国連の教育機関「ユネスコ」とは?仕事内容や成り立ち

国際連合教育科学文化機関「UNESCO(ユネスコ)」は、「諸国民の教育、科学、文化の協力と交流を通じて、国際平和と人類の福祉の促進」を目的に設立された国際連合の専門機関です。今回は、そのユネスコとはどんな機関かそこに所属する国際公務員の仕事内容などについて解説します。


UNESCO(ユネスコ)とはどんな機関?

国際連合(United Nation, UN)の専門機関であるユネスコは、1945年(昭和20年)、第二次世界大戦終了直後11月に、イギリスのロンドンでユネスコ憲章が20か国によって採択されたことにより設立しました。

ユネスコは、日本語では、「国際連合教育科学文化機関」で、英語の正式名称は「United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization」の単語の頭文字をとってUNESCOといわれています。

ユネスコ憲章の前文は、「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」で始まります。この文言からもわかるように、ユネスコ設立のきっかけは、二度の世界大戦の負の遺産を踏まえて、今後人類が同じような惨事を起こしてはならない、という当該諸国の反省と危機感から生まれたものであるといえます。また、この前文には、ユネスコは「諸国民の教育、科学、文化の協力と交流を通じて、国際平和と人類の福祉の促進」をすることを目的とする、と謳われています。日本はユネスコ設立から6年後の1951年に、ユネスコの正式加盟国となりました。

現在創立72年になるユネスコは、その歴史の中で政治的に注目を浴びることが多くありました。1970年代にはユネスコは米国と旧ソビエト連邦が対抗する冷戦時代の政治の舞台にもなりました。また、ユネスコの放漫経営問題が取りざたされて、1983年には米国が、次いで1985年にはイギリスが、加盟国から一時脱退しました。その後2011年には、ユネスコ執行委員会の採決を経て、パレスチナが195か国目の正式加盟国になりましたが、パレスチナの加盟国認定は中東和平問題に悪影響を及ぼすとして、米国とイスラエルはこの採決に反対し、結果、分担拠出金を停止するに至りました。よって、現在日本は加盟国の中で第一の拠出金を担っており、平成27年度額は約33億2千万円に上ります。

現在までの歴代8人のユネスコ事務局長の中では、1999年から2009年までアジア人としては初めて、日本人の松浦晃一郎氏が第七代目の事務局長として務められました。また、現在日本にユネスコの事業の一環である世界遺産が、21も認定されていることもあってか、ユネスコは日本人にとって馴染みのある国際機関となっています。最近では2015年に、中国が南京大虐殺を世界記憶遺産として登録申請し、これが認定されたことがメディアで話題になりました。

ユネスコの教育分野での活動歴史、概略

ユネスコは1945年に発足して以来、他の国際機関や加盟国政府とともに、教育分野の開発に広く貢献してきました。1960年代にはアフリカをはじめ多くの植民地支配されていた国々が独立したため、開発計画の一環として基礎教育の普及が重要視されました。旧植民地の国々の独立を受け、ユネスコは世界各地で次々と教育開発に関する国際地域会議を開催し、基礎教育の重要性を強く訴えてきました。1990年にはユネスコ、ユニセフ(国連児童基金)、国連開発計画 (UNDP)、世界銀行(WB)の共催で、「万人のための教育(Education for All)世界会議」がタイのジョムティエンで行われました。この世界会議では2000年までに初等教育をすべての児童が受けられるようにする、女子の識字率向上などの目標が掲げられ、ユネスコの教育分野における指針を定めるものとなったのです。

その後、2000年にはアフリカ、セネガルのダカールで世界教育会議が行われ、万人のための教育がどれだけ達成されたのか、初等教育の就学率などをもとに分析、議論されました。追って翌年2001年には、「ダカール行動枠組み」と呼ばれる戦略が打ち出されました。これに並行して、初等教育の完全普及(ゴール2)、ジェンダー平等推進と女性の地位向上(ゴール3)を含む、8つのミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)がうまれました。MDGsの達成期限となった2015年に、その内容は現在では「持続可能な開発目標(SDGs)」に後継されています。SDGsには17の目標が掲げられています。SDGゴール4は「すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」となっています。これを受け、韓国のインチョンで、世界教育フォーラムが開催され、「教育2030」アジェンダが採択されたのが記憶に新しいところです。

アフリカ地域事務所での教育スペシャリストのお仕事とは?

ユネスコは、教育、科学、文化、情報の分野において、国際的な知的協力(国際規範設定、専門家の国際会議、国際学術事業の調整、情報交換、出版など)及び途上国への開発支援事業を行っている国際連合の専門機関です。ユネスコでは、本部のあるフランス、パリと全世界53か所にある地域事務所や研究所で、現在2000名以上の職員が従事しており、国籍の数は実に170に及ぶそうです。中でも教育分野で働く職員の数はおよそ400名(本部勤務職員数のおよそ120名を含む)いることからも、教育分野はユネスコの活動の根幹であることがわかるでしょう。

では、その教育分野に携わるスペシャリストのお仕事とはどんなものなのでしょうか。ユネスコにとっても重要地域であるアフリカの事務所の例を紹介します。アフリカには現在5つの複数分野(マルチセクター)、複数国を管轄する地域事務所(マルチセクターオフィス)が存在し、これ以外にも12の単一国を管理する事務所(ナショナルオフィス)があります。どの事務所にも教育を担当するスペシャリストが常勤し、当該加盟国の政府機関やその他の関連機関に対して専門的な助言を行ったり技術協力プロジェクトを行ったりと、SDG4 「すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」の達成に向けた業務を遂行しています。

