どこへ向かう?日本の農薬規制

今や日本は果物の輸出大国ですが、日本の果物の残留農薬基準が輸入国の基準に達していない事を理由に輸入が認められない場合があります。

本記事では、「日本の農薬規制」についてご紹介します。


はじめに

今や日本は果物の輸出大国、日本の立派な果物のその味と形は海外の富裕層を魅了しています。しかし、度々日本の果物の残留農薬基準が輸入国の基準に達していない事を理由に輸入が認められないという問題が発生しています。

その理由は、日本の農薬規定そのものが甘く、輸入国規定と基準を異にしている場合が多いからです。海外では使用を禁止されている薬剤でも日本では使用が可能であり、人体に今後どのような害を引き起こすのか懸念材料の一つです。

残留農薬で不合格となった日本の野菜果物の推移

年度 2011 2012 2013 2014 2015
件数 18 21 58 105 126

日本の農業の問題点4つ

1. 人手不足
2. 後継者不足による高齢化
3. 輸入品との競合
4.新規就農者のハードルの高さ

農薬の必要性の4つの要素

1.収穫量の向上

農作物のような栽培植物は自然の植物とは違い、1種類の作物が広範囲に栽培されています。それは人間にとっても都合が良いのですが、病害虫にとってもとても好都合の餌場所です。そのため、農作物は病害虫の恰好の場所となります。害虫に侵された農作物は当然のことながら収穫量が減少します。病害虫を抑えるために農薬は必要とされ使用されます。

日本の施設栽培(ビニールハウスや温室栽培)は高収入を見込むことが出来ますが、病害虫発生問題も多く、農薬の役割はとても重要です。

2.労働力の削減

農作物を効率よく育てるためには雑草除去作業は欠かせません。農薬の出現により、多くの労働力が削減されました。1949年に10アールを除草するのに50時間を要していましたが、1997年では除草に費やす時間がほぼ0に近づきました。総農作業時間を比べても、1949年に10アールに費やす時間が225時間程度だったものが40時間ほどに減り5分の1程度の作業量になったとされています。

3.土壌の改良

農作物は自然植物ではないので適した土壌が必要です。国土の狭い日本にとって土壌を改良することで耕作面積を広げることが出来ますし、一度使用した土壌でも農薬を使う事で何度でも使用を続けることが出来るため作業効率を向上させ、費用の低減が期待できます。

4.外観の良さ

日本人は曲がったキュウリや虫食いのある葉物を好んで買う人はあまりいません。そのため農家の人は販売できない野菜の生産を避けるために農薬を使用して生産します。

残留農薬基準値が制定される理由

同じ農薬を連続的に使用することによって、病害虫は同品質の農薬に対する耐性を作り出してしまうため、農薬の毒性が強くなることがあります。そのため、農作物に使用された残留農薬が人体被害をもたらすと懸念され、残留農薬基準値が設定されました。

日本の農薬登録数

日本にはどのくらいの農薬が存在しているのでしょうか。2020年2月29日現在日本で農薬登録をされている薬剤は4263品で、それらに使用されている個々の登録成分は593種類に上ります。その内訳として一番多いのは除草剤で約37%です。次いで殺虫剤が約25%、殺菌剤が約21%、殺虫殺菌剤が約10%、植物成長調整剤が約2%、その他が約5%と続きます。

生産量の推移(単位:t/㎘)

1989 2000 2015 2020
除草剤 148,238 72,016 77,406 81,570
殺虫剤 181,761 129,449 83,164 71,727
殺菌剤 99,049 80,090 43,238 39,741
殺虫殺菌剤 59,310 38,585 19,844 16,130
その他 28,153 21,918 12,882 12,654

生産量は明らかに減少傾向ですが、除草剤に関しては減少からここ数年上昇に転じています。


注)毒性の強い農薬の開発によって少量同等の効力があるものが出てきたことも考えられるため、生産量が毒性の減少とは一概には言及できません。

農薬輸入量と輸入国割合

農薬の生産数量が減少しても、日本が海外から輸入する農薬量は増加しています。

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
輸入 3.6 4.9 4.8 4.2 4.4 4.5 4.6 5.1
輸出 4.3 4.4 4.6 4.1 4.6 4.4 4.4 4.7

(単位万t、万㎘)

種類別輸入割合(2014)

