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立法と行政の狭間にある「特別措置法」のメリットや問題について

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立法と行政は本当に分離しているのか

三権分立の主旨に従えば、立法が法律を作り、行政が法律を運用し、司法が法律自体やその運用についてチェックするというのが、日本における三権の基本的な役割です。

このうち、司法については三権の中でも比較的、他の機関から独立しています。最高裁判所の長官は内閣が指名、判事も内閣が任命しますが、辞めさせる方法は国民審査制度だけで政権がそのときのさじ加減で自由に任命したり辞めさせたりはできません。

高度な政治性を持っている問題については「統治行為論」ということで審査を避けますが、それ以外のことであれば、基本的に立法や行政の拘束は受けません。

立法と行政の結びつき

一方で立法と行政の結びつきは強いです。まず、内閣総理大臣は国会議員による選挙によって決定されますし、内閣総理大臣は国会議員(実質的には衆議院議員)の中から選ばれますし、内閣を構成する国務大臣の過半数以上は国会議員の中から選ばないといけないと法律で定められています。

さらに、内閣はいつでも衆議院を解散することができる一方で、衆議院で内閣不信任決議が可決すると、衆議院を解散するか総辞職を選ばなければなりません。

また、行政の予算や決算のためには国会の議決が必要になりますし、根拠となる法律がなければ行政は活動することができません。

このように制度上、立法と行政は強く結びついているのです。

実質的には行政が法律を作っている?

制度上は国会が行政に対して大きな影響を与えられる仕組みになっていますが、実質的には行政側が立法側に大きな影響を与えています。

立法の最大の権限は法律を制定することです。しかし、この法律は実質的にはほとんど行政によって作られています。

毎年、日本の国会で可決されて施行される法律のほとんどは行政立法という官僚が主導して作った法案に基づく法律で、国会議員が主導してつくった法律案はほとんど議員立法として成立することができません。

つまり、実質的には法律を運用する側が制定に大きな影響を与えているのです。


特別措置法とは?

以上のような結びつきから、法律の制定と運用は厳密に切り分けることができず、実態的には一体的に運営されています。そして、何か問題が発生した時に、司法がブレーキをかけることになっています。

特別措置法とは?

立法と行政が極めて一体的に運営されていることの証拠の1つが特別措置法と呼ばれる法律の類型です。

特別措置法とは現行の法制度では対応できないような問題は発生した時に、その問題を解決するために期間や目的などを限定して制定される法律のことを指します。

近年制定された代表的な特別措置法としては、東日本大震災から復興するために、特別に制定された「福島復興再生特別措置法」や自衛隊をイラクに派遣するために作られた「イラク復興支援特別措置法」などがあります。

他にも、再生可能エネルギー特別措置法や新型インフルエンザ等対策特別措置法、口蹄疫対策特別措置法などが存在します。

適用対象も立法が指定する?

特別措置法が他の法律と異なることは、適用対象についても立法が指定していることです。福島復興再生特別措置法は東日本大震災、イラク復興支援特別措置法はイラクへの自衛隊派遣のようにいずれも特定の事件だけを対象にしています。

例えば、東日本大震災が発生した後に、熊本地震という熊本に大きな被害を及ぼした自身が発生しましたが、この地震には福島復興再生特別措置法は適用されません。

適用の対象を限定することによって、極めて立法と行政の垣根をなくした法律が特別措置法です。

特別措置法を巡る問題

ここまでの説明を見て、特別措置法という法律の類型があるということは理解していただけたと考えます。ただし、なぜわざわざこの法律を行政と立法の狭間として問題にしているのか疑問に思っている方も多いと考えられます。

実は、特別措置法は法の理念上は極めてグレーな要素が強い法律なのです。

行政と立法を分けることの主旨

三権分立の理念では、行政、立法、司法は分離されています。しかし、特別措置法的な法律は無制限に制定されて良いのならば、行政と立法はわざわざ分離する必要はありません。「行政・立法」と「司法」の二権分立だけで良いはずです。つまり、行政と立法を分離しているのは一定の合理的な理由が存在するはずです。

立法と行政を分立させなければならないのは、「法律」というものの性質に基づきます。法律は一般的・抽象的に規定しなければならないと考えられています。

一般的・抽象的に規定するということは言いかえると名宛人を特定してはならないということです。逆に名宛人を特定した法律とはすなわち「●●の財産を没収する法律」「●●に公共工事を受注させる法律」などです。

