【アメリカ州制度】遊牧地帯が広がる州「カンザス州」解説

日米安全保障条約をはじめ、日本と政治的にも、経済的にも密接な関係にあるアメリカ合衆国についての現地日本人レポートです。

今回のテーマは「カンザス州」です。カンザス州は先住民の時代から牧畜や農業が栄えてきた地域ですが、特徴や歴史を通してどんなところなのか解説していきます。


アメリカのほぼ中央に位置するカンザス州は「人よりも牛の方が多い」と揶揄された時代もあったほど遊牧地帯が広がる土地です。西部でもなく、東部でもないカンザス州には多くのユニークな文化や風習が残っています。

今回はアメリカ中央部の代表格と言えるカンザス州について特徴や歴史を交えてご紹介します。

カンザス州の特徴

2018年時点でのカンザス州の総人口は約291万人です。100年前の1918年の時点では172万人でしたので、人口増加率は低いと言えます。

カンザス州の特徴を語るうえで欠かせないのが、平坦な大平原、牧畜といった喉かな光景でしょう。同じ中西部に属するイリノイ州やアイオワ州などもアメリカのカントリーサイドと呼ばれますが、カンザス州では大平原が広がっています。

カンザス州はあまりにも大平原が続く土地だったため、アメリカ人はむかしから「カンザスは人よりも牛の方が多い」と皮肉を言うほどでした。しかし、その牛がカンザス州の発展を支えている存在でもあります。

白人が開拓をする以前は、この地で生活をしていたインディアンがアメリカバイソン(バッファロー)を食料や衣料にしていました。インディアンにとってアメリカバイソンは友という関係だったため、むやみやたらに捕獲することはありませんでした。しかし、ヨーロッパから白人がやってきてから事態は一変します。

アメリカバイソンの毛皮が金銭価値があるとされ乱獲が始まり、一部のインディアンさえも酒や武器と交換するためにアメリカバイソンを利用するようになったのです。白人が開拓する前のアメリカバイソンの数は6千万頭とされていますが、1890年には1,000頭にまで激減します。アメリカ史においてこのことを「バッファロー狩りの歴史」と呼びます。

皮肉なことにカンザスの発展はアメリカバイソンが商業用に使われるようになったことから始まったのです。アメリカバイソンが減少してからは、乳牛や肉牛が中心になり、現代にまで続くカンザス州の主要産業である牧畜の基礎ができました。1900年代にはシカゴと西部を結ぶ鉄道(カンザスパシフィック鉄道)などが開通し、国内にカンザスの牛が流通するようになりました。

牧畜の他にも小麦の生産でも国内1位とされています。カンザス州を含むアメリカの中西部は多くの穀物が生産される地帯であることから「グレインベルト(Grain Belt)」と呼ばれています。カンザス州は、このグレインベルトの一部でもあり、牧畜と農業のふたつが主力産業です。

カンザス州では1933年に廃止された禁酒法の後でも、一部のエリアでアルコール類の販売や提供が規制されています。その方法は様々で、提供してもらえても持ち帰りは禁じられていたり、販売すらしてくれないなど色々です。

このような規制は、カンザス州やケンタッキー州などカントリーサイドに多く現存し、背景には犯罪抑制や飲酒運転抑制などがあります。アメリカでは禁酒地域のことを「ドライカントリー」や「ドライタウン」と呼びます。


カンザス州の歴史

カンザス州は、1861年に34番目の州として認められました。もともと高度な文明を持っていたインディアンのカンサ族が1,000年以上に渡りこの地で生活をしていたとされており、民族の名称が州名に由来しています。

1541年にスペイン人のフランシスコ・バスケス・デ・コロナドが率いたコロナド探検隊がこの地に足を踏み入れたことが先住民と白人の初めての接触とされています。

スペイン人はインディアンに移動手段として馬を紹介したり、銃など武器の文明を伝えます。その見返りとしてアメリカバイソンの毛皮や鉱物、穀物などを手に入れ交易が活発化していきました。その後、カンザスの地は同じくインディアンと交易を重ねていたフランスの領土になります。

1803年、アメリカ政府は現在のカンザス州の一部を含むアメリカ大陸中央部をフランス政府から買い取ります。(ルイジアナ買収)しかし、カンザス州の南西部はスペイン、メキシコ、テキサス共和国の領土という時代が続きました。この地は後の1848年、アメリカとメキシコが争った米墨戦争でアメリカが勝利したことでアメリカのものになります。

1827年、白人アメリカ人がカンザスを正式に開拓し始めます。米墨戦争後の1854年にはカンザス準州に昇格し、多くの白人開拓者がカンザスを訪れるようになります。そのなかには、北欧諸国、ドイツ、ロシアなどの人種も含まれており、現代でもこれらのヨーロッパ系の子孫がカンザス州で生活をしています。

開拓され始めたカンザスでは、近隣のミズーリ州やアーカンソー州から多くの人が集まります。この多くの開拓者たちは奴隷制度をカンザス準州でも採用しようとしますが、遅れて開拓にきたマサチューセッツ州の人たちはそれに反対します。カンザスの地で奴隷制度を巡って白人開拓者同士が争いを始めるようになったのです。アメリカ史ではこれを「血を流すカンザス(Bloody Kansas)」と呼びます。