殺虫剤 27%
殺菌剤 29%
除草剤 43%
その他 1%

国別輸入割合(2014)

中国 21%
ドイツ 16%
韓国 13%
アメリカ 10%
インド 9%
その他 32%

世界の農薬市場(単位:億ドル)

2016 2017 2018 2023(予測)
北アメリカ 23 23 24 29
中央南アメリカ 124 129 132 149
アジア太平洋 170 173 177 204
ヨーロッパ 148 143 151 170
中近東 93 96 98 100
合計 559 564 582 653

資料:日本農薬産業決算説明会書類より

世界の農薬市場は年々拡大の傾向にあり2023年予測では653憶ドルの市場に膨れ上がるとされています。残念ながら農薬の使用使用量は年々増えずづけています。

主要国における耕作面積あたりの農薬使用量 (㎏/ha)

中国 韓国 日本 チリ ベルギー ニュージランド オランダ イタリア マレーシア
17.8 13.1 12.1 11.6 11.3 9.9 8.8 7.4 7.2

資料:2017年4月農業工業会HP

※日本は他国に比べ狭い土地で多くの野菜を育てる農業をしているために、耕作面積あたりでは高い数値を示すとする考えもあります。

海外で使用が禁止されている日本で使用可能な農薬

健康被害の恐れがあるため、海外の国では使用が禁止されているにも関わらず、日本では使用可能な主な農薬は下記のとおりです。

  • グリホサート(多数の諸外国で使用が禁止されている。)
  • アセフェート(EU全土で使用が禁止されており。)
  • ダイアジノン(アメリカで住居用への使用が禁止されている。)
  • カズサホス(フランスで使用が禁止されている。)
  • プロフェノホス(EUでは使用が承認されていない。)
  • クロルピリホス(EU、ニューヨーク、カリフォルニア、ハワイで使用禁止)
    ごく少量の摂取でも子供の脳の発達に影響を及ぼす。
  • ネオニコチノイド系農薬(EU屋外使用全面禁止)
    ミツバチへの被害と蜂蜜に残留するネオニコチノイドの健康被害報告がなされたため。日本もミツバチへの被害発生があったものの使用禁止には及んでいないどころかその残留濃度基準が緩和。

ネオニコチノイド系農薬クロチアニジン2015年5月改定

農産物名 改正後 改正前 国際基準
米(玄米) 0.7
小松菜 10
セロリ 10 5 0.04
春菊 10 0.2
ほうれん草 40 3 2
レモン 2 2 0.07

世界が使用禁止に動いている「グリホサート」の毒性

有効成分であるグリホサートが含まれている除草剤通称「ランドアップ」は日本のホームセンターでも簡単に一般の人が購入できる除草剤です。

アメリカの農薬会社・サンモント(2018年にドイツ製薬会社であるバイエルが買収)が製造する除草剤で、除草効果が高く安価なため世界中で広く使われてきました。しかしその毒性は健康被害を及ぼす危険性が高く、現在世界中で使用禁止を求める声が高まっています。フランスは禁止、ドイツは2023年までに禁止、ベトナム、スリランカは輸入を禁止しています。

サンモント社カリフォルニア州で敗訴

2015年に世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関がグリホサートを「ヒトに対して発がん性がある」と分類しました。そのため、アメリカ、カリフォルニア州在住の男性が癌になったのはラウンドアップを除草剤として使用したせいだとして、販売元のモンサントを提訴した裁判で、サンモント社は敗訴しました。サンモント社はその判決を不服として上訴しましたが、その後消費者12万5000人、9万5000件もの訴訟が起こされてしまいました。

ところが、2020年6月24日アメリカ合衆国はカリフォルニア州に対して、『永久的にグリホサート主成分とする製品に発がん性物質が含まれるという警告文の表示をすることを禁止する』というカルフォルニアの判決を覆すような決定を下したため、サンモント社は継続的に販売をする権利を得たのです。

農家の人にとっては救世主

何故、アメリカ合衆国は非農薬行動にこのような判決を下したのでしょうか。それはこれまで『ラウンドアップ』を使用してきた農家を救うためでもあります。もし、使用を禁止した場合、アメリカの主要産業である綿花、小麦、トウモロコシなどの収穫に大きな影響を与えるからです。特にアメリカのような広大な耕作地においては安価で効果がある除草剤は救世主なのです。


