はじめに
「国家公務員」の試験区分には、「総合職」「一般職(大卒)」「一般職(高卒)」「専門職」があり、それぞれに試験内容や難易度が異なり、当然倍率も変わってきます。
今回は、この試験区分ごとに、受験者数の推移や合格者の傾向、穴場といえるような試験区分などをまとめました。
「国家公務員試験」の受験者数の推移
まずは公務員試験の受験者数の推移から職業としての公務員の人気度を推測したいと思います。
上の図は国家公務員採用試験申込者数の推移を表した表です。
図を見ると公務員試験の受験者は平成25年以降横ばい、平成28年から見れば微減する傾向があることが読み取れます。トータルの受験者数は近年13万人~15万人の横ばいで今後もこの傾向が続くと考えられます。
総合職の申込者数は時代に関わらずほぼ横ばい傾向
総合職試験の申込者数は平成の30年間ほぼ横ばいで推移しています。ピーク時は平成7年の43,431人で平成30年の22,559人の92.5%増しですが、平成18年以降はずっと2万人台の受験者数をキープしています。
総合職試験は公務員試験の中でも難易度が高いので、簡単な気持ちで受験する人が少ないと考えられます。
一般職(大卒)は平成24年以降3万人台で安定
一般職(大卒)の受験者数は平成24年以降受験者数3万人台で安定しています。一般職(大卒)試験で近年ニュースになったのが女性の合格者の増加です。
令和元年度の一般試験(大卒)の合格者は7,605人で女性は2,839人(37.3%)と一般職試験導入から最多の合格者数になったと言われています。
▼詳細:女性合格者、過去最高の37.3% 国家公務員一般職
https://www.asahi.com/articles/ASM8N31X6M8NUTFK002.html
女性は公務員試験に合格しやすいのか?については「女性は公務員になりやすい?女性の国家公務員一般職試験合格者過去最高に」という記事も合わせて確認してください。
一般職(高卒)に受験者数回復の兆し
一般職(高卒)は平成の間に最も受験者数が減りました。ピークの平成6年154,286人から平成30年には14,455人と90%以上受験者が減少しています。大学への進学率が増加していることも理由として考えられますが、高卒者の就職先として相対的に公務員の人気が落ちてきていると考えられます。
ただし、令和元年の公務員試験においては一般職(高卒)の受験者数は増加していると報道されています。令和元年の一般職(高卒)の申込者は15,338人で、現行の試験制度になってから最多の受験者数になりました。
今後、急激に増加することはないと考えられますが、これまでの反動として徐々に受験者数が増えることも予想されます。
▼詳細:国家公務員試験、高卒申込者が過去最多1万5,338人
https://resemom.jp/article/2019/08/13/51952.html
採用区分別の採用倍率-どうしても官僚になりたければ大学院?
上の図は平成25年度から29年度まで5年分の公務員試験の採用倍率について調査したデータです。
この表からいくつかの傾向が読み取れます。
(合格倍率とは申込者→採用候補者名簿に掲載されるための倍率、採用倍率はその年度に名簿に新規で掲載された人数→内定を獲得した人数で計算しています。厳密には過年度の合格者も加味して倍率を算出するべきですが、過年度の受験者がどの程度の割合で採用面接に参加するのか統計が存在しないため、本記事では過年度の合格者は加味せずに算出しています。)
どの試験でも採用倍率はほとんど変わらない
まず1つ目の傾向として、どの試験区分であっても採用倍率にほとんど違いはありません。年度によってもことなりますが、だいたい2~3倍位を目安に考えれば良いでしょう。
合格倍率については、総合職試験(大卒)の倍率が突出して高くなっています。毎年倍率10倍超えの難関試験なので、受験する方は丁寧に対策する必要があります。
面接になれば女性の方が有利
男女別に傾向を見ると、どの試験区分でも男性の方が合格倍率は低く、女性の方が採用倍率は低い傾向があります。
ここから、男性の方が試験に強く、女性の方が面接に強い傾向が読み取れます。そして、とくに総合職試験(大卒)でこの傾向が顕著です。
大学院に行った方が官僚になりやすい?