例としてセネガル、ダカール地域事務所の活動を見てみましょう。当事務所は近年までアフリカの教育を統括する地域事務所として位置づけられてきました。現在ではマルチセクター地域事務所となっていますが、教育分野の活動において以下の2つの優先項目を挙げています。

1.サハラ以南の国別教育政策や戦略がSDG4を統合するべく、調和のとれたアプローチを遂行するための活動:


・ 教育2030アジェンダを各国の計画プロセスの中に統合するための技術的なツールやガイドラインのレビューや作成

・ 要請に応じたユネスコ地域事務所や他の国際パートナー機関との定期的な協議、技術支援および能力開発

2.SDG4および教育2030の地域レベルでの連携における、効果的なパートナーシップとシナジーの構築:

・ 研究教育2030の主要分野の枠組みの中で、生涯学習政策とシステム構築のための研究や政策提言

・ 西および中央アフリカ諸国のSDG4および教育2030に関する地域レベルでの連携のメカニズムの設立

・ 国別教育政策のレビューとモニタリング:SDG4の実施をモニタリングするための能力開発とグローバル教育モニタリング報告書の出版の主催

教育のスペシャリストは、上記のように全世界レベルで合意されたSDG4を、アフリカ地域レベルまた国レベルで効率的に施行するために、質の高い技術面をもってサポートしていくのが責務となります。

ユネスコ教育エキスパートのある一日について

8:00 早朝に出勤。メールをチェックし、机上のトレイに配布される回覧文書や手紙にも目を通します。

9:30 教育省やその他の官公庁のカウンターパートと既存のプロジェクトの進行具合について協議、また、ユネスコ側の見解を述べたり提案をしたりします。関係省庁や他の官公庁から新たな支援の依頼があれば、考慮します。

10:30 車で2時間ほどのところにあるプロジェクトの現場に視察に行き、現場のプロジェクト担当者に話を聞きます。例えばユネスコが出資する遠隔教育がどのようにコミュニティーに受け入れられているか、もし問題が生じていれば、解決策などを話し合います。

13:00 昼食

15:00 オフィスに戻り、数か月後に予定されているユネスコ主催のアフリカ地域会議開催について、上司と打ち合わせをします。必要であれば、パリのユネスコ本部の担当者も電話会議で参加してもらいます。ユネスコでは公式な会議に出席をすることが多く、その際のスピーチを前もって準備することも、非常に大切な業務の一つとなっています。

16:00 今日の会議や視察の報告書を作成。メールで関係者(同僚、上司、本部担当者など)に報告しておきます。記事になりそうなものがあれば、広報の人に相談し、ニュースレターやウェブサイトに掲載することもあります。

18:00 帰宅 (レセプションなど公的なイベントに、ユネスコの代表として参加することも多々あります。)

ユネスコ教育スペシャリストとして求められるものとは

ユネスコをはじめとする国連機関にプロフェッショナルとして勤務するにあたり、学士号に加え、修士号が最低条件となっています。関連分野での修士号を複数持っている、または博士号を持っている人も稀ではありません。特に大多数のユネスコ日本人職員は、海外で少なくとも大学院の修士課程を修了しています。多くはアメリカやイギリス、フランスなど欧米先進国の大学出身者です。中には子供のころから海外で育ったいわゆる帰国子女の方々もいますが、日本で生まれ育ち大学を修了した後に社会経験を積んでから海外留学をし、その後、業務上必要とされる高い言語能力を培った人も多くいます。国際的な場で活躍するには、様々な国籍、民族の人々と、難なくコミュニケーションが取れることが不可欠なのです。また、報告書やスピーチ、記事の作成などの業務もあるため、問題なく当該言語で目的や読者に応じて作文、執筆する能力も問われることは言うまでもありません。


修士号の専門分野に関しては、教育学、言語学、国際開発学、統計学や、福祉、、ジェンダーなどの分野が大変有利と言えます。勤務経験は様々で、教員の経験のある人、JOCV(青年海外協力隊員)のOB・OGの方々がいたり、その他一般企業の勤務経験を経て、関連分野の修士号を取り、のちにユネスコに勤務したという人もいます。素質として求められるものは、チャレンジ精神が旺盛で、問題や困難に直面しても冷静に分析判断できる能力、戦略的思考、協調性などでしょう。

ユネスコをはじめ、国際機関の専門職の職員として採用されるには、主に二つの方法があります。一つ目は、一般公募される空席に直接応募する方法です 。二つ目は、日本政府が経費を負担し、2年の任期で派遣される「ジュニアプロフェッショナルオフィサー(JPO)派遣制度」(ユネスコではアソシエイトエキスパートと呼ばれる) に応募する方法です。こちらは日本国籍を有する者のみが応募可能で、年齢制限が設けられており、一年に一度、外務省の国際機関人事センターが選考を行います。空席情報、JPO派遣制度、どちらも人事センターのメーリングリストに登録しておくと、情報が随時配信され、便利です。

国際機関人事センター JPOに関するページ
http://www.mofa-irc.go.jp/jpo/

国際機関人事センター 国際機関空席情報掲載ページ
http://www.mofa-irc.go.jp/boshu/boshu_kuseki.html

まとめ

国際連合の専門機関ユネスコとはどんな機関なのか、発足に至った背景、その後の歩みを、特に教育分野に焦点を当てて紹介しました。

また、教育のスペシャリストとしてのアフリカのユネスコ地域事務所でお仕事はいかなるものなのかを簡単に紹介しました。今後も教育の普及はユネスコの理念実現のためにも、ユネスコの事業の重要課題の一つとなり続けることでしょう。

ユネスコでは、この理念に深く同調する、関連分野における深い知識、豊富な経験やスキルを持ったエキスパートたちが、本部や地域事務所で日々業務に取り組んでいるのです。

本記事は、2017年11月8日時点調査または公開された情報です。
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