日本は規制緩和の方向へ世界に逆行

今多くの国がグリホサートの毒性に関して危惧し、使用禁止の方向に動いているのにも係わらず、日本は2017年に残留基準値を大幅に緩和しました。小麦に対する残留基準値は5ppmから30倍の30ppmにまで緩和されました。なぜなら多くの小麦はアメリカからの輸入に頼っており、グリホサートの使用を許可しているアメリカからの小麦には当然ながら残留農薬として含有しているため基準値を緩和することで輸入を容易にしたのです。

農薬大国中国の脱農薬政策

中国「みどりの戦略」

中国は世界最大の農薬製造国であり輸出国でもあります。「中国農産物=農薬塗れ」を払拭するために、中国は1992年から「緑色食品プロジェクト」と称し、無農薬・無化学肥料・減農薬・減化学肥料を中心とした政策を施行しました。

2017年6月中国のウェブサイトに「中国人は子供を産めなくなる」というショッキングな記事が掲載されました。それは過剰な農薬の使い過ぎにより生殖機能に影響が起こり、このままでは中国人は子供を産めなくなると警鐘を鳴らしたのです。そのことにより中国人の有機農産物に注目が集まりました。

2018年の統計調査では中国の有機栽培耕作面積は世界第3位となり、有機農産物の販売量は世界4位となり、中国庶民の有機農産物への関心が高まってきていることを示しています。

やっと動き出した日本の農薬政策

日本の「みどりの食料システム戦略」

2021年3月農林水産省は「みどりの食料システム戦略」と称してやっと脱農薬への行動を起こしだしました。その内容は2050年までに下記のような目標を達成するという農業戦略です。

  • 有機農業を全体の農地の25%(100万ヘクタール)に拡大
  • 化学農薬の使用料(リスク換算)を50%減少
  • 輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%減少

※果たして2050年までという猶予期間が長すぎないのかという点は議論のあるところです。

残留農薬のワースト13

イチゴ、ホウレンソウ、ネクタリン、リンゴ、ブドウ、モモ、サクランボ、ナシ、トマト、セロリ、ジャガイモ、パプリカ・ピーマン

まとめ

日本の農家のあり方を見れば農薬がいかに彼らにとって重要な役割であるのかを理解することは出来ます。しかしながら誰もが健康被害を受けたくない事も承知の事実です。安全性が認められていると言いながら世界の流れに逆行する規制緩和もどの程度信じてよいのか疑問が残るところです。

今回の内容の参考・関連にしたサイト

業務の概要 – 独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)(外部サイト)

日本ではどのくらいの種類の農薬があるのですか。|農薬はどうして効くの?|教えて!農薬Q&A|農薬工業会 (jcpa.or.jp)(外部サイト)

index-1.pdf (maff.go.jp)(外部サイト)

農産物の残留農薬の規制について知ってしっかり選ぼう | 農業とITの未来メディア「SMART AGRI(スマートアグリ)」 (smartagri-jp.com)(外部サイト)

【2020年】残留農薬が多い野菜・果物トップ15!日本で農薬を多く使う理由 | ソログラシ (dokujyo-repo.com)(外部サイト)

農薬の輸入量を調べる – Search (bing.com)(外部サイト)

EUで使用禁止の農薬が大量に日本へ (猪瀬聖) – 個人 – Yahoo!ニュース(外部サイト)

アメリカの裁判で莫大な賠償金支払いを命じられた農薬「ラウンドアップ」の発ガン性検証(佐藤達夫) – 個人 – Yahoo!ニュース(外部サイト)

クロルピリホスを成分とする農薬を徹底解説! | 農家web (noukaweb.com)(外部サイト)

売上No1除草剤に発がん疑惑、禁止国増える中、日本は緩和(猪瀬聖) – 個人 – Yahoo!ニュース(外部サイト)

Microsoft PowerPoint – 19-09期決算説明会_20191126HP用.pptx (nichino.co.jp)(外部サイト)


Microsoft PowerPoint – 最終版【宮川先生】農薬はなぜ必要か(資料)1022.pptx (mhlw.go.jp)(外部サイト)

team1-120.pdf (maff.go.jp)(外部サイト)


CNN.co.jp : 残留農薬ランキング 最悪はイチゴ、安全の筆頭はアボカド – (1/2)(外部サイト)

本記事は、2022年6月2日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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