総合職には院卒者試験と大卒程度試験の2種類があります。少なくとも近年の傾向を見ると院卒者試験の方が大卒程度試験よりも合格倍率、採用倍率共に低い傾向があります。
もちろん大卒と院卒では母集団の質が異なるので、院卒試験の方が簡単だとは言い切れませんが、官僚になりたいのならば例えば大学四年生で受験して内定を貰えなければ、留年や卒業をするのではなく、大学院に進学するのも良いと考えられます。
専門職試験は一般職試験よりも倍率高め
総合職、一般職とは別に専門職試験もあります。専門職試験の傾向について説明します。
(以下、資料は全て人事院の「平成30年度 年次報告書」より抜粋・作成しています。)
大卒程度の専門職試験の倍率
高卒程度の専門職試験の倍率
基本的には専門職試験の方が倍率は高い
大卒程度、高卒程度ともに一般職試験よりも専門職試験の方が倍率が高い傾向が読み取れます。特に皇宮護衛官は採用枠自体が小さいため、倍率20倍~40倍になるということで、総合職試験以上の高い倍率です。
大卒試験の「国税専門官」、高卒試験の「刑務官」「税務職員」などは倍率が低めで年度によっては一般職試験の倍率を下回る可能性もあります。
区分試験で見る合格倍率
それぞれの試験をさらに区分試験別で分析します。
総合職試験(院卒者試験)の区分試験別の傾向
▼平成30年度 国家公務員採用総合職試験(院卒者試験)の区分試験別申込者数・合格者数・採用内定者数(単位:人)
まず、「法務」区分は毎年ほとんど合格者がでないので、とりあえず無視した方が良いでしょう。その他の区分試験の合格倍率・採用倍率は次のとおりとなります。
一般論としては「農業農村工学」「森林・自然環境」の倍率が低い傾向がありますが、そもそも受験者数自体が少ない傾向があるので、受験者数が増加するとこの傾向が変化すると考えられます。
また、「行政」と「工学」が申込者数が多い傾向がありますが、倍率で考えると工学の方が有利です。
いずれにしても合格倍率が2.47倍から7.25倍と試験区分によって大きく異なるのに対して、採用倍率は2.00倍から4.00倍ということで試験区分間の格差が少ないです。
総合職試験(大卒程度)の区分試験別の傾向
総合職試験(大卒程度)の区分試験別の傾向についても分析します。
▼平成30年度 国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)の区分試験別申込者数・合格者数・採用内定者数(単位:人)
これを倍率に換算すると次の表のとおりとなります。
院卒程度試験と同様に文系科目の方が申込者も採用内定者も多い傾向がありますが、文系科目の方が倍率が高くなりがちです。一番申込者が多いのは「法律」ですが、倍率も一番高くなっています。
一方で3番目に受験者数が多い工学ですが24.08倍と他の申込者が多い科目よりも倍率が著しく低い傾向があります。
これまでの傾向と同様に、合格倍率は試験区分毎により大きな差がありますが、採用倍率は試験区分に限らずほとんど違いはありません。
一般職試験(大卒程度)の区分試験別の傾向
続いて、一般職試験(大卒程度)の試験区分毎の傾向について分析します。一般職の試験区分は科目と地域の2つの分類があります。
まずは、申込者数と合格者のデータについて紹介します。
▼その1:区分試験別 (単位:人)
▼その2:行政区分の地域試験別 (単位:人)
これを合格倍率に変換すると次の表のとおりとなります。
区分試験の傾向としてやはり、申込者数が多い「行政」の倍率が高い傾向があります。申込者が多くても「土木」は倍率が低めです。
地域別にみると、関東甲信越や近畿のような人口が集中している地域の方が倍率は高くなる傾向があります。倍率だけで地域を選ぶなら、北海道、中国地方の倍率が低めです。
一般職試験(高卒者)の区分試験別の傾向
一般職試験(高卒者)の試験動向について分析します。まず地域別、区分試験別の申込者数、合格者数の数は次のようになっています。
これを倍率に換算すると次のようになります。
一般職大卒程度とは逆に人口が多い地域の方が倍率は低い傾向にあります。また、注目するべきは技術職の倍率の低さでおおむね倍率2倍程度で推移しています。
倍率に関する調査からいえること
最後に今回の倍率に関する調査から導きだされる国家公務員の試験傾向について解説します。
筆記試験で受験者を大きくふるいにかけている
採用倍率は2~4倍程度なのに対して、合格倍率は1倍台から20倍以上まで試験区分によって大きく異なります。
この差が発生するのは申込者が多い試験区分では筆記試験で人数を絞っているからだと考えられます。面接まで進めばどの試験区分でもそれほど倍率に違いはないので、人気の試験区分で受験する場合は筆記試験でふるい落とされないように特に入念に試験対策をした方が良いでしょう。
面接では女性の方が男性よりも有利
女性は筆記試験の合格率が低い傾向がありますが、面接まで進むと女性の方が採用されやすい傾向があります。女性の方は筆記でふるい落とされないように特に試験対策を行った方が良いです。
理系の試験区分の方が倍率は低くなりがち
「法律」や「行政」のような試験区分は、採用人数は多いですが、申込者も多いので倍率が高くなりがちです。一方で申込人数が多くても倍率が低いのが理系の試験区分です。
公務員というとどうしても文系職のようなイメージを持っているかたも多いかもしれませんが、実は理系の就職先として穴場だと考えられます。
専門職試験なら「国税専門官」「刑務官」
総合職、一般職の他に専門職試験もありますが、専門職試験の中で特殊な技能が必要なく、倍率が低めなのが「国税専門官」「刑務官」です。
専門職試験も併願する場合はこれらの職種を狙うと良いでしょう。
「倍率が低い=試験が簡単」ではない
倍率という観点から国家公務員試験について分析してきましたが、倍率が低い=試験が簡単ということではありません。
たとえば、総合職(院卒程度)と総合職(大卒程度)では、倍率が極端に違いますが、試験内容自体は院卒程度の方が難易度は高いと考えられます。
もちろん、倍率が低い試験であっても、試験自体が難しければ相応の試験対策が必要になります。
まとめ
「倍率」という観点から国家公務員試験について紹介してきましたが、どの試験の倍率が低そうかだけではなく、その仕事に興味を持てそうかという視点も実際の就職活動には必要です。
もっとも色々な職業に就ける可能性があるタイミングが新卒の就職活動です。また、ファーストキャリアによってその次の職業は制限されますし、年齢を重ねるほど実績やスキルが求められて、まったく違う職業に転職できる可能性が少なくなります。
倍率は本記事で紹介したとおりですが、ぜひ仕事内容自体についても調べて自分の一生の仕事としてふさわしいかを考えてください。
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