はじめに
政府は「マイナンバー」の普及のために2019年度中に国家・地方に関わらず全ての公務員が「マイナンバーカード」を取得するように促しています。
2016年から開始した「マイナンバー制度」ですが、カードの普及に苦戦しており、まず公務員からでも普及させたいという意向が見受けられます。
本記事では公務員の「マイナンバーカード」取得に関するニュースから、なぜ「マイナンバーカード」の普及に注力しているのかについて説明します。
公務員は「マイナンバーカード」の取得が必須に?
東京新聞の報道によると、政府が2019年6月4日のデジタル・ガバメント閣僚会議にて国家公務員や地方公務員について2019年度内に「マイナンバーカード」の一斉取得を推進することを決定しました。
これを受けて「総務省」は自治体や共済組合などに取得状況を定期的に報告するように通知、「中央省庁」についても「内閣官房」と「財務省」が取得を依頼し、定期的に「財務省」に取得状況を報告するように促したとされています。
「マイナンバーカード」の取得に関して、「通知」や「依頼」と言っても完全に任意とは考えられず、強制ではないかという批判も散見されます。
▼詳細:全公務員、マイナンバーカード 年度内取得 事実上強制
https://www.tokyo-np.co.jp/article/15249
普及に苦戦する「マイナンバーカード」
公務員に「マイナンバーカード」の取得を奨励する前提として、「マイナンバーカード」普及の苦戦があります。
2016年1月の「マイナンバー制度」に伴ってスタートした「マイナンバーカード」ですが、全国での普及率は1割程度です。ただし、住民サービスに積極的に「マイナンバーカード」を取り入れている自治体では普及率が5割以上になっているとも言われています。
▼詳細:マイナンバーカード(日経新聞)
https://www.nikkei.com/theme/?dw=19021301
「マイナンバーカード」を普及させるために、まず政府や地方自治体に関わる公務員が自ら「マイナンバーカード」を取得、理解を深めなければならないという思想があると考えられます。
当初の目標は2019年末までに68%
内閣府の「マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(Ver2)」によると、「マイナンバー制度」開始当初、2018年3月末3,000万枚、2018年3月末6,000万枚、2019年3月末には8,700万枚の普及を目標にしていました。
8,700万枚と言えば、人口対比で普及率約68%にあたり、現状は計画の5分の1以下の普及率、2018年3月末の目標にも到達していないことになります。
▼詳細:マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(Ver2)
https://www.cao.go.jp/bangouseido/pdf/20170314siryou_27-30.pdf
目標達成困難な普及プラン
ちなみに普及率68%といえば、だいたい2015年のスマホの普及率と同様です。スマホの普及率は2010年の統計記録開始時点で9.7%、そこから2015年には72.0%と急速に普及しました。スマホの普及スピードについて初代iPhoneが発売された2007年をスマホ元年とするならば8年かけて72%まで普及率を達成したことになります。
「マイナンバーカード」は3年3か月で68%の普及を目標にしていたので単純に考えればスマホの倍以上のスピードで普及させるのを目標としていたことになります。
▼スマホの普及率については:情報通信機器の保有状況
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd252110.html
感覚的にはかなりのスピードで普及したスマホの更に倍のスピードで普及させようとしていたということで、いかに困難な目標を設定していたかが読みとれます。
「マイナンバー」はどのような制度なのか
政府が積極的に普及させようとしているのにも関わらず苦戦している「マイナンバーカード」ですが、そもそも「マイナンバー制度」「マイナンバーカード」とは何だったのかについて説明します。
「マイナンバー」=デジタル・ガバメントの第一段階
政府が急速に「マイナンバーカード」を普及させようとしているのは、「マイナンバーカード」がデジタル・ガバメントの推進の第一段階にあたるからです。
デジタル・ガバメントとは行政にIT技術を導入して情報システムを構築、手続きのオンライン化、コスト削減と同時に行政サービスを「すぐ使えて」、「簡単に」、「便利」にしようとする試みです。
情報システムを構築してデジタル・ガバメントを推進するためには前提として、各省庁や自治体が保有しているデータを統合する必要があります。
なぜ社会保険の徴収漏れが発生していたのか
データ統合の重要性を示す事例として、たとえば昔問題となっていたのが税務署と年金事務所のデータ連携があります。税務署は「財務省」、年金事務所は「厚生労働省」管轄となり縄張りが違うのでなかなかデータを共有していませんでした。
そのために、細かくデータを管理している税務署と、データに抜け漏れが存在する年金事務所とでは把握している事業者数などが異なり、多くの社会保険の徴収漏れが発生していたと言われています。
ばらばらのデータを統合するためには「マイナンバー」が必要
このようなケースは税務署-年金事務所以外にもさまざまな事例がありますが、それぞれがデータをばらばらに管理していては全容を把握できません。把握するためには個人を特定するIDを作成して、IDに各機関が把握している情報を結びつける必要があります。
このIDに当たるのが「マイナンバー」です。ちなみに「マイナンバーカード」の普及率は10%台に留まっていますが、「マイナンバー」自体はすでに全ての国民(永住外国人などを含む)に割り当てられています。
両者の違いについてはのちほど詳しく説明します。
海外にも同様の制度がある
ちなみに、国民一人一人に「マイナンバー」を付与して行政を効率化させようという発想は日本だけではなく、既にさまざまな国が導入しています。
有名な制度の一つがアメリカの社会保障番号制度でしょう。アメリカでは1936年から社会保障政策の一環として社会保障番号制度を導入しました。導入当時の目的には個人の収入や支出を記録し税金などの徴収漏れが発生しないようにするためで、普及には時間がかかりました。
しかし、現代ではほぼすべてのアメリカ市民に普及し、ポピュラーな身分証明書として使用されるようになり、銀行の口座開設やガス・水道・電気などのインフラの契約などさまざまな場面で必須となっています。
「マイナンバーカード」が普及しないと行政は効率化されない?
