【道州制とは何か】日本の新たな行政区画の話題について

道州制とは何か?から、アメリカを事例に「州」と「県」の違いなどについて、「地方創生」などをキーワードに基本的な点をまとめました。

道州制は地方に財源と権限を国から移行するために必要な取り組みですが、一部の規制緩和は既に国家戦略特区制度などによって行われています。道州制の是非もふくめて参考ください。


日本は中央集権的な国家だと言われることがあります。「中央集権的」というのは地方ではなく国が強大な財源と権限を持っており、官僚が主導して日本のグランドデザインを行うということです。

これに対して地方分権という考え方があります。地方分権とは国の官僚が北海道から沖縄までの実情をきちんと把握した上できめ細かな対応を行うということは不可能だから地方に権限を委譲して、地方の実情に沿った自治を実現しようという考え方です。

特に現代においては中央集権的から地方分権へ自治制度の方針転換が行われていますが、その中で話題になるのが「道州制」です。本記事では道州制とはどのような制度なのか、なぜ必要なのかについて説明します。

道州制とは何か?

まずは道州制について説明します。道州制とは日本の新たな行政区画として道や州を設定することを指します。

日本の行政制度では、まず一番大きなカテゴリーとして、日本という国家が存在して、その下に都道府県、更に下に市町村という行政区画が設定されています。そして、日本国政府の行政を行う省庁、都道府県の行政を行う都道府県庁、市町村の行政を行う市役所、町役場、村役場と1つのエリアに対して三層の行政が存在します。

道州制ではこの三層の行政構造について道・州という新たな行政区画を設置します。ただし、道・州を設置するということまでは一致しているものの、そこから先の細かい制度設計は論者によって見解が異なります。

この制度設計については大きく分けて2つの議論があります。

1つ目は道州制を導入することによって行政区画はどうなるのかという問題です。都道府県という単位は廃止して都道府県よりも更に広域な道・州を設置して、道・州の下に更に小さい区分である基礎自治体を設置するという点では多くの論者の意見は一致しています。

しかし、道州の区分けだけでも9区画に分ける説から13区画に分ける説まで論者がいますし、基礎自治体をどのように区分するかについてはまだ議論自体ほとんど行われていません。道州制を導入するとして実際にどのように区分けするのかについてまだ統一的な見解はありません。

2つ目は道州に対してどのような権限を付与するのかということです。地方分権のために国の権限を道州に積極的に委譲していくべきだという所までは多くの論者の意見は一致しています。しかし、実際にどこまでの権限を道州に与えるのかについては意見がバラバラです。

例えば、州法を立法する権限を州に与えるべきだという意見もありますし、日本の憲法上、国会が唯一の立法機関なので州に立法権を与えるべきではないという意見もあります。また財源、災害対策、雇用対策など国と道州の役割や権限をどのように分担するのかについて様々な意見があります。


州と県は何が違うのか?-アメリカの事例を中心に

ちなみに道州制と聞いて日本にも州ができるということはアメリカのような統治体制になるのかと思われるかもしれませんが、日本で議論している道州制とアメリカで採用している州による連邦制は微妙に異なります。

アメリカでは州に大きな権限があります。日本においても道州制の導入によってアメリカの連邦制に近い状態にしようと言う意見がありますが、多数派ではありません。

ただしアメリカの「州」という制度は日本の道州制度を考える上でも参考になります。参考までにアメリカの州とはどのような制度なのか、どのような権限あるのかについて説明します。

まず、アメリカでは一番大きな行政区画としてアメリカという国があり、その下に50の州があります。州の下には郡と呼ばれる単位があります。郡の数は州によって大きく異なりテキサス州には200を超える郡があり、アメリカ全体では3000以上の郡があります。郡は日本に置き換えると都道府県に相当し郡の下に市町村の単位があります。

州は日本で言う都道府県を包括する単位に相当しますが、特にアメリカの場合は州の権限が強大だと言われています。例えば日本において憲法は一つだけですがアメリカでは州毎に独自の憲法があります。憲法があるので各州は州法という法律を制定する事ができます。ちなみに州法は日本の条例とは性質が異なります。日本の条例は地方自治法を根拠にして認められるルールで罰則規定を設ける事には制限がありますが、州法には制限はありません。カリフォルニア州には死刑があるけれどもニューヨーク州には死刑がないように刑罰も州によって異なります。

税制についても同様です。日本の場合、所得税は国に納めますがアメリカの場合はアメリカ政府に連邦所得税を支払う他に州所得税を支払います。州所得税をどのように設定するかは原則として州の自由です。ちなみにアラスカなど7つの州では州所得税がありません。

日本の都道府県と比較すると、税金や法律の制定などかなり広範な裁量が州に与えられていると言えます。

江戸時代の藩と道州制度について

アメリカの州の話は日本の都道府県の実情と大きく異なり中央集権的な統治体制に慣れ親しんだ日本人には道州制のように地方に強い権限を与える統治制度は馴染まないと考える人もありません。

たしかに明治維新以降、日本では中央集権的な政治体制で先進国に追いつけ追い越せと邁進してきました。そして中央集権的な統治体制が高度経済成長の原動力になった側面もありますし、現代も疲弊した地方を政府が助成金や交付金によって破綻しないようにサポートしている現実もあります。

しかし現代のように中央集権的な政治体制になったのは明治以降の事でわずか150年程度のことです。近世の日本では地方に権限を持たせた統治が長く続いていました。例えば、各地方の大名が覇権を争った戦国時代はもちろんのこと、約250年間平和な時代が続いていた江戸時代も地方分権的な政治体制でした。

