【アメリカ州制度】アメリカ建国の重要な州「デラウェア州」解説

日米安全保障条約をはじめ、日本と政治的にも、経済的にも密接な関係にあるアメリカ合衆国についての現地日本人レポートです。

今回のテーマは「デラウェア州」です。デラウェア州はアメリカで一番始めの州ですが、特徴や歴史を通してどんなところなのか解説していきます。


アメリカで一番始めに州になったのがデラウェア州だということはご存知でしょうか。いくつかの定義があるものの、アメリカ合衆国憲法を最も始めに批准したのがデラウェア州のためアメリカ人のなかでは「First State」と呼ばれています。

そんなデラウェア州はあまり日本人には縁がないかもしれませんが、アメリカ建国の重要な州のひとつですので、デラウェア州の特徴や歴史を知っておくことはアメリカを理解するうえで欠かせません。

デラウェア州の特徴

2018年時点でデラウェア州の総人口は約96万人で、過去20年で人口は20万人程度しか増えていません。アメリカのなかでも2番目に面積が狭い州のため、人口密度が高い州としても知られています。

デラウェア州はアメリカの北東部にあります。ニューヨークの南、ワシントンD.C.の東に位置しています。イギリスからプロテスタント達がメイフラワー号でアメリカ大陸にやってくるよりも先に、イギリス人冒険家のヘンリー・ハドソンが訪れており、後に始まるアメリカ建国の原点とも言われています。

アメリカの経済を知る上でデラウェア州は欠かせないでしょう。なぜならデラウェア州には「会社法(デラウェア会社法)」と呼ばれる法人に最適な法律が整備されているためです。

実際にデラウェア州に登記している法人はニューヨーク証券取引所に上場している会社の半分以上で、さらにはアメリカの企業ランキング誌フォーチュン500に掲載されている企業の60パーセント以上がデラウェア州に登記しているほどです。

この背景には、利息や投資で得た所得への州税が免除されたり、売上税や付加価値税の税制優遇措置が充実していることがあります。この他にも、デラウェア州に登記をしておくだけでデラウェア州外または海外でも企業活動を行えるという点もあります。

また、企業にとって何かしらの裁判が起きた際に、他州よりも判例が多いため裁判の結果や流れを予想しやすいことも大きなメリットになっています。大きな企業になればなるほど裁判はリスクになるため、リスク回避の意味でも企業にとってデラウェア州は最適なのです。

デラウェア州ウィルミントン市にある2階建てビルのなかには、世界中から30万社を超える企業が登記上の本社や拠点を構えています。その中には、トランプ大統領やヒラリー・クリントンなどが代表の会社も含まれています。

アップルやGoogle、ウォルマートなどアメリカを代表する大企業もデラウェア州の会社法を活用し、デラウェア州に本社機能または拠点を置いています。日本でもアメリカ資本の企業の本社所在地を見るとデラウェア州になっていることもあるでしょう。

このようにデラウェア州はアメリカ50州のなかでも一番始めに州になったという歴史や、現代でも多くのアメリカ企業が登記上の本社や拠点を置く場所として広く知られているのです。


デラウェア州の歴史

デラウェア州は、1787年12月7日にアメリカで最初の州になりました。イギリスからやってきたプロテスタント達によって「13植民地」が作られ、アメリカが建国される際に作られた憲法を最初に批准したのがデラウェア州だったことから「First State」と呼ばれるようになりました。現在でもデラウェア州の車のナンバープレートには「First State」というロゴが刻印されています。

現在のデラウェア州のエリアはもともとは「レナペ族」と呼ばれるインディアンの生活拠点でした。1631年には、入植してきたオランダ人とインディアンの間で紛争が起こり、入植者はほぼ全滅しました。その後、スウェーデン人たちによってインディアンにもメリットがある交易が続き、20年近くに渡り比較的平温な「ニュースウェーデン植民地」として使われました。

レナペ族は現在のデラウェア州を始めオハイオ州など広大な土地を所有していましたが、1737年に入植者がレナペ族の酋長に「1日半で歩ける分の土地を売ってほしい」と半ば強引に契約を結びます。

入植者は運動神経が高い人物を14名雇って一斉に四方八方へと走らせ、36時間後には約4,860平方キロメートルの土地を手に入れました。この結果、契約という概念すらないレナペ族は騙されるようにして自分たちの土地を追い出され、民族移動を強いられ絶滅しました。

1655年、ニュースウェーデンを築いたメンバーのひとりだったオランダ人のピーター・ストイフェサントによって、この地域一体は再びオランダ領となりますが、1664年にはイギリス軍によって征服されてしまいます。

