頭打ちになっていましたが、2013年約1000万人、2014年約1300万人、2015年約2000万人、2016年約2400万人、2017年約2900万人と急速に増加しています。このように2013年から訪日外国人が急増している理由としては以下のような6つの理由が考えられます。
アベノミクスにより円安になった
まず、2013年が2012年以前と大きく違うことが、為替が円安に振れたことです。2012年の年末に民主党から自由民主党に政権が交代し第二次安倍内閣が成立しました。第二次安倍内閣でが「異次元の金融緩和」をスローガンとして積極的な金融緩和を行いました。
その結果、為替は一気に円高から円安に傾き、外国人旅行客も気軽に日本でお金を使いやすい環境になりました。これが2013年から観光客が急増する端緒になったと考えられます。
アジア圏の平均所得があがった
もちろん、ただ円安になったから観光客が増えたというわけではありません。円安になって相対的に日本でお金を使いやすくなったのと同時に、アジア圏の平均所得が上がったのが観光客の急増した理由だと考えられます。
特に日本の観光客急増に大きな影響を与えたと言われるのが中国人ですが、中国が経済成長し中国人が日本に観光に来て大量に買い物をする「爆買い」という言葉が2015年の流行語にも選ばれました。
ビザが緩和された
また、中国人などのアジア圏からの旅行者が増加している背景にはビザの緩和もあります。例えば、中国から訪日する場合、ビザを取得する必要があります。ビザの取得が昔は困難で、1997年に団体旅行に対するビザが解禁されましたが、個人旅行向けのビザが解禁されたのは2009年のことですが、それも一部の富裕層に対してだけでした。その後、中国人に対するビザの発給要件は緩和されていき、いまでは個人旅行に対するビザの発給要件は比較的容易なものになっています。
このように政府が観光産業を振興するためにビザを緩和していることがアジア圏からの訪日外国人増に大きく貢献しています。
LCCや民泊などの発達
さらにアジア圏からの旅行客が増えたのにはLCC(格安航空)や民泊などの発達があります。例えば、訪日外国人に人気の観光地として大阪がありますが、大阪の関西国際空港はPeachを始めとするLCCが海外との航空便を積極的に就航させておりアジア圏からの訪日外国人が訪れるようになっています。
更に今では法律によって一定の規制が加えられましたが、規制前は民泊によって普通のホテルを利用するよりも宿泊費を抑えて旅行をすることができました。
このように日本に渡航する費用が下がったことも原因だと言えます。
日本のプロモーション活動
日本の政府や企業も訪日外国人を誘致するために活動を行っています。例えば2003年より始まったビジットジャパンキャンペーンではウェブサイトやSNSでの情報発信はもちろんのこと、日本の文化などを海外に広告宣伝したり、海外の旅行博に出展したりとアピール活動をしています。
更にオリンピックやラグビーワールドカップ、万博など国際的なイベントの誘致に対しても積極的に取り組んでいます。
SNSなどにより情報が拡散するようになった
単にプロモーション活動を行っているだけではなく、SNSなどによって旅行者が観光情報を拡散してくれることも広告宣伝効果を果たしています。
日本に観光しに行った友人、知人のSNSから日本の風景や食べ物について知ったり、旅行サイトの口コミを見たりして日本に旅行しにくるというケースも、ITによるコミュニケーションの変化により増加していると考えられます。
政府が行ってきた観光施策
上記のように、訪日外国人が増加した6つの理由について説明しましたが、この中には政府や自治体の観光施策と関係のない理由も含まれています。政府がこれまで行ってきた観光施策を中心に、訪日外国人を増やすために政府がどのような取り組みをしてきたのかについて大まかに説明します。
2003年ビジットジャパンキャンペーン開始
まず日本が観光立国を目指す1つの契機となったのが2003年のビジットジャパンキャンペーンです。ビジットジャパンキャンペーンは当時の小泉首相が当時500万人ほどであった日本への外国人旅行客を2010年までに1000万人にするという目標を施政方針演説で語ったことより始まります。
この演説を受けて国土交通大臣が本部長となりビジットジャパンキャンペーンという日本に外国人観光客を誘致するキャンペーンが立ち上がり、日本旅行の宣伝や国内の旅行客受け入れ態勢の整備が始まりました。
2008年観光庁が設置される
ビジットジャパンキャンペーンにより観光客は順調に増加していきます。もともと観光に関する法律として昭和38年に制定された観光基本法という法律がありましたが、2006年にはこの法律を全面改正して観光立国推進基本法という法律を制定し、具体的な観光戦略を規定する「観光立国推進基本計画」を政府が定めるようになりました。
さらに2008年に政府は国土交通省の外局として観光振興を行う観光庁が設置してますます観光振興に取り組みを強化しました。