江戸時代は学生時代に習ったように中央政府的な立場である江戸幕府と地方の自治を行う藩による幕藩体制による政治が行われていました。

藩の自治権はアメリカの州に劣らず極めて強いモノでした。藩法と呼ばれる各藩独自の法律があったのはもちろんのこと、各藩が藩札という紙幣を独自に発行して藩内で流通させていました。さらに軍隊も各藩が自前で持っていました。よって、江戸時代の末期には薩摩藩とイギリスが戦争をする薩英戦争が勃発するなど今の日本の地方自治の仕組みでは考えられないような現象が発生しています。

つまり、江戸時代の日本は各自治体が法律制定、通貨の発行や軍事の機能を担うなど極めて地方分権的な統治制度であったと言えます。

道州制と地方創生

江戸時代の統治制度からもわかるとおり、地方分権的な統治は日本に決して馴染まないわけではありません。それでも明治維新以降150年程度の期間、中央集権的な統治をしてきたのに、なぜ再び道州制によって地方分権的な統治制度に移行するべきだという意見があるのでしょうか。

その理由は地方の衰退です。東京には全国の約4分の1の株式会社、上場企業に至っては約2分の1の会社は東京に本社を置いています。また、東京都の人口は日本の全人口の10%強である約1300万人、神奈川や埼玉などを含めた首都圏には約3500万人が住んでいると言われています。つまり産業も人口も東京に集中しているということです。東京の人口については自然増加分も存在しますが主な要因は他の地方からの転入です。つまり、地方の労働力を首都圏が吸収しているのです。


しかし、地方が東京圏に労働力を奪われないように対策を行うことは容易ではありません。地方に魅力的な就職先であったり快適な生活環境があれば良いのかもしれませんが、東京よりも魅力的な就職先や生活環境を整えることは困難です。

まず財源がありません。所得税や法人税など主要な税金は国税で地方は住民税などわずかな税収に頼るしかありません。よって、何か新しいことに挑戦しようとしても財源がないのです。

また、財源がなければ財源を必要としない規制緩和などによって企業が活動しやすい環境を用意することによって企業活動を活発化して地方創生をおこなうべきですが、多くの規制は国の法律によって課せられているので、特定の自治体だけ規制緩和するということはできません。

つまり、地方は財源、ルールの両面でがんじがらめになっており、革新的な取り組みを行いにくい状況にあります。よって東京とのパワーバランスを覆すことができずに産業も労働力も東京圏に奪われてしまいます。また、地方創生と言えば、法律の規制が少なく、リスクコストの低い観光産業に注力しがちになってしまいます。

どこまで州に権限を持たせるべきか議論が分かれますが、道州制は財源・ルールの規制によって束縛されている地方を開放し、自主的に様々なことに取り組み、地方創生を促進するための取り組みだと言えます。

なぜ国家戦略特区が設定されたのか

おそらく道州制に関する法律を制定して州に税制や法律などの制定権限を持たせることは非常に困難です。

国家公務員の立場として自分が持っている権限や財源を道州に移行するのには抵抗があるでしょうし、具体的な制度設計にも時間が掛かります。更に新しく法律を制定したり既存の法律を一部変更したりする必要があります。また、地方自治を巡る大きな変更点なのでおそらく、議会で承認を得る前に選挙も必要だと考えられます。

道州制の実現はまだ遠くても、地域毎に規制緩和などを行って差をつけるという事は既に始められています。その典型が国家戦略特区の設定です。

先ほど地方は財源と法律によって地方創生の取り組みに著しい制限を課されていることを説明しましたが、日本全国に医療や農業、教育などのテーマを設定した国家戦略特区を設定し、特区内では規制緩和を行えるようになっています。例えば先ほどの農地の例について、兵庫県養父市でこれまで法律上不可能だった農業所有適格法人以外の企業が農地取得できるようになりましたし、外国人ビザの緩和については福岡県福岡市が特区として規制を緩和して現在テスト中です。

今後、道州制が実現しなくても、地方創生に取り組む自治体と、取り組まない自治体の格差はますます広がっていくと考えられます。

まとめ

地方創生と言えば漠然と観光などによって人を呼び込むことだと思われがちですが必ずしもそうではありません。地方を創生するためには地域内の産業を振興し、地域内人口を増加させる必要があります。ただし、そのためには地方に財源と権限を国から移行する必要があります。

道州制は地方に財源と権限を国から移行するために必要な取り組みですが、一部の規制緩和は既に国家戦略特区制度などによって行われています。

地方公務員志望者にとってどこの地方で就職するのかということはとても重要です。地方自治体の中でも地方創生に積極的で結果を出している自治体と、一見地方創生への取り組みを行っているけれども実は国からの予算が降りて来て、他自治体の成功事例をそのまま真似しているだけという自治体も少なくありません。

道州制に移行する、地方に財源と権限を委譲するということは必然的に地方交付税交付金や補助金によって国から助けてもらうのではなく、各地方自治体が創意工夫して自治体を経営することが求められます。そうなったときに地方創生にノウハウと実績が無い自治体で働くということは非常に危険です。

これから公務員採用試験に応募しようとしている自治体が国からの歳入が減っても大丈夫なのか、地方創生に関する取り組みをきちんと行っている自治体なのかは調べた方が良いでしょう。

本記事は、2018年6月28日時点調査または公開された情報です。
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