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【日本の課題解決】スポーツによる地域振興政策とその課題

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21世紀の日本社会は、少子高齢化社会・人口減少化など重大な課題を抱えています。地域を活気づけ、「交流人口」の増加と「地域インバウンドの増加」による経済効果を見込める「スポーツによる地域振興」が注目されています。

今回は、そのテーマ「スポーツによる地域振興」を岐阜経済大学経営学部原田教授が解説します。

目次

地域活性の必要性と根拠

21世紀の日本社会は、少子高齢化社会の到来、人口減少の顕在化などが原因となる国内経済の低迷期を迎えるため、国や自治体にとっても極めて重大な問題を抱えています。総務省統計局の「将来推計人口」によれば、30年後には2,000万人もの人口が減少し、65歳以上の人口が全体の約38%にも達する見込みとなっています。つまり、それに伴って生産人口の割合も減少し、国民所得や総生産も著しく減少してしまいます。

こうなると、国民は都市部への移動傾向が強くなり、より人口地域間格差や都市部の人口偏重傾向が強くなり、地域経済は一層の停滞を余儀なくされる可能性をもっています。すでに「税収の減少傾向」などは顕著であり、国や自治体の苦悩を生んでいるため、自治体規模の大小に関わらず新たな産業の創出や振興は喫緊の課題となっています。

そのような状況下では、地域を活気づけ、地域人口を増やす必要があり、「定住人口」「移住人口」「交流人口」などの増加施策が求められており、その中でも「交流人口」の増加は「地域インバウンドの増加」による経済効果を見込めることから、地域振興の一番手とされるようになってきています。

これらは近年発生した新たなトレンドではなく、以前から地域振興策の一環として検討・推進されてきているものでもあり、地域資源の再認識、再活性化によって地域における「目的活動」をつくり出すということの重要性は、ここへ来て再認識されているといえます。

この地域資源には様々な特徴があり、一様ではありません。風光明媚な自然を有する地域があったり、歴史上貴重な文化財や寺社仏閣、全国でも有名な産品があったりなど、地域における貴重な財産ともいえる資源は、その地へ訪れる強い動機付けになるものです。しかし、必ずしもそのような競争力のある有効資源が存在しない地域もあります。そこで昨今、地域内における有効な資源として、「スポーツ」をテーマとすることで、そういった不足する資源を補う可能性に注目が集まっているのです。

国のスポーツ振興政策

国はスポーツ振興を国家戦略として位置付けた「スポーツ基本法」を施行し、文科省主導で「スポーツ庁」の創設や国内でのスポーツ振興を「スポーツ立国戦略」といった国家戦略として位置付けています。また、国土交通省では、「観光基本法(昭和38年)」を改定し、「観光立国推進基本法(平成18年)」が成立したことを受け、平成21年には国土交通大臣を本部長とし、全府省で構成される「観光立国推進本部」の下部に位置づけられる「観光連携コンソーシアム」において「スポーツ観光」がとり上げられ、スポーツ団体、観光団体、スポーツ関連企業、旅行関係企業、メディア及び文部科学省など関係省庁合同の「スポーツ・ツーリズム推進連絡会議」によって「スポーツ・ツーリズム推進基本方針」が取りまとめられました。

平成28年に国は、「成長戦略」として「スポーツの成長産業化」を柱に据え、スポーツ施設を地域経済の中核としていくといった方針を打ち出していましたが、平成29年3月24日に、安倍総理が政府方針として、2025年までに地域におけるスポーツ観光を推進するため、地域振興拠点整備の一環としてスポーツ交流拠点の整備を打ち出し、全国に20箇所の「スマート・ベニュー構想*1」を基本とした拠点整備を進めるために、関連法規、交付金等における整備を全力で進めると発表されています。

このように政府は積極的なスポーツ観光の推進や、インバウンド需要の増加を目指しており、スポーツはもはや国家戦略の重要なコンテンツとなっていることがわかります。「2020年東京オリンピック」を起爆剤として、地方自治体には、地域における「スポーツ・ツーリズム」を積極的に促進させるため、着地型の観光を受け入れるための環境整備や、その推進責任を明記しています。