取り組みの成果もあり2008年には約840万人まで増加し2010年までに1000万人に到達しそうな勢いでした。しかし、2009年から2012年まで訪日外国人数は600万人~800万人の間で停滞してしまいます。
この間にもビザを緩和して観光客が旅行しやすい環境を整備したりしていたものの、リーマンショックによって世界的な不況になったこと、世界が不況から立ち直り始めた時に政権交代して急激に為替が円高になったこと、東日本大震災の発生、更にその風評被害によって長らく訪日外国人数が伸び悩んだのです。
2013年アベノミクスにより円安傾向に
2012年までの伸び悩みの時期を突破する起爆剤の一つは政権交代です。これについては上で説明した通りですので、ここでは詳しく説明しません。
「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」策定
安倍政権下では、観光立国を実現するためにこれまで以上に観光振興に力を入れています。アジア圏からの旅行客に対するビザの発給条件を緩和するのはもちろんのこと、観光立国推進閣僚会議という会議を年に1、2回のペースで開催して、各年度の観光施策における目標を全閣僚が参加して決定しています。
ここで決まった目標は「観光ビジョン実現プログラム」として公開されており、これをベースに様々な観光施策が実施されます。
地方は観光産業にどのように向き合うべきか
上で説明した「観光ビジョン実現プログラム」を見れば今後政府が注力する観光施策を分析することができます。観光ビジョン実現プログラム2018には何が書かれているのでしょうか。
観光ビジョン実現プログラム2018
観光ビジョン実現プログラム2018には観光振興の戦略として以下の3つの視点が記載されています。
視点1. 観光資源の魅力を極め、「地方創生」の礎に
視点2. 観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に
視点3.すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に
この3つの視点を元にさまざまな施策が行われるのですが、注目すべきは視点1です。政府は観光産業を地方創生の礎にしようとしています。
2018年に限ったことではありませんが、ここ数年、観光産業を振興するために地方に様々な補助金を用意しており、地方もゆるキャラを作ったり、イベントを開催したりとさまざまな観光振興策を行っています。
観光は地方創生の起爆剤となりえるのか
政府は地方創生の礎としての役割を観光産業に期待していますが、地方はこのスタンスには注意する必要があります。例えば北海道のように海外旅行客によって魅力的な観光資源がある地域は観光による地方創生は可能ですが、日本全国すべてに魅力的な観光資源が存在するわけではありません。
つまり、観光産業に注力しても地域創生には至らない地域も多いと考えられます。政府がビザの緩和、観光振興に対する補助金の交付、海外へのプロモーションなどを積極的に行っていますが、地方自治体のリソースは限られていますので、よく地域の資源を見極めた上で観光振興にどの位力を入れるかには検討すべきです。
まとめ
以上のように、訪日外国人はなぜ増加しているのか、政府はこれまでどのような観光施策を行ってきたのかについて説明しました。2003年にビジットジャパンキャンペーンが開始されて以来、ビザの緩和や海外に対するプロモーション活動、日本版DMOの育成など政府は観光産業を重点的に進行しています。
この活動の結果2003年には約500万人程度であった訪日外国人は15年で約3000万人まで増加しました。
また、観光産業は地方創生の礎になることが期待されており、政府も地方が観光産業を推進するために様々な取り組みをしています。ただし、地方がこのような潮流に必ずしも従うべきとは限りません。
日本全国を見渡せば、どうあがいても観光資源が存在しない地方自治体も数多く存在します。そのような地方自治体は観光振興ではなく、起業家を育成するような仕組みを作ったり、農産物のブランディング、六次化を推進したりする方向性での地方創生の方が向いている可能性があります。
地方自治体の創生施策は他の自治体の成功事例を見ながら行うので横並びになりがちですが、そもそも観光産業を振興するかべきかということは良く考えるべきです。
コメント
コメント一覧 (2件)
単純に魅力的だからという理由で日本の観光業が盛り上がっているのではなく、ビザ取得の緩和など政府の試みなどのおかげもあると知れて良かった。
海外視点でいうところの所謂ジャパニーズカルチャーが大好きなので、日本独特の文化に偏った知識しかありませんでしたが、円安などをきっかけに観光者が増える側面もあるのだなと感じつつ、そういえば私も海外へ行くときは日本円換算したときに物価がかなり安くなる国にばかり目を向けていたことに気づかされました。