この後は、メリーランド植民地領主だったセシリウス・カルバートが領土を主張したり、後にペンシルベニア州を整備することになるウィリアム・ペンの領土になったり、イギリス本国の物になったりと、言わば「宙に浮いた状態」が100年近く続くことになります。

1776年、デラウェア州はイギリス本国や統治される予定だったペンシルベニア植民地からの決別を決めますが、1783年まで続いたアメリカ独立戦争の際にイギリス軍によって支配されてしまいます。

独立戦争終了後の1787年9月17日、フィラデルフィア憲法制定会議でアメリカ合衆国憲法の草案が完成し、13植民地のうち9植民地がこれに批准すれば成立することが決められました。

デラウェア州を代表していたガニング・ベッドフォード・ジュニアやジェイコブ・ブルームなどが他の誰よりも早い12月7日に批准し、この行為がアメリカ最初の州になったと定義付けられています。

デラウェア州の政治情勢

デラウェア州は2012年と2016年の大統領選の際には民主党を支持しています。2000年以降は州議会でも民主党が多数を占めていますが、それ以前は共和党と接戦が続く州として、選挙の度にどちらに票が傾くか注目を浴びる州のひとつとされてきました。

オバマ前大統領時代に副大統領を務めたジョー・バイデンはデラウェア州選出の上院議員で、上院民主党の重鎮として広く知られています。

デラウェア州の経済

デラウェア州の失業率は4.6パーセントで、アメリカの平均値と同じ程度です。リーマンショック直後は9パーセント台まで上昇したものの、この10年で回復傾向にあります。

デラウェア州はアメリカの中では狭い面積ですが、法人にとって都合が良いことが多いため、たくさんの企業が本社や関連企業、ペーパーカンパニーなどを同州に登記しています。それらからの税収は州の歳入の5分の1を占めているほどで、100万社を超えるとされている法人登記が州の経済を支えている側面もあります。

アメリカ東部らしく金融関係、政府機関、工業地域などもある一方で、昔から農業が盛んな地域もあることもデラウェア州の特徴と言えるでしょう。

デラウェア州の税金

2018年時点では、デラウェア州では消費税はかかりません。そのため近隣の州からわざわざデラウェア州まで買い物に訪れる人もいるほどです。所得税は2.2パーセントから5.95パーセントまでの6段階に分かれています。


法人からは法人税や免許税、さらにはデラウェア州に登記している企業からは一律年間300ドル徴収しています。州の歳入の5分の1が法人税で、その他にギャンブル業界からの収入が多いことも特徴と言えるでしょう。

デラウェア州の銃や薬物問題

デラウェア州は医療目的でのマリファナの利用は許されていますが、娯楽目的は禁止されています。アメリカの多くの企業から得られる法人税などがあるため、マリファナを解禁してまで税収を増やす必要はないという見方が多勢です。

州民10万人に対して銃犯罪による犠牲者数は24人、購入時の厳しいバックグラウンドチェックが義務づけられているため、銃に対する取り組み格付けでは「B」グレードとされています。

2018年3月、かねてから販売不調が続いていたアメリカで最も古い銃器メーカーである「レミントン・アームズ」がデラウェア州の破産裁判所に破産申告をしたことは記憶に新しいところでしょう。アメリカでは老舗の銃器メーカーが破産したことは銃規制や銃犯罪の抑制に繋がると期待する声もあります。

デラウェア州の教育または宗教事情

デラウェア州は、4年生大学の卒業率がアメリカで1位という高い教育水準を誇ります。しかし、学費が高額であることや低所得者層の卒業率は低く、アメリカのなかでも比較的裕福な家庭が通う教育機関が多いことが特徴です。

4年制または2年制の大学卒業後にデラウェア州に残り、就職する若い世代が多く、若者の就職率が高いことも特徴と言えるでしょう。

デラウェア州の宗教はキリスト教が70パーセントを占めており、そのうちの60パーセントはプロテスタントとされています。無宗教の人の割合は約17パーセントで、アメリカの平均値よりも低い程度です。しかし、州民の30パーセントは宗教に興味がないと答えているリベラルなデータもあります。

まとめ

このようにデラウェア州は、アメリカで一番始めの州であることや、古くから多くのアメリカ企業が登記をする州として知られています。また、アメリカ建国の際の13植民地のひとつとして大きく関わった州であることも知っておくといいでしょう。

非常に小さな州ですが、アメリカにとってデラウェア州は歴史が深く、重要な州のひとつなのです。

本記事は、2018年9月7日時点調査または公開された情報です。
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