つまり、名宛人を具体的にした法律を制定できるのならば、国会は簡単に特定個人の財産を没収したり、権利を制限したりすることができるのです。そして、その人が司法の救済を受けるのには時間がかかりますし、救済されない可能性もあります。また、誰かをピンポイントに利する法律を逆差別につながります。

このような事情から立法の暴動を防ぐために、立法は一般的・抽象的に規定して、その法律を具体的に誰に適用するかは行政が決定するようになっています。これが、三権分立として、立法と行政を分立させている主旨です。


特別措置法のメリット・デメリット

以上のように考えると、三権分立上、特別措置法と呼ばれるタイプの法律は法律としての一般抽象度が低いのでできれば使わない方が良いです。このような前提でも特別措置法を制定するのにはそれなりの理由があります。わざわざ特別措置法を制定するメリット・デメリットについて説明します。

特別措置法のメリット

特別措置法として制定することのメリットは適用対象を制限できることです。立法段階で名宛人を限定していれば、その法律が制定された後に、思いもよらなかった対象に法律が適用されることはありません。そして、これは政治のテクニックでもあります。

例えば、イラク復興支援特別措置法はイラクの復興支援のために自衛隊をイラクのために派遣する法律でしたが、自衛隊を海外に派遣することについては根強い反対があり、一般的に自衛隊を海外に派遣する法律を国会で通過させることは困難でした。

よって、特別措置法という形でイラクへの自衛隊派遣だけに限って適用する法律をつくることによって、自衛隊の海外派遣に反対している議員をおさえて、法律を制定、自衛隊をイラクに派遣できるようにしたのです。

特別措置法のデメリット

一方でデメリットとして挙げられるのが、先ほど説明した通り恣意的な権力の行使につながりやすいということです。例えば、災害が発生するたびに特別措置法をつくったとして、それぞれの地震で法律が異なるので、被災者の救済策に著しく差が発生するような事態になったとすれば、被災者はその違いに怒ることでしょう。

同じようなケースには同じような法律を適用できるように、一般的抽象的な規範として定率するのが原則です。特別措置法を乱発することは、恣意的でなかったとしても誰かを優遇したり、冷遇したりすることにつながりかねません。

公務員は法律とどのように向き合うべきか

法律や条例と議員、公務員はどのように向き合うべきかというのは非常に重要な問題です。特別措置法の事例からも分かる通り、法定立と法執行は極めて近しい関係性にあります。

一般・抽象的に作りすぎるとその後予想外の事例に法律や条例が適用されるかもしれませんし、適用対象を具体的に定めすぎると、権力分立の観点からふさわしくない場合が存在します。

特別措置法的な法律や条例は、便利なので政治的妥協の結果として使用したくはなりますが、立法・行政に携わるものに矜持として、きちんと後の世の中の役に立つような一般・抽象的な規範を制定・運用した方が良いでしょう。

まとめ

本記事では、特別措置法というタイプの法律をもとに、立法と行政の狭間について考察してきました。法律や条例を制定するのに実際には、官僚や地方公務員が大きく関わっていることから、行政と立法の結びつきは極めて強いです。

ただし、だからといって行政と立法が一体化することは権力抑制の観点から望ましくはありません。立法と行政が一体化してしまうと、特定の人物や団体を国家として厚遇したり、冷遇したりすることが簡単にできてしまうからです。

ただし、よく言えば法執行を迅速に行うために、悪く言えば政治的妥協の産物として、特別措置法という、適用する事例を限定した、きわめて行政的な立法が行われることがしばしばあります。

特別措置法は、特定の事件の解決するために、名宛人や期限を極めて限定した法律です。特別措置法を制定することによってその他の事例に法律の効果が発生しないので、法案の検討期間を短縮したり、予算を限定したり、国会議員同士の妥協点を模索しやすくなることによって、法律をスピーディーに制定することが可能になります。ただし、このような法律を乱発すると、立法と行政の垣根が低くなり、三権分立が形骸化する可能性もあります。

立法と行政は、実務上極めて近いポジションで仕事をしていますが、それでもそこで働く人たちはお互いの適切な距離感は何なのかを考えたうえで、立法と行政がそれぞれの権限をきちんと尊重しあえる関係性の方が良いでしょう。

本記事は、2019年5月21日時点調査または公開された情報です。
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この記事を書いた人

公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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