アメリカの就労ビザ発給停止!日本人にはどんな影響がある?

2020年6月、アメリカは就労ビザの発給を停止しました。

今回は、アメリカの「就労ビザ発給停止」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。

公務員の方も、公務員志望の方も、是非ご参考ください。

はじめに – トランプ大統領「就労ビザの発給停止」政策

2020年6月22日、アメリカのトランプ大統領はアメリカへ移住することに対する大々的な制限政策を発表しました。そのなかのひとつが「就労ビザの発給停止」です。

具体的には、2020年末までアメリカ国内で就労するために必要なビザ(査証)の発給を停止して、海外からの労働者を制限するといった内容です。これを実施することでアメリカ人の雇用を確保できることが最大の狙いとされています。

常々「アメリカ第一主義」を貫いているトランプ大統領ですが、今回の就労ビザ発給停止措置は、かえってアメリカ経済を停滞させることや、同盟国との関係性に亀裂を生むと指摘されています。

また、アメリカで活躍しようとする日本人に対しても様々な影響が及ぶため、日本も無視できないことなのです。

そこで今回は、トランプ大統領が発表した就労ビザ発給停止措置がどんなもので、日本人にどのような影響を及ぼすのか解説します。

公務員や公務員志望の方は、キャリアアップなどに影響があることかもしれませんので、ぜひ参考にして下さい。

アメリカの就労ビザとは

アメリカ国内で3ヶ月以上にわたって働きながら生活するためには「就労ビザ」が必要です。

就労ビザには「Hビザ」「Lビザ」「Jビザ」などの種類があり、専門職、駐在員(企業内転勤)、交流訪問者らに厳しい審査を経て発給されます。

今回の制限策によって、これらすべてのビザが2020年12月31日まで発給停止になりました。トランプ大統領は「必要に応じて延期もあり得る」としています。

アメリカの就労ビザの種類1:Hビザ(H-1B・H-2A・H-2B)

今回のビザ発給停止措置で影響の範囲が大きいとされているのが「Hビザ」です。

Hビザとは、特殊技能職(H-1B)、季節農業労働者(H-2A)、熟練・非熟練労働者(H-2B)などがあり、それぞれに家族用ビザ(H-4)も用意されています。

Hビザのなかでとりわけ影響を受けるとされているのが「H-1B」です。H-1Bは高度な特殊技能保有者が対象で、ITエンジニアや会計士、寿司職人などが対象です。

とくに近年では、インドや中国からの「ITエンジニア」がこのビザを利用するため「ハイテクビザ」と呼ばれています。アメリカ以外から技術専門家が押し寄せた結果、アメリカ人の雇用が減ったとされ、今回の規制における元凶と言われています。

ちなみに、2019年度のHビザ発給総数は28.5万件です。日本人に限ると655人に支給されています。

H-1Bビザは年間85,000件の上限がありますが、2019年度には225,000人が申請しており、抽選によって発給対象者が決められました。

トランプ大統領はH-1Bビザ保有者によってアメリカ人の職が奪われていると主張しており、発給停止措置だけでなく、抽選制度を止めて、給与が高い人からビザを割り当てる制度を導入するとしています。

アメリカの就労ビザの種類2:Lビザ

今回の規制によって最も日本人に影響が及ぶとされているのが「Lビザ」です。

Lビザとは簡単に言うと「企業内転勤ビザ」で、アメリカ国内にある企業(親会社、子会社、系列会社)に一時的に転勤する際に発給されるビザです。

例えば、トヨタやホンダの日本人社員がアメリカ国内にある支社に転勤する際にはこのビザが必要になります。

このビザが発給停止になると、アメリカ国内に支社を持つ多くの日系企業は従業員の転勤や、人事が円滑にいかなくなるため、経営に影響する可能性があります。

2019年度には配偶者ビザ(L-2)も含めて15.8万件が発給されており、H-1Bビザに次ぐ多さです。日本人だけを見てみると9,864人(2019年度)に発給されています。

