これを知らない公務員は危ない 『法律による行政』と『赤六法』

郵便ポストのように真っ赤なバインダーで閉じられた法令集「赤六法」を皆さんは御存知でしょうか?徹底して法律に従うということの意味とお役所仕事と批判される逆の視点について語られています。執筆は、刑務官など矯正職員歴37年の元・国家公務員の小柴龍太郎さんです。


「赤六法」というのをご存じでしょうか。

郵便ポストのように真っ赤なバインダーで閉じられた法令集のことです。正式な名前は「矯正実務六法」といい、刑務官になると必ず買わされます。

上下2巻になっており、厚さがそれぞれ8センチほど。重さは1冊で1キロ以上あるので結構重い。間違いなく漬物石代わりになります。

この「赤六法」には刑務官が仕事をする上で必要な法令が集められています。憲法から始まり、関係する法律のほか、政令、省令、訓令、通達などが載っています。そして採用になると真っ先にこれを使った研修が始まるのです。

研修では講師が「コンキョ」「コンキョ」とうるさく言います。まだうまく鳴けないウグイスみたいです(ケキョ、ケキョ)。つまり、仕事をするには必ず根拠となる規定があるのだから、それをしっかり覚えなさいというわけです。

徹底した「コンキョ」指導

だいたい刑務官になろうとする人は体育会系の人が多いので、この手のものは苦手です。うんざりですし、目まいがしそうです。それでも非情なコンキョ指導は続きます。そして、やがてそのしつこさの理由が分かっていきます。

「自分たち刑務官は、受刑者などを強制的に収容し、刑務官の指示・命令に従わせる。暴れれば制圧する。これらはすべて憲法で認められている国民の自由を奪う行為。したがって、それには法的根拠が必要不可欠である」と。法令上の根拠がなくそれをやるとたちまち刑務官自身が塀の中の人になってしまう。

法令に従った仕事をするということ

刑務官に限らず一般の公務員も法令に従った仕事をすることが求められます。これは「法律に基づく行政」などと言われます。法治国家の基本的な原理です。行政はすべて根拠規定に基づいて行われなければならない。

では法律を覚えてそれに従ってやればいいかというと、そんなに事は単純ではありません。法律には基本的なことしか書いていないので、その細かな部分を定めたルールにも従わなければいけません。政令や省令などがそれです。そして、その政令・省令を実施する際に更に細かなルールを定める必要があるときに出されるのが通達とか通知の類です。

これでやっと終わりかというと、まだまだ先があります。刑務官に関していえば、刑務所の上級官庁である矯正管区が定める通知や事務連絡なるものがあります。それに刑務所ごとに所長達示(たつじ)とか部課長からの指示などもあります。本当に数えられないくらいたくさんの根拠規定があるのです。

若い頃は「なんでこんなに細かく決めなきゃいけないんだ!」と反発する気持ちもありましたが、「公務員は公僕で、ご主人は国民だ。コンキョはそのご主人の命令だから我々はそれに従わなければならない。」と教えられ続け、次第に腑に落ちて(諦めて)いきます。

立法 – 法律を決めるのは、国民から選ばれた国会議員

法律は国民から選ばれた国会議員が決める。だから法律はいわば国民の命令を文字にしたもの。それを過不足なく実行するために行政命令が定められ、その細目も定める。それらすべてに従って初めて第一線の公務員の仕事が国民の命令に従ったものになる。公務員の公僕たる務めがそれで無事果たされ、民主主義が完結する、というわけです。


刑務官に限らず公務員は「頭が固い」などと批判されますが、その背景にはこの「法律に基づく行政」ルールがあります。公務員はそんなに自由ではないのです。ただ一つ残念なのは、この事情がご主人たる国民にあまり理解されていないように思われることです。

(文:小柴龍太郎 2017年3月)

本記事は、2017年4月6日時点調査または公開された情報です。
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