「マイナンバー」は既にすべての国民に割り当てられているので、「マイナンバーカード」自体が普及していなくても問題ないと思われるかもしれません。しかし、「マイナンバー」を国民に割り振っても「マイナンバーカード」が普及していないと、その効果は半減されます。
「マイナンバー」と「マイナンバーカード」の違いについて説明します。
「マイナンバー」導入で達成できたこと
「マイナンバー制度」を導入した時点ですでにいくつか達成できたことがあります。
たとえば、アルバイトなどをしている方は勤務先に「マイナンバー」の提出を求められたことがあるかもしれません。これは会社が従業員の個人情報を確認したいがために収集しているのではなく、企業側が源泉徴収や社会保険料の支払いの際に従業員の「マイナンバー」を記載しなければならないので収集しているだけです。
このように「マイナンバー」自体ができたことによって個人の所得や社会保険への加入状況などは既に大方把握できるようになりました。
「マイナンバーカード」が普及しないと実現できないこと
一方で「マイナンバー」自体が国民に割り振られていても、「マイナンバーカード」が普及しないと、行政の効率化はできません。
たとえば、「マイナンバーカード」を使うと、コンビニで住民票や印鑑証明書などの公的書類を発行できたり、公的な身分証明書としても利用できたりします。また、2022年度中には「マイナンバーカード」を健康保険証として機能されることも予定されています。
「マイナンバーカード」が普及することによって、それまでばらばらだった身分証や保険証などの機能をすべて「マイナンバーカード」に統合することが期待されています。
さらに、「マイナンバーカード」が普及させて、「マイナンバー」用に行政システムを作り替えれば窓口ではなく、機械を使っての諸手続きが可能になるかもしれません。
行政手続きの効率化を図るのならば、ただ「マイナンバー」を割り当てるだけではなく、「マイナンバーカード」自体を普及させなければなりません。
「マイナンバー」に悪用の危険はあるのか?
ちなみに、「マイナンバーカード」を巡る論点の一つとして、「マイナンバー」を第三者が知ることにより個人情報が漏えい、悪用されるのではないかという危惧があります。「マイナンバー」が悪用されるとどのようなリスクがあるのかについて説明します。
個人情報流出、悪用の可能性はほとんどない
結論から言えば、「マイナンバー」が他人に知られることによって個人情報流出、悪用される可能性はほとんどありません。「マイナンバー」だけを知っていても、役所で情報請求や手続きを行おうとすれば結局身分証明書を使った本人確認が必要となります。
また、「マイナンバーカード」そのものが流出すると身分証明書の機能があるので、個人情報に関する書類を取得できたり、行政手続きが勝手に行われる可能性があります。
しかし、「マイナンバーカード」は顔写真付きなので、他人がなりすますことはほぼできないと考えられます。
悪用の可能性がゼロとは言い切れない
ただし、悪用される可能性はゼロとは言い切れません。長年運用されているアメリカの社会保障番号でもなりすましのような事態が発生しています。
犯罪者とセキュリティーはいたちごっこで進化しており、日本の「マイナンバーカード」についても、そのうち何らかの盲点を見つけ出して悪用する人が現れるかもしれません。
ただし、運転免許証や社会保険証などすべての公的書類にはそのようなリスクがあるので、「マイナンバーカード」だけが特段ハイリスクであるとは言い切れないでしょう。
まとめ
「マイナンバーカード」の普及目標は2019年3月末に68%でしたが、実際には2019年9月時点で10%台とまだまだ目標にはほぼ遠い状況です。政府が「マイナンバーカード」の普及を急ぐ背景にはデジタル・ガバメント構想があります。
「マイナンバー制度」が誕生した段階で、個人情報は各公的組織間で共有しやすくなりましたが、行政サービスにまつわるコストはいまだ高いままです。行政サービスにまつわるコストを下げようと思えば、「マイナンバー」を割り振るだけでは不十分で、「マイナンバーカード」を使って市民が行政手続きを行う必要があります。
2019年中に取得することを公務員に推奨していますが、まず公務員が「マイナンバー」を作成して、その意義を理解しないと、行政サービスの中で活かされないと考えられます。
これから公務員を目指そうという方も、公務員になったらほぼ作成しなければならないので「マイナンバーカード」を作成してみてはいかがでしょうか。
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