アメリカの就労ビザの種類3:Jビザ

学生や研究者、科学者、医師などに対して文化交流や教育的交流を目的にした「Jビザ」も今回の規制対象です。

HビザやLビザと比較して就労形態に違いがありますが、研究や教育に関連する人たちがアメリカで活躍できなくなるため、様々な分野における研究開発が遅れるなどし、影響が大きいとされています。

Jビザには「オペア」と呼ばれる、ホームステイ先で家事や育児などをして報酬を得ながら学校に通う留学生が含まれており、ハウスシッターやベビーシッターなどの職を奪っている要因とされています。

Jビザは、2019年度には39.2万件が発給されており、そのうち日本人は9,630人です。

アメリカの「就労ビザ発給停止措置」の背景

そもそもトランプ大統領はなぜ今回の決定を下したのでしょうか?

選挙公約のため

トランプ大統領は2016年の大統領選挙時に「反移民の政策」を打ち出しました。

最も分かりやすいのがアメリカとメキシコの間に巨大な壁を建設する公約ですが、今回の就労ビザ発給停止措置も反移民政策のひとつとして考えられています。

11月の大統領選に向けて選挙公約を守っている姿勢を見せたいことや、移民の台頭に嫌気を持つアメリカ人の保守層にアピールしたい狙いがあると見られます。

アメリカ議会からの突き上げ

トランプ大統領は反移民派の議員たちからの突き上げを受けていました。

例えば、ホワイトハウス上級顧問で対移民強硬派で知られるスティーブン・ミラー氏は日頃から、多くの外国人がアメリカ国内で就労や学業を出来にくくする政策を取るようにトランプ大統領に対して進言してきました。

また、共和党保守派からも移民の受け入れ体制を問題視されていたため、ここに来て身内(共和党)の意見を汲んだものとされています。

アメリカ人の雇用を守るため

今回の措置における最も大きな狙いとされているのが「アメリカ人の早急な雇用確保」です。

アメリカでは3月以降、新型コロナウイルスによって失業率悪化が続いていることから、少しでも早く雇用を確保したい政府の思惑があります。

一方で、インドや中国をはじめとする優秀な技術者を締め出したところで、アメリカ人が穴埋め出来るかどうかは疑問なため、雇用確保に結びつかないとする声もあります。

就労ビザ発給停止によって、どんな影響があるのか?

就労ビザ発給停止措置によってアメリカにどんな影響があるのか見てみましょう。

影響1:525,000人分の雇用創出

ビザ発給を停止することで50万人超の雇用が生まれる計算です。

記者会見でもこの点を強調したトランプ大統領ですが、政府高官の発表によると、ビザ発給停止により全米525,000人の雇用が確保できるとしています。

一見は大きな数値に見えますが、新型コロナウイルスによって6月までに約44,000,000人が失業保険の申請をしており、復職できたのはこのうちの50%未満とされています。つまり、雇用創出は出来るものの、恩恵を受けるのはごく僅かのアメリカ人に限られるのです。

影響2:移民の入国が減少する

ビザ発給を停止するということは、必然的にアメリカに入国できる人の数が減るということです。

ワシントンD.C.にある移民政策研究所(Migration Policy Institute)の発表によると、今回のビザ発給停止によって219,000人がアメリカに入国できなくなると試算しています。当然、彼らがアメリカ国内で生み出すはずだった消費はなくなります。

影響3:ハイテク企業の経営に打撃

今回のビザ発給停止は、実質的に「H-1Bビザ」の対象者を標的にしています。

2019年度の統計では、H-1Bビザを申請した人たちの雇用主はAmazonやGoogleなどアメリカ資本の企業が6割を占めており、そのうち最も多いのはAmazonで7,212件です。

