リカードの比較生産費説とは?
リカードの比較生産費説は、教養試験の社会科学における経済分野でも繰り返し問われる必須知識です。したがって、筆記試験対策としても活かせるよう以下に解説をします。
この説を定義すると、「両国が自国にとって得意な生産物に生産を特化し、それを輸出した方が、全体として生産性が高まるという考え」となります。
リカードは主著である『経済学及び課税の原理』でこの主張を展開しました。これは、自由貿易が望ましいという文脈で紹介されますね。なぜなら、得意なものに生産を特化した場合、その裏返しには、苦手なものは他国から輸入しなくてはいけなくなり(国際分業)、その時、貿易に規制なくスムーズにやり取りできたほうが良いことになるからです。
典型問題で理解を深めよう
さて、公務員試験では、比較生産費説を以下のような形式の問題で出題されることが多いです。過去問題をオリジナルに改題しましたので、一緒に解いて理解を深めましょう。
解説していきましょう。
まず、リカードの比較生産費説は「両国が自国にとって」の得意なものに生産を特化させるという考え方でしたね。したがって、表から、「A国は、1単位つくるのに少ない労働者数で済んでいるTシャツをつくる方が得意なのだな、B国は逆にワインが1単位当たりの労働者数が少ないので得意なのだな」と読み取れます(生産費を今回は労働者数という人件費だと考えましょう)。
言い方を変えると、A国はTシャツに、B国はワインに比較優位があるわけです(選択肢5はここで誤りと分かります)。
次に、それに「生産を特化させる」のですから、A国がTシャツを、B国がワインをそれぞれつくるのに専念する国際分業が成立します(選択肢1・2は「国際分業が成立しない」としているので誤りとなるます)。裏返しに言えば、A国はワインを、B国はTシャツを、それぞれ輸入するようになります。
つまり、リカードの比較生産費説に基づくと、A国はTシャツづくりに特化し、B国からワインを輸入します。B国はワインづくりに特化し、A国からTシャツを輸入します。こうなっている選択肢は4ですね(正答4)。
ちなみに、よく間違えてしまう考え方は、A国とB国を比較してしまうことです。そうすると、選択肢2のようにB国がA国より両方とも優れている(少ない労働者数でつくれるため)ことになりますよね。こういう見方は絶対優位といいます(ということは、選択肢5は、A国にTシャツづくりの絶対優位があるようになっている部分も誤りですよね)。
絶対優位的に表を見ないように心がけ、「自国にとって」の「得意」をみるのが比較生産費説だと認識しておきましょう。
「全体としての生産性」は高まっているのか?
ところで、リカードの比較生産費説は、「全体として生産性が高まる」という主張をしていますが、本当なのでしょうか。上の典型問題を使って考察をしておきます。
分かりやすいように、A・B両国の労働者数を与えておきます。A国は220人で、100人がTシャツをつくり、120人がワインをつくっていたとします。つまり、Tシャツ1単位生産+ワイン1単位生産の2単位生産していたわけです。
同様に、B国は170人で、90人がTシャツ、80人がワインをつくっているので、Tシャツ1単位生産+ワイン1単位生産の2単位生産していたことにします。2国で計4単位ですね。
ここから、生産を特化させます。A国は220人全員がTシャツをつくります。B国は170人全員でワイン生産です。
すると、A国の生産単位は、220÷100=2.2となります。同様に、B国は、170÷80=2.125となります。和すれば、2国計4.325単位です。
先ほどの4単位より、0.325単位生産が高まっています。リカードの主張どおり、比較優位なものを生産特化すると「全体として生産性が高まる」ことになっていましたね。
比較生産費説は自己PRへの自信づくりになります
続いて、この比較生産費説と自己PRの関係性について述べていきます。
結論から言いますと、「自己PRを他人と比較せずに自信を持とう」ということになります。
なぜなら、比較優位するとき、他国とは比較していませんでしたよね。他国と比較するのは絶対優位的な視点でした。あくまでも、自国にとっての得意で良かったのが比較優位でしたよね。
同じように、自己PRを考えるときには他人と比べないわけです。他人に比べてどうなのかと考えて自己PRを設定しようとすると、なかなか言うべきものが探せなかったり、これかなと思う能力があったとしても他人でもっと優れた人がいるのではと考え自信を持つことが困難になってしまったりしてしまいます。
私が指導した学生たちも、「自己PRなんてない」とか「確かに〇〇してましたけど、こんなの皆も似たような経験していて、私は全然すごくないので面接で使えないです」という主旨の「泣き言」を言っていました(笑)。そのような思考で無理矢理つくりだした自己PRでは、自信を持って自己PRを言えないことにつながってしまいます。
他方、面接試験では自己PR項目(自己紹介など関連質問含む)というのは大事な質問です。それは、組織にとって欲しい人材かを判断できる質問内容だからというだけではありません。これ系統の質問は、面接冒頭に聞かれることが多いですから、面接官への初頭効果という戦術上においても大事なのです。あるいは、「最後にPRしてください」という質問の場合であれば、親近効果に影響します(注2)。
だから、自分の中で、ここは他の面よりは優れているな、という部分はPR点でいいのだと考えてください。先の学生たちにも、「でも、一回も休まず予定変更もせずアルバイトシフトに入り続けたんでしょ、真面目ですごいことだよ」や「確かに、リーダーではなかったけれど、任された会計の仕事は全うしたんでしょ、コツコツ地道な作業やれるわけだよね」などと声をかけ、自分の中で「まぁ、それは苦なくできるけど」というものを取り出していくと、自己PRに気づき、発言をつくることができていきました。
自己PR関連項目は、「学生時代に成長した点は?」、「人からはどのような人間だと言われるの?」など自身の内面を聞く質問も含みます。ここでは、たいてい自分の良いところを話すはずですから、複数のPR点を発言準備しなくてはなりません。この時、上記のような思考法だと発言が生み出しやすくなるでしょう。
なお、発言する際は、PR最後に、職務や組織に貢献する意志をみせる言葉を添えましょう。リカードが「全体としては生産性が高まる」と述べたように、そのPR点を磨いて活かせば組織全体にとって有益になることは自信をもって伝えられることだからです。
まとめ
今回は、リカードの比較生産費説を紹介しました。教養試験で出題されても大丈夫な解説をしましたので、類題など解きながら、自力で立ち向かえるように準備いただければと思います。
また、自己PRの発言をつくる際には、どうぞ他人と比べず、自分の中での「得意」や「まぁ苦なくやれる」ことなどにフォーカスして探してみてください。
皆さんの、面接発言準備がスムーズにいくことを祈っています。
「経済学を味方に」シリーズ
「経済学を味方に」シリーズに関する記事一覧です。併せてご参照ください。
注1)2005年特別区の問題を援用しました。
注2)初頭効果と親近効果は共に心理現象。前者は最初に与えられた情報が後に影響を与えることで、親近効果は後に提示された情報が印象強くなることを、それぞれ指す。つまり、面接は冒頭と終わりが大事といえる。
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