奴隷制度を推進する保守州、奴隷制度を廃止しようとする自由州という対立構図は、後の南北戦争に繋がっていきます。カンザスの地で起きた対立は南北戦争の前哨戦とされるようになりました。

1861年、南北戦争が開戦する年にカンザス準州は州に昇格し、奴隷制度を持たない「自由州」になります。しかし、このことは奴隷制度推進派を刺激し、奴隷制度に反対する人が多かった同州のローレンス市では、推進派のゲリラ隊が200人の住民を殺害する「ローレンスの虐殺」が起こりました。

1865年、南北戦争終結後、カンザス州に戻ってきた人たちは農場を作ります。根強い奴隷制度や、人種差別が残っていたアメリカ南部から多くの黒人がカンザス州にやってきて新たな生活を始めました。その時彼らはカンザス州の土地はジョン・ブラウンというひとりの政治家のものと認めていました。

「19世紀を生きたアメリカ人のなかで最も議論の対象になる人物」としても知られているジョン・ブラウンは奴隷制度廃止のために献身した運動家でもあります。1859年、絞首刑になるまで奴隷制度撤廃のために反乱を繰り返しました。アメリカでは政治的な運動のために初めて「反乱」という手法を用いた人物とされています。

当時、奴隷制度撤廃を望む自由州の人達は穏便に話をつけようとしていたため、事態は進捗せずにいましたが、行動を最優先にしたジョン・ブラウンは奴隷制度推進派と交戦するために資金、武器、兵力集めに奔走しました。

このような行動力の高さは奴隷たちからは英雄扱いされますが、ジョン・ブラウンの活動がきっかけで南北戦争が始まったとされることや、テロリズムにも似た過激な行動が現代でも物議を呼んでいます。

しかし、ジョン・ブラウンがいなければ奴隷制度撤廃派は推進派に飲み込まれていたとされる意見も多く、奴隷制度を撤廃した中心人物とする声もあります。このような背景からカンザス州の歴史においてジョン・ブラウンの存在は欠かせないでしょう。

カンザス州の政治情勢

カンザス州では2012年、2016年いずれの大統領選でも共和党を支持しています。保守派が多いとされる中西部のなかでも、頭ひとつ飛び抜けて保守派の印象が強いのがカンザス州とされています。

これまでに、妊娠中絶や同性愛の結婚などを禁止しており、1950年以降の大統領選においても民主党候補が勝利したことは1964年のリンドン・ジョンソンだけです。ほとんどブレることなく共和党が支持され続けていることが特徴と言えます。


カンザス州の経済

2018年時点、カンザス州の失業率は3.4パーセントで、アメリカの平均値よりも低い数値です。カンザス州は牧畜や農業が主力産業ですが、近年では広大な土地を活用した工業も発展しており、航空機産業のボーイングやセスナ社を始め、アメリカの軍需製品メーカーであるレイセオンなども進出しています。

カンザス州は1990年代まで石油や天然ガス生産において国内トップ10の生産量がありましたが、採掘量は減少傾向です。しかし、石油再生技術の分野で成長しており、今後の再生エネルギー分野での成長が見込まれています。

カンザス州の税金

2018年時点で、カンザス州の消費税は8.68パーセントです。6.5パーセントが州税、2.18パーセントが地方税の平均となります。所得税は3.5パーセントから6.45パーセントの3段階制を採用しています。

州の歳入は不足傾向のため税率は上がり続けており、1990年には総額が8億ドルだった消費税は、2003年には16億ドルに倍増しました。歳入の確保のために、州が認める複合型の公営カジノが設置されたほど困窮しています。

カンザス州の銃や薬物問題

カンザス州では医療目的でも娯楽目的でもマリファナは違法です。税収確保のためにマリファナを解禁することが議論の対象になるものの、保守的な人が多いことから否決され続けています。

銃に対する取り組み格付けは最低ランクの「F」グレードです。州民10万人に対しての犠牲者数は11名と比較的少ないものの、銃を入手しやすい環境であるため、銃への取り組みは州の課題と言えるでしょう。

カンザス州の教育または宗教事情

カンザス州の教育水準はアメリカの平均値よりも僅かに下回っています。カンザス州の4年制大学の卒業率は54パーセントで、アメリカの平均58パーセントよりも低い状態です。ただし、2年制大学の卒業率はアメリカで8番目に高いとされています。

カンザス州の宗教はキリスト教が最も多く80パーセントを超えていますが、他州と比較して無宗教の人は8パーセント以下の低い数値です。保守的な土地柄、信仰心が高い州と言えるでしょう。

まとめ

カンザス州は、先住民の時代から牧畜や農業で栄えてきて、それらは現代でも主力産業として続いています。また、伝統的に保守的な州でありながらジョン・ブラウンの指揮の下で奴隷制度廃止の姿勢を貫いたことも知っておくといいでしょう。

本記事は、2018年7月17日時点調査または公開された情報です。
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カンザス州
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