スポーツに関わる政策も従来の文部科学省(旧文部省)が中心で進められてきた「スポーツ振興」も時代や、社会情勢などの変化を受けてその趣旨も様変わりしてきています。従前の「スポーツ」は教育の一環として、また健康づくりの一環として位置付けられてきたものから、今では経済成長産業の柱として位置付けられるようになったことがわかります。つまり、スポーツは教育の一環であり、地域においては教育委員会主管のコンテンツであったため、そこに収益という概念は全く生じることがなかったわけですが、2003年から劇的に変化したスポーツ施設の管理運営は「指定管理者制度」によって民間企業にも門戸が開かれ、スポーツ施設を舞台とした収益事業化が進められてきた経緯と同様に、さらに一歩踏み込んで、地域経済の柱とするべく「スポーツ資源を活用した収益事業の活性化」が求められるようになってきたといえます。要するにスポーツは単なる「コスト」であり、年々増加する諸悪の根源といった立場から、自治体が稼ぐための重要な「ツール」になったと考えるとわかりやすいかもしれません。これらスポーツをテーマとした地域振興やスポーツ立国戦略といった国家構想などに伴って、さいたま市や新潟県の十日町などをはじめとして、自治体規模の大小に関わらず、東京、宮城、佐賀、沖縄などを始め、全国各都道府県や都市においてスポーツをテーマとした地域振興に着手され始めています。


スポーツをテーマとした「観光促進」

「スポーツ・ツーリズムは、日本の持つ自然の多様性や環境を活用し、スポーツという新たなモチベーションを持った訪日外国人旅行者を取り込んでいくだけでなく、国内観光旅行における需要の喚起と、旅行消費の拡大、雇用の創出にも寄与するものである。」とスポーツ・ツーリズム推進連絡会議によって、「スポーツ・ツーリズム推進基本方針」の中でスポーツ・ツーリズムが定義されています。

さらに、「スポーツ・ツーリズムに期待する効果」として、(1)訪日外国人旅行者の増加、(2)国際イベントの開催件数増加、(3)国内観光旅行の宿泊数・消費額の増加、(4)活力ある長寿社会づくり、(5)若年層の旅行振興、(6)休暇に関する議論の活発化、(7)産業の振興、(8)国際交流の促進といったものが想定されていますが、これらのうち大規模自治体でなければ該当しない項目は別として、(3)国内観光旅行の宿泊数・消費額の増加、(4)活力ある長寿社会づくり、(7)産業の振興、⑧国際交流の促進などは、自治体の規模にかかわらず地域の活力醸成として期待される項目です。これらの他にも、「人材の育成・登用」「自主自立の精神を育成」「地域資源の利活用」「地域の魅力づくり」など数多くの効果が期待されます。

政府の大号令は全国の自治体へ発せられても、スポーツ・ツーリズムの推進を政策として計画している自治体の事情は一様ではありません。自治体規模の大小、経済環境、地域の主要産業、インフラの充実度、交通条件等、抱えている課題は様々である事情を鑑みると、その規模や着手のコンセプトなども多種多様となります。スポーツによる地域振興政策(地域資源・環境資源を活かす政策)は様々な機会の創出(図1)をもたらしますが、これらの機会を積極的に活かしていくことで地域振興を形づくっていくことにつながります。

地域資源・環境資源
図1:地域資源・環境資源を活かす政策と様々な機会の創出

スポーツ・ツーリズムを効果的に推進していくためには、スポーツコンテンツやスポーツ事業の積極的な開発、イベント(大会、研修会、キャンプ、合宿、実習など)招致・開催を通して地域における交流人口を増やすことの工夫や、スポーツをテーマとした目的活動の現場となる地域の協力・協働などを含めた環境整備が必要となります。推進地域や自治体は、自らの地域の資源や環境をブランディングし、競合する地域や自治体との差別化を進めながら魅力ある地域と魅力あるコンテンツは、地域経済を活性化し、スポーツ交流で活気のある地域環境づくりを可能にします。

このようなスポーツを活用した地域環境整備によって新たな価値創造を実現していくには、地元の企業(宿泊施設、観光関連施設、移動交通、旅行会社、飲食店、商店など)や観光協会などの観光団体と、スポーツ団体、商工会、宿泊業組合などの各種団体との連携・協働が必要であり、これらメンバーと行政から成る連携組織やプラットフォーム(DMO:Destination Management Organization)も必要となっています。これらのうち、スポーツに特化したDMOは、「スポーツコミッション」と呼ばれています。さいたま市で組織された「さいたまスポーツコミッション」では、年間100以上のスポーツコンテンツが展開されており、活発なイベント誘致や事業展開が進められています。このように、極めて活発な活動や、それに伴う業務ボリュームが相当レベルに達することが想定させる場合や、スポーツコンテンツの整備を前面に出していくような場合に、戦略性を考慮し「スポーツコミッション」という名称で展開することの方がインパクトを打ち出せるといった場合には効果的であるといえます。

