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MMT理論は新世代の金融理論となりえるのか? ― 財政緊縮派の功罪

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目次

はじめに ― 注目される「MMT理論」

2020年現在、政界、大手メディアを中心にMMT理論が注目を集めています。

MMT理論とは「Modern Monetary Theory」の頭文字を取った用語で、日本語では「現代貨幣理論」と訳することができます。

「MMT理論」とは、端的に言えば、自国通貨建てで国債などを発行して財政赤字が発生しても問題ないので、景気拡大が必要な際は積極的に国債で財源を調達して公共事業などによって産業と雇用を創出しようとする理論です。

本記事ではMMT理論の概要およびその妥当性について検討します。

MMT理論とは?

MMT理論はポスト・ケインズ学派の経済学者ステファニー・ケルトンなどが提唱する理論です。

ポスト・ケインズとは?

ポスト・ケインズとはその名の通り、ケインズの次の経済学のことを指します。ポスト・ケインズを理解するためには、まずケインズ経済学の概要を理解した方が良いでしょう。

ケインズ経済学とは端的に言えば景気を拡大させたければ政府が公共事業などを実施して積極的に実施し、産業と雇用を創出しなければならないという考え方のことを指します。

ケインズ以前は、一般的に経済は神の見えざる手によって需要と供給は均衡すると考えられており、政府主導で経済成長を促すことは困難だと考えられていました。

よって、政府主導で経済成長を促せる可能性を示したケインズの理論は当時の経済学においては革新的でニューディール政策をはじめとしてさまざまな国の政策に影響を与えました。

しかし、第二次世界大戦後、アメリカでは貿易赤字と共に財政赤字も発生、ケインズ主義が徐々に勢いを失い、反ケインズの経済理論が発展していきます。

反ケインズの主要な学派の1つにシカゴ学派があり、経済をコントロールするためにはケインズにような財政政策ではなく貨幣政策が必要だという考えが徐々に影響を増してきます。その結果、世界は変動相場制に移行していきます。また、大きな政府を志向するケインズの考えとは対照的に小さな政府を志向する新自由主義的な考え方も徐々に浸透していきます。


ただし、リーマンショック以降、失業問題や行き過ぎた金融政策偏重の姿勢は批判の対象となり、再びケインズ的な考えが脚光を集めるようになりました。

MMT理論の概要

MMT理論は、上記のような文脈から誕生した理論であり、ケインズ経済学のように景気の回復を狙う際は政府による財政支出を実施することを求めます。ケインズの時代との大きな違いは世界で変動相場制が主流になっていることです。

自国通貨建てで国債を発行して海外投資家に買われたとして、かりに財源が無かったとしても通貨を発行すれば良いだけなので、理論上自国通貨建ての国債発行で財政が破たんすることがないという考えがMMT理論のベースになります。

よって、自国通貨建てで通貨を発行して財源を調達、政府主導の公共事業で産業と雇用を創出しようというのがMMT理論のベーシックな考え方になります。

MMT理論の先進性

MMT理論の先進性は従来支配的であった財政均衡主義に対する挑戦していることにあります。

財政均衡主義とは政府は財政赤字を抑制、国債などによる資金調達に依存せず税収などの財源の範囲内で国家を運営しなければならないという考えです。政府の支出と収入のバランスをプライマリーバランスと呼び、収入の範囲内に支出を抑える、収入が足りなければ増税などによって税収を確保しなければならないというのがベーシックな考え方です。

日本におけるMMT理論

財政均衡主義的な考え方は世界中に存在しますが、最も影響を受けている国の一つが日本です。

「失われた20年」について

日本ではバブル崩壊以降、「失われた20年」と呼ばれるように、経済は長らく停滞していた時期がありました。停滞していた理由は様々ですが、理由の1つと考えられるのが金融政策です。

景気を良くするためには一般的に適度なインフレが必要だといわれています。過度なインフレは物価のみが極端に上昇し生活や企業活動に大きな支障が発生することはもちろんですが、デフレになると投資、消費意欲も減退するので景気に悪影響を与えます。よって、どちらでもない適度なインフレが望ましいとされています。

しかし、上の表からもわかるとおりバブル崩壊以降、日本のインフレ率はバブル崩壊以降、0%前後をうろうろしており、マイナスになる年もあることがわかります。

適度なインフレとならない理由もいくつか考えられますが、マネタリーベース(日銀が供給しているお金の量)の増加に否定的な経済政策が取られてきたからだと考えられます。財政均衡を重視するので、国債を発行するよりも増税が財源確保のために使用されがちです。

例えば、税金の中には「復興特別所得税」というものが存在します。これは東日本大震災から復興するために必要な財源を確保するために2013年から創設された税金です。地震のような低確率で発生する事象に対する財源は増税で事象発生したタイミングで現役世代から徴収するのではなく、国債によって将来世代も含めて長い期間で費用を負担するのが望ましいと考えられますが、国債は財政の均衡を崩すので増税という判断がなされました。

また、近年は増大する社会保障費に対応する財源として消費税が注目を集めており、1989年に消費税が導入され2019年には10%まで増加しています。

アベノミクスによる景気の高揚

ちなみに上記のインフレ率の推移に関する表を見てもわかるとおり、2013年から2015年の間に一時期的に軽度のインフレになっています。ちょうど第二次安倍政権が始まった時期です。


第二次安倍政権の安倍政権の経済施策はアベノミクスと呼ばれ、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の3本柱で構成されています。特に注目されるべきは1本目の矢でインフレ目標2%を目標にかかげ、銀行が日銀に預金する際の金利をマイナスにして市場にお金が循環するように大胆な金融政策を取ってきました。

