はじめに
今回は、新卒である地方の県庁職員(行政職)となり、約6年間の勤務を経て現在は民間企業で働いているAさんに、「県庁から中央官庁への派遣体験」についてインタビューしたので、ご紹介します。
県庁内での選考
私が所属していた県庁では在職3年後25歳ほどから概ね30代前半までを対象に、庁外への出向・派遣を通じた長期派遣研修制度があり、私はこの制度に応募しました。派遣先には中央官庁、他都道府県庁、県内外の民間企業、大学院、海外団体などが存在しました。
選考プロセスとしては、まず派遣希望先とその理由を記したエントリーシートを提出し、その後人事担当との面接を経て候補者順位(1位の方が派遣内定)が作成されるというものでした。私は最終的に中央官庁へ派遣されることとなったのですが、当初は民間企業や大学院を研修先として希望してエントリーをしており、中央官庁は希望しませんでした。
後から漏れ聞いた話も踏まえた感覚ですが、一般的に中央官庁は激務であるという噂も背景にあってか、積極的に応募する方は少数のようでした。一方、それに比べると民間企業や大学院、海外団体は人気があったようです。
私は希望先に落選したのですが、どうやら応募の少なかった派遣先の候補者として選ばれたようです。(敗者復活的に改めて希望するか否かの意向確認が事前にありました。)4月から転勤となったのですが、3月上旬ほどの早い時期には内示があり転居等の準備を進めました。
派遣先での身分と県庁との関係
県庁から中央官庁に出向する場合、大きく2通りの方法がありそれによって職員の身分が変わってきます。
1つは形式的に一度県庁を退職し官庁に入庁するケースです。この場合は名目上の身分は官庁に属します。もう1つは東京事務所所属などで県職員の身分を保持したまま、官庁に研修員として席を置かせてもらうケースです。
この2つの違いは、互いの人事当局同士で定めた整理に起因するのですが、派遣者の立場からすると官庁での役職であったり給与水準であったりの影響があります。
私は上述した後者のケースだったのですが、官庁での残業代はほぼ県庁からフルに支給されました。一方、前者で出向した知人は官庁から給与支給されるため、官庁の予算制約下でフル支給は得られなかったようです。
県庁との関係という点では、時折県庁の担当部局から情報提供の依頼であったり、官庁側の局長以下幹部職員とのアポ取りの依頼であったりを受けることがありました。ただし、私の派遣先は人事当局が持っている研修先の1つという位置づけでしたので、県庁担当部局との接点はそれほど強固ではありませんでした。
同じ職場に他の県庁から派遣されている方がいましたが、こちらは県庁担当部局の意向もあって得た派遣ポストであったようで、よく県庁からロビー活動に職員が来ており橋渡しなどが大変そうでした。少なからず、そういった役割がどの都道府県庁であっても派遣職員に期待されていることは事実と言えそうです。
中央官庁での仕事内容
派遣先の官庁では、ある特定の行政領域を所管する部局の総括課に配属されました。総括課はその部局内で国会・他省庁からの照会対応や法令・予算・政策・人事・組織などに関する窓口となって取りまとめを担う組織です。
その中でも私は法令・政策の取りまとめを行う係に置かれ、主に他省庁からの法令・政策に関する問い合わせに対し、部局内で回答案を取りまとめる業務のほか、担当する法令に関する一部改定の構想・検討に携わりました。
中央官庁は全省庁合わせれば県庁以上に大きな規模であり、省庁間での問い合わせや依頼は少なくありませんでした。その窓口となり部局内外で協議・交渉する事案も多く、多岐にわたる方々と仕事をさせていただきました。
この過程では、部局が所管する行政領域についての現状と課題、その解決のために中央官庁で取り組もうとしていることへの理解を深め、一スタッフとして仕事に当たりました。また、法令担当として法令の解釈や作成に関する技術も学びました。
まとめ – 派遣経験から得たこと
この派遣経験は私自身にとって率直に良いものとなりました。
私が配属されたポジションは係の末席でしたが、この席は本来官庁に入庁した1年目の若手が就くポジションで、仕事の重要度以上に官庁での仕事の仕方を勉強するためのような位置付けでした。中央官庁では部下の仕事ぶりを上司がきちんと指導する文化があり、かつ私が上司に恵まれたこともあり、仕事のノウハウを多く教えてもらうことができました。
社会人5年目のタイミングで私は派遣されたのですが、正直なところ初めて社会人として仕事の回し方を十分に指導してもらえた思いさえ感じました。
何より中央官庁は私が在籍した県庁と比べると、仕事の進め方や品質が総じて完成されており、組織的なレベルの高さを感じました。特に仕事の進め方は一定の共通理解を各人が持っており、これが組織レベルを高めていたと思います。
一方、県庁では各人にそのような共通理解がないがゆえに仕事の進め方がバラバラであり、県庁に帰任してからはその点で歯痒さを感じるほどでした。
派遣を通して、異なるカルチャーを持つ組織に身を置き、仕事をする経験を得たことで視野が広がりました。また先に述べたように高いレベルでの仕事の進め方も学ぶことができました。人によって合う合わないはあると思いますが、都道府県の職員が中央官庁に出向することはオススメの体験と考えます。
コメント