この「スポーツコミッション」は、自治体や公共団体などが事業主体となって専門企業や専門家などと連携し、自治体が持ち得ない専門分野との連携、情報アンテナの拡大、マーケティングや営業力の獲得など、いわゆるノウハウの獲得や連携によって経済効果の向上を目指すというものです。

つまり「スポーツイベントの誘致やスポーツ活動などを通した地域振興」を目的として設立された組織・団体・事業などが「スポーツコミッション」ということになります。

札幌市や長野市などにおいては、かねてよりスポーツを通じた産業振興や集客促進が自治体活性化戦略上、非常に重要であることが指摘されてきています。それは、最大級のスポーツコンテンツともいえる「オリンピック」の実施における関連施設建設という「巨額投資」に伴った「多額の維持管理コスト」が当該自治体の財政を強く圧迫しており、これらのコスト負担を補う必要があるという深刻な問題を抱えていたことに起因しているといっても過言ではありません。

また、近年話題となっている「東京マラソン」や「ちばアクアラインマラソン」にも象徴されるように、全国の自治体がマラソンなどの参加型スポーツイベント、さらにプロスポーツの試合、国際大会などの観戦型スポーツイベントの開催、あるいはスポーツキャンプなどのスポーツ活動誘致によって生み出される経済波及効果を狙った事業の有効性が認識されているため、国内における多くの自治体では、特徴ある独自の資源や産業を活かし、「する、見る」のみのスポーツイベント誘致にとどまらず、文化・芸術部門についても同様であり、医療、物販、飲食、宿泊など多彩な産業や専門団体との連携を促進し、地域総体としての積極的な事業展開を目指すことが検討されています。

スポーツによる地域振興の課題

ここまでは、スポーツをツールとした地域振興の可能性や効果などを解説してきましたが、どこでどのように着手しても全てがうまく整備されるわけではありません。どんなに可能性があろうとも完璧な施策などあるはずはありません。そこで、地方自治体がスポーツをテーマとした地域振興に着手する際に生じる可能性がある課題を考えてみたいと思います。

地域観光推進における課題としては次のような点が挙げられます。

  • 降雪地域などでは、季節毎の特性による地域資源の活用限界が生じる可能性があることから、通年利用が叶わない場合があること。
  • 首都圏周辺などでは大都市圏からの誘客が主となるため、首都近隣圏ではあっても距離や使用交通機関に偏りがあること。
  • 地元や周辺地域には主要な観光資源が見当たらず、魅力のある環境作りが難しいと考えられること。
  • 活動施設も規模・サイズ・新しさなどが他地域に見劣りし、誘客に不向きな施設が多いこと。
  • 新たな観光素材の開発が急務であっても、開発する人材やノウハウ、コストなどが十分でないこと。
  • 地元の宿泊施設では小規模かつ老朽化した施設が多く、収容力が低い場合があること。
  • 受け入れ体制の強化は理解できるが、閑散期を作らない工夫と通年誘客の実現が求められること。
  • リピーターを獲得する工夫を必要とするため、地元や周辺環境に新たな観光魅力を創出していかなければならないこと。
  • 小規模施設も活用する必要性があるため、修繕やリフォームなどのコストが必要になること。
  • いかなる場合にでも公平・公正な宿泊分配制度を確立する必要があること。
  • 観光・マネジメント人材が不足していること。
  • DMOの総合能力が不足していること。
  • 施設の利用システムが旧態依然としており、地域外からの集客に対応できない可能性があること。

これらは、実際にスポーツ交流促進に着手しているケースにおいてのデータとなっていますが、前述のように、これらは一様ではなく、自治体や環境、社会状況などによっても大きく変化するものです。

これらを地域が一体となって克服することで、連携を必要とする団体や企業などとの有機的な関係を創り出し、競争力や魅力のある地域になっていくと考えられます。

文:岐阜経済大学 経営学部 教授 原田理人

*1:スマート・ベニュー構想/株式会社日本政策投資銀行の登録商標であり、スポーツ施設などの周辺エリア の開発やエリアマネジメントを含む、複合的な機能を組み合わせた多機能複合型交流施設の整備。参考資料:スポーツを核とした街づくりを担う「スマート・ベニュー(R)」/株)日本政策投資銀行編


本記事は、2017年4月12日時点調査または公開された情報です。
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この記事を書いた人

公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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