ポストアベノミクスとMMT理論

ただし、インフレ目標の年率2%は達成できていません。また、消費増税によって景気の悪化も予想されており、2%という目標は引き続き達成困難だと考えられます。2016年、2017年と消費増税に対する懸念からインフレ率は失速し現在に至ります。

また、2019年頃か安倍長期政権の終了も視野に入ってきており、ポストアベノミクスの経済理論としてMMTが注目を集めました。MMT理論を支持する政治家として有名なのがれいわ新選組代表の山本太郎氏です。山本太郎氏は2019年の参議院選挙で消費増税、奨学金チャラなどの政策を掲げて選挙戦を戦っていました。

ちょうどそのタイミングはアメリカの次期大統領選の候補者選びなどでアメリカの民主党側でMMT理論が盛り上がっていたタイミング、主要な論客である経済学者のステファニー・ケルトンが来日した時期でもありました。政策が先かMMTというバックグラウンドが先かどちらかは判断が分かれますが、少なくともれいわ新選組はその後、MMT理論をバックグラウンドにした左派的な経済政策を主張するようになります。

与党である自民党内でもMMT理論について研究しているグループがあり、党内での勉強会も開催されました。

▼参考URL:自民党が「MMT勉強会」、出席者から賛否両論 | REUTERS
https://jp.reuters.com/article/ldp-mmt-idJPKBN1Y70HU

MMT理論の妥当性について

MMT理論は先進的な理論ですが、政府の国債による資金調達を従来の理論よりも大幅に許容するなど直感的に危ないのではないかと感じる人も多いのではないかと思います。自国通貨建ての国債で経済破綻することはないという理論についても本当に大丈夫なのか、ハイパーインフレになるのではないか懸念する人もいるかもしれません。MMT理論の妥当性について簡単に検証します。

MMT理論とインフレ

MMT理論に対する反論としてよく提起されるのがインフレへの懸念です。国債による無制限な金融出動が可能となれば、「円」の価値が下落しコントロールできないインフレになってしまうのではないかという問題点です。

これについて、MMT派の経済産業省出身の評論家、中野剛志氏はこのように反論します。

MMTの答えは極めて明快だ。
まず、政府は、債務などの計算尺度として通貨単位(円、ドル、ポンドなど)を法定する。次に、国民に対して、その通貨単位で計算された納税義務を課す。
そして、政府は、通貨単位で価値を表示した「通貨」を発行し、租税の支払い手段として定める。これにより、通貨には、納税義務の解消手段としての需要が生じる。
こうして人々は、通貨に額面どおりの価値を認めるようになり、その通貨を、民間取引の支払いや貯蓄などの手段としても利用するようになり、通貨が流通するのである。

出典
MMTが、こんなにも「エリート」に嫌われる理由 | 東洋経済

MMT理論の派閥によって、インフレ対策の手法を設けるのか、それは何なのかは異なりますが、少なくともMMT理論において有効なインフレ対策は定期されていないのではないかと考えられます。例えば、納税によって通貨の流通をコントロールするとしても納税をコントロールするためには租税に関する法律を改正して、法律の制定から施行までに時間もかかるので過度なインフレを認知してから実際に抑制するまでに大幅な時間がかかり実質的には活用できないと考えられます。

この点で考えると、インフレ目標に合わせてマネタリーベースを増大させ金融政策を実施しようとするリフレ―ション政策の方が妥当であると考えられます。

自由経済と計画経済

また、MMTはポスト・ケインズ学派の理論ということもあり、大きな政府を志向した政策です。公共事業によってどこかまで需要を創造できるかは議論の余地があります。政府主導の事業は、「かんぽの宿」「国鉄」の事例からも判断できるとおり赤字になりがちです。自由競争が働きにくい状態では効率的な経営がなされずに、かえって将来的な政府の財政状態を毀損する可能性があります。

また、公共工事などによって民間事業者を中心に景気を活性化するとしても、高度経済成長を経て一通りのインフラ整備が完了した昨今においては、経済成長に資する工事案件を用意するのも難しいと考えられます。

計画的なインフラ整備により需要を創造できていたケインズの時代とは異なり、神の見えざる手に依存しなければならないのが現代社会だと考えられます。

ポピュリズム的な金融政策に偏重するリスク

3つ目の問題点としてポピュリズム的な金融政策に偏重してしまうかもしれないリスクがあります。財政出動が無制限に使用できるなら当選するために大衆の指示を集めるばら撒き政策を約束し、実際に当選したあかつきには国家の財政状況を考慮せずに、人気取りのばら撒き政策が実施される可能性もあります。

もちろん、このような目先のばら撒き政策に国民は騙されないとも考えられますが、急速な景気後退のタイミングにはこのような政策が支持される可能性もあります。

まとめ

以上、「MMT理論は新世代の金融理論となりえるのか? – 財政緊縮派の功罪」でした。

MMT理論は過度なインフレに対する有効な抑制策が存在しない、政府が有効需要を創造するのは難しいなど政府の経済政策として採用するためには難しい点もあります。

ただし、20年以上の長期間にわたって続きデフレ傾向を突破する起爆剤にはなりえると考えられます。将来的に社会保障費を抑制できるならそれまでの一時しのぎとして国債で社会保障費の財源を調達しつつインフレを促すといった政策も考えられます。


MMTを100%信じて実践するのは非常に悪影響が大きいと考えられますが、適度なインフレを発生させるためのレトリックとしては有効だと考えられます。

本記事は、2020年7月10日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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