これらのハイテク業界の企業は、有能なエンジニアを新たに雇用できなくなることから、経営に大きな打撃を受ける可能性があります。

つまり、好調なアメリカ経済の牽引役であるハイテク関連企業の首を絞めていることでもあるのです。アメリカ国内で外国人技術者以上のスキルを持っている人材を探すことは決して容易ではないため、景気の減速も招きかねません。

事実、トランプ大統領に近い存在として知られる共和党のグラム上院議員ですら「アメリカ経済の回復にとって大きな妨げになる」と批判しています。

日本への影響

次に日本への影響を見てみましょう。

日系企業の人事に影響

日本人の場合、今回のビザ発給停止措置はとくに「Lビザ」に関して影響があります。

Lビザは従業員の転勤などが対象のため、アメリカ国内に本社や支社、系列会社がある日系企業すべてが影響を受けます。

日系企業の多くは、アメリカ国内に従業員を長期間滞在させられなくなるため、企業戦略がうまくいかなくなるでしょう。また、すでにLビザを保有している人であっても更新が出来ないため、業務に関係なく帰国を余儀なくされます。

なかには、アメリカでの新規事業や進行中のプロジェクトへの参加を諦めざるを得ないケースもあるかもしれません。つまり、日系企業はアメリカでの事業戦略を見直さざるを得なくなります。

個人レベルでの影響は様々ですが、アメリカへの転勤や引越しが急遽中止になったり、住宅の手配、子どもの学校の手配なども徒労に終わるケースもあるでしょう。

日米の企業や団体の反応は?

今回の就労ビザ発給停止措置に対して、日米の企業や団体の反応はどのようなものがあるのでしょうか。

経団連の反応

経団連の会長を務める中西宏明氏は今回の一件を受けて、日米両政府に対して強く改善を求める意向を示しました。

日立製作所の会長も務める同氏は「20数名の従業員がビザの有効期限切れで帰国することになる」と影響を示したうえで、トランプ大統領の決定に対して「大変困る」とコメントしています。

Facebook社の反応

FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグは今回の決定に対して「世界中の有能な人々を惹き付けてきたアメリカの力と革新に対する攻撃」とし、痛烈に批判しています。

また、アメリカのハイテク産業団体TechNetは「有能な人材がカナダに流出してしまう」と警鐘を鳴らしています。

kyflow社の反応

アメリカでアプリ開発などを手がけるベンチャーSkyflowのアンシュ・シャーマ(Anshu Sharma)CEOは「道徳的に間違っており、経済的には馬鹿げた行為」とし、自身がカナダにオフィスを移したうえで、外国人エンジニアの雇用を確保することを示唆しています。

BSA社の反応

MicrosoftやIBM、AWS(アマゾンウェブサービス)などの主要ソフトウェアメーカーが加盟するBSA(The Software Alliance)は共同の声明で「有能な外国人の雇用を制限することをやめるべき」としたうえで「アメリカ経済に悪影響だ」としています。

GAFAやGAFMAなどと称されるアメリカの主要IT企業にとって、インド人や中国人などの有能な人材を確保できないことは企業経営の悪化に直結する可能性があるため、抵抗は大きいようです。

まとめ

以上、「アメリカの就労ビザ発給停止!日本人にはどんな影響がある?」でした。

今回の就労ビザ発給停止措置は、アメリカ第一主義を貫くトランプ大統領らしい決断と言えます。一方で、最大の理由である「アメリカ人の雇用創出」の効果は不透明です。

新型コロナウイルスによって悪化したアメリカ経済が、復調の兆しを見せていた中での今回の決定は「水を差す」ことになりそうです。

11月の大統領選に向けて、新型コロナウイルス対応や人種差別問題などで失った支持をなんとか取り戻すための策としては疑問が残ります。

日本人や日系企業にとって今回の就労ビザ発給停止措置が12月以降も続くかどうかがポイントになりそうです。今後もアメリカの、そしてトランプ大統領の動向に注目してください。

本記事は、2020年7月11日時点調